113話 あらあら、白龍神の密謀ですって
「ごめんなさい。……貴女は悪くないわ……全て妾がが悪い。……ごめんなさい。貴女の命を……妾に……ちょうだい」
事の起こりは、1週間前に遡るわ。
私の親友が最上級生へと進学したの。
陸奥青森が、12歳になったのよ。
そのための、準備が始まったわ。
「青森くん。今年で12歳です。卒業試験の準備に入ります。と、言ってもスアノース沿岸の洞窟に入り、祠へこの依り代である木札を納めて来て、前年の木札を取ってくる。その、洞窟も15分ぐらいで、最深に着くほどの小さい洞窟なので、難しくは無いと思いますよ。不安ならロキアくんに、聞いてみるといいかもしれませんね」
と、ルバー様に言われてロキアに会いに来たわ。
彼女は、メースロアの駐屯地に居るの。
お母様である、貴族ベルネ様のお手伝いをしているのね。
彼女は昨年、卒業試験を受けたのよ。
「ロキア、少しお話しできるかしら?」
「ナナちゃん、青ちゃん。私はいいけれど……」
「少し休憩しましょう」
「お母様! ありがとうございます」
私たちは、遮光が暖かく降り注ぐ中庭へと来たわ。
そこに何故か……。
「なんで、ベルネ様が居るのですか?」
「あら? 私が居てはいけないの? あらあら、如何わしい話でもするつもりね! 健全な乙女がするべき話では無いわ」
ハァ〜。
完全に楽しんでいるわ。
ニヤニヤ顔が、止まっていないですもの。
「お母様! ナナちゃんと青ちゃんは、私に会いに来てくれたんです。邪魔しないで下さい!」
「オョョ〜〜」
ヨロヨロと立ち上がったベルネ様。
この世の終わりの様な、悲嘆にくれた演技をしたわ。
少しだけ、あざといわね。
「オォ〜、なんという事でしょう。オォ〜、最愛の娘に邪魔だと言われたわァ〜。オォ〜〜〜」
「ベルネ様、わざとらしいです」
「あら? ナナにはそう見える?」
「はい」
「ウフフ、この時期、この子を訪ねて来る理由は1つだからね。私も助言でも……と思ったのよ」
「だったら、初めからそう言って下さい!お母様!」
「だって、ロキアが楽しそうにしているんですもの。お母様としては、拗ねちゃうじゃないの」
ハァ〜。
くだらないわね。
でも、ベルネ様は私と青が来た理由を察知していたみたい。
話しやすいわね。
「分かっているのなら、説明を省きますわ。で! どうだったの? 卒業試験は?」
私と青は、ロキアに詰め寄ったわ。
その当人は、オレンジティーをカップに注ぎながら考え込んでいたわね。
ちなみに、オレンジティーの相手はカステラよ。
卵と小麦粉と砂糖。
たった、これだけの材料で最高のお菓子が出来上がるの。
もちろん、隠し味にミルクや蜂蜜なんかも必要なんだけれど、それでも最低限の材料で美味しいモノ作れる人って、尊敬に値するわね。
このカステラも美味しいわ。
「まぁ! オレンジマーマレードが入っているの?」
「青ちゃん、良く分かったわね。そうなの。オレンジティーと食べるにはピッタリでしょう」
「本当ね。美味しいわ」
「そうね。モグモグ……」
「「ウフフ」」
モグモグ言いながら賛同したのは私。
ごめんなさい。
お行儀が悪いわね。
でも、それほど美味しかったと思ってちょうだい。
それにしても、笑う姿はそっくりな親子。
幸せそうで良かったわ。
さて、本題に入りましょうね。
「「おごちそうさまでした」」
「お粗末様」
「ねぇ、ロキアちゃん。卒業試験はどんな感じなの?」
「……、……、……」
考え込んでしまったロキア。
フォローをするように話だしのは、、ベルネ様。
「アハハハ。考え込むのも仕方がないわ。本当に何にも無いもの」
「何も、ですか?」
「そう、何も、よ。あるのは祠だけ。学園が創立する時に、決めたらしいわ。スキルも魔力も使え無い状況で洞窟に入る。魔力が使えないのを体感してもらうには、打って付けだったのね。要は、度胸試しなの。魔力が枯渇した時の対処法は、剛勇がモノを言うからね。そのことを理解してから、卒業して欲しかったの。その想いは、今も昔も変わら無いわ。
ウフフ、たった1人だけ、馬鹿した人がいたのよ」
楽しそうに、思い出し笑いをしたベルネ様。
私、青、ロキアを見回して、話し出したわ。
溜めたわね。
「それはね……ルバーなの! あの男、使ってはダメな魔術をあえて! 使用した様なの。アホでしょう」
「で、どうなったんですか?」
「ナナも気になる?」
「もちろんですわ!」
「どうも、魔術“ランプ”を使った様なの。もちろん暴走。スキルなら、使えないで終わっていたでしょうけれど。魔術だったから大暴走。辺りが真っ白に発光してしまって、前にも後ろにも進めず戻って来てしまったの。
アハハハ! ! 落第よ! ! 世界最強の矛が落第よ! ウケるでしょう。本人曰く……試してみたかった……ですって。アハハハ! 今思い出しても、ウケる〜」
大爆笑のベルネ様。
一頻り笑って、息を整えてから続きを話してくれたわ。
「フゥ〜、久しぶり笑ったわ。そのあと、ジュード先生と話しあって、日を改める事にしたの。もちろん、合格よ。ルバーの様に馬鹿な事をしなければ、問題無くクリアするわ。赤ちゃんでも楽勝よ」
まだ、笑いが止まらないベルネ様。
少し呆れ顔のロキアが、追加してくれたわ。
「お母様、笑いすぎです。でも、赤ちゃんは言い過ぎだけれど、それくらい簡単だったわよ。私は……好きだけれどなぁ。洞窟に一歩足を踏み入れると、真っ暗なの。5分ほど歩いて行くと、天井から光の階段が降りてきていて、神々しかったわ。一瞬、どこにいるのか分からなくなったもの。見つめちゃったわ。1年に1度しか見れないのが、レアで良いと思うの。明日、散歩がてら洞窟の入り口まで行かない?」
「いいの? 」
笑顔で頷くロキア。
「ありがとう! ナナちゃんも行くわよね?」
「もちろんよ」
「じゃ〜今日は、ここにお泊まりね。部屋を用意させるわ」
「ベルネ様。どうして、お泊まりになるのですか?」
「ナナちゃん〜冷たい〜。いいじゃない! マナスとアイザックは、現地調査と称してマギノの所に短期留学しちゃうし。せめて、ブートとマーゼだけでも連れてくれば良かったわ」
「連れて来なかったんですか?」
「ナナちゃん」
「青、なに?」
「ブートとマーゼって……」
「アイザックの子供達よ」
「青ちゃんは、会ったことなかったのかしら?」
「はい、ありません」
「図体ばかり大きくて、やんちゃな双子よ。でも、約束の大地はしっかりと守っているわ」
「約束の大地?」
「アイザックが全てを護と誓った場所よ。私の誓いの大地でもあるわね。とても大切な場所なの」
「凄く良いわね」
「部屋の用意が出来ました」
なし崩し的にお泊まりになってしまったわ。
まぁ、楽しいから良いんだけどね。
翌日、ロキアと一緒に卒業試験の場所、エロジオングロットを見に行ったわ。
侵食して出来た洞窟だからね。
まんまの意味よ。
「綺麗な洞窟ね」
「そうかしら? どこにでもある様に見えるけど」
「ナナ、風情無し!」
「マノアちゃん。そんなこと言わないでよ! 私は緊張してんだから!」
「アハハハ! 青、悪い」
なんで、マノアがいるのか?
答えは簡単。
私が読んじゃった。
だって、楽しい事をする時はみんなと! だしね。
呼んで当然よ。
エディとホゼはって?
男子禁制よ。
さて、件の洞窟だけれど……本当に何の変哲も無い侵食型の洞窟だわ。
ただ……。
「少し、暗いわね」
「ナナちゃん、そうなの。でも、5分ぐらい歩けば明るくなるわ。実際には15分ぐらい歩いているみたいなの」
「ロキア、なに言ってんの? 5分? 15分? どっち? ?」
「アハハハ! そうよね。ごめんなさい、マノアちゃん。感覚的には5分で、距離的に言えば15分と、言えば分かるかしら?」
「?」
「あるほど。暗くて怖いから走ったのね」
「ナナちゃん、当たり! 右も左も分からないくらいくらいの。怖いから誰でも走る見たいよ。私も全力疾走したもの」
「「「なるほど」」」
そんな会話をしてから1週間。
天気は快晴。
気温は温暖。
散歩をするには、最高のシュチュエーション。
……のはずがとんでも無い事になっていたの。
全ては、無属性の登録による弊害よ!
そうなの。
卒業だけは! の子供が多かったのよ。
想像以上にね。
昨年もそうだったらしいわ。
日の出と共に始まった、卒業試験。
お昼になり、夕刻を過ぎ、日が暮れても、青に順番が回って来なかったわ。
「ルバー様。そんなに時間が掛かるなら日を改めますか?」
「ナナくん。そうも出来ない事情があるんですよ」
「どんな事情ですか?」
「ハァ〜。こんな事は、初めての現象です。潮が満ち始めています。明日には干潮となり、入り口が塞がるでしょう。これでは、卒業試験は出来ませんね」
「去年は、3日ほどあったんでしょう?」
「そうです。4日です。毎年それぐらい、ありましたよ。昨年も、沢山の方が卒業試験に臨みましたが余裕で全員、卒業して行きました。……、……。フゥ〜、それでも何とかなりそうですね」
「どう言う事ですか? 何かしたんのですか?」
「ウフフ、実は中の明かりを1つ消していたのですよ」
「何でそんな事を! 危ないですよ!」
「大丈夫ですよ。なぜだと思いますか?」
「分かりません」
「答えは簡単です。……足が速くなる……です」
「アハハハ〜、なるほどですね」
思わず乾いた笑いを、してしまったわ。
たったそんな事で、とも思ったけれど1人1秒でも速くなれば全体を通して見ると、意外に速くなるモノね。
良く考えたわ。
日付が変わる直前に、青に回って来たの。
「青、大丈夫?」
「も、も、もちろんよ。すぐそこだし、何とかなるわ。行ってくるわね」
「ココで待っているわ」
「そうよ! 後で詳しく教えてね!」
「青、平気だろ。夜明け前にこっそり行ったけれど、何にも無かったぜ。なぁ、ホゼ」
「だね」
「聞き捨てならない発言ですね! エディートさん!ホゼッヒさん。夜明け前に行ったですって! ! 少し、あちらで話を聞きます。来なさい!」
「しまった! ユント先生、いたのかよ!」
「エディ! 余計な事を!」
「すまん」
「来なさい! !」
「「は〜い」」
「「「馬鹿ね」」」
ハァ〜。
ため息を出したのは、私だけでは無いわ。
挑む青に、私、マノア、ロキアの呆れた、ため息が揃って聞こえてきた。
連れて行かれるエディ、ホゼを見送ったの。
それにしても、まだ暗い時間に起きてどこへ行ったかと思ったら。
男ってアホね。
「青ちゃん、頑張って来てね」
「ロキアさん」
「青、お土産を期待してるぅ〜」
「マノアちゃん! そんなの無理よ」
「ウフフ、それは〜無理難題ね。私は無事に戻って来れば、それだけでいいのよ」
「ナナちゃん! 私、頑張ってくるわ」
「「「うん!」」」
4人で抱き合い、健闘を祈ったわ。
この時、何でこんな事をしてしまったのか、理解に苦しんだの。
でも……まさか……ね。
「本当に暗いわ。喋って無いと気が滅入りそうね。……でも、遠くに明かりが見えるわ。走ってはダメね。こう足元が悪ければ、転びそうだわ。あぁ〜、私、暗いのが苦手なの! ナナちゃん! マノアちゃん! エディ! ホゼ! ロキアちゃん! マナスちゃん! 私に勇気を! ! ……ヨシ! 大丈夫! もう少しだから、頑張るのよ!」
ハァ〜、何とか着いたわね。
それにしても、綺麗な所だわ。
なるほど! 天井に穴が空いているのね!
その隙間から、光の階段が降りて来ているんだわ。
その光が、水に濡れた岩をキラキラに輝かしているのね。
そして、水たまりに反射して3畳程の空間を明るくしていんだわ。
絵も言われぬ美しさ……そんな言葉がぴったりね。
あ! アレね。
あの、白く輝く祠にこのお札を納めて、古いお札を持って来れば良いはず。
本当に……き、れ、い……。
「ごめんなさい。……貴女は悪くないわ……全て妾が悪い。……ごめんなさい。貴女の……命を……妾に……ちょうだい」
「キャーーーー! !」
日付がもうすぐ変わるそんな瞬間。
絹を裂くような悲鳴が、洞窟から響いて来たわ。
私は瞬発的に言葉を発していたの。
「ハチ! 洞窟に入って!」
返事も聞かずに、反応してくれたハチに感謝ね。
そして、足を踏み入れた龍神の祠。
白龍神ククルが眠る祠へと突撃したわ。
「ここが……祠?」
そこは、白が支配する空間だった。
そう、影すら出来ない程の強い光が、私の目に飛び込んで来たの。
その発行源は……祠? ? ?
「ハチ! 発光源に近ずいて! 早く!」
「止まれ! ナナ! 止まってくれ! ……頼む……止まってくれ」
「無理!」
トッシュの言葉を無視して、先に進もうと歩みを始めた時。
光が、さらに強さを増したの。
私は焦っていたわ。
だってそこに、青が居るはずなのよ!
「青! !」
「ククル! ! 俺だトッシュだ! お前に何があったんだ! 答えろ! ククル! 答えてくれ! !」
私を、ハチごと羽交い締めにしたトッシュ。
腕の中で叫んだわ。
「トッシュ、離して! あそこに青がいるの! 離して!」
「……すまな。俺が悪いんだ。……ナナ許してくれ。話は俺が聞くから、止まってくれ。落ち着いてくれ。あの光に触れると……ナナの命が持って行かれる」
その言葉の意味を理解するのに、数分を要したわ。
私は、トッシュを仰ぎ見て聞いた事を纏める様に口にした。
「命を持って行かれる? 青は、あの中に居るのよ! 離して、離して!」
「……もう遅い。話は俺が聞くから……待ってくれ。頼む……すまん」
何を言われようと、私は無視して暴れたわ。
そんなやり取りをしているとき、光が集束していったの。
さっきとは打って変わって、暗転したわ。
何も見えない、暗闇が訪れたの。
ハチに手を置き、話しかけたわ。
「ハチ、部屋を明るくして」
『了解ワン。魔術“ヘル……”』
言い終わらないうちに、何かが動いた。
左手を上げる仕草をしたの。
すると、部屋がパッと明るくなったわ。
電気でも着ける様な感じね。
そこに居たのは、おかっぱ頭の女の子。
座敷わらしを少しだけ大きくした感じの、女の子がポンチョをスッポリ着て立っていたわ。
てるてる坊主?
ただ、髪も顔も服も全てが白いの。
か、か、可愛い? かは、微妙ね。
《すまぬ。この子が居らねば、妾は姿を保てぬのじゃ。ずっと待っておった。青森よ……すまぬ》
「ムグゥ〜〜、ムグゥ〜〜」
《ナナ、すまん。少し黙っていてくれ。俺が話すから……。ククル。説明しろ。その子は、この子の仲間なんだ。説明しろ! 事と次第では……俺が許さんぞ! !》
トッシュの咆哮が、壁の一部を破壊した。
《トッシュ。分かっておるわ。お前さんだって、その者が居らねば姿を保てぬでは無いか。妾とて同じ事。この娘が居らねば、妾が動けぬのじゃ。この娘には、悪い事をしたと思っておる。しかし、止めねばならぬ! 妾が、妾が! ケリを付けねばならぬのじゃ。分かって欲しい》
頭を下げたおかっぱ座敷わらしさん。
顔を上げ、さらに話を続けたわ。
《この娘は、巫女なんじゃ。我ら龍神を下すことができる、稀有な力を持っている。お前さんの様に、大地で生きてはおらぬゆえ、この者の命を妾に近づけたんじゃよ。生きる事は叶わぬが、龍神と一体化できる。死ぬ事は無くなるんじゃ。人の身で、余りある力だと思うぞ》
「痛てぇ!」
思いっきり腕を噛んでやったわ。
私の口を塞いでいた手が動いたの。
その隙に、叫んだわ。
心の底から、湧き上がる想いを止める事なく咆哮したの。
「勝手な事を言わないでちょうだい! 神になって喜ぶバカと、一緒にしないで! だいたい、あんた達が悪んでしょう。なんで、青が犠牲にならなければならないの? 可笑しいでしょう。何が、人の身で余りある力ですって! 本当にバカね。命は限りあるモノだから美しいのよ。生きる活力になるのよ! 私たち、人を見下しすぎよ! ふざけるなぁ! ! !」
《……すまぬ。……すまぬ。……すまぬ》
《……》
ひたすら謝るおかっぱ座敷わらしさんと、辛い顔をしながら黙ってしまったトッシュ。
その時、ハチから思いもよらない言葉を聞いたの。
『ナナ、この白龍はなんて話しているワン?』
「え? !』
そこで初めて、気がついたの。
トッシュもククルも、人や獣が理解できる言語を話していなかった。
でも、私の耳にはちゃんと聞こえていたわ。
不思議に思っていると、当たり前の様に説明してくれた方がいたの。
意味不明のイミフ〜〜〜〜。
《そなたも神の子よ》
「ハァ?」
何それ〜〜〜〜? !
更新が遅くなってすいません。
私のお父様が……。
「らくらくスマートフォンは嫌じゃ」
と、言い出しスマホを機種変更することになったのです。
その設定に追われて、この時間になってしまった事をお父様に成り代わり謝罪します。
ごめんちゃい!……すいません……いろんな意味で……すいません。
それではまた来週会いましょう!




