122話 あらあら、変災ですって
少しだけ女性に対する侮蔑的な文がございます。
日々、日常とは……狂気と狂乱と進歩の三つ巴からなるモノなのね。
つくづくそう思うわ。
毎晩、開かれる考査と言う宴の参加者は、ククル、ルバー様、忠凶の3人。
「馬鹿者! 何度、言ったら理解するのじゃ! 馬鹿者! ! 理屈で理解するでないわ。馬鹿者! 感じるんじゃ。魔力を感じるんじゃ。馬鹿者! ……まったくダメじゃのぉ〜。頭でっかちになりおって。とくに、小童! ダメダメじゃ。なぜ、分からぬのじゃ。馬鹿者! !」
馬鹿者を連呼された相手はもちろん、ルバー様。
当の本人は、嬉しそうにしているのだからタチ悪いわ。
そうそう、忠凶も、ね。
「忠凶の方が、まだ良いぞ。魔獣なだけに、魔力を感じる事が出来ておる。ただ……使い慣れてはおらん様じゃ。使って使って使い倒すんじゃ。ホレ、そこに良い実験体がおるじゃろう。其奴に向かって放ってやれ。魔術1つ1つをしっかり感じ、感覚で放つんじゃ。首輪をつける前は、そうして魔力を使っていたはずじゃ。文明の利器に惑わされおって。魔獣としての、魔力使いを忘れるとは……情けないぞ。もう一度、立ち返り、感じてみろ。そなたなら出来る! 妾が保証するぞ」
『はい』
ほら、嬉しそうでしょう。
そして出来上がったのがこの魔術。
魔術“黒霧”。
忠凶は、魔術“ザイル”を元に考査したのよ。
黒い霧と書いてこくむと読むのね。
白と黒は、表裏一体の属性。
もちろん白属性でも発動するわ。
“白霧”と言うのよ。
この魔術は、“ザイル”の縄をこまかく細く、細く、細く、細く……ひたすら細くした縄を何百も張り。
蜘蛛の糸の様に使う魔術なの。
“ザイル”は捕縛系の技で“黒霧”は罠系の技なのよ。
よく考えたものよね。
そして、ルバー様の登録スキル“全能”もある意味、進化したの。
ククルに言わせると。
「コレが正しくあるべき姿なんじゃ。馬鹿者!」
ですって。
スポ根アニメの様なやり取りの後、ルバー様は。
「フ〜〜〜。無……無……無……。魔術“黒霧”……魔術“白霧”……魔術“ショーテル”シリーズ」
「「「? ?」」」
『『『『『『『? ?』』』』』』』
と、ルジーゼの宿舎で考査と実査をしていたお父様の魔力を感じ、魔術を読み解いたの。
それが、魔術“ショーテル”シリーズ。
円形の刃物の様な姿で、火属性でも水属性でもどの属性でも使うことが可能なんですってよ。
目の前で、見た訳でも無いのに術を100%考査してみせたルバー様。
その姿を見たククルが満足そう言ったの。
「ようやく、理解できたか。これこそが“全知全能”なんじゃ。どんな、所に居ようが関係ない。魔力を感じ、魔術を読み解き、発動する。本来の姿じゃ」
「良く良く、理解できました。ククル様、ありがとうございました。僕、の中途半端な“全能”のために骨を折っていただき誠にすいませんでした。これからは、粉骨精神、働かせていただきますよ。僕に任せてください」
「ウム」
そして、ルバー様のスキル“全能”が特殊スキル“全知全能”へと変わっていたの。
名実ともに、ククルの後継者と成れた訳ね。
コレが今の私たちの日常。
もう、笑うしかないでしょう。
そう、笑うしか無い日常にの裏で、本当に笑えない事が起こっていたの。
本当に、笑えない事が、ね。
「クッソタレ! なんで、こんな事になったんだ! オレはただ、ヒデと一緒に遊んでいただけだろう。それが、なんでこんな事になってんだよ。オレが、何したんだ。オレが……」
オレは地田幹夫。
幼馴染の岩城秀幸とは、子供の頃からいつも一緒で「ミッチーが居るから俺が無茶が言える」が口癖。
ヒデは何言ってんだか。
照れるぜ。
マジで、オレがリスペクトしている親友なんだ。
親友……なんだ……親友。
全ての狂いは、あの女からだとオレは思う。
もちろん、今にして思えば! だぜ。
大学デビューを果たし俺たち。
同じ学部で、知り合った楽満俊哉ことマンプクとは、マジでシンパシーを感じて連絡を交換したんだ。
意外や意外、踊れるデブだった。
マジで、半端ないダンスだったんだぜ。
ヒデと2人、大興奮。
面白い男だったんだ。
そして、同じ学部で最後に知り合ったのは、北岡真理亜。
ヒデの一目惚れ。
こいつの唯一の弱点なんだ。
その、女運の悪さはどうにもならねぇ。
ヒデは、非の打ち所ない爽やかイケメン。
高身長で高学歴。
家柄だって、悪くねぇ。
親父さんは、公務員だよと、本人は言っているけど実際は、警視庁の偉い人らしい。
役職までは知らないけれど、随分、上の人らしいぜ。
おばさんは、専業主婦なんだけれど、元は東大卒の銀行員だった人。
厳しいザマスおばさんかと思われがちだけれど、全く違う。
お茶目で可愛く、お菓子作りが好きな女性。
オレの初恋。
アハハハ、照れるぜ。
ヒデには、3歳離れた弟が居るんだ。
こいつもパーフェクトで、ヒデと同じぐらいイケメン逸材なんだぜ。
近いうちにモデルデビューするとかしないとか。
オレはヒデの方が良いけどなぁ。
まぁ、兄弟どっちも本当に良いヤツなんだ。
本人同士も仲は良い。
お互いがリスペクトしている間柄なんだ。
それに引き換え、オレん家は普通の家庭。
それでも、公務員の父親にパートタイムで働く母親。
3歳離れた妹の、4人家族だ。
オレや妹の為に身を粉にして働く後ろ姿を見ていると、遊んでばかりもいられねぇ〜、と思う。
が! そこは、キャンパスライフは楽しみたい!
ヒデも同じ気持ちだったようで、マリアに告白したんだ。
晴れて、恋人同士となった2人。
仲睦まじく、将来は結婚までするんじゃ〜ねぇ〜の?
そう思うくらい仲の良さだったぜ。
そして、夏。
オレたちはヒデの発案で、グランピングへと出かけたんだ。
知り合いの、と言う誘い文句にマリアを連れ出した。
本当は、オレとヒデの弟からのプレゼントだったんだ。
この頃は、マジで楽しかったぜ。
それに、マリアとも彼氏の親友として接して致し、されていた。
良い女だったし、頭も良かった。
でも……この女がいなければ、グランピングにも行かなかたしヒデが狂うことも無かった。
それと、あの事故さえなければ……そう思う。
グランピングからの、帰り道。
峠を越えての、くだり坂。
オレたちもスピードが出ていたと思うが、上がってくる車もガーブを曲がり損ねていたんだ。
そして、正面衝突。
オレたちの車と対向車の車が乗った護送車とが、一緒に崖へと落ちたんだ。
この男、刀根昌利こそ最悪の元凶。
オレたちのにしてみたら、天災だと思う。
大雨とか地震とかと、一緒だよ。
逃れることのできない出来事。
まさにそんな感じだった。
そんな感じだけれど………なんでオレたちなんだよ! え! 神様よ! !
初めは、助かった喜びと異世界の雰囲気で舞い上がっていた。
オレ、ラノベとかファンタジー系のゲームとか好きで読んでたし、遊んでいた。
嫌いじゃない、むしろ大好きだ。
その異世界に、オレが居ると思っただけで興奮した。
けど、現実は甘くない。
腹は減るし、獣は怖い。
どこに行くかも分からねぇ。
ラノベだったら、神様が出てきて「間違えで死んでしまったので、異世界へどうぞ〜」的なチュートリアルがあるんだと思う。
……何にもなし。
無双状態で魔王とか倒す? とかなんとかあるはずなんだ。
……何にもなし。
ただ、魔力はあり魔法を使える。
でも、すぐにからっけつにな。
威力だって、たかが知れていた。
でっかい狼の獣、ウルフ1匹でオレの魔力は枯渇した。
夢の異世界で、夢の魔法……だったはずなのにリアルではこんもんだ。
ウルフの群れに追い詰められ、入った洞窟で全てが終わった。
ひょっとしたら、刀根の野郎が導いたのかも。
あんな所にある洞窟なんて、誰が分かるんだよ。
誰も行き着かないって。
なのに、あの男は知っていたのかと思うくらいに、真っ直ぐに走って行ったんだ。
オレたちは、助かりたい気持ちと休みたい思いで跡をついて行った。
それが問題だった。
いつものヒデなら、リーダーシップを発揮しても良いはずなのに……黙ってついて行ったんだ。
あの時から、おかしかったのかも知れない。
そして、奥へ奥へと進んだ。
その先に、黒い部屋があり全てが一変した。
刀根が黒い祠の黒い勾玉を飲み込んだ時、漆黒が世界を覆い尽くした。
世界と言う表現は正しくねぇかも?
オレたちを覆い尽くしたんだ。
うん! この言葉だな。
みんなを黒く染めて、オレの中で何かが生まれた?
これも違う。
生まれたんじゃねぇ! 植え付けられた。
オレの中で、悪の種子が根付き、芽吹き、花を咲かせたんだ。
真っ黒の蝶々が飛んでいるかのような可愛らしい花……ロベリア。
小さいオレにピッタリサイズの花。
ロベリアの花言葉は……悪意。
オレの中で開花した瞬間だった。
止まらない力への欲求。
親友のヒデさえも、憎らしく思えてしまう憎悪。
魔力の為なら、平気で騙し喰らい続けてしまう日常。
何が正しくて、間違っているかも、曖昧で分からなくなりつつあったんだ。
そんなとき、魔力を欲したヒデがドラゴンに目を付けた。
その群れは、竜族と言いて龍王が率いているらしい。
龍王……この言葉にゾクゾクしたんだ。
コイツを喰らえば、最強の魔力を得ることが出来る。
その思いは、オレだけじゃなくヒデもマンプクも同じ気持ちだったと思う。
ところが、マリアだけ違った。
あの女が、こともあろうに龍王に恋しやがったんだ。
これだから、女はダメだ。
大切な時に、限ってミスをする。
マリアも恋の魔力にやられて、肝心の龍王を逃しやがった。
必ず仕留めるからと、跡を追ったんだ。
もちろんそんな言葉は、信用しねぇ。
刀根が、魔術で死の刻印を押してから行かせたんだ。
本当に仕留めてオレたちの元に戻って来ても来なくても……死ぬ。
刀根は、初めらから誰も信用していなかったんだ。
マリア本人には、連れて来たら助けてやると言っておきながら、いなくなった途端……「死こそが生きることなんです。死こそが人類の未来を切り開くキーワードなんです。死こそが命を繋ぐ行為なんです」……とつぶやいたんだ。
聞いていたのは、オレだけ。
側に居たからじゃねぇ。
オレしか耳に入らなかったんだ。
ヒデは、恋人を失った。
そして、なぜかマンプクまで、心ここに在らずだった。
こいつ、まさか! マリアの事を好きだったのかよ! ! と、思ったオレはヒデを見たんだ。
コイツの目が……死んでいた。
何の感情も見出す事が出来なかった。
子供の頃から一緒で、学校でも部活でも、いつでもどこでも、いつも側に居たんだ。
顔色や雰囲気、言葉の端々で、考えている事が分かる。
でも、マリアが離れてから……。
いや違う!
漆黒がオレを支配したように、ヒデの心も取り込まれたんだ。
真っ黒のロベリアが咲いた様に、ヒデの心にも咲いただろう。
この時オレは、ヒデの事しか見ていたなかった。
いつの間にか、マンプクの姿が消えていた事に気が付かなかったんだ。
そして、悲劇の幕が上がった。
「馬鹿野郎! 目を覚ませ!」
バチン!
「ヒデ! コイツおかしいよ。狂ってるって。楽しそうに、目玉喰っていたんだぜ。おかしいよ」
「……」
「なんとか言えよ!」
「……」
オレはもう一発、殴ろうかと拳を振り上げたとき、影がヒデを飲み込んだ。
振り返ると……ヤツが居た。
「あまり、痛め付けないで下さい。丹精込めて、心を壊したんですから。彼は、健全な心の持ち主でした。壊すのに随分、時間をかけましたよ。彼女が居なくなって、やっと壊れてくれました。残るは貴方ですね。……地田幹夫さん」
ヒデを飲み込んだ影が、オレに向かって来た。
オレは魔術を発動した。
オレの魔術……裁縫師。
「チィ。見せてやるよ! ! 」
オレは必殺技を繰り出した。
と、言っても逃げる為の術だ。
オレの力は、裁縫師。
オレ自身が名付けた。
子供の時から、妹の体操着入れの袋はオレの自信作だった。
なぜか、和裁に洋裁、刺繍にパッチワークが好きだったんだ。
針と糸で何でも作れんたぜ。
楽しくて、楽しくて、洋服からベットカバーまで、何でも作った。
そんなオレだから、宿った力だと思う。
魔力を糸状にして、何でも縫い付ける事が出来る。
蜘蛛の糸状態にして、どんなヤツでも操ることも出来る。
マリオネットだな。
そんな力だ。
そして、新たに編み出したのが……次元縫い。
ウフフ、中ニ病的なネーミングだが、意味はそのままなんだ。
オレは、左袖口に着けていた縫い針を取り出し、オレの身長分の長方形を描いた。
口に針を咥え、始まりと終わりを掴み引っ張った。
これから縫い物をする時に生地を張る行為をしたんだ。
パンパンと、ね。
すると不思議な事が起こる。
次元が生地の様にめくれるんだ。
本物の生地、見たいで驚いたぜ。
オレは、その裂けた次元の中に逃げ込んだ。
そして縫い止めた。
次元の布は、元も景色に戻る。
凄いだろう。
始めはオレ自身もびっくりしたんだ。
これでも完璧じゃない。
出る時の同じようにすれば良いが、問題はどこに出るか! なんだ。
次元の内側は、真っ暗で景色も匂いも無い。
ただあるのは、暗闇だけ。
それと、辛うじて死なない程度に空気が有るだけなんだ。
そこで、オレはこの辺の地理を頭に叩き込み暗闇と照らし合わせる事にした。
目星は付けている。
あとは走って逃げるだけだ! !
この事を伝えないと!
誰でもいい!
オレの声を聞いてくれ! ! !
ミッチーが登場でした。
裁縫師なかなかイイですね。
私もこんなお兄ちゃんが欲しかった。
妹のために体操着入れの袋を作ってくれるんですよ!
イイお兄ちゃん!
さて、8月17日と24日はお休みいたします。
この世で1番かわいい甥っ子が泊まりに来るのです!
ゲーム三昧です!
Switch三昧です!
宿題もさせます!!
そのため、お休みを下さい。
次回更新は8月31日です。
どうか、私を忘れないで下さい。
それではまた来週ではなく31日に会いましょう。




