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128話 あらあら、神業ですって

 想いのカケラから得た情で今後の方針が決まったの。

 ククルの発案で、ハチの特殊スキル“フリーザ”の有用性に着目して考査をし直す事にしたのね。

 そこで見落としがちの新事実があったの。

 人にも獣にも器が大切だった……と、言うことよ。

 その器とは、魔力の総量の事。

 限界MAXがあるのね。

 それは、人それぞれ、魔獣それぞれらしいわ。

 その中でも、神の器と称される者たちがいるの。

 それが、ハチとロクとルバー様。

 器が大きいのね。

 器量のことでは無いわよ! リアルな器の事よ。

 今更ながらに思うわ。

 ハチとロクは、龍神の魔力を内包するだけではなく、使うだけの余力を残しているんですもの。

 凄いわね。

 そう言えば……ネズミ隊も龍神の魔力を取り入れて進化したわ。

 でもそれは、雷龍神の魔力を5当分に振り分けての、進化だったのね。

 だから、取り入れる事に成功したのよ。

 さらに彼らは、ハチから属性を貰ってしまったわ。

 そのせいで、余力ゼロになったのね。

 コップにギリギリいっぱいのジュースを入れてしまうと飲みにくいでしょう。

 アレと一緒。

 ある程度の余力が無いとね。

 人生も一緒だわ。

 アハハハ〜、ハァ〜。


 さて、特殊スキル“フリーザ”の再考査が始まったわ。

 喧々諤々となるのかと思っていたら、ククルがハチを隅々まで見つめ、ハチ自信を読み取っていったの。

 ククルスキャン! ってとこかしら?

 なんだか恥ずかしいネーミングをつけてしまったわね。

 忘れてちょうだい。

 その結果、重要なのは……。


「そなたの特殊スキル・魔術“未来予想図”がキーになるはずじゃ」


 と、言い出したのもだから大騒ぎ。

 でもその前に、ハチのスキルは良かったのかしら? と、思ったわ。

 それは私の間違い。

 ククルは、二手三手先を読んでの発言だったの。

 ロクの特殊スキル・魔術“未来予想図”作戦は、とりあえず置いといて。

 まずは、ハチの“フリーザ”からよね。

 順当だわ。

 で〜も〜、そこでも問題があったの。


「ハチ、融合・隔離・混合まで、考査し実査まで行き着いた事は褒めてやるぞ。ただ、隔離の次まで行って欲しかったのぉ」


 などと言ったものだからさぁ〜、大変。

 ネズミ隊まで巻き込んで、考査の嵐……と、までは行かなかったけれど、私の中では大嵐だったわ。

 隔離の先、そんな風に言うから難しいのよ。

 単なる隔離なら脱走してしまうリスクがある。

 それを防ぐために、手枷足枷をつけましょうって言うことだったらしいわ。

 ククルは、その枷まで考査して欲しかったみたいなの。

 その事を理解したハチが、私の鎖編みをヒントに考査したのが……。


「魔術“フリーザ・鎖”」


 ハチの言葉が、ククルが施した魔術“ヘルシャフト”内に響いたわ。

 そこには、黒い球体が浮いていたの。

 よくよく見ると、鎖編みの塊だった。

 端からニョロニョロと動いた時の気持ち悪さって無かったわね。

 まるで生きているかのように、忠凶を捉えて、魔術“フリーザ”の中に引きずり込もうとし出したの。

 ブラックホールに引きずり込まれる、憐れなスペースシャトルのような感じかしら。

 ここで待ったがかかったの。

 待った! では無く、コラ! が正解ね。


「この戯けが! ! 仲間を見殺しにするつもりか! 反論は許さぬ」


 ハチったらね。

 ククルの“ヘルシャフト”内だからって、考査もしないで実査をしたみたいなの。

 仲間を危険に晒しても、どうとでもなると思ったみたい。

 その事をククルとトッシュに見透かされ、怒られたのね。

 もちろん、訳を知った私も怒ったわ。

 そしてロクったら、魔術“ウォーターボール”のキツイお仕置きをしたの。

 改心して考査をするのかと思ったら……。


「決めたワン。ボクの魔術“フリーザ”の能力を、ネズミ隊に上げるワン」

「「「「「ハァ?」」」」」

「「「「「ハッ! ……エッ?」」」」」


 突然の宣言に呆気に取られた私たち。何を言ってんのか理解に苦しむわ!そんな私など御構い無しにハチが言葉を続けたの。


「たしかに突拍子も無い、話かも知れない。でも、僕なら出来る。この“フリーザ”は神様の能力だと思う。それほどの力なんじゃないのか……ククル、トッシュ」


 いつもの雰囲気を隠し、真剣な声のハチ。


「「……」」


 黙り込む2人。

 追い込むハチ。


「僕にしてもロクにしてもルバーにしても、人や獣が保有して良い能力じゃない。僕の“フリーザ”は、取り込んだモノを改変する事が出来るんだ。倫理的にしてはいけないとの思いからやらない。でも、出来るんだ。

 忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶を取り込み、各々が保有している魔力を精選し直し、振り分け直し、元に戻す事が出来るんだ。おそらく、ネズミ隊には余力が生まれる。そこに、僕が持っている“フリーザ”の一部を移植する。考査なしでも出来るんだ。出来るんだ……こんな事が出来るなんて、神の力なんじゃないのかと、僕は思う」

「あたしも同じ意見だね。あたしの持っている“未来予想図”も、獣が持つには度が過ぎていると思うよ。あんたのスキル“全知全能”も同じだろ」

「……」


 ハチに追随する形で、ロクも詰め寄ったわ。

 もちろんルバー様も……と、思ったのだけれど違ったみたい。

 黙ったまま、話をしなかったの。

 ククルの答えを待っているのね。

 ハチにしてもロクにしても、Sランクの魔獣ですもの。

 人では無いわ。

 でも、ルバー様は違うの。

 人なのよ。

 今を生きている人属なの。

 魔獣でも化け物でも無いわ。

 人なの……よ。

 下を向くルバー様。

 そんな、彼の思いが通じたのか、ようやく話し出したの。


「そなたらの言い分は正解じゃ。ハチ、ロク、ルバー、ナナ、青、竜。この者たちは、神の巫女として選ばれたんじゃよ。

 ルバー……苦労をしてきたじゃろう。そなたは、人の身。生まれた時から有り余る力に難儀しただろう。すまなかった。元々、大きな器を持って生まれたんじゃ。そこに、あやつらがスキル“全能”を持たせた。そうしたのも……妾のせいであろう。本来なら、妾が担うべき“全知全能”の力。それを受け取ってしまったんじゃ……済まない。それに、ハチとロク。そなたも、稀有な経路で神の器になったものじゃ。本来なら……」

「俺がやるべき事だな。それが、どういう訳か渡来者に渡したんだ。驚いたぜ。あいつらは何を考えてんだ……と。なんとか回収するべく動こうとしたが、タイミングが悪かった。俺の移行期に入っちまたんだ。竜を確保していたから、困ることはなかった……そのはずだった。まさか、恋仲になるとは思わなかったぜ。そのせいで、ぐちゃぐちゃになったんだ。参るぜ。人も龍神も同じなんだな。改めてそう感じたよ。

 問題は、渡来者に渡したことじゃねぇ。受け取った奴を使える様に教育すれば、良いだけだからな。無理なら、龍神の元に送ればいい。問題は……封印された龍神たちの魔力の方だ」


 私は、不思議に思ったことを口にしたわ。


「龍神たちは、ゆりかごを創るために魔力を使ったんでしょう。それのどこが問題なの?」

「ナナの質問はもっともだ。龍神の魔力を秘めた祠は、少しづつ放出して大地を形成していたんだ。それを……」

「ハチとロクとネズミ隊が取り込んでしまったのね」

「まぁ、そうだな。それでも、お前たちは正しい導きで取り込んでいる。問題はない」

「正しい導き?」


 トッシュが私を見つめてニコリと笑ったの。

 あら、素敵。


「ロクが水龍神の魔力を取り込んだ時、ナナはロクの自我を取り戻そうと呼びかけ続けいていたんだろう」

「そうよ。ハチもネズミ隊も、必死になって呼びかけたわ。この子達を失いたくなかったんですもの。当たり前だわ」

「それだよ。それこそが、大切なんだ。俺は、黒龍神の魔力を取り込んだ刀根に居るのかと思ったんだが……」

「居なかったらどうなるの?居ないとどうなるの?」

「龍神の魔力に取り込まれる。マンプクが良い例だな」

「え! マンプクって、龍神の魔力だったの?」

「ナナ、違うぞ。トッシュ、ややっこしい言い方をするで無いぞ」

「悪りぃ〜」


 話を横から奪ったのはククル。


「どうことなの?」

「マンプクとマリアの魔術は、トッシュが担うべきモノじゃったんじゃ。“刻の先読み”と“豊潤の宴”は、トッシュが保有していなら無い魔術。それは、龍神の魔力でなければ力は、発揮されないを意味しているんじゃよ」

「なるほど、そう言う事だったのね。なんか納得したのと、そんな大切な役割をなぜ渡来者に渡したの?」

「「知らん」」


 トッシュとククルの声が見事に揃ったわね。

 2人とも同じ事を言ったわ。

 アハハハ!

 今は睨み合っている。

 気を取直し、ククルが話し始めたの。

 ハチを見据えてね。


「ハチ。自身があるのじゃな」

「出来るワン」


 言い切ったハチ。

 今度は、私が割り込んだわ。


「ハチ。大丈夫なの? ネズミ隊に何をさせるの? この子達が、変わってしまう様な事なの? 何をどんな風にするの? ねぇ、大丈夫なの?」

「ナナ! 説明するから落ち着いてワン」

「……ごめんなさい」


 私の質問責めに、みんながドン引したわ。

 でも、心配だったの。

 私の気持ちを察したのが、ルバー様だったわ。

 もう、大丈夫みたいね。

 下を向いていたルバー様は、居なくなっていたわ。


「ナナくんの気持ちは、良く良く分かりますよ。でも、信じてみても良いと思います。なんと言ってもハチくんは、ナナくんの足なのでしょう。自分自身を信用しないで、誰が信じるんですか。ハチくんだって、分かっているはずですよ。ナナくんにとってネズミ隊は、目であるとね」


 優しく忠凶を撫でる仕草は、いつものルバー様。

 ウフフ、でもルバー様の言う通りだわ。

 私ったら、ククルの喝! にあった、失う恐怖に囚われていたのね。

 誰でも、同じよ。

 失うのは恐いもわ。

 大切であればあるほど無くした時の消失感は、いつまでも胸の中に燻り続けるの。

 泣いても、泣いても、泣いても、泣いても!

 枯れる事なく涙が溢れてくるの。

 アノ苦しみは、二度と味わいたく無いわ。

 そう、想ってしまったの。

 ダメね。

 目の前の闇に心を奪われてしまって、何も見えなくなってしまうだなんて。

 私がしっかりしないと!

 気合いを入れないといけないわね。


 バチン! !

 バチン! !


「「「「「「「「「「! !」」」」」」」」」」

「突然、ごめんなさい。暗闇が、私を捕らえようとしていたの。もう、大丈夫よ。ハチ、説明して」

「了解したワン」


 気を取り直して、話しをしてくれたわ。

 その内容に、唖然とした事は内緒にしたいわね。

 本当にとんでもない力を与えたものだわ。

 一体誰よ!


「僕の特殊スキル“フリーザ”は凄いワン。神様がやる魔術ワン。

 僕は、貯蔵する事が“フリーザ”の出来る事かと始めは考査したワン。でも違ったワン。“フリーザ”は、貯蔵したモノを操作できる。しかも、融合・混合・化合までできる。さらに、捕獲・隔離・解析も。時間の概念も無い。取り込めば、半永久的に貯蔵できる。僕は、それがどれだけすごい事なのか理解が出来なかったんだ。でも、今なら分かる。僕の力は、取り込んだものを改変する力。僕が、好きな様に改造できる力。与える事も壊す事もできる力……それが、僕の特殊スキル“フリーザ”の正体だったんだ。神にでもなった気分だよ」


 ここで、話を区切ったハチ。

 そして、続けたの神業をね。


「そこで、ネズミ隊を僕の中に取り込んで、魔力の精選し整理する。そうする事で、新たな魔術が使える様になる。もちろん、消されたく無い魔術もあるから、ちゃんと聞き取りもする。その余白に、僕の魔術“フリーザ”の一部の能力“鎖”を与えるんだ。見た目は、黒属性の魔術“ザイル”と似てはいるけど、似て非なるものなんだ。強度も自由度も格段に向上しているし、使い勝手も抜群に良い。僕は、解析までは与えたいと思っているんだ。まぁ、精選してみないとなんとも言えないけど。そこいら辺は、話し合おう……って、僕の話を聞いてるワン?」

「「「「「「「「「「? !」」」」」」」」」」


 暫しの沈黙が、それぞれの思惑を加速させているみたいね。

 目がキラキラとパチパチとクラクラとワクワクとが混然とした感じ。

 ちなみに、キラキラはネズミ隊でパチパチはルバー様とククル。

 クラクラは私ね。

 ワクワクは……。


「ハチ。あたしにも、余白があるのかい? まだまだ、魔力の上乗せができるのかい?」

「無理ワン。ロクにそんな場所は無いワン」

「そんなの、解析してみなきゃ分からないじゃ無いか。あたしで実査しなよ」

「しなくても分かるワン。そんな、小さな脳みそじゃ。……今が限界ワン」

「ハァ! あたしに喧嘩を売っているニャ! 容赦しないよ。かかってきな!」

「望むところワン」


 駆け出して行ったハチとロク。

 派手に始めてしまったわ。

 残された私たちは、唖然とするしか無いわね。

 誰も何も、話そうとしないの。

 まぁ〜、無理無い話だわ。

 私の思考も追いついていないもの。

 ここは、本来の持ち主に聞くのが1番。


「トッシュ、説明して」

「……無理だ」

「え? だったら。ルバー様、お願いします」

「……? ? ……! ……? ? ?」


 返事が無いと思ったら、1人で百面相をしていたわ。

 完全に混乱している表情ね。

 誰に聞けば良いのよ!

 途方に暮れていると、ククルの口から言葉が溢れたの。


「……変質している様じゃ」


 この発言で、トッシュの絡まった糸が解けたみたい。

 大興奮して話し出したわ。


「そうか! 変質かぁ! ! 納得だぜ。それだよ、それ!

 龍神の魔力と“豊潤の宴”が化合したんだ。そうとしか考査できねぇ。2種以上の元素が化学反応を起こして結合し、新しい物質を生じること。正にそのまんまだ。龍神の魔力と“豊潤の宴”が化学変化を起こし結合し、全く新しい魔術を生み出した。そんな事ってあるのか? 俺は聞いたことないぞ?」

「妾も……ない。しかし、それしか説明が付かぬであろう」

「どういうことなの?」

「ナナ。“豊潤の宴”は、大地からの実りを祝う宴の事なんじゃ。分かりやすく言うと、豊作を祝う祭りの事じゃな。その豊作に実った作物を貯蔵する役割がある。飢饉になり不毛な大地になったとき、貯蔵した作物の生命力を降り注ぎ困難に乗り越える力を与えるのが仕事なんじゃ。それが……」

「あそこまで変わってしまったのね。たしかに化合だわ。全く違うモノですものね」

「だがな、その片鱗はある。ククルの言葉を借りるなら……貯蔵した作物の生命力を降り注ぎ困難に乗り越える力を与えるのが仕事なんじゃ……ここだろう。貯蔵した作物の生命力を考査すれば、融合・混合・化合が生まれる。降り注ぎ困難に乗り越える力は、捕獲・隔離・解析に当たる考査だ。ここまで来ると神業だな」

「じゃな」


 たしかにその通りね。

 ハチが凄いのか?

 マンプクの“冷蔵庫”が凄いのか?

 よく分からないけれど、とにかく凄いわ。

 そして、それを平気な顔をして操る……やっぱりハチが凄いわね。

 そこで、ボソボソと話し声が聞こえたの。


「忠凶、何を消去するか今すぐ考査しなればならない」

「忠大、分かっている。ボクはスキル“絵心”はいらないと考査する」

「オレも同意見」

「それだけでいいのか?」

「俺は、属性を減らすのではなく、使う頻度が低い魔術を消去対象にすれば?」

「僕は忠吉に賛成。使わない魔術が結構あるからね」

「「「「「良いねぇ」」」」」


 ダメだわ。

 色々、忘れているわね。

 ここは、ククルの魔術“ヘルシャフト”内なの。

 話し声はみんなに丸聞こえ。

 ククルは笑いを堪えるのに必死だし。

 トッシュは声に出さずに、お腹を押さえて笑っているわ。

 器用ね。

 ルバー様は、まだ壊れたままよ。

 当のハチとロクは、今だにバチバチ遊んでいるわ。

 私は……。


「ハァ〜〜」


 ため息しか出ないわ。

 どうなるのかしら?

 不安しか私の中に無いわね。


「ハァ〜〜、ハァ〜〜、ハァ〜〜〜〜〜〜〜」

私もいらない脂肪をハチに消去してもらいたいです。


それではまた来週会いましょう。

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