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111話 あらあら、ホウ・レン・ソウですって

「ガロス! ! 説明しろ! ! ! !」


 王様の怒りは、ごもっとも。

 後ろでは、イヴァン様、マキノ様、ベルネ様の3人が、睨みを効かせているわ。

 こ、こ、怖い。

 

『姫様。私の報告書は理解、出来ませんでしたか?』

「完璧だったわ。……少し静かにしていてちょうだい。王様は、お父様から話を聞きたいの」

『それは、大変失礼いたしました』


 忠大は引き下がったわ。

 このやり取りを聞いていた、ハチとロクも口を噤んだの。

 そんな雰囲気でも、無かったけれどね。

 お父様が意を決して、話し出したわ。

 頑張れ! お父様!


「報告が遅れました事を謝罪いたします。申し訳ございませんでした」


 私も一緒に、頭を下げたわ。

 もちろん、ネズミ隊やハチにロクも同じように下げたわね。

 謝らなければいけない雰囲気だったんですもの。

 怖かったわ。

 頭を上げたお父様が、続きを話し出したの。


「事の起こりは、ハチの魔術“フリーザ”の考査と実査でした。この席に、トッシュ様が参加した事が、全ての事の起こりでした。

 フゥ〜。“全ての者に魔力が宿る”と“魔術の半分は神に献上されている”。そう申されました。“魔力は神の食事”だと。その為、魔力を持たぬ者などいないとのことでした。とても信じられない考査に、実査をしてみることにいたしました。ルバーが無属性を登録したのですが……」

「ガロス。ちょっと待って。ルバーが保有している特殊スキル“全能”は魔術とスキルを登録するスキルだろ」

「イヴァン。そもそも、その考査が間違いだったんだ。ルバーの保有している“全能”は、“全能”なんだ。魔術でも無ければスキルでも無い。“全能”なんだ」

「意味が分からんな」

「マギノ。俺も知ったのはついさっきだ。王には報告したとルバーが話していたぞ」


 頷くだけの王様。

 知っている事を確認したお父様。

 視線だけで、交わされた会話。

 長く使えているだけの事はあるわね。


「ガロス。ルバーが保有しているスキル“全能”は、スキルでは無いのか?」

「はい、王様、違います。そもそも、スキルという考え方が間違っていたのです。スキルとは無属性の魔力を使用して発動する魔術だったのです。そこで、実査のため無属性を登録する事にしたのですが……。そこで、全てを報告すればこの様な事にならなかったと思います。遅れてしまった事を、改めて謝罪いたします。申し訳ありません」


 もう一度頭を下げたわ。

 私たちもね。

 もちろん、トッシュは……。


<「悪りぃ〜。俺パス」>


 この一言で雲隠れ。

 信じられないわね。

 見てらっしゃい!

 そんな私の想いなど、つゆほども見せずに顔を上げたわ。

 私もなかなかのプロよね。


「もう、良い。この紙に書かれている内容は、ナナの家臣、忠大の言葉なのか?」

「はい、その通りです。無属性を登録し終えた俺たちは、本来の目的であるハチの特殊スキル“フリーザ”の考査と実査を始めたのです。この“フリーザ”と言うスキルは、 取り込んだ魔石を融合または混合する事で、新しい魔石を創る出す事が出来ます。創り出す事を“アトリビュート”とし、出来上がった魔石をキメラ魔石と呼称いたします。実査したのが、こちらです」


 そう言って見せたのは、2つの魔石。


「こちらは、小型のルビーの魔石とアクアマリンの魔石を混合したキメラ魔石です。使える魔術は“ミスト”。霧を発生させる術で、使用者の属性に関係なく使う事が可能です。こちらは、補充も可能かと考査いたします。そこまで、実査が進んでおりません。さらに、発生させた霧を自在に操ることも出来ます。使い方によっては、映像を投影させる事も出来るかと、考査いたします。お使いになりますか?」


 お父様は、ルビー&アクアマリンのキメラ魔石を王に差し出したわ。

 受け取り、ニギニギしてから魔術を唱えたの。


「……“ミスト”……」


 部屋に霧が充満したわ。

 なんだが息苦しいわね。

 王様は霧を掴もうと腕を伸ばした。

 もちろん、掴むことなんて出来ないわ。

 当たり前よね。

 ただ、両手でしたものだからキメラ魔石が、床へと落下したの。

 そうしたら、部屋中に漂っていた霧が下へと移動した。

 驚いた、王様が拾いマジマジと魔石を見つめたわ。


「胸の前で円を描いて見てください」


 お父様の助言で、円を描くように腕を回した王様。

 すると、あら不思議!

 部屋に立ち込めていた霧が、円の内側に収束して色を濃くしたの。


「コレにより、映像を投影出来るかと考査いたします」


 手を入れてみる、マギノ様。

 匂いをクンクンしている、ベルネ様。

 ただただ見つめている、イヴァン様。三者三様の行動ね。

 王様は解除して、お父様に手渡したわ。


「近衛兵と各団長に、配備させる事は可能なのか」

「数が足りません。しかし、近衛兵に配布は可能です」

「よろしく頼む」


 王様はハチに頭を下げたの。

 驚いたわ。

 さらに、イヴァン様も頭を下げたの。


「頼む」


 あの魔獣を利用する事しか頭になかった人が、頭を下げたのよ!

 誰だってびっくり仰天するわ。

 その証拠に、ベルネ様もまん丸お目目をさらに見開いていたもの。


「大丈夫? 貴方が頭を下げるだなんて……信じられないわ」

「黙れ! ベルネ。この有効性に気が付かないのか。身を隠す事も出来れば、映像なんかも投影させる事も出来る。さらに、だ! 護衛にはもってこいの魔術だろう!」

「もう! 興奮しないでくれる?」

「す、すまんない。ガロス、どれぐらいの時間がかかる」

「イヴァン。まだ実査の途中なんだ。近衛隊長には渡すが……もう少し待ってほしい」

「分かった」


 この会話を聞いた王様もイヴァン様も、納得してくれたみたいね。

 良かったわ。

 そして次は、スモーキークォーツのキメラ魔石。

 墨よね。


「次は、土属性のシトリンと黒属性の黒真珠を融合したキメラ魔石です。まずは、頭の中で書きたい物や事柄を纏めてください。そして……“エクリール”と唱えてください。この実査は、先ほどご覧になられた忠大の手紙でお分りかと思います。文字なら文字として、絵なら鉛筆画として、白紙に描かれます。もちろん、人だけにあらず、です」

「お父様、少しだけよろしいですか?」

「ナナ、後にしなさい」

「その、スモーキークォーツのキメラ魔石についてです」


 お父様だけでは無く、王様まで私を見たわ。

 流石にたじろぐわ!

 で、で、でもね。

 言わないとね。

 頑張れわ・た・し! !


「えっと……。魔石のランクが低かったのかは、分かりませんが、補充ができないとの事です。さらに、1回で魔力が無くなり、壊れてしまったそうです。忠大、貴方のキメラ魔石を見せてあげて」

『はっ』


 差し出したスモーキークォーツのキメラ魔石を、お父様が受け取ったわ。

 マジマジと見つめ、観察したの。

 それは、王様もイヴァン様たちも同じように見つめていたわね。


「なるほど、シトリンの純度が良いもので試してみるか? それとも……」

『? ? ……“解”……? ?』

「忠大、どうしたの?」

『はっ。渡したスモーキークォーツのキメラ魔石から、魔力の流れを感じ解除いたしましたが……何が解除になったのでしょう?』

「え? お父様。忠大が、キメラ魔石からの魔力の流れを感じ解除したそうです、が……何を解除したの?」

「スモーキークォーツなら……」

「ガロス! 文字が消えたぞ! 説明しろ! !」


 王様が手にしていた忠大からの手紙を、お父様に突き付けたわ。

 ビッシリ書かれていたはずの手紙が、真っ白になっていたの。

 お父様は、ご自身で書いたお母様の似顔絵を見ながら“解”と、唱えた。

 綺麗なお母様は……消える事なく微笑んでいるわ。

 ハテナマークのお父様、忠大、私。

 なんでかしら? ? ?


『ナナ……時間じゃないのかな? 僕が“アトリビュート”をする時も、5秒ぐらいかかるワン。どうしても、定着するのに必要な時間ワン。おそらくだけれど、定着する前に解除すれば消える? えっと、30分? 40分? 60分? そこいらへんで、定着して消えなくなる?』

「なるほどね! それはあるかもしれないわ。お父様に伝えるわね」

『待つワン。実査も兼ねて、僕が書くワン。紙を貸して』

「分かったわ。お父様、ハチが実査も兼ねて魔術“エクリール”を使いたいって言ってますわ。どうしますか?」

「何か考査があるんだな。よろしく頼む」


 そう言って、忠大が書いて消した用紙を手渡したわ。


『……“エクリール”……。これで良いワン』


 お父様に渡した紙には、私に話した内容が書かれていたわ。

 一言一句、間違える事なくね。

 それを読んだお父様が、考査の付け足しをしたの。


「なるほど、おそらく当たりだろう。さらに付け加えるとすれば、定着する時間がかかるから補充が出来ないのではないか? 魔術の発動中に、追加の魔力を注ぐことは出来ないからな。それに、使い切りなのも頷ける。そこまで、魔力の消費が激しいなら壊れるのも妥当だろう。いくら、ランクの高い魔石を使おうとも、結果は同じかもしれん」


 みんなが読み終えたところで、お父様がハチにおい願いしたの。


「すまないが、解除して見てくれ」

『了解ワン。“解”』


 ハチの一言で、理路整然と書かれていた考査が綺麗に消えたの。

 跡形も無くね。

 筆圧すらよ!


「ものすごく便利ね。経済的だし、秘密文書の隠匿にも活躍するわね。黒板としても使える? 問題は、どのくらいの時間で定着するかよね……?」

「「「「「! !」」」」」


 王様やお父様、イヴァン様たちが一斉に私を見たわ。

 あれ? 私、何か言ったかしら? ? ?

 弾かれたように、お父様が立ち上がり私を抱き上げたわ。


「ナナ! 素晴らしいぞ!ナナの発想力と想像力には脱帽する!」

「お、お、下ろしてください!高いですわ!それに、目、目、目が回る〜〜〜」


 そうなのお父様ったら私を高い高いしたまま、クルクルと回り出したのだから堪ったものじゃないわ。

 私の惨状に気が付いた、お父様がハチの背中へと下ろしてくれたの。

 助かった!

 文句の1つでも、と思ったのに私そっちのけで考査の続きが始まったの。


「ハチ、すまないがスモーキークォーツのキメラ魔石を見せてくれないか?」

『はい、どうぞワン』


 マジマジと見つめ、一人考査スタート!


「なるほど、なるほど。俺がアレを書いたのは……69分前か。おそらく、60分が限度? ひょっとして、キメラ魔石の魔力量に関係している? それとも、使用したシトリンと黒真珠のランク? いやいや、ランクは関係無いだろう。ランクはハチの“アトリビュート”を使用するときに、必要な条件だ。出来上がりに関係している項目であって、出来上がったキメラ魔石の効果に影響が有るとは思えない。と、考えるとやはり魔力量か。そう考査するのが自然だな。うん。だったら、質の良い魔石を使用すれば効果に違いが出るのか? う〜ん……。今のハチの魔術“エクリール”は、7分後に解除をした。それで、このぐらいの魔力の消費。……う〜ん。やはり、魔力量だな。定着するまで、ある一定量消費され続ける訳か。それに耐えきれず器が壊れる。なるほど、なるほど。これは面白い。あ! そうかぁ! もう1つ考えられる事があるぞ。書く量だ! 一行もしくは一文字で、どれぐらい魔力が消費されるのかを知りたいぞ。実査してみるか? いやいや、その前に考査だ。忠大が書いたモノは、この紙のほぼいっぱいだった。で、キメラ魔石が枯渇した。いやいや、定着時間分を考慮して……15分……13分か。だったら、一文字の魔力量は……」

「お父様! ストップです! 止まって下さい! 戻ってきて下さい! 私の話を聞いてください! ……聞こえてますか?」

「え? !」


 ハァ〜。

 やっとの事で、私の声が届いたみたい。

 それにしても、凄いスイッチね。

 ハチが持っていたスモーキークォーツのキメラ魔石を持った瞬間、オンになったのよ。

 眼つきが変わったもの。

 部屋をウロウロしながら、ブツブツ言い始め。

 あっという間に、自分の世界にダイブしてしまったの。

 お父様のマジックアイテムに対する想いを、垣間見た気がしたわ。

 コレがモノを創る事なのかもしれないわね。

 正気に戻ったお父様。

 ココがどんな場所で、今がどんな時なのかを思い出したみたい。

 しまった!

 そんな顔をしたわ。


「す、す、すいませんでした。つい夢中になってしまい、我を忘れていました。もう少しだけ、時間を下さい。“ミスト”のキメラ魔石と“エクリール”のキメラ魔石を、考査・実査を重ね、早急に報告書を提出いたしますのでお待ち下さい。その報告書は、イヴァン、マギノ、ベルネにも届けさせる。それで、許してほしい」


 そう言って、また頭を下げたの。

 今度をすぐ上げて私を見たわ。


「ナナ、すまないが、実査の協力を頼む。トッシュ様にも連絡をして、加勢して欲しい旨を伝えてくれ」

「もちろんですわ。すぐ連絡いたします」


 この言葉を聞いた、王様もイヴァン様たちも納得してくれたみたい。

 ちょっとだけホッとしたわ。


「ウフフ、ナナちゃんも大変ね」

「全くですわ。ベルネ様」

「それにしても、面白いわね。この“エクリール”の魔石は」

「確かにそうですわね。魔獣もそうですけれど、意思ある者なら文字で会話が可能ですものす……」

「しかし、問題があるぞ〜」

「キャ!」


 突然、窓から侵入してきたのは。


「トッシュ! 今頃、来ないでよ!」


 そうなのよ!

 雲隠れしていた、情報源が現れたの。


「なんで、今なのよ! ! 大変だったよぉ〜! ! !」

「イテテ、イテテテ、イッテ! 悪りぃ〜。俺が居ても、役に立ちそうになかったからな。トンズラさせてもらったぜ。エヘヘへ」

「可愛いくないわ!」


 攻撃力の低い私だけれど、力の限りの攻撃を加えてやりましたよ!

 あぁ〜、腹がたつ! !

 でも、気になることを言っていたわね。


「フゥ〜、コレくらいで許してやるわ! もぉ〜、貴方に敬語も使わないわ!」

「アハハハ! そんなのイラねぇ〜よ。俺とナナの仲だろ」

「……どんな仲よ。そんなこと、どうでもいいわ。それより、問題ってなによ」

「あぁ、あの“エクリール”のキメラ魔石は、確かにスゲ〜よ。魔獣とナナを介さず意思の疎通ができる。しかし……フッ……」

「なんで、笑ったのよ」

「すまん、すまん。ナナ、お前は、恵まれてるんだぜ。足が無かろうが、魔力が無かろうが、そんなもんと比較にならないくらい、ラッキーだったんだ。その事、理解してんか? ……してねェ〜だろう。何が? ってな顔してるもんな。

 よく聞けよ。ナナには、足の代わりにハチがいる。魔力の代わりにロクがいる。全てを知ることのできる目を持っている。もちろん、ネズミ隊の事だ。こいつらは、ナナの為に、ナナを守る為に、ここに居る。その事がどれだけ、スゲェ〜ことなのか!

 そもそも、知識や意識を持つ魔獣は、ほとんどいない。魔力の強い者に従う。それが自然の摂理だ。そこに意思など要らない。必要無し! それなのに、こいつらは、自分の意思で側にいてくれる。そんな魔獣なんか、俺は見たこと無いぜ。だからだ。“エクリール”のキメラ魔石で、魔獣と話ができるようになったても、話す相手がいなければ使う意味、無いだろう」

「そう言うことなの。この子達がレアなんだ」

「そうだ」


 思わずハチの首に抱きついたわ。

 次にロクを抱き寄せ、ギュ〜ッと抱きしめた。

 そして、忠大を、忠吉を、忠中を、忠末を、忠凶を、抱きしめたの。

 本当に大切な、私の仲間。

 私の家族。

 私自身よ!


「そんなの初めから知っていたわ。それにしても、知恵ある魔獣がそんなに少ないんだなんて、驚きね」

「まぁ、そんなもんさぁ。魔力が全てだからな。強い者が頂点に立つ。ここも、そうじゃ無いのかよ」

「……そんなこと無いわよ。この世界は、実力主義な一面もあるけれど、口の上手な方も沢山のし上がれるみたいですわよ。もちろん、力を備えた方で、口がお上手な方もいますわ。ルバー様みたいにね。強い方ばかりではありませんわ」

「なるほどな。面白いな」

「そうね」


 ウフフとアハハハで笑い合ったわ。

 すっかり敬語では無くなったけれど、本人は全く気にし無いみたい。

 突然のトッシュの登場で、場が騒然としたわ。

 みんな、間抜けな顔をしているもの。

 ハァ〜、ホウレンソウは大切ね。

 今回の事だって、王様にルバー様とお父様と私たちで考査と実査をする事を報告しておけば!

 ルバー様の“全能”の真実により、無属性が誕生した事を連絡しておけば!

 ハチの“フリーザ”から齎される、キメラ魔石の考査と実査をしっかり相談していれば!

 ……こんな事にはなっていなかったでしょう。

 本当にホウ・レン・ソウは大切よ。

 みんなも気をつけようね!

 ハァ〜〜〜。

 疲れたわ。

 ハァ〜〜〜。

何事にも報告・連絡・相談は大切ですよ。

皆様もお気をつけあれ。


次の112話から話が2年後に飛びます。

そうです!

ククル様が目覚めます!

楽しみですね。

乞うご期待です!

頑張ります。


それでは来週会いましょう。

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