132話 あらあら、主管者達ですって
ネズミ隊にハチの特殊魔術“フリーザ”の一部を譲渡したの。
魔術“フリーザ・鎖”と“解析・伝送”を、ね。
もちろん、すぐに実査をしたわ。
トッシュを使ってね。
その結果は、満足の行くものだったみたい。
ただ、トッシュが素直に魔術“フリーザ・鎖”を受けてくれる訳なく、試合形式になったのはご愛嬌ね。
ハァ〜、ネズミ隊の考査&実査だったのにトッシュの解析&実査へと変わっていたわ。
ちなみに、トッシュの解析の結果は……明瞭簡潔。
余白ありありで、どんな属性でも入る勢いだったの。
それでも、相性があるのよ。
私は、知らなかったんだけれど。
火・水・風・土はリアルな属性で、白・黒はファンタジーな属性なんだって。
火にしても水にしても、そこに存在しいている属性。
それにひきかえ、白と黒はそこに存在しなくても存在している属性。
リアル同士だでは、混合は難しみたい。
もちろん、例外はあるみたいなんだけれど。
たしかに、火と水を混ぜる事は出来ないわね。
「火と水、土と風、水と風、火と土。混合に向かないのが四大属性なんじゃ。それに引き換え、リアルに存在しないからこそ、リアルな四大属性と混合が可能なのが、白属性と黒属性なんじゃ。実査してみる価値はあると思うぞ」
と、ククルの評価に喜んだのはもちろんトッシュ。
意外だったのは、ハチなの。
ハチはハチで、楽しそうに考査をしていたんだけれどね。
まずは、譲渡する属性の決定。
コレは簡単に決まったわ。
そもそも、ハチが提案をしたのよ。
「なるほど……面白そうワン。それに、火属性と黒属性で面白い魔術ネタもあるワン。ウシシシ」
変な笑い方をしていたもの。
ハチは“フリーザ”に関して、考査に迷いがないのよ。
自己完結してしまうの。
そして、実査に移行したとき、その通りの結果がでる。
完璧なまでの考査なのよね。
そのハチが、面白い魔術ネタなんて言ったものだから、トッシュまでも同じ笑い方をしたの。
次は、黒属性の魔力集め。
コレはルバー様が一翼を担ったわ。
「そうですね。質は落ちますが、オブシディアンなんてどうですか? これなら大量に、用意が出来ます。ただ、問題は質の悪さと1個に保有している量が少ない事です」
ルバー様ったら、使い道の無いクズの魔石を提供したの。
思惑は……。
「ウッ……正解です。オブシディアン、別名は黒曜石と言います。これは、意外に取れるんですよ。さらに、全てのオブシディアンに魔力が含まれています。大量にあって、1個の量が少なくてもアレだけあればそれなりの魔力量になります。しかし、質も悪く、重く、使い難い、これだけ欠点が揃っていれば貯まる一方です。コレがどうにか出来れば、一石二鳥なのですが……ねぇ」
ククルに痛いところを突かれて、本音がポロリ。
でも、沢山の黒曜石を提供したくれたおかげで良質なブラックダイヤモンド3個を作ることに成功したわ。
もちろん、良質な黒属性もゲットできたみたい。
その魔力をトッシュに与えるために、魔術を発動させたわ。
「トッシュに黒属性の魔力をあげるワン。ついでに、面白そうな魔術もあるワン。スキル“闘気功・纏”を発動するワン。2分ぐらいで終わるよ」
「お、お、おう。スキル“闘気功・纏”」
「魔術“フリーザ”」
丸呑みしたハチ。
数分の出来事で、全てが完了したみたい。
何事も無かったかのように、佇むトッシュ。
ハチの方は……。
「なかなか良いワン。面白い! 忠大、ロクも“解析”してほしい。ロクなら、もっともっともっと! 面白い魔術の考査が出来るかも? ワン」
「ハッ、今すぐにいたします」
「ちょっと待って。暴走しているわよ。まずは結果を報告してちようだい」
私が止めたわ。
だって、結果を言わないで先に進もうとしたんですもの。
また、私だけ取り残されちゃうじゃない。
またよ、また!
そんな私の心情を理解してくれのは忠末だったの。
「姫様。オレが説明いたします。実は、ハチ様が火属性と黒属性の混合魔術を考査したのです。その魔術は2種類。1つはコレです」
そう言って、忠末の体から黒い霧状のモノが出てきて左肘の辺りから覆ったの。
よくよく見てみると、黒では無かったわね。
黒より青に近い、ダークブルーに深紅を混ぜたような深い青黒い赤。
そんな感じの色ね。
思わず呟いてしまったわ。
「深淵から湧き出た様な赤ね。黒炎……そう! 黒炎が相応しいわ」
全員の視線が私に注目していたなんて、気にも止めていなかったの。
自分で思って、言って、スッキリしただけだったのよ。
それなのに、大騒ぎするんですもの。
私の方が困ってしまったわ。
「ナナは、すごいワン!」
「いい名前だぜ」
「たしかに、良い名じゃな」
「………魔術“黒炎”………。実に面白い! 素晴らしい魔術です。有用性はあるのですが、操作性が悪いですね。気を付けないと暴走しそうです。ですが、素晴らしい! ! うん? ? トッシュ様、こんな使い方は有りですか?」
そう言ったルバー様の右手から一振りの剣を纏ったの。
その剣の中心は、深紅色で外に行けば行くほどダークブルーの色していたわ。
綺麗だけれど、恐怖心を煽る色合いの剣が膝から生えているのよ。
私はドン引きしちゃたわ。
でも、ルバー様は満足したみたい。
満更な顔をしていたもの。
「そうですね……魔術“黒炎・バスターソード”……などいかがですか?」
ニヤリと笑うルバー様。
キッモ! そう思ったのはやはり、私だけだったみたい。
いや、違うわね。
誰も見ていないわ!
みんなが注目していたのは、ルバー様では無く右手から生えているバスターソードに、釘付けだったの。
そして、狂気したのはトッシュと忠末の2人。
「ルバー、ハチ、すげぇーーー! ! 俺の理想通りの魔術だ」
「トッシュ様。それだけではございません。盾に変えることも可能です。万能魔術の様です」
そうなの忠末ったら、剣の形だった“黒炎”を盾に変化させたの。
コレも剣と同じ様に、中心部分が深紅で外に行けば行くほどダークブルーに色が付いていたわ。
それを見たルバー様がモゴモゴと言い始めたの。
ルバー様は、次々に登録をしている様ね。
何ともはや。
油断も隙もないわ。
「みんな、ありがとう。この“黒炎”は、操る俺たち意思によって形を変える術の様だ。操作性が悪い訳だぜ。こんなの操る方が難しい。しかしモノにすると、こんなにも使いやすい魔術はねぇ。やり甲斐があるぜ。ハチ! ……ありがと」
照れながらお礼を言ったトッシュ。
可愛いところあるじゃないの。
恥じらうイケメン……何なの?
この何とも言えない萌え感は! !
ダメよ、ダメ!
入っては行けない、デットゾーンに爪先が入ってしまったようね。
今なら引き返せるわ!
などと、1人で悶々と遊んでいる間に、ロクの“解析”から“伝送”まで終了していたの。
私1人取り残されていたのね。
忠大が説明してくれたわ。
「ロク様は、威力を上げる為に魔力を溜めすぎる傾向にある様です。その溜めを半分にする事で、魔力余白を作り出せるのではないでしょうか。そのぐらいで、魔力余白は足りそうです。私は、ロク様の鬼火と黒属性の結び付きでどの様な魔術が生まれるのかが、楽しみでなりません。それと……特殊魔術・スキル“未来予想図”を融合してみてはいかがでしょう」
「え? ! 」
「いいね!」
忠大のとんでもない提案に驚くロク。
賛成するハチ。
言葉もないククル。
え? !
ククルが、驚愕して言葉も出てないの? ?
「待て待て待つんじゃ! それは、待つんじゃ!」
珍しく必死な形相で止めに入ったククル。
いつもの彼女では、無かったわ。
「どうしたの? 何をそんなに、慌てているの?」
「ナナ、妾の話を聞いておくれ。皆も……聞いて欲しいんじゃ。
今回の作戦において、ハチの“フリーザ”の再考査は急務じゃった。だがな、もっとも重要な鍵になる魔術は、寧ろロクの特殊魔術・スキル“未来予想図”なんじゃ。ナナも見ていたじゃろう。ネズミ隊とトッシュの試合を。まさに、あの戦いは一瞬の隙が全ての勝敗の鍵じゃった。その隙を生むのがロクの“未来予想図”なんじゃ。敵は龍神の魔力を有する悪……なんじゃ。対策は万全にしたい」
最後の方は、消え入りそうなか細い声になりつつも話切ったククル。
彼女の悲痛な表情が、事の重大さを表している見たい。
ハチとロクはどうするのかしら?
「ハチ、あたしのスキルを影法師・意思疎通・察知・闘気功の4つだけにしてほしい。あとは、あたしの努力次第だね。任せな、あたしはナナの魔力。ロク様なんだよ」
2本ある尻尾がピンと、天を突き刺していたわ。
やる気満々みたい。
その気持ちを受け取ったハチは、ロクの望み通りスキルを大幅に減らしたの。
ロクは魔術やスキルが大好きで、暇な時はルバー様や忠凶と一緒に考査や実査を繰り返していたわ。
そのおかげで、数多くのスキルを保有していたの。
もちろん、スキルポイントなんて消費していないわ。
自力での保有。
コレがどれほど難しいか。
血の滲むような、努力の賜物なのよ。
魔術も少し減らしたみたいね。
そして……。
「面白いニャ! ! ルバー! 新しい魔術を考査したニャーー!」
ククルが発動している魔術“ヘルシャフト”ないで、お昼までしたわ。
また、登場したルバー様のテーブルセット。
軽めのサンドイッチだったわね。
トマトとレタスのサンドと卵サンドは王道。
美味しかったわ。
いつもなら、食後の昼寝までして動き出すロクが早食いまでして、とっとと練習場の中央に移動したの。
トッシュと忠末と一緒に、実査を始めてしまったわ。
その……ロクが考査した魔術が……エグかったの。
「ロク! ! や〜め〜て〜〜〜! ! !」
「“戻”」
ククルの一言で、元に戻った訓練場。
何があったかって?
ロクの考査で新たに生まれた魔術その名も……“黒炎・レイズ”……コレが凄い魔術だったの。
レイズとは、高温の溶岩が水に接触すると酸性の煙を発生する事。
噴火の際、溶岩が海に達し海水と接触してまもなく、熱い腐食性ガスの混合物を発生した記録を読んだ事がある。
まさに、そのまんまのガスを作り出したの。
辺りは、卵が腐ったあの臭い匂いに支配され、息をする事も出来ないほど。
人って鼻と口からだけでは無いの。
呼吸は皮膚からもしているのよ。
あぁぁぁ! 視界が狭く………。
そこに、ククルの声が響いたの。
一瞬で、何事も無く元に戻ったわ。
「何なのよ! 今のは」
「ナナ、ごめん。あたしも、こんな結果になるなんて思っていなかったニャ」
「可愛い顔をしてもダメよ。節度と優しさで魔術考査と実査をしてちょうだい」
ハァ〜。
こんな事が毎日よ。
でも、刀根に対抗する目処も立ったみたいだし良かったかも?
それにしても、どうしてこんな事になったのかしら? ?
私たちは、この世界に何のため来たのかしら? ?
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「ダーーーーー! ククルは、黙って見守るで無いわ! !」
「エンサー、どうした?」
「インかぁ。また、コイツらはとんでもない魔術を考査しおって。世界が壊れてしまうぞ! フル……平気か?」
「ハァ〜〜〜〜、大丈夫では無い。ハァ〜〜〜〜〜、トッシュは何を考えているんだ! ! 世界の秩序を守るのが、お前の役目。それなのに……。ハァ〜〜〜〜、ハァ〜〜〜〜、ハァ〜〜〜〜」
「「「ハァ〜〜〜〜」」」
我らは、この世界を創りし龍神。
真龍ちょこ様のお世話をする者だ。
ハァ〜、ため息は深い。
神である龍が誕生すると、成長するための糧の苗床を与えられる。
その世話をするのが我ら、龍神の仕事なんだ。
その際、苗床の管理と糧である苗の育成を任された者と、真龍の身の回りの世話をする者とに分かれる。
苗床は順調に育ち、より良い糧が育成できそうで満足していたんだ。
ところが……。
「イン、ちょこ様の様子はどうだ」
「フルか。今のところ寝ている。そろそろ、おやつの時間だ。ムッ、ムムム! エンサー、その画面を消せ。ちょこ様に見せるで無い。また、アレが食べたい、コレが食べたい。アレで遊びたい、コレが欲しい。などと、言い始めてしますではないか! すぐに、消せ」
「あっ! す、す、すまない。すぐに消す。神託を下すかどうかで悩んでいたんだ」
ブゥ〜ン。
モニターの消える音が、虚しく響いた。
本当に育成とは難しい。
特に感情の有る者は、思い描く通りに成長はしてくれぬ。
しかし、感情が無ければ魔術は生まれない。
魔術が生まれなければ、魔力が消費されぬ。
されなければ、ちょこ様の成長は出来ぬし食事にも困る。
我らとて、生きてはいけぬ。
ハァ〜〜〜、ため息しか出ぬわ。
3人で、ため息の合唱をしてしまった。
そもそも、間違いは100年前に遡る。
そう、そもそもの間違い。
あの時、あの場面で、あの方が起きなければ! ……今更、言っても仕方がない事よ。
ハァ〜〜〜〜、あの時とは、ちょこ様が生誕され苗床である(あの者達が言うところの)揺りかごを創った時。
ハァ〜〜〜〜、あの場面とは、揺りかごを創るだけでは意味が無い。
苗床には苗を植えないと実がならない。
その苗は、他の真龍の揺りかごから譲り受ける。
その作業の最中。
ハァ〜〜〜〜、あの方とは、もちろんちょこ様の事。
目が覚め、不安になり、泣き喚き魔力を放ち、自分の存在を主張したのだ。
ただ、ちょこ様の場合、魔力が多く他の真龍とは比べ物にならないくらい凄まじいものであった。
それが暴れたんだ。
苗を譲り受けるどころでは無い。
本来なら厳密に審査し、真龍にお伺いを立ててから、などなど手続きが必要なんだ。
ハァ〜〜〜〜、それがあんな事になるなんて。
今思い返してみても、背筋が凍るよ。
良い苗が見つからず探していた時、ちょこ様の暴れたおみ足が決定ボタンを押したのだ。
ポッチと。
それが、あの者達を招き入れてしまった原因。
そう、問題の根源。
刀祢昌利、岩城秀幸、地田幹夫、楽満俊哉、北岡真理亜の5名を、間違えて我らの揺りかごへと招いてしまった事なんだ。
我ら3人は、頭を抱えたよ。
それでも、4人は素質的にも申し分ない者達だった。
巻き込まれてしまったので、地上の管理者の手伝いをさせるべく“刻の先読み”と“豊潤の宴”を北岡真理亜と楽満俊哉に与える事にした。
きっと力になってくれようぞ。
しかし……心配は刀祢昌利の邪悪な心だ。
その心に対抗するため、地上の管理者には最高の体を用意してやろう。
先程、良い逸材を見つけたんだ。
それに、もしもの時のため、100歳を超えておるが役に立つであろう。
この者には、聴く力を与えて置けばよかろう。
あの時は、最善の方法と信じて行動にしたんだ。
それが、こんな結果になろうとは……涙が出てくるわ。
「エンサーよ。対処可能なのか?」
「フルよ。我にも分からぬ。これでダメなら……」
我は、インがおんぶしているちょこ様を見た。
「それだけはダメじゃ。なんとしても避けるんだ。この苗床自体が無くなるぞ」
「分かっている! しかし! !」
「大声を出すな。起きてしまうではないか」
「「すまぬ」」
「い〜や〜じゃ〜〜〜〜! ! ! ! !」
「おぉ〜〜ヨシヨシ。ちょこ様、動物の絵が描いております。ビスケットですよ。ほら、ぞうさんですよ〜。きりんさんですよ〜」
「ブゥ〜〜〜。ちゃべるぅ」
ハァ〜〜〜〜。
ハァ〜〜〜〜。
ハァ〜〜〜〜。
深いため息が、闇夜に吸い込まれていった。
ナナ達、異世界人が来た本当の理由を明らかにしてみました。
真龍ちょこのお世話をする彼らはイン・フル・エンサーの3人。
並べて書くと……ウフフ。
それではまた来週会いましょう!




