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124話 あらあら、情動が齎す哀惜ですって

 

『ナナ! ナナ! ! 大丈夫……かい?』

「ロク……大、大丈夫よ。強い想いに目眩がしただけ。ごめんなさい。このまま、ククルの所に連れて行ってくれるかしら?」

『了解ワン』


 今もクラクラしているわ。

 私は、ルジーゼ地方の屋敷に戻って来ていたの。

 ロクがどうしても行きたいと言い出して、それにハチも賛同したのよ。

 珍しい事だわ。

 いつもは、いがみ合って反対意見ばかり言い合っている2人なのに、今回の帰省だけは一致したの。

 それにククルとトッシュが、山脈のアキレス腱を見たいと言い出したから着いて来ていたわ。

 山脈のアキレス腱は、欠点という意味よ。

 侵入してくるなら、ここしか無いでしょうね。

 その考えは、みんな同じだったみたい。

 まぁ、誰が見てもそう思うでしょう。

 視察をしていたククルとトッシュを置いてけぼりにして、ロクがどこかへと行ってしまったの。

 その後を追う様に、ハチも歩いていたの。

 まるで誰かに導かれるようにして、歩いて行ったハチ。

 ロクなんて、とっくの昔に行方不明だわ。

 ようやく見つけたロクの尻尾に、糸クズが付いていたから取ってあげたのよ。

 そうしたら……。


『オレの声を聞いてくれ! ! マリア! マンプク! マリア! ! マンプク! ! 』


 突然、私の頭に響いた言葉。

 あまりの想いに、意識を手放したほどよ。

 それでも、叫び続けいてたわ。


『マリア! マンプク! マリア! ! マンプク! ! 』


 と、ね。

 でも、なんで聞こえたのかしら?

 私の手には、白い糸クズが握られている。

 なぜか、手放すことが出来なかったの。

 気を失っていたのに、しっかりと握りいしめていた。

 まぁ、意識を手放したのはほんの一瞬だったけれど。

 あれ? コレってよくよく見ると、編み物の鎖編み?

 それにしては、本物の鎖みたいね。

 ただ、色が白いのと軽い所が違うわ。


「ねぇ、ロク。どうして、あんな所を歩いていたの?」

『わかんないニャ。ただ……あたしを呼ぶ声に引っ張られた……そんな感じがしたニャ』

『わかるワン。ボクもそんな感じがしていたワン』

「ハァ〜。とにかくククルとトッシュに相談しましょう」


 私はドッと疲れた気持ちで、ハチに連れられ戻ったわ。


「どうしたんだい。やけに疲れた顔をしておるぞ」

「ククル。コレを手にした途端、意識が遠のいたの。そして……オレの声を聞いてくれ! ……の叫び声を聞いたわ。私の頭がおかしくなたの?」

「今も聴こえておるか?」

「今? ……今は聴こえないわ」

「その様、か。……」


 何か考えている様相を見せていたククルが、さらに質問を続けたの。

 考えながらね。


「……して、ほかに何か言っておったか?」

「他には……マリア! マンプク! ……の繰り返しよ」

「……」


 あらあら、黙り込んでしまったわ。

 トッシュなんて、始めっからだんまり。

 口を真一文字に結んで、想いにふけっているみたい。

 沈黙が思考を加速させているみたいね。

 2人の脳みそが激しく動いているのが、わかる様だわ。

 そして、出た結論は……。


「ナナ、特殊スキル“獣の声”を完璧にするんだ」

「ナナ、特殊スキル“獣の声”を完全な……此奴と同じ事を言ってしまったわ!」

「ハァ? !」

「フン!」


 本当は仲が良いのに、ね。

 そんな事はどうでも良いわ。


「コレと何の関係があるの?」

「簡単な事……」

「簡単な事……」


 今度は睨み合っているわ。


「ハァ、話が進まないわ。ククルが説明してちょうだい。トッシュだと、主観で話しそうだもの。私が理解できなければ意味ないわ。私の事なのに……」

「フン、正解じゃ」

「ハァ? !」

「ククル! 一々煽らないで! 今、話が進まないと言ったばかりよ」

「ムゥ〜」


 頬を膨らませたククル。

 それを見て、笑っているトッシュ。

 どうしようもない、子供ね。

 気を取り直してククルが! 話してくれたわ。


「おそらくじゃが、その紐には想いの声が詰まっておるんじゃ。その声を聞けるのは、そなたしか居らぬ。じゃが……訓練をサボっておったじゃろう?」

「ウッ! 」


 図星を刺されて、泳いでしまった私の両目。


「ハァ〜、ナナ。しっかりしろよ。お前がちゃんとしないでどうするんだよ。ネズミ隊までヤレとは言わねぇ〜が、せめてロクぐらいはしろよ」

『トッシュ、どう言う意味ニャ!』

「怒ったて、知ってんだぜ。お前も十分、サボり魔だって事を……なぁ!」

「ゴロゴロニャ〜」

「チィ。逃げやがったぜ」


 そうなの分が悪いと、ゴロゴロニャ〜と喉を鳴らしてお父様の膝の上で寝てしまったの。

 完全に猫化してしまったロクは放置して。

 今、私たちはお父様の執務室に居るわ。

 お父様も定期の交代で、戻って来ていたの。

 スアノースには、お爺様が居ますわ。

 私が居ると思って喜び勇んで行ったのに……。

 私はルジーゼ……お爺様の雄叫びが聞こえて来るかと思ったもの。

 悪い事をしてしまったわね。

 そんな事はさて置き。


「分かりましたよ。たしかに訓練を休んでいた事を認めますわ。でも、瞑想しろ! だけなんですもの。どんな風に? とか、何を思って? とか、もう少し具体的な事を言っても良いと思いませんか? せめて、何分とか時間の指示してくれると、助かるんですけれど」

「ハァ〜、違げぇ〜よ。瞑想は心を落ち着かせて、、集中しろ! って事を言いたかったんだ。時間とか、関係無いんだよ。

 ナナは、余計な事を考えすぎるんだ。そのせいで、聞く耳が分散されちまう。お前なら、声なき声も聞こえるはずなんだ。耳を澄ましてみろよ。聞こえるぜ。オレたちには聞こえない声が……。辛いかも、なぁ。良い声じゃ無いかも知れないが、声なき声を聞いてやれよ。お前にしか出来ない事なんだ」

「……」


 言葉が出てこなかったわ。

 まさか、こんなに重要な事だったなんて想像にもしていなかった。

 私の特殊スキルは“獣の声”と言うのだけれど。

 私的には、動物と話ができる、声が聞こえる、それだけのスキルだと思っていたの。

 ところが、トッシュと竜や北岡真理亜と氷炎の魔人シャルルの、声なき声が聞こえた事で自分のスキルの使い道に気が付いたの。

 あれ? マリア? ひょっとして!

 私の目が、トッシュとククルに向けられたわ。

 思いは同じだったみたい。

 大きく頷いたの。


「やっと気が付いた様じゃ。マリアとマンプク。そして、ロクとハチの行動。それらを鑑みると、その紐はコイツらの仲間のモノで間違いないじゃろう。これから声を聞くことが出来るのはそなただけじゃ。すまぬが、瞑想し集中してからこの紐に託された想いの声を聞くんじゃ」

「わかったわ。ハチ、私をソファーに下ろしてくれる。あと、その、えっと……」


 コンコン。

 コンコン。


 ノックの音が響いたわ。


「貴方、そろそろお昼にしない? アーちゃんがお腹が減ったと泣くのよ。みんなで一緒に、食べましょう」


 そう言いながら、我感ぜずで用意をする母。

 本当に強いひとね。

 誰も敵わないじゃない。

 ある意味、最強は母親なのかも知れないわ。


「あ、あぁ。そうだな。ご飯にしょう。すまないが……」


 お父様が言い淀んだわ。

 それもそのはず、用意を頼んだのにすでに終わっていたんですもの。

 準備万端で、待ち構えていたみたいね。

 私の目の前には、夏に定番の料理。

 ……冷やし中華始めました……が並んで居るわ。

 ど定番のハムに、きゅうりに錦糸卵。

 酸味の効いたスープが、たまらなく美味しいのよね。

 私的には、たまご麺も最高に良いわ。

 レタスとトマトのサラダも、食べ合わせとしては最強のカップルよ。

 あぁ〜、美味しかったわ。

 そして、始まる瞑想の時間。


「ナナ。無心になり、何も考えるで無いぞ。それで、良しと言うまで自分を忘れて瞑想するんじゃ。良いな。何も考えるで無いぞ。もう一度言うぞ。何も考えるで無いぞ」

「ククル、分かっています。やってみます」


 私はソファーに深く座り、目を瞑ったわ。


「……。……。……、……。ダァーーー! 無理! どうしても頭から離れないわ。いろんなことが! 人って108の煩悩があるのよ。そう簡単に捨てられないのよぉ〜〜〜〜」


 どうしても、どうしても、どうしても! !

 晩御飯だったり、カムイの事だったり、あの山向こうの魔族だったり、いろんな事を考えてしまうわ。

 出来ない自分が腹立たしく思い、叫んでしまったわ。

 本当にダメな、私ね。


「ハァ〜。もう一度、頑張ってみるわ」


 言いたいだけ言ったから、再度トライしてみることにしたわ。

 今度こそ! そんな意気込みを挫いたの子がいたの。


『姫様、無心になるために真言を唱えてみてはいかがでしょう』

「忠大、それは無理よ。アレはスキル“闘気功”を使う時のモノでしょう。それに、無心になって発動するモノでしょう。声を聞かなければならないのよ。私の声が邪魔をして、聞きたい声が聞こえないなら意味が無いじゃないの」

『たしかにその通りでございます。ですが、無心になるための準備として用い居るのなら、いいのでは無いのでしょうか。一度、心を空にする事が大切なのではないでしょうか』

「一度、心を空に……ね。……そうかもね。とりあえず、試しにやってみるわ。今はなんでもトライする時間よ、ね!」

『ハッ、その通りかと』


 忠大の進言により、実査してみることにしたの。

 私だって、使うのが1番難しいと言われている“闘気功”を使う事が出来るわ。

 でも、一心不乱に集中しなければ使えないんだけれど。

 その方法は……。


「まかはんにゃーはーらーみたしんぎょう

 かんじーざいぼーさーつー

 ぎょうじんはんにゃーはーらーみたじー

 しょうけんごーうんかいくう

 どーいっさいくーやく

 しゃーりーしー

 しきふーいーくう

 くうふーいーしき

 しきそくぜーくう

 くうそくぜーしき

 じゅーそうぎょうしき

 やくぷーにょーぜー

 しゃーりーしー

 ぜーしょーほうくうそう

 ふーしょうふーめつ

 ふーくーふーじょう

 ふーぞうふーげん

 ぜーこーくうちゅうむーしき…………」


 突然、言い出したものだからククルとトッシュが目を見開いて驚いているわ。

 そんなの、無視無視。

 今は集中よ!

 まぁ〜、お父様が説明していたのを心のメモに記しておくわ。


「まかはんにゃーはーらーみたしんぎょう

 かんじーざいぼーさーつー

 ぎょうじんはんにゃーはーらーみたじー

 しょうけんごーうんかいくう

 どーいっさいくーやく

 しゃーりーしー

 しきふーいーくう

 くうふーいーしき

 しきそくぜーくう

 くうそくぜーしき

 じゅーそうぎょうしき

 やくぷーにょーぜー

 しゃーりーしー

 ぜーしょーほうくうそう

 ふーしょうふーめつ

 ふーくーふーじょう

 ふーぞうふーげん

 ぜーこーくうちゅうむーしき……」


 般若心経を唱える事2回。

 最後の一文を口にした時、私の中で何かのスイッチが入ったの。

 カチャと、ね。

 目を開ける事なく、テーブルにある白い鎖編みに触れたわ。

 可笑しなものね。

 何となく分かるの。

 どこに何があって、みんなの表情がどんなモノなのかが、見ているように理解できたわ。

 もう一度、言うわね。

 私は目を閉じているのよ。

 それでも、分かったの。

 本当に不思議な感覚だったわ。

 そして……聞くことが出来いたの。


 悲しい想いを。


『誰でもいい。オレの話を聞いてくれ! ……我ながら無理な事を思ったぜ。

 もう一度……。違う! 北岡真理亜と楽満俊哉に伝えて欲しい。オレは何を言ってんだろうなぁ。

 この想いが届くなら! バカだ。本当に馬鹿野郎だ。自分で追い込んで置いて、今更マリアとマンプクに何を言うつもりだったんだ。ごめん、かぁ! 刀根の野郎に取り込まれない様に逃したんだ、かぁ! そんなの嘘っぱちだろう! !

 あの野郎は、次元を超える術を手に入れた。オレの能力“裁縫師”を取り込み、ヒデの能力“硬化軟化”も手に入れている。どうすることも出来ねぇ。すまない……フッ、フッ、フフフフフフ……アハハハハ! ! 本当に、本当に、本当に! 馬鹿だ! ! 想いだけでは、誰にも伝わらない。誰かに言いたい。

 刀根の能力は黒だ。本当は違う。能力は“死の宣告”だ。でも、黒い勾玉を飲み込んでから変質しやがった。“死の宣告”はそのままに、新しい力に目覚めたんだ。オレはそれを能力“黒”と命名したい。って、オレは馬鹿だな。誰が聞いてくれんだよ。せめて、メモにでも書いとけばよかったぜ。そうか! 文字を刺繍にすれば良いんだ! ! だったら、コレは絶対書かないといけないぞ。

 刀根の新しい能力“黒”は、その名の通り黒を統べる王みたいな力なんだ。黒色を通じて行き来が出来るし、見ることも聞くことも話す事も出来る。さらに、同化も出来る。黒いところは刀根の力が及ぶ所だと考えて良い。そもそも、持っている“死の宣告”もやばい。マリアなら分かるよな。それが“黒”と合わさるんだ。核爆弾より癖が悪いぜ。せめて、マンプクの“冷蔵庫”があれば対抗できたかもしれねぇ。それが、怖いからマリアとマンプクを最初に切り離した様に思う。それくらい悪知恵が働く奴なんだ。くれぐれも気をつけてくれよ。……違うな。最後は、こう書こう。……またな! だな。

 マリア、マンプク……無事でいてくれ……」


 私は、聞こえた声をそのまま口にしたわ。

 ハチとロクが反応したのは、マンプクとマリアをそれぞれが取り込んでいたから。

 ロクの中に眠るマリアが、ハチの中で寝ているマンプクが、仲間の危機に駆けつけたのね。

 それくらい、想いが強かったと言う事ね。

 友達だったのよ。

 どんなに変わってしまっても、親友には違いないわ。

 涙が止まらない。

 ハチもロクも、一筋の光の道を作っていたもの。

 ククルとトッシュは違う意味で、沈黙している様だわ。

 刀根の新しい能力に、想いがあるみたいね。

 ハァ〜、やり終えたわ。

 大切な想いを伝える事が出来た。

 地田幹夫ちだみきおの最後の想いを、そして後悔と哀しみを伝える事が出来たの。

 彼は、悔やんでいたわ。

 全身全霊で謝っていた。

 すでに死んでいる事を考えずに、仲間の事を思い信じていたの。

 生きている、とね。

 助けてあげたかったわ。

 もっと貴方の話を聞きたかった。

 それにしても、刀根は不気味な存在ね。

 それに、毒にしかならない人だわ。

 稀にいるのよ、そんな人が。

 悪意の塊よね。

 本人はそれほど悪いとは思っていない所に、タチの悪さが伺えるわ。

 ハァ〜、どうしましょう。

 私は、コレから先のことに想いを馳せていたの。

 でも、ククルとトッシュは違ったみたい。


「ククル、変だ。本当にアークの野郎なのか?」

「……」

「たしかに、アークは黒龍神だ。地獄を管理する者。白龍神のお前が、天国を管理する者。ククルが命と魔力を司り、アークが時を司る。時を操るのはアークの専売特許だ……が、次元は俺たちの管轄外だ。それに、あいつに悪意は似合わない。善意の塊がアークだろ。違うか、ククル」

「……」

「何とか言えよ! 」

「妾には……分からぬ! 妾の知るアークは、優しく仲間思いじゃった。……とても……信じられぬ。アークでは無い! ! 」


 最後の言葉は叫び声だったわ。

 ククルにしても、トッシュにしても、自分たちが知っているアークでは無くなっている事に、ショックを受けている様ね。

 でも、人は変わるわ。

 あ !龍神だったわね。

 ウフフ、龍神でも恋をすれば失敗もする。

 人と何ら変わり無い。

 だったら、変わるのでは無いかしら。

 気になることは、刀根の存在よね。

 私は、アークより刀根の方に問題があるように思うの。


 北岡真理亜きたおかまりあさん。

 楽満俊哉らくまんとしやさん。

 地田幹夫ちだみきおさん。

 岩城秀幸いわきひでゆきさん。


 輝かしい未来が待っていた人達。

 幸せになる権利を持った人達。

 愛し愛されるべきだった人達。

 異世界に巻き込まれた人達。


 貴方たちのことは決して忘れないわ。

 想いだけしか連れて行けないけれど。

 最後の最後まで、貴方たちの情動をお供に、刀根の野暮を砕いてみせる!

 誰に言う訳では無いけれど、そう硬く決意したの。

ミッチーの最後の声を届けました。

最後にミッチーよ、君に言いたい事がある。


文字を刺繍する方が難しいぞ。


と、ね。



それではまた来週会いましょう。

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