130話 あらあら、新奇ですって
ハチったら、嫌になっちゃうわ。
自分の特殊スキル“フリーザ”の能力の一部をネズミ隊に譲渡するなんて、言い出したものだから。
さぁ〜大変。
でも、それが出来ちゃうんだから凄いわ。
しかも、平然とね。
それまでが、長かったんだけれど。
だいたい、ルバー様が余計な事を言うからよ。
「そうですか!! そうだったんですね! ! “ヘルシャフト”破れたり! ! ! です」
でもこれにはすぐ、オチがついたの。
全く、今はそんな事を言っている時では無いのにね。
「良い加減にしないか! 馬鹿者! ! 今、その時ではないであろうが! 場をわきまえぬか! !」
ほら、ククルに怒られたでしょう。
当たり前です。
今は、ハチの“フリーザ”の再考査をしている真っ最中。
特殊スキル“フリーザ”には、貯蔵のほかにも重要な事が出来るの。
それが、融合・混合・化合なの。
ハチはその全段階、捕獲・隔離・解析のうちネズミ隊に適任の捕獲・解析をやってももらおうと考えたみたい。
と、ここで問題が生じたわ。
人にも魔獣にも言える事だけれど、魔力を入れる器には限界があるの。
それは、人それぞれ魔獣それぞれ。
神の器と称されるルバー様やハチとロク。
この1人と2匹以外は、龍神の魔力を受け入れるだけで満杯で溢れてくるのよ。
ネズミ隊は5匹で1匹。
おかげで、龍神の魔力と属性を取り込む事に成功したのね。
でも、それが精一杯。
とても、ハチの特殊スキル“フリーザ”の捕獲・解析を受け入れる事なんて不可……だと……思ったの。
ハァ〜。
ハチにはある意味、勝算があったみたい。
考査はすでに完成していたのよ。
流石よね。
自分の魔術・スキルは、自分のモノなの。
把握済みなのね。
そのハチの考査は……。
「了解したワン。まず、忠大・忠吉・忠中・忠末・忠凶を魔術“フリーザ・鎖”で縛り解析するワン」
「みんな?」
「そうだよ。5本の鎖で一気に読み解くワン。その後、魔術“フリーザ”で分離・隔離・融合・混合するワン」
だって。
要は、解析して不要な魔術やスキルを無くし、器に余白を作ろうと考査したみたい。
それが出来るのは特殊スキル“フリーザ”だけだし、操るハチ以外無理なのよ。
考査を披露したハチは、スキルを発動して黒い球体の様な生きる鎖編みを出現させ、ネズミ隊に巻き付いたの。
あっという間に解析したわ。
そして、特殊スキル“フリーザ”の中にネズミ隊を飲み込んだの。
いつものハチなら、黒い球体で発動する“フリーザ”。
でも、今回は自分の中に取り込んだの。
流石に改変するんですもの、より安全で確実な方法を取るのは納得できるわ。
ここで、私が余計な事を言ったから最初のルバー様の叫びになったの。
ここは、ククルの魔術“ヘルシャフト”内。
間違いを起こっても、元に戻せると思ったのよ。
でも、違ったのね。
「ハチくんが言ったのは、ククル様の魔術“ヘルシャフト”内であっても、ハチくんの体内魔力まで影響しないという事なんです。もう少し噛み砕いた言い方をするなら……。ポン酢の中にレモンを1個入れても、レモンの中までポン酢の味はしないでしょう。レモンはレモンです」
ハァ? ? ?
ルバー様の自信満々な説明に、少しついて行けなかったわ。
なんで、ポン酢にレモンなのよ。
その後、ククルがわかりやすい様に説明してくれたわ。
風船を題材にね。
風船の中に風船を入れて、中の風船を膨らませると外の風船と一緒に膨らむわ。
当たり前よね。
外の風船以上に中の風船を膨らませれば、外の風船が割れるわ。
要は、魔術“ヘルシャフト”の中で術者以上の魔術“ヘルシャフト”を発動すれば、外側の“ヘルシャフト”が破れるのでは? との考査だったみたい。
でも……。
「ハァ〜、ハァ〜。ありがとうございます。ハチ様。その考査には、弱点がございます。ハァ〜、ハァ〜。ククル様の魔術“ヘルシャフト”以上の魔力が必要です。この魔術を破るには、ルバー様の魔力でギリギリなのでは無いでしょうか。それでは、魔術を打破したうちにはならないと考査いたします。如何でしょうか」
と、忠凶に論破されてしまったのものだから、盛り上がっていたルバー様とククルはショックを隠せずに呆然としていたわね。
トッシュは、大爆笑だったけれど。
結局、考査のし直しのし直しをするみたい。
暇なのか忙しいのか、よく分からなくなってきたわね。
さて、そんなこんなでネズミ隊の改変が終了したの。
ハチから出てきた、忠大・忠吉・忠中・忠末・忠凶。その姿は……。
「……何が変わったの? ? ?」
そうなの? !
何も変わっていなかったの。
「ハチ! どうなってんの? ? ?」
私の疑問は、みんなの疑問だったみたい。
ネズミ隊とハチに注目が集まる。
変わった当の本人も直立不動のまま、目を白黒しているわ。
なんだか変ね。
自信満々なのはハチだけ。
「説明するワン。“フリーザ”の魔術は無属性。誰でも使える術なんだ。でも、使うには熟練した術のセンスと器の余白が必要。術のセンスは申し分ないから、余白だけだったんだ……が! ネズミ隊には全く無かったんだ。そこで、属性を減らすのでは無く、術自体を減らす事にした。まぁ、各自確認してくれワン」
この、ハチの一言でネズミ隊がステータスを見始めたの。
「忠大、私も見てもいいかしら?」
「姫様。お待ち下さい。ボクのを公開して下さい」
「え! 貴女のを?」
「ハイ、1番違いが分かりやすいかと思います。ボクと忠大が1番減らされています」
「そうなの?!」
私はハチを見たわ。
「5匹の中で、術のセンスが良いのは忠大。器が大きかったのは忠凶。どうしても、そうなるよね。その分、忠吉と忠中と忠末の術はほとんど変わってないと思うよ。確認してワン」
と、元気よく話したハチ。
褒めて欲しい犬みたいに言ったの。
で、その忠大と忠凶のステータスを見比べてみるわね。
改変前の忠大のステータス。
【忠大】オス Dランク
《魔術=黒属性・雷属性・風属性》
ウインドアロー(風)
ウインドランス(風)
スプリングボード(風)
ダークボール(黒)
ダークシールド(黒)
ザイル(黒)
ヒプノティック(黒)
ロック(黒)
ブラックホール(黒)
加速装置(雷)
雷喜(雷)
雷怒(雷)
雷哀(雷)
雷楽(雷)
スパイダーライトニング(雷)
創造電送・電受(雷)
創造(無)
その他
《特殊魔術》
魔獣化
《スキル》
影法師・意思共通・走破・完全擬装・気配察知・魔力察知・絵心
改変後の忠大のステータス。
【忠大】オス Dランク
《魔術=黒属性・雷属性・風属性》
スプリングボード(風)
ダークシールド(黒)
加速装置(雷)
雷喜(雷)
雷怒(雷)
雷哀(雷)
雷楽(雷)
創造電送・電受(雷)
創造(無)
フリーザ解析・伝送(無)
《特殊魔術》
魔獣化
《スキル》
影法師・走破・完全擬装・感知
改変前の忠凶のステータス。
【忠凶】メス Dランク
《魔術=黒属性・雷属性・白属性》
ホワイトランプ(白)
ホワイトシールド(白)
ホワイトザイル(白)
女神の涙(白)
女神のキス(白)
ダークボール(黒)
ダークシールド(黒)
ザイル(黒)
ヒプノティック(黒)
ロック(黒)
ブラックホール(黒)
加速装置(雷)
雷喜(雷)
雷怒(雷)
雷哀(雷)
雷楽(雷)
スパイダーライトニング(雷)
創造電送・電受(雷)
創造(無)
その他
《特殊魔術》
魔獣化
《スキル》
影法師・意思共通・走破・完全擬装・気配察知・魔力察知・絵心
改変後の忠凶のステータス。
【忠凶】メス Dランク
《魔術=黒属性・雷属性・白属性》
ホワイトランプ(白)
ホワイトシールド(白)
女神の涙(白)
女神のキス(白)
ダークボール(黒)
ブラックホール(黒)
加速装置(雷)
雷喜(雷)
雷怒(雷)
雷哀(雷)
雷楽(雷)
スパイダーライトニング(雷)
創造電送・電受(雷)
創造(無)
フリーザ・鎖(無)
《特殊魔術》
魔獣化
《スキル》
影法師・走破・完全擬装・感知
こんな感じ。
それにしても忠大が酷いわね。
忠吉・忠中・忠末は、術やスキルが3個こ消えただけ。
私の中でショックだったのが。
「ハチ……忠大の魔術“ブラックホール”を無くしたのはマズかったんじゃない」
私の言葉が耳に入っていない様子の忠大。
そんな様子からそう思ったの。
「仕方ないワン。“フリーザ・鎖”は忠大以外のみんなで出来る事。器の大きさが大事だったんだ。そこで、忠凶に白羽の矢を立てた。“フリーザ・鎖”はたいして魔力は消費しないんだ。忠凶を軸に術が使える様にしたんだ。問題は“フリーザ・解析”の方。これは、術に対する直感的な理解と知識が必要なんだ」
「でも、術に関する事なら忠凶が良かったんじゃないの?」
「確かに……でも……」
ハチが言い淀んだの。
言い難い事でもあるのかしら?
少し待っていると、ククルが助けてくれたの。
「この場合の知識は、術の知識では無い。物事を俯瞰し、全体的な目を持たぬと駄目なんじゃ。そう言う意味の知識なんじゃろう」
「そうワン。忠大はスキル“走破”で、まとめ役を担っているワン。その知識が必要なんだ。まいったよ。思いのほか余白が無くて苦労したワン」
「だ、そうよ。忠大……大丈夫?」
私は、フワフワしている忠大を覗き込んだわ。
泣いているのかと思ったの。
軽く震えていたしね。
ハァ〜、違ったのよ。
この子ったら!
「私は……私は……、…………。猛烈に感動しています! ハチ様。ありがとうございます。私は粉骨砕身努力いたします。お前たちも、誠心誠意対応してみせろ! 忠吉! 忠中! 忠末! 忠凶!」
「「「「ハッ!」」」」
「忠凶! 頼んだぞ」
「ハッ!」
何この騎士的雰囲気。
ハッ! ではなくイエッサー! の方が似合うわね。
心配して損したわ。
それにしても、驚いたわね。
だって、泣いていると思ったのよ。
それくらい、必死になって魔術“ブラックホール”を訓練していたから。
余計にそう思ったの。
「忠大、よかったの? 魔術が半分以下じゃない」
「姫様。私は嬉しく思います。私たちは5匹で1匹。5匹で居たからこそ、姫様のお役に立てるのです。そればかりか、ハチ様やロク様の手助けができるなど……。姫様に拾って頂き、これほど嬉しきことはありません」
そう言って、今度は本当に泣き出したの。
しかも、5匹ともね。
感極まっているとこ申し訳ないんですけど……との気持ちでそぉっと見回してみると。
ククルと目があったわ。
彼女も同じ思いだったみたい。
呆れ顔で私を見ていたわね。
アハハハ!
目で会話をして、頷き合って、結論を出したの。
要は、ね。
「そこまでじゃ。そなた達の思いはしかと受け止めた。ナナも嬉しかろう」
私を見たククル。
大きく頷いたのを確認して、話を進めたわ。
「とっとと、実査をせい。……面白い。ルバーを解析しいてみるか? トッシュにするか? どっちが、良いかのぉ〜」
ニャリと笑った顔が怖いわ。
それに対して、今にもハイ! 先生! と元気よく手を上げそうなルバー様と、かったりぃ〜なぁ、そんな事させるなよ〜的な態度のトッシュ。
正反対の2極化だったわ。
ククルが選んだのは……やる気のない方だったの。
「トッシュに協力してもらうかの」
「やっぱりかぁ」
なんとなく予感がしていたような反応ね。
「どう言う事なの?」
「ルバーは詰まり過ぎてんだよ。詰め込み過ぎって事だ。始めて解析するには過酷すぎる。俺は確かに龍神だが、大地に降りた者だ。本来なら持っていなければならない術も保持していない。その事もついでに調べたいんだろう」
ククルを見るトッシュ。
つられて私たちも見たわ。
またまた、ニャリ顔。
どうやら正解だったみたいね。
「まぁ〜。俺自身も興味があるから、やってみてもいいぜ。どうすればいい?」
開き直ったトッシュ。
両手を広げて、ドンと来い的ポーズをしたわ。
それを見たネズミ隊が、トッシュから距離を取ったの。
私たちも離れたわ。
邪魔してはいけないものね。
「ねぇ、ハチ。なんでここまで離れる必要あるの?」
「暴れそうだワン」
「だね」
「アハハハ! 鋭いぞ! ハチ、ロク。あやつが素直に捕まる事は無いのぉ〜」
楽しそうに、トッシュとネズミ隊を見たククル。
「じゃ〜、始めてくれ。ただ……そう簡単に捕まらないがなぁ!」
「「「「「心得ております!」」」」」
トラック1台分の距離があいていたわ。
そこまで離れる必要ある? と思ったけれど、これが大正解。
動いたのは忠吉・忠中・忠末の3匹。
「ハンディとして飛ばないでいてやる。さぁ! 来い! !」
「「「魔術“加速装置”」」」
勢いよく走り出した彼ら。
翻弄するかのように、避け続けるトッシュ。
長い攻防の幕が上がったわ。
でも、実際にはラーメンが出来上がる時間ぐらいだったの。
それにしても、速いスピードよ。
私の目が回るわね。
トッシュはトッシュで、良くやるわ。
確実に見て、避けていたの。
本当に凄いわ。
「魔術“フリーザ・鎖”」
忠吉・忠中・忠末に紛れて、忠凶が仕掛けた。
実は、初めから4匹で動いていたみたいなの。
トッシュの隙をついて術を発動させたのね。
でも……。
「フン。甘いわ! !」
ウネウネの鎖が左足首に巻き付く寸前、足を後ろに引き難を逃れたわ。
まさか、これも見えていたの?
「動きも良いし、忠吉達に紛れて近付き“フリーザ・鎖”を発動させるのは最善策だ。俺じゃ〜、無かったらな! さぁ、次はどう出る?」
まるで、鬼教官ね。
あらあら、忠大も参加した作戦会議が始まったわ。
流石に、ここまで話し声が聞こえないわね。
ウン? ククルが笑っているわ。
「ククル、聞こえているの?」
「ここは“ヘルシャフト”の中ぞ。妾の思いのままじゃ。ネズミ隊は面白いのぉ〜。チーム戦に関しては、ルバーに引けを取らないのではないか。フム、第2ラウンドが始まるようじゃぞ」
元の場所に戻った、ネズミ隊とトッシュ。
向き合い礼。
ククルがいつの間にか中央に立ち、審判の真似事を始めてしまったの。
知らないうちに、試合形式へと変貌したのね。
「始めるぞ。……始め! !」
散開したのは忠中と忠末だけ。
また、トッシュを翻弄し始めたの。
2分後ぐらいに、忠吉が走ったわ。
ワンテンポ遅れて、魔術“加速装置”を発動したのね。
何か……あるわね。
そう考えたのは私だけではなく、トッシュも同じだったみたい。
忠中と忠末には目もくれず、忠吉だけを見ていたの。
その結果、忠凶を見逃したのね。
さらに、意識を忠吉に集める事で忠中と忠末に術を使う隙が生まれたの。
「「魔術“スパイダーライトニング”」」
「魔術“フリーザ・鎖”」
これが見事にハマったのよ。
一歩出遅れる事で忠吉に意識を集中させ、先に走った忠中と忠末が“加速装置”を解除し“スパイダーライトニング”を展開。
足元を掬うように動かしたの。
大縄跳びの縄を回す感じね。
後ろに倒れるかとおもったトッシュ。
流石の、体幹で転ばずにジャンプ。
空中に浮いた瞬間、忠凶の“フリーザ・鎖”がトッシュの腰に巻き付いたの。
下に降りる切り前に、忠大の声が響いたわ。
「魔術“フリーザ・解析”……オォ! オォ? オォォォォ! !」
「「「「忠大! ! 」」」」
「「「「「「え? ?」」」」」」
パッタリ。
真後ろに倒れた忠大。
泡を吹いて気絶していたわ。
忠大の名前を呼んだのはネズミ隊。
驚いたのは私たち。
彼に身に何が起こったのかしら?
まずは……目を覚まして……くれるわよね? ? ?
ニューネズミ隊です。
チュ〜ネズミ隊ではありませんよ。
インフルエンザの到来です。
体には十二分に気を付けて頑張って働きましょう!
それではまた来週会いましょう!




