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126話 あらあら、またまた認知ですって

 ハァ〜。

 疲れたわ。

 まさか私の特殊スキル“獣の声”が、重要な役割を果たすなんて思いもしなかった。

 呼ばれる様にルジーゼ城へと帰郷した私たち。

 そこで、ロクの尻尾に着いてきた鎖編みのカケラ。

 このカケラこそ、地田幹夫ちだみきおの胸懐だったの。

 哀しみの詰まった想いをみんなに伝える趣意があったなんて……で・も・ね! 難しいのよ! !

 せめて、言葉を喋るモノにして欲しかった。

 それでも、頑張ったのよ。

 集中力を上げるために、必殺奥義を唱えたわ。

 私の秘策よ。


「まかはんにゃーはーらーみたしんぎょう

 かんじーざいぼーさーつー

 ぎょうじんはんにゃーはーらーみたじー

 しょうけんごーうんかいくう

 どーいっさいくーやく

 しゃーりーしー

 しきふーいーくう

 くうふーいーしき

 しきそくぜーくう

 くうそくぜーしき

 じゅーそうぎょうしき

 やくぷーにょーぜー

 しゃーりーしー

 ぜーしょーほうくうそう

 ふーしょうふーめつ

 ふーくーふーじょう

 ふーぞうふーげん

 ぜーこーくうちゅうむーしき」


 般若心経よ。

 2回で地田幹夫の声を聞くことが出来たの。

 やり場のない、哀しみの想い(こえ)だったわ。

 聞いたみんなの反応はこんな感じね。

 私とマリアの想いを内包しているロクとマンプクを取り込んでいるハチは、涙が止まらない。

 お父様とルバー様は、呆気にとられている。

 ついてこれなかった見たいね。

 トッシュとククルは……。


「ククル、変だ。本当にアークの野郎なのか?」

「……」

「たしかに、アークは黒龍神だ。地獄を管理する者。白龍神のお前が、天国を管理する者。ククルが命と魔力を司り、アークが時を司る。時を操るのはアークの専売特許だ……が、次元は俺たちの管轄外だ。それに、あいつに悪意は似合わない。善意の塊がアークだろ。違うか、ククル」

「……」

「何とか言えよ! 」

「妾には……分からぬ! 妾の知るアークは、優しく仲間思いじゃった。……とても……信じられぬ。アークでは無い! ! 」


 仲間思いのアークの変貌ぶりに、混乱したみたい。

 そこから、トッシュの属性性格講座が始まったの。

 ……長くなるから割愛するわね。

 要は、火属性は熱血で猪突猛進タイプ。

 水属性は頭でっかちの天才タイプ。

 風属性は調和のとれた優等生タイプ。

 土属性はガードが固く無口な護衛タイプ。

 白属性は優しく聡明なお嬢様・王子様タイプ。

 黒属性は変幻自在の変人タイプ。

 その性格判断がまんま、龍神の性格だったみたいなの。

 面白いわね。

 その時、不吉な声を聞いたの。

 声をしっかり聞くために、般若心経を3回も唱えたわ。

 それくらい、集中しないと聞き取れなくほどの声だったの。


『便利が良いですね。なるほど、なるほど、面白いです。使いがてが良い様です。それにしても、眠たいのは、何故でしょうか? ボクの中でまだ消化しきれていないのかもしれませんね。色々と飲み込み過ぎたようです』


 誰も何も声を発する事を忘れたかの様な、静寂が辺りを包んだわ。

 リアル刀根の声を聞いたのは私だけ。

 その声の冷淡な声色に寒気がしたわ。

 本当に生きている人の声なのかしら?

 そう感じるほどの声だったの。

 最初に口火を切って話し出したのは、ククルだった。


「トッシュ! 泣き言は終わりじゃ。反撃に転じるぞ。

 奴は今、取り込みすぎてオーバーヒート気味なんじゃろう。当たり前じゃ。龍神を丸々飲み込み、さらに岩城秀幸いわしろひでゆき地田幹夫ちだみきおの2人も取り込んだんじゃ。そうそう処理されて、たまるものでは無いわ! おそらく奴は、処理する為に眠りにつくじゃろう。しかも、そうやすやすと起きられまい。その間に、戦況を整えるぞ。今回の事で、2つの情報がもたらされた。1つは、奴が眠りにつく事。もう1つは地田が言った……せめて、マンプクの“冷蔵庫”があれば対抗できたかもしれねぇ……この言葉から、ハチの特殊スキル“フリーザ”が鍵を握るのであろう。ただ、懸念もある。それは……」

「“刻渡り”」

「トッシュ。その通りじゃ。そもそも、この術を使えるのは神の中の神、神王しかおらぬはず。真似事とは言え、それをやってのけるとは恐ろしい事よ。しかし、原理なら妾とて理解しておる。恐るるに足らずじゃ。トッシュ!」

「分かっている。俺は俺が出来る事をする。ナナがそうした様に!」


 そんな風に、叱咤激励を飛ばしてくれたわ。

 もちろん、ククル自身も含めての激だったと思う。

 そして、1つの指針が打ち出されたの。

 それは、マンプクの“冷蔵庫”の進化版、特殊スキル“フリーザ”の再考査をする事。


「フム、良い朝じゃ。青、すまぬ。本来なら、其方の活動時間のはず。それなのに、交代してくれたこと感謝する」

『良いのよ。私にしても大変な事態になっていること、理解してるもの。みんなの未来がかかっているんだから、しっかり頑張ってね。私の力が要るようなら、いつでも言ってね』

「いつもすまぬ」

「ククル、おはよう。青もおはよう」

「フム、おはよう」

『ナナちゃん、おはよう。ウフフ、ナナちゃんとは普通に話せるんだったわね』

「そうよ。対人なら普通に話せるのに……。ハァ〜、対物なら途端に難しくなるんですもの」

「仕方ないであろう。物に想いは、宿りやすい。それが、表に出てくる事は無いゆえ、人は話しかける。聞いている者が居ないと分かると心が緩む。それゆえ、本心を言ってしまうんじゃ。口に出して言う事で、認識しているんじゃよ」

「そう……よね。納得だわ」

『たしかに』

「『ウフフ』」

「ナナ様、ククル様。おはようございます。朝食の準備が出来ております」


 私と青は食堂へと入ったわ。

 そこには、お母様、カムイ、ルバー様が席に着いて私達を待っていたの。


「お母様、カムイ、ルバー様。おはようございます」

「ソノア様、カムイちゃん、ルバー様。おはようございます」

「ナナくん、青くん。おはよう」

「ナナ、おはよう。あれ? ククル様は、どちらに行かれたのですか?」

「ソノア様。ククルと変わってもらったんです。龍神は食事を取る習慣が無いそうです。その為、食事に意味を見いだせないと言って好きな物しか食べてくれないんですもの。強制的に私と交代してもらっています。バランス良く食べる事が、健康かつ健全な心を作る重要なファクターなんです!」

「ナナちゃん! ちゃんと聞いていましたか? もう一度、言いますよ。バランス良く食べる事が、健康かつ健全な心を作る大切なファケターなんです!」

「お母様、ファクターです」

「もう! あげ足を取らないで! 好き嫌いなく、食べなさい!」

「は〜い」


 目の前に並べられているのは……。


「おにぎり?」

「ウフフ、最近ハマっているのよ。簡単で、美味しいじゃない。カムイもこれなら喜んで食べるの。こっちから、梅干し、昆布、おかか。で! もっとも美味しいのが、おかか梅。この鰹節を発明した人は天才ね。こんな地方でも、海の物を食べられるんですもの。しかも、美味しいの。このまま、食べても良いし。湯に入れて煮出すと、美味しいスープが出来上がるの。その、残り滓で美味しいふりかけが出来るの。滓じゃ無いわね。最高の逸品だわ。そこに梅よ! 梅干しも良いわ。この酸味が最高……」

「い、い、いただきます」


 お母様の食に対する想いは海よりも深いわ。

 話が止まらないもの。

 まぁ〜、ある意味、仕方のない事よね。

 カムイがいるんですもの。

 美味しくて、栄養があって、手軽に出来るのなら最高ですものね。

 ウフフ、本当に美味しいわ。


「私的には、この豚汁が美味しい」

「ナナ様。流石です。ナナ様が大好きなミソスープです。ボアの肉を使い、色んな具材を入れて作ってあります。お口にあった様なので良かったです」


 答えてくれたのはハンナ。

 本当に私の事となると、いつでも真剣なの。

 お母様でさえ、一目置いているのよ。

 それにしても美味しいわ。

 食後のお茶を一服してから、ハチの特殊スキル“フリーザ”の考査へと入ったの。

 そうそう!

 お父様は急ぎスアノースへと、とんぼ返り。

 今回の事を直接、王様に報告しなければいけないからね。

 代わりに、お爺様がこちらへと向かっているみたい。

 きっと、猛スピードで来るわね。


「すまぬが、この訓練場に集まってくれまいか。……よし。魔術“ヘルシャフト・語”。これで、お前達も話せよう」

「ククル様。ありがとうございます」

「忠大か。魔獣化せい。その小ささでは話しずらいわ」

「しかし……」

「魔獣化を許可するわ。ハチ、ロク、もよ」

「「「「「「魔獣化」」」」」」


 みんなが一斉に魔獣化したわ。

 壮観ね。

 ロクのしなやかな筋肉が、漆黒の豹柄をさらに美しくしているわ。

 ネズミ隊も、良いわね。

 ただ、目がチカチカするのが玉にきず。

 さすが、雷属性よね。

 某電気ネズミも真っ青よ。


「貴方は魔獣化しなくて良いの? ハチ」

「魔獣化の意味が分からないワン。必要無いワン」

「良い良い。ハチは冷静じゃのぉ。それに引き換え……」


 ジト目でロクを見たククル。


「分かって無いにゃ。あたしは、未来を視るスキルを持ってんだよ!」

「チィ。魔獣化。朝の運動ワン!」


 私はハチの上に居たわ。

 その私をルバー様がヒョイと抱えてくれたの。

 それからが、壮絶だったわ。

 肩慣らしとしては、魔術は放つし、地面を隆起させまくるし、御構い無しの暴れ放題。

 休み無しのノンストップの60分。

 まぁ〜、スッキリした顔で戻ってきたわ。

 いつもしているじゃれ合いでも、魔獣化した姿では迫力が段違いで凄い。

 ククルなんて、大ハッスル。

 プロレス中継を観ている子供の様だわ。

 ハァ〜。ため息しか出てこないわね。


「ククル、そろそろ本題に入らなくていいの?」

「フム、そ、そうじゃのぉ。“戻”」


 ボコボコだった大地が、あっと言う間に戻ったの。

 たった一言で、元通りよ。

 魔術が凄いのか、“ヘルシャフト”が飛んでもないのか、理解に苦しむわね。

 スッキリした顔のハチとロク。

 何事もなかった様に、私の側へと来たわ。


「ハチくん。今回の主役は君だ。ナナくんは僕が預かっておくよ」

「仕方ないワン」

「それでは、忠凶くん。特殊スキル“フリーザ”について、概要を説明してください。ククル様は初めてですからね。分かりやすく話してください」

「はっ」


 恭しく頭を下げた忠凶。

 時代ががっているわね。

 ククルもまんざらでも無いの。

 ハァ〜、下手な時代劇を見ているみたいだわ。

 ハッ! 私が生娘? ? ?

 などと、馬鹿な事を考えたのは私だけね。

 私も十分、毒されているわ。

 その間に、忠凶の話は始まっていた。


「……楽満俊哉らくまんとしや様は、スキルに取り込まれた様です。そして、ハチ様にスキルごと飲み込まれたのです。“冷蔵庫”から“フリーザ”へと、ハチ様の中で進化を遂げます。

 属性は無属性で、どんなものでも飲み込み貯蔵する事が出来ます。呑み込んだモノはハチ様の意志で、操作でき。種を飲み込めば発芽させ、実を付ける事も出来ますし、種の状態で永久に保存しておく事も可能です。また、体内に取り込んだモノに、自身の魔力や貯蔵した魔力を付与する事が可能です。もちろん、自分以外の者に与える事により、その者又は物のHPまたはMPを回復する事が出来ます。

 意志ある者、スキル“闘気功・纏”を使用し1分以上息止めが出来るの者なら取り込め、その者に魔力・属性・スキルを与える事も可能です。ただし、意志ある者は長時間取り込んだままだと死を迎えます。ご注意を! さらに、取り込んだモノの時も操れます。人なら若返る事も、年をとる事も可能です。

 無尽蔵に取り込める、大規模倉庫。それが特殊スキル“フリーザ”なのです。

 何より素晴らしいのが属性の付与です。ボク達で実査済みです。ボクは白属性をいただきましたよ。なんの問題も無く今を生きております」

「……問題はあるみたいじゃのぉ」


 忠凶の話を静かに聞いていたククルが、徐に話し出したの。

 でも何が問題があるのかしら?

 その疑問は、みんなも同じだったみたい。

 代表して私が、疑問をぶつけたわ。


「ククル、どう意味なの?」

「分からぬか?」


 みんな一様に首を振ったわ。

 あら、1人? 1匹? だけ違うわね。

 目ざとく見つけたククルが、満足そうに頷いたわ。


「良い良い。忠凶は異変を感じておるのだな」

「ハッ。白属性の魔術を、毎日鍛錬を積んでおりますが一向に上達いたしません。術の熟練度を上げるだけでは無い様に思います」

「フム。その通りじゃ。と、言いたいところじゃが……馬鹿者! !

 まぁ、熟練度の問題では無い事に気が付いたのは良しとする。そもそも、初めから問題がある事になぜ気が付かんのじゃ。人であろうが、魔獣であろうが、関係ない。

 魔力単体では存在は出来ぬ。器が必要になるじゃ。妾、龍神はなぜ青を必要とした? トッシュでさえ、竜と言う存在を不可欠と感じたんじゃ? そして、なぜ器がいる。その答えに辿り着いて見せよ」

「「「「「「「「……」」」」」」」


 9人が一斉に沈黙したわ。

 でも、ルバー様だけ答えに行き着いたみたいね。

 そんな雰囲気を漂わせていたもの。


「ルバー様、ヒントをください」

「ナナくん。ヒントなんか無いですよ。ククル様が言った事、そのままが答えです」

「え? ?」


 さらなる混迷。

 私の頭の中はてなマークが乱立しているわ。

 そんな時、忠大か声を上げたの。


「なるほど! そうだったのですね。忠凶、私たちは初めから間違っていたんだ」

「「「「?」」」」

「ウムムム……。なぜ理解できないんだ! ククル様もルバー様も答えを言っていたんだ。

 器だ! 器だったんだ! 器には上限がある。魔力を受け入れる器が無ければ、属性を付与しても、使いこなす事など出来ない。私たちとハチ様、ロク様とでは、器の大きさが違たんだ。私たちはすでに雷龍神様の魔力も取り込んでいた。そこに、風属性の魔力など入る余地など無かったんだ。それでも、付与が出来たのは私たちが魔獣だからだ。

 アァァァァ! これほどの重要案件を見抜けぬとは……不覚でした。この様な不始末、どの様な処分でも! !」

「良い良い。そこまで、理解できたのなら十分じゃ。そもそも、龍神の魔力を取り込める者などそうそう居まい。そなた達は奇跡なんじゃ。ナナの下に集うたのが……奇跡なんじゃ。まるで、誰かが描いた絵図の上を歩いている様じゃ。気にくわぬのぉ〜」


 ククルは、空を見上げて言ったわ。

 最後の台詞は、誰に向けて言ったのかしら?


「だいたい把握したぞ。特殊スキル“フリーザ”を」

「いいえ、ククル様。“フリーザ”には、もう1つございます」

「ウム ? なんじゃ? 忠凶」

「ハチ様が飲み込んだモノを操作できます。と……言う事は……」


 忠凶が言い淀んだわ。

 アノ話をするのね。


「なるほど。キメラじゃな」

「え! ククル、知っていたの?」

「ナナ、それぐらいの考査は出来るぞ」

「でも、凄いのよ。魔力の融合から隔離。属性の混合から化合まで出来るんだから。新しい属性や魔術を開発することも、新しい魔獣を生み出す事も出来るのよ」

「……」


 私の言葉を聞いたククルは、ハチを見据えたわ。


「ハチ……」

「理解しているワン。キメラは倫理に反する行為。してはいけない事」

「ウム、その通りじゃ。ナナに叱られたか?」

「当たりワン」

「良い良い。怒られるのは見込みがある証拠じゃ。反芻せい。ただ、融合・隔離・混合まで出来るとわ」

「どう言う意味なの?」

「器じゃ。どうも、ハチとロクは神なる器だったのかもしれぬ。いくら取り込めても、そこまで使いこなせるにはそれだけの器がいるんじゃ。ギリギリ一杯のネズミ隊には、出来なかった事が証明しておる」

「なるほどね。納得だわ。今、改めて思うの……奇跡ね」


 ククルの言う通りだわ。

 でも……誰が描いた奇跡なのかしら、ね。

 その想いが、ククルに伝わってしまったみたい。


「アハハハ。言うでない。言うでないぞ、ナナ。その事は後回しじゃ。今はこの特殊スキル“フリーザ”が、隠し玉になるかどうかの考査じゃ。スキルの概要は理解した。使いこなせる度量もある。なんとか形にしなければ……なるまいよ」


 また、考え出したククル。

 今度は、ルバー様も忠凶もハチもロクも頭を捻っているわ。

 もちろん、私もよ。

 般若心経でも、唱えようかしら?


 まかはんにゃーはーらーみたしんぎょう

 かんじーざいぼーさーつー

 ぎょうじんはんにゃーはーらーみたじー

 しょうけんごーうんかいくう

 どーいっさいくーやく

 しゃーりーしー

 しきふーいーくう

 くうふーいーしき

 しきそくぜーくう

 くうそくぜーしき

 じゅーそうぎょうしき

 やくぷーにょーぜー

 しゃーりーしー

 ぜーしょーほうくうそう

 ふーしょうふーめつ

 ふーくーふーじょう

 ふーぞうふーげん

 ぜーこーくうちゅうむーしき


 ……。


特殊スキル“フリーザ”様の再来です。

覚えていましたか?

私は読み返しました……エヘヘ。


この時期は就職の嵐です。

私のバイト先でも決まって辞められる方がちらほらいます。

寂しいかぎりです。

でも、輝かしい未来を祈っています!

頑張れ!!


それではまた来週会いましょう。

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