表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/154

112話 あらあら、2年後ですって

 

「皆さん!書きましたか? 消しますよ」

「「「「は〜い」」」」


 コレは、とある教室での日常。

 ハチの魔術“アトリビュート”から生み出された、キメラ魔石により劇的に変わった風景よ。

 2年前、土属性のシトリンと黒属性の黒真珠を融合して生まれたキメラ魔石。

 “エクリール”キメラ魔石。

 コレが学園を変えたの。

 お父様の努力は、凄まじいモノがありましたわ。

 なんと! なんとぉ〜! !


 まず、取り組んだのはキメラ魔石の強度だったの。

 意外に簡単な事だったらしいわ。

 お父様の閃きと、ルバー様の執念が導いたのね。

 間違えていたらしいのよ。

 お父様の……間違えている? ……の、一言で土属性の魔石と黒属性の魔石を全て組み合わせし直したのよ。

 後でハチに聞いた話なんだけれど。


『もう2度としたく無いワン』


 だったわ。

 それほど、大変だったようね。

 でも、そのおかげで最高の組み合わせを発見したの。

 その組み合わせとは……土属性のシトリンと黒属性のオニキス。

 要は、同じランクで同じ大きさ。

 さらに、同じ硬度に質量。

 全てに置いて同じモノで、“アトリビュート”をする事なの。

 実は、土属性のシトリンと黒属性の黒真珠は全体的なランクから言えば、黒真珠の方が上だったみたい。

 お父様も、見分けるのは難しいと話していたわ。

 でも、そこから生み出されるキメラ魔石は補充も出来てちょっとやそっとでは壊れない、完璧な“エクリール”のキメラ魔石が完成するみたいね。

 ただ、コレにも弱点は存在するの。

 なんと言っても、在庫数が少なすぎる事。

 仕方がない事よね。

 自然界の事ですもの。

 同じモノなんて、そうそう無いわ。

 あるはずがないのよ。

 それが、自然ですもの。

 それでも、数にモノを言わせて、集めに集めた数が20組。

 これが限界。

 私はてっきり自軍の為に使うかと思ったのよ。

 だって、出所は王様なんですもの。

 自国の利益のために使うのが普通だわ。

 魔獣と話が出来て、魔獣軍だって作ることも夢ではないのよ。

 誰だって、そう考えるはずでしょう。

 ところが、違ったの。


「王様に進言いたします。これ以上、探すのは無意味です。この20組が限度だと考査いたします。

 ご注進申し上げます! この国にとって何が大切なのかを、考査していただきたいのです。

 それは教育です! 教育にこそ、力を入れるべき国務です! そこで、この20個の“エクリール”キメラ魔石を教育に使うべきです!」

「……して、その方法は?」

「ハッ。このキメラ魔石を砕きまして、黒板として使えないかと考査しております。キメラ魔石の面白い特徴を持っております。“アトリビュート”で創った魔石は、“アトリビュート”でしか解除できないという事。砕こうとも、溶かそうとも、何をしても、キメラ魔石はキメラ魔石なのです。さらに、混ぜ合わせても、キメラ魔石として発動いたします。この性質を使いまして、板の上に塗装液と混ぜ合わせた“エクリール”キメラ魔石を塗り、黒板として使えないかと今、実査しております。

 トッシュ殿の進言により、意思を持つ魔獣は数が少ないとの事。ナナ1人で十分に間に合うと考査いたします。無属性の魔力が顕著した昨今、学園に入学いたしますお子様が多数おられます。それに対しまして、教員の数が増えておりません。今の自員で教育をするのなら、少しでも負担を軽減すべきです。頭に思い描くだけでいい黒板は、まさに教職員の夢の様な黒板だと思います。どうか、検討してみては頂けないでしょうか」


 と、武闘派のイヴァン様を前にして言い放ったんですって。

 もちろん、反対意見も賛成意見もあったみたい。

 どちらかと言えば、反対意見の方が多かったと、ルバー様が後から教えてくれたわ。

 でも、王様の一言で数少ない“エクリール”キメラ魔石を黒板として使う案が採用されたみたいね。

 私は、この時ほどお父様の娘で良かったと思ったし、この国に生まれた事を誇りにする事を誓うと感じたことはなかったわね。

 教育こそ未来の国を作る礎となるのよ。

 その事が理解できない人は、大人じゃない子供のままよ。

 幼稚園から出直してらっしゃい! と、言いたいわね。

 急ピッチで新黒板が出来上がったわ。

 まぁ〜、問題が全く無かった訳ではなかったの。

 その問題とは……。


「声を合わせて行くぞ!」

「ヘェ〜イ」

「「セェ〜の!」」


 そうなの。

 たしかに補充が出来るわ。

 で・も・ね!

 土属性と黒属性を、同じタイミングで、同じ速度で、同じ量を! 注ぎ込めなければいけないの。

 そうしなければ、補充が出来ないんですって。

 そんな事できる訳ないでしょう。

 出来るとしたら、土属性と黒属性の2つの属性を持つ人ではないと無理ね。

 ところが……いたのよ!

 そんな人がね。

 ウフフ……もちろん、ルバー様。

 でも、1人で20個の黒板に補充して回るのは非効率だし、そんな暇な人でも無いわ。

 そこで、2人に分ける事を提案したらしいの。

 と・こ・ろ・が!

 無理だったの。

 同じタイミング。

 同じ速度。

 同じ量。

 この3つの事を、同時に出来る人なんている訳がないもの。

 お父様もルバー様も王様も、ほとほと困り果てたみたいね。

 そこに表れたのが、この2人。

 兄のゴーシュと弟のドロワ。

 双子で、兄が土属性で弟が黒属性。

 普段は仲が悪いのに、息ピッタリ。

 双子の持つパワーよね。

 ウフフ、仲は悪いのよ。

 本当に、ね。

 でも、ゴーシュを馬鹿にされると、ドロワはキレるの。

 もちろん、反対も然りよ。

 一緒に居るとガミガミいがみ合って居るのに、根っこの部分では仲良しなのよね。

 この2人が救世主だったの。

 ハァ〜。

 この教職員問題にも関係している事なんだけれど。

 事の発端はやはり、トッシュのこの発言よね。


「魔力の無い者などいないんだよ」


 この言葉で、無属性をこの世に登録をしたルバー様。

 その事で、全ての国民はパニックになったわ。

 当たり前と言えは、その通りね。

 で! 何が起こったのか? !

 魔力を持つ者が通う学園。

 そこに、全ての子供達が通い始めたの。

 どうなるか、想像は容易いわね。

 これまでは、勇者クラスと異世界人クラスに分かれていて、12名で1クラスだったわ。

 今は50名1クラス。

 そのおかげで、勇者だの異世界人だの言ってられなくなって、1つになったの。

 凄いわよ。

 全国の子供達が入学を目指してスアノースに来るの。

 親にしてみたら、自分たちでは遅いから子供達だけは最高の教育を受けさせたい!

 そう想うのは当然よね。

 仕方がない事とは思うけれど、困ったのは学園を経営している国だったの。

 なんと言っても、教員が不足したのが痛かったみたい。

 引退した人や、全国に散らばっていた勇者を呼び集めたらしいわ。

 それでも不足していたの。

 その事を理解していた、王様がお父様の願いを聞いて武闘派のイヴァン様を黙らせる結果になったのね。

 でも……ルバー様から聞いた話なんだけれど……打ち合わせをしていたらしいわ。

 イヴァン様以外の武闘派を納得させるために、芝居をしたみたいなの。

 役者ね。

 ウフフ、イヴァン様も大概な人ね。

 ちゃっかり、裏取引をしていたみたいなのよ。

 コレはハチから聞いた話。

 “アトリビュート”で生まれた、キメラ魔石は“エクリール”だけではないの。

 2年前の混合で、発見したのが“ファイヤストーム”のキメラ魔石。

 コレは、風属性のエメラルドと火属性のルビーを“アトリビュート・混”して。生み出されたモノだったわ。

 自分の魔力を使わず、誰にでも使えて、補充も出来る。

 そんな夢のような、魔石をハチは生み出せるの。

 コレを使わない手はない……と、考えたのがイヴァン様。

 そこで、お父様に相談したみたいなの。

 “エクリール”のキメラ魔石を諦める変わりに、“アトリビュート・混”でキメラ魔石を創ってくれ……と、ね。

 お父様も“エクリール”のキメラ魔石を黒板に使い案を実現するためには、イヴァン様がネックになっていたの。

 そこを落とせるのなら、仕方無し! と、結論を出したみたい。

 ハチに相談して、了解を得たみたいね。

 私の知らないところで、何をしていたのかしら。

 まったくね〜。

 でも、ハチもしっかりしているのよ。

 どのキメラ魔石も、1個多く創ったみたいなの。


『ナナの分ワン』


 ですって。

 ちゃっかりしているわね。

 さて、この2年間で新たに生み出されたキメラ魔石はどれも強力よ。

 まずは、さっきの“ファイヤストーム”キメラ魔石。

 風属性のエメラルドと水属性のアクアマリンで“トルネード”キメラ魔石。

 風属性のエメラルドと土属性のシトリンで“サンドストーム”キメラ魔石。

 土属性のシトリンと水属性のアクアマリンで“ガイザー”キメラ魔石。

 土属性のシトリンと火属性のルビーで“デブリフロー”キメラ魔石。

 最後に、火属性のガーネットと水属性のアクアマリンで“ミスト”キメラ魔石。

 この“ミスト”キメラ魔石なんだけれど、初めの実査では小粒のルビーで創ったみたい、でもランクを下げたガーネットでも良かったみたいよ。

 完璧なキメラ魔石だ! と、喜んでいたわ。

 そして、意外な事に白属性と黒属性は混合には合わなかったみたいなの。

 いくらやあっても、ダメ〜ワン! と、ハチが叫んでいたわ。

 その声だけは、聴こえたのね。

 ワァ〜! グァ〜! ギャ〜!

 などの声も、聴こえたわ。

 楽しそうに、はしゃいでいたわね。

 ちなみに、カッコつけて英語表記で魔術の名前を決めたみたいよ。

 その際、忠大がアドバイスをしたみたい。

 私が近くにいなかったので、実査も兼ねて“エクリール”キメラ魔石で筆談をしたようね。

 筆談は上手くいったようよ。

 やはり、“エクリール”キメラ魔石は、土属性のシトリンと黒属性のオニキスは相性が良かったみたい。

 実は、真珠同士でなければ混合も融合も出来ない事が分かったの。

 もちろん、全く出来ない事は無いわよ。

 ただ、質が悪くいい物が出来ないみたい。

 ランクが良ければ、良いというものでは無いのよ。なんでもね。


 そうそう、新しく誕生したキメラ魔石を説明するわ。

 まず、“ファイヤストーム”は説明、要らずね。

 だって、見たでしょう。

 机の上で暴れ回っていたアレよ。

 私的には、煙たい魔術の記憶しか無いけれどね。

 次は、“トルネード”なんだけれど、コレは竜巻の事なの。

 ハチが魔術として発動するヤツね。

 アレより威力的には落ちるみたい。

 “サンドストーム”は砂嵐の事ね。

 コレも、ハチの魔術で見たことがあったわ。

 どうも、自前の魔力で発動するより何割かは落ちるみたいね。

 割合は、魔石のランクに寄る事が多いようよ。

 レッツゴー! 実査!

 だったみたい。

 毎日、毎日、毎日、飽きることなく“アトリビュート”をしていたわ。

 ハチが泣くぐらいね。

 鳴くでは無く泣くよ。

 号泣したらしいわ。

 その光景は、見てみたかった。

 忠大の“創造クリエイト・伝送”で送ってもらったんだけれどね。

 私の宝物が増えたわ。

 次は、“ガイザー”ね。

 コレは間欠泉の事よ。

 大地から、吹き上がる熱湯は凄いらしいわ。

 そして、“デブリフロー”は土石流の事。

 ゴロゴロと大きな岩も混じるほどの。大規模土石流が襲うようよ。

 想像しただけで、身震いするわね。

 最後は“ミスト”。

 コレも、説明不要ね。

 実は、私が1番使うキメラ魔石が、この“ミスト”キメラ魔石なの。

 私と言うより、全ての女性に重宝する魔石だと思うわ。

 だって、ミストよ! ミ・ス・ト!

 乾燥した夜とか、お肌には最高の魔術でしょう。

 ベタつかない、気持ちのいいミストがいい朝を向けるのよ!

 毎晩、使っているわ。

 小さい頃からお手入れすると、プルプルお肌が維持されるのよ。

 ウフフ、大人に成るのが楽しみだわ。


 そんな、私がどこに居るのかって事よね。


「トッシュ。本当にこの時間、この場所で合ってんの?」

「あぁ」

「気の無い返事はやめて! 事と次第では、龍神と全面戦争よ! 許さないんだから! ! 」

「分かっている。なんか訳があるはずなんだ。それを聞くまでは、俺に任せてくれ」

「……分かったわ」


 私はトッシュに抱かれて、白龍神が眠る洞窟に来ているわ。

 草木も眠る丑三つ時。

 そんな真夜中に、起きてるなんてお父様に知れたら一大事ね。

 でも、今の私にはホウ・レン・ソウが出来ない状況なの。

 きっと理解してくれると思うわ。


 事の起こりは1週間前。

 私、ルジーゼ・ロタ・ナナは9歳になったわ。

 私が9歳と言う事は……。


「青! いよいよね」

「ナナちゃん。本当だわ。今からドキドキしているの」

青森せいしんくん。今年で12歳です。卒業試験の準備に入ります。と、言ってもスアノース沿岸の洞窟に入り、祠にこの依り代である木札を納めて来て、前年の木札を取ってくる。その、洞窟も10分ぐらいで、最深に着くほどの小さいモノなので難しくは無いと思いますよ。不安ならロキアくんに聞いてみるといいかもしれませんね」

「はい、ルバー様。そうさせてもらいます。ナナちゃん一緒に着いて来てくれる?」

「もちろんよ」


 この時は、青ちゃんの卒業試験見学ルンルン。

 そんな感じで、着いて行ったの。

 本当よ。

 その洞窟に白龍神が眠っている事は、王様やお父様やルバー様に話しているわ。

 その事を踏まえた上で、卒業試験はいつもの通りに執り行う事にしたの。

 トッシュの意見を汲み取っての事なんだけれどね。

 だって。


「ククルなら大丈夫だ。アイツは、優しいし正義感の塊みたいなヤツなんだぜ。子供も好きだし。めちゃくちゃいいヤツなんだ。平気だぜ。ただ、魔術は使うなよ。魔術は魔力だ。新鮮な魔力が眠っている神龍が起きちまうんだ。要は、腹が減ってるところに、焼肉の焼ける美味い匂いを嗅いでみろよ。自我なんて崩壊するだろう? アレと同じ原理だ」


 分かるような分からないような原理ね。

 そんな私の気持ちなど無視した人が、暴走気味に話し出したの。

 ドン引きよね。


「なるほど!そんな理由で、スキルが使えなかったのですね。そして、激しい魔術に遭っていんですか! 新事実ですよ! !」

「本当に……そうですね〜」


 新しい発言にワクワク顔のルバー様。

 大興奮ですこと。

 まぁ、まぁ、楽しいそうですね。

 そう……よ。

 この時までは、楽しかったわ。

 私もルバー様もトッシュも、ね。

 それが! 間違いだったの。

 私は激しく後悔したわ。


 今も、よ!


 青……私が助けて上げる! 待ってて! !

2年後に話が飛びました。

そして、話が加速しますよ!

お楽しみに!


それではまた来週会いましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ