115話 あらあら、白龍神の暴走ですって
「妾は、白龍神ククルじゃ。良しなに頼む」
「?!」
まぁ! 波が白いわ! 100万ドルの宝石箱やぁ〜〜。
ハァ〜、ため息しか出ないわ。
現実逃避しても仕方ないのにね。せずにはいられない光景だったのよ。
洞窟から出てきたわ。
そこには、青が入った時と同じ景色だったの。
もちろん、悲鳴を聞いて私が突撃する前の、ね。
私的には、青の姿のまま事が過ぎれば良いと思ったの。
その事とは……。
ほんの少しだけ、時を遡るわ。
「ねぇ。ククル。青の姿で暫く過ごしてくれないかしら?」
「何故じゃ」
「その姿で表に出ると、大騒ぎになるでしょう。まずは、ルバー様に話しを通すから待ってよ」
「ふむ〜。あの理をする者じゃな」
「理?」
「正式名称は“自然の理”じゃ。自然界の法則と言う意味じゃな」
「偉そうに話すな。そもそもお前が“理”をしてれば、こんな事になっていなかったんじゃ〜ねぇのかよ」
「五月蝿いのぉ。小さい男よ。謝ったであろう。ナナも言っていたではないか。……ダァーーー! 2人とも謝ってばっかりだわ。その気持ちは大切よ。心からの“ごめんなさい”は、謝罪の一歩ですものね。それでも、謝ってばかりだと先へは進まないのよ……と、なぁ」
“ククルちゃん、そっくりね”
「ウフッ、フフフ〜。そうであろう。妾も頑張ったのじゃ。やればできる子、なんじゃもん」
コレが失敗の原因だわ。
少しだけ可愛かったのよ。
おかっぱ頭の座敷わらしが、照れながら言うんだもん。
クラクラしちゃったっわ。
元が良いだけに、少しくらいの口の悪さが、チャームポイントになるのね。
「黙れ! ククル。俺は、お前が自分の仕事をしていれば! っと言っただけだ。そもそもだなぁ〜」
「ストップ! トッシュ、止まって。“理”って何?」
「あ! ?」
あらあら、話を止められて不機嫌です事。
他の方なら、縮み上がってまともに立っていられないでしょうね。
でも、私なら平気よ。
だって、怖くないもの。
「理解できないキーワードが出てくれば、聞くのは当然でしょう。教えてよ」
「そ、それは……」
「ナナ、此奴に言っても無理じゃぞ。“自然の理”とは、ナナたちの言い方に変えると“全能”じゃな。本来なら妾が荷う役職じゃったんじが……。まぁ〜、繰り言を言っても仕方のない事。妾は前へと進むことにしたんじゃ」
「偉そうに言うな!」
「やはり、五月蝿いのぉ〜」
「アハハハ」
堂々巡りの会話に、笑うしかなかったわ。
でも、仲は良好みたい。
私は、話を初めに戻したわ。
「ククル。貴女の白龍神の姿で表に出れば、大騒ぎになるでしょう。だから、青の姿と心で落ち着いた空間に移動して、ルバー様とお父様に話を通したいの。分かってくれたかしら?」
「……、……、……あい分かった」
「良かったわ。それでは、青に変わってくれる?」
「仕方ないのぉ〜」
この“仕方がないのぉ〜”と笑顔に隠された意味を私が理解していなかったのよ。
ククルは青へと姿を変えたわ。
もちろん中身も青よ。
「青、大丈夫?」
「ウフフ、大丈夫よ」
う〜ん。
青の笑顔も……まぁ! このままここに居ても仕方がないから、外に出ましょう。
そんな風に、結論を出したの。
ここは祠の洞窟。
白属性の龍神が眠る沿岸の洞窟。
コツコツコツ。
私たちは、歩いて洞窟の外に出たの。
そこで、不思議な光景を見たわ。
私は確かに、青の悲鳴を聞いて飛び出したの。
「キャーーーー! !」
と、ね。
その声を聞いハチが、私が言うより早く行動を起こしてくれたわ。
速かったわよ。
行動の早さも、洞窟を走る速度も。
その時、私の隣にはルバー様も居たし、マノアにロキアとマキア姉妹も一緒に驚いていたわ。
エディとホゼは、洞窟近くのテントでユント先生に怒られていたけれどね。
そう、私が洞窟に入る直前の景色だったの。
「え? 時間が進んでない?」
“妾は白属性ぞ。このゆりかごの時を操るなんぞ、寝ていても出来るわ。妾は白龍神。容易いわ”
「そ、そうなの。え! !」
「ナナくん? なぜ君がそこにいるのですか? 事と次第によっては……」
「な、な、なに言ってんですか。ルバー様が、行って良いと言ったんですよ」
「僕が? !」
「はい。取ってくる木札が無くなっているかもしれないから見てきてくれ、と」
「僕が?」
「はい」
「僕……が? ?」
「はい」
「だったら、仕方がない? ですね。青森くん。木札を見せてください」
「木札と言うのはコレで良いのじゃな。妾は、白龍神ククルじゃ。良しなに頼む」
「! !……白龍神?」
ハァ〜。
ルバー様を怪しまれながらも、誤魔化せたのに!
洞窟を出るまでは、青だったのよ!
ルバー様に、祠へお供えしていた木札を渡す段階になった途端、ククルへと姿を変えたの。
心までも、よ。
もちろん、パニック! 大パニック!
「ナ、ナ、ナ、ナナくん! !」
「青は?」
「青ちゃんは?」
「「「どこよ! ! !」」」
三者三様に右往左往しているわ。
どうしたものかしら?
途方に暮れている私の横を、通り過ぎる人影を見たわ。
パンパン! パンパン!
「落ち着け! お前たちに危害を加える者では無い! 落ち着け!」
遠くの城にまで届くかと思うぐらい、大きな柏手と声だったわ。
それにしても、見事な重低音ね。
響き方がハンパなかったわ。
でも、その音量のおかげで正気に戻ったルバー様がこの場を納めたの。
「ククルは俺と来い。ナナの部屋で待ってるぞ」
「ちょっと待ってよ。なんで私の部屋なの?」
「ギルドの、僕の、僕の、僕の執務室など如何ですか?」
「ルバーのかぁ。まぁ〜、そこでいいや。先に行ってるぞ。ククル、俺について来い」
「……フン」
仕方がないのぉ〜と、言いたそうな表情だったわね。
トッシュの後に続いて飛んで行ったわ。
飛べるのね。
小さくなって行く姿を見ながら、そんな事を思っていたの。
もう、現実逃避したかったわ。
だって、いなくなった途端また騒ぎ出したんですもの。
私の声なんて、誰も聞いてくれないわ。
そうだ!
私もこっそり、帰りましょう。
「ハチ。そぉ〜と、そぉ〜と、この場を離れてちょうだい」
『分かったワン』
見事な抜き足差し足忍び足で、この場を後にしたわ。
もうすぐ、もうすぐ、抜けるわ! と思っていたのに。
「そう簡単には行きませんよ。ナナくん。説明して下さい」
「ルバー様。今ここでの説明は、難しいですわ。私でさえ、分からない事があるんです。無理です。ここで長々と聞くより、ギルドの執務室へと急ぐ方がいいのでは無いのですか?」
「……確かにそうですね。でしたら、僕も乗せてください。ハチくんに乗って行く方が速いですよね」
「……確かにそうですね。ハチ、乗せてあげて」
『……確かにそうですねワン。……僕も言いたかっただけワン』
私はハチを見つめてしまったわ。
突然、言いだすんですもの。
クスクスと笑ってしまったわ。
『分かったワン。しっかり掴まっていて欲しいワン』
そう言うと、一回りほど大きくなったわ。
「乗ってください。ハチ、落としちゃっていいからね」
『まかしてワン』
「怖いことは言わないでください。運動は苦手なんですから。落とされたら、そのまま天国へと召されそうです」
「アハハハ! 注意しますわ」
と、言いつつあっという間に着くほど速かった事を記載しておくわ。
ウフフ、ルバー様がヘロヘロになっていたの。
思わず大爆笑してしまったわ。
ものすごく睨まれましたけれどね。
気にしない、気にしない。
「トッシュ、ククル、おまたせ」
「たいして待ってないぞ」
「ナ、ナ、ナナくん。少し水を飲んで来るから待っていて下さい。すぐ、すぐ、すぐ、すぐ! 戻って来ます」
「はい、どうぞ」
ルバー様が食堂へと走って行ったわ。
歩くようなスピードだけれどね。
「あの者が“自然の理”を使うんじゃな」
「あぁ、そうだ。今のところ全てを話してある。上の連中は連れて来い! と、うるさいがな」
「フン、あの者など打ち捨てて置いても良いぞ。それよりも、大丈夫なのであろうなぁ」
見つめる先は扉。
聞いたのはトッシュ。
答えたのは……私。
「大丈夫よ。私にしてもルバー様にしても、この世界を愛していますもの。何より、王様の信頼を裏切ることは絶対にありませんわ」
「では、王とやらには話が行くのじゃな」
「そこは、仕方ないと思うぜ。俺たちだって、神には全てを話すだろう。それに、ジュード王は熟孝の王だ。幼い神なんかより頼りになるぞ」
「……? ……なるほど、先ほどの柏手は神を起こすためのモノであったか」
「あいつらは、五月蝿いからな。しっかりお守りでもしていろ」
「口が悪いぞ。だが……その意見には反対はしないがな」
2人で目を合わせ、ニヤリ。
まぁ、息がぴったり。
少しだけ呆れかえってしまいながら、ルバー様が来るのを待ったわ。
コンコン、コンコン。
「いいぞ」
「紅茶をお持ちいたしました。お茶受けは、焼きもちをご用意いたしました」
「ヤキモチ?」
「ククル、ヤキモチでは無く焼きもち。もちもちした皮の中に、あまあまの餡子が入った餅を香ばしく焼いた饅頭の事よ。緑茶にとても合うおやつね。でも、緑茶も紅茶も同じ茶葉だからきっと合うわね」
「ふむぅ〜、モグモグ。ほぉ〜、コクン。ふぅ〜、美味じゃ」
おかわりを要求したククル。
もちろん、両方ね。
そそくさと用意をする、ルバー様。
あきれ返る、私とトッシュ。
3回目のおかわりを平らげたところで、トッシュが止めたの。
「ククル、いい加減にしろよ。今食った分は、青の体重に加算されるんだからな」
「ウッ!」
4個目に伸ばしていた手が止まったの。
心の力が勝った瞬間よね。
手を引っ込めたのを確認して、トッシュが話し出したの。
「ルバー、この世界は神のゆりかごだ。その、話は覚えているな」
確認のための質問ね。
当のルバー様は大きく頷いたわ。
左手は、焼きもちをそっとククルの元に押しやっていたけれどね。
ルバー様って子供に甘いのかしら?
あらあら、トッシュがひと睨み。
ルバー様は、手を引っ込めた。
歯牙にも掛けなかったのはもちろんククル。
素知らぬ顔をして、パクついていたの。
ある意味、強いわね。
「ククル!」
「分かっておるわ! そなた、寛容にならんか。イライラはお肌の大敵じゃぞ」
「ハァ?」
「アハハハ! ククル、最高! アハハハ!」
大笑いしたのは私ね。
意外にいいコンビだわ。
何でしょうね。
兄のトッシュとやんちゃな妹ククル。
そんな間柄かしら?
要は、仲良しなの。
さて、笑い話はここまで。
ここから先はシリアスな展開になりそう。
「トッシュ。私から話すわ。貴方からだと、謝罪で1日が終わりそう。いいかしら?」
「……そうしてくれ」
改めてそう言われると、緊張するわね。
私は一口、紅茶を含んだわ。
ゆっくり飲んで、話し出したの。
「ルバー様、初めからお話します。黙って聞いていて下さい。トッシュ、ククル、間違えているところが有るなら、訂正してね」
「オウ」
私は確約を取り付けてから、話し始めたわ。
「ゆりかごを創成するのは、四大元素と天と地。司るのは各属性の龍神たち。彼らが生まれた時から、異変はあった。天と地の属性。白属性と黒属性は、同性で生まれるもの。それなのに、女と男、異性で生まれて来てしまった。
私は、この事が間違いだったと言いたくはないです。男と女ですもの。惹かれ合って当然だと思いませんか? 愛を秘める事は間違いなのですか? ……でも、白属性の龍神ククルと黒属性の龍神アークは、間違いだったと自分の心を否定した。そして、間違いを犯した。
ゆりかごの大地を管理するのは、四大元素の属性龍神の仕事。火・水・風・土。4人の龍神の中の1人が、管理者となり地上へと降る。残りの龍神が、魔力と記憶で大地を創っていく。
天と地。すなわち、天国と地獄。天国は白属性の龍神が、地獄は黒属性の龍神が治める。地上の管理と死者の管理をするのが仕事。天と地、天国と地獄、白と黒。この属性は2人で1人。常に、一緒に居なければいけない2人。だからこそ、同性で生まれてくるのに……生まれたて来たのは異性同士。惹かれ合い想い合うのに、時間はかからなかった。そして、想い至る心は同じ。……愛を断ち切るために会わない。その為、地上の管理者となり大地に立ったのは……黒属性の龍神アークだった。
地上は地獄とカオス状態。本来の管理者であるトッシュは、魔力の塊である龍神の姿では、管理が出来ないために余分な魔力で肉体を構築している最中。火の祠で眠っていた。1週間ほどで、目覚め管理者として任に就くはずだった。その目覚めは最悪なものとなる。混沌と化していた大地。それでも、整地されつつあった。なぜか、水・風・土の龍神が魔力と記憶を駆使して、修復していたから。最後の仕上げと管理をトッシュがして、人が息づくゆりかごとなった。
自分たちの犯してしまった過ちを正したかったククルは、龍の祠で眠りに着いた。残った魔力と記憶を大目に……自分を宿してくれる巫女を待ち続けた。そして、来たのが……」
「陸奥青森。妾を宿し、大地に立たせてくれし者」
「ククル」
私の手を握って、話の主導権を持って行ってしまったわ。
この手の温もりは、青ね。
「ルバー、そなたも神に使える巫女じゃ。そもそも、龍王1人で管理するのは無理がある。だからこそ、神の御業を使える人属が数人おる。ルバーとハチとナナ、そして……青じゃ。この娘が保有しておる“憑依”が神を下ろす業なんじゃ。しかし、龍神を宿すには命を差し出さなければならぬ。妾たちの間違いをただす為の生贄になったんじゃ。罪な事をしてしまった。“ククルちゃん……”。良い良い、分かっておるわ。もう言わぬ。繰り言は言わぬ。……“へ〜んしん・陸奥青森”」
突然、出現したのは青。
「ルバー様。私は生きています。ククルの中で、生きています。みんなと同じ刻を、歩む事は出来なくなりましたが……生きています。……この世界に来た意味を知る事ができます! 私にしか出来ない事があります!
ナナちゃんが、ククルのに言っていた言葉があります。愛する心を責めてはダメ。愛はね、優しさから生まれるの。貴女の優しさが、アークを愛したの。その心をいじめないで、と。この話を聞いて、私の心が温かくなるのを感じたんです。母が同じ様な事を言っていたのを思い出します。青森、隣人を愛しんなぁ〜よ。その愛は優しさとなり、貴女に返ってくるんさぁ、と。母は父を愛しています。父や私たち兄弟の側にいる事が、自分の幸せだと! 生きる意味だと! 言っています。その言葉の本当の意味を知った想いです。私は、この世界の仕事は、愛を守る事です。ククルの愛が、その優しさが、間違いだったと言わせません! 私が、確かめて来ます!」
青の宣言が、部屋に木霊したわ。
私たち異世界人は、誰もがみな帰りたいと思うもの。
その想いを押し殺し、ここに来た意味を探すわ。
青は見出せず悩んでいたのを、私は知っていた。
でも、それは思い違いだと思うの。
この世界に来た意味なんて無いと思う。
巻き込まれただけよ、とは言えないわね。
青が、生きてるんですもの。
それだけで、十分だわ。
それにしても、ルバー様の反応が全く無いわね。
そりゃ〜、黙って聞いていて下さいと言ったわよ。
でも、ここまで黙る事ないのに。
ほら、静まり返ってしまったじゃないの。
私はルバー様を見たわ。
そぉ〜と、左肩を触れたの。
すると、そのまま後ろに倒れてしまったの。
「嘘! 気絶していたの! ! いつからよ?」
青とトッシュは肩を竦めて、知らないと首を振ったわ。
「なんでそぉ〜〜なるの! !」
私は叫ばずにはいられなかったわ。
大切な事だからもう1度、叫ぶ事にしたわの。
「なんでそぉ〜〜〜なるの! ! !」
ククルが暴走しました。
焼きもちを4個も食べれば大暴走ですよ。
でも、ひよこさんから夏季限定で発売されているやきもちは美味しいですね。
アレなら4個は軽くたべれます。
それではまた来週会いましょう!




