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110話 あらあら、アトリビュートですって

すいません。

ルビーとエメラルドではなくルビーとアクアマリンの間違いです。


 ハチの特殊スキル“フリーザ”の考査が始まったわ。

 ……そのはずだったのよ。

 私が余計なことを言ってしまったばっかりに、横道に逸れてしまったの。

 だって、不公平に思えてしまったんですもの。

 ハチがこれからこれからする事は、物と物とを融け合わせたり、混ぜたり、化学反応させたりして、新しいマジックアイテムを創り出す魔術だわ。

 まさに、神の身技。

 それでも、よ!

 魔力の二重取りはダメだと思うの。

 創るときに魔力の半分を献上して、アイテムを生成するわ。

 さらに、使うときにも持っていかれるのよ。

 ね! 不公平でしょう!

 でも……。


『ダー! ! うだうだ、考査をしてもキリが無いワン! そもそも、有機物であろうが無機物であろうが、生きている者に違いないワン。神の禁忌をすることに違いないから、少し多く献上するくらいが丁度いいワン』

「アハハハ! アハハハ! ハチの言う通りだ。生きもんでもそうで無いもんでも、大地に生まれたもんなら倫理に触れる。神の身技だ。ルバー、ハチに触れて感じろ。そして“アトリビュート”と登録しろ。ハチは融合・混合・化合を、ルバーに感じやすいようにゆっくり丁寧にやってみろ。こいつなら、それだけで、理解するはずだ。問題は何を作るか、だ」


 ハチがキレちゃって、二重取りかも? のまま実査をする事にしたの。

 この時も、私の想いが暴走しちゃった。

 よくよく、考えてよ。

 私、日本から転生してきた身としては、不幸のタネを撒きたくない……そう考えても仕方がないと思わない?

 融合は、融け合わせる事。

 混合は、混ぜ合わせる事。

 化合は、……。


「ゆっくりで良いからね! 確か、急いで化合すると爆発するはずよ。水素爆弾の原理だったはず」

「なるほど……急速な化合で爆発するのか……このガスで爆弾が出来る……作ってみてくれ」


 お父様の、この台詞で私は前世に戻ってしまったの。

 だって、私は……あたしは……。


「あたしは、戦争経験者。爆弾と聞くと、どうしても思い出してしまうんだよ。原爆も核化合で引き起こされる爆発だからね。その原爆が招いた悲劇を見てきた、あたし達にその話をしないでおくれ。あの時の、苦しい時代と一緒に蘇って来るんだよ。哀しくて苦しくて辛い記憶が……。あんな物さえ生まれなければ、回避されていた結末だったと、今でも思っているよ。核爆弾から齎される事は、悲しみしかない。やめとくれ。この世界に、哀傷を撒き散らす物を作らないでおくれ」


 私の哀しみを理解してくれたのは、ルバー様とトッシュ。

 今、思うとトッシュは知っていたのかも知れないわね。

 そんな雰囲気を、醸し出していたわ。

 反対したのはお父様。

 きっと、前世での科学者と同じ気持ちだったと思うの。

 目の前に面白そうな玩具がある!

 遊んで見たい……その好奇心を抑える事は出来ないわ。

 でも、その結果がみんなの哀しみを齎す物よ。

 もちろん、全てが! とは、言わないわ。

 素晴らし恩恵も、たくさんある事も知っているし事実だわ。

 でもね……。

 それでもね……。


「ガロスの気持ちはよく分かる。僕とて同じ気持ちだ。特に魔力を持たなかったガロスなら、なおの事だろう。でも……不幸のタネは……蒔け無い。カムイくんを悲しませる気か! ナナくんを苦しめるつもりか! 誰もそんな事は望んでいない。今は、全ての人に魔力が宿っている事が証明された。今すべきは、化合の登録・考査・実査では無く、無属性の無限可能性を考査する方が大切だろう。魔力は個人のモノでも、マジックアイテムは全てのモノの為にある! ……だろう?ガロス」


 このルバー様の言葉で、お父様も折れたの。

 違うわね。

 お父様も、ちゃんと理解していたんだわ。

 それでも、面白い化学おもちゃで遊んで見たかったのよ。

 その心は科学者だわ。


 さて、気を取り直して始まった実査。

 外では大混乱に陥っていたとも知らずにね。

 楽しいんでしまったの。


「それでは、ハチ。まずは、ミストからアトリビュートして見ましょう。と、その前に、ルバー様。ハチに触れて下さい」

「そ、そうですね。では、ハチくん失礼しますよ」

『はいワン。えっと……“フリーザ”』


 ルバー様が、ハチにしっかり触れている事を確認してからの言葉で、金色の球体がハチの口から飛び出したわ。

 そして、差し出した小さいルビーとアクアマリンを飲み込んだの。

 何かを吟味するかの様な沈黙の後、始まったわ。


『う〜ん、よし。“アトリビュート・混”……よし出来たワン』

「ふ〜う。なるほど。とても興味深いですね。結果を見る前に、次に進んで下さい」


 ルバー様が急かすように、話したの。

 今の感じを、忘れたくないのね。

 私も急ぐように言ったわ。


「次は、土属性のシトリンと黒属性の黒真珠ね。ハチ、よろしく」

『はい、ワン。……う〜ん……。よし! “アトリビュート・融”……出来たワン!』

「なるほど。ハチくん、そのまましていて下さい。……、……、……“アトリビュート”……よし! 登録完了。ハチくんどうですか?」

『面白いワン! 僕の魔術の欄に、アトリビュートがあるワン。あれ? 灰色で反応しない? ? 』

「あれじゃないの? ほら、材料が無いからよ」

『う〜ん? ここにある、魔石を飲み込むワン。僕が持っていてあげるよ』

「ハチ〜。魂胆、丸わかりね。ダメです。“アトリビュート”するときに、必要な分だけ! 取り込みなさい。そうしないと貴方、余計な“アトリビュート”しちゃうでしょう! それより、新しく出来たキメラ魔石を実査しましょう」

『は〜いワン』


 あらあら、意気消沈してしまったわね。

 ハチなら、間違いなく“アトリビュート”を乱発しそうなんですもの。

 許してね。

 その思いを込めて、優しく撫でたの。

 そんな、私をチラッとみて、分かってワンと言いたげな目をしたわ。

 ウフフ、可愛いわね。


 さて、目の前のテーブルには、ルビーの勾玉とアクアマリンの勾玉が合わさり1つの円形になったキメラ魔石と、スモーキークォーツの勾玉が1つ転がっているわ。

 大きさは、ルビー&アクアマリンのキメラ魔石は冷凍みかんサイズ。

 スモーキークォーツのキメラ魔石は金柑サイズ。

 ルビー以外は似たようなサイズだったのに、こんなに差が生まれるなんてびっくりだわ。

 どうも、混合すると冷凍みかんサイズになるみたいね。

 前のルビー&エメラルドのキメラ魔石も、似たような大きさだったもの。

 間違い無いわね。

 それにしても、綺麗ね。

 でも、身につけるには大きずぎるわ。

 その一方で、スモーキークォーツのキメラ魔石は、ちょうどいい大きさね。

 ペンダントトップに、ピッタリだわ。

 私が取ろうと手を伸ばした時、同じ様に伸ばした人がいたの。

 その人と、目が合ったわ。

 一瞬、時が止まり動き出したとき思わず笑ってしまったの。

 だって、ね。


「お父様は、ルビー&アクアマリンの方だったんですね」

「ナナは、スモーキークォーツだったのか。一瞬、目が合ったから譲らなければならないかと思ったぞ」

「私は墨の方が気になりますわ。どんな風になるのか、分からないんですもの。未知なる物に惹かれます」

「未知なる物か。確かに惹かれるな。しかし、ランクの違う魔石が、どんな風に影響が出るのかも気になるぞ。ウフフ、正直言っていいなら……両方だ!」

「キャ!」


 お父様ったら、私の手の中にあったキメラ魔石を奪ってしまったの。

 今、2つともお父様が握っているわ。

 ニギニギしながら、マジマジと見つめているの。

 ルバー様は黙って、その光景を見ているだけ……変ね。

 何を考えているのかしら?

 まぁ、いいわ。

 そんな事より、お父様が握っているキメラ魔石よ!


「お父様! 2つもズルいですわ」

「アハハハ、すまんすまん。でも、マジックアイテムは俺が実査するのが常なんだ。ついつい、なぁ」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。魔術に関しては僕ですが、アイテムに関してはガロスです。まずは握って感触を確かめてから、発動します。いつものことですね。ただ今回は……譲って欲しかったです。僕も、ニギニギしたいので、とっととして下さい」

「アハハハ! すまんすまん」


 ウフフ、本当に仲良しさんなんですね。

 お父様とルバー様。

 左手にはルビー&アクアマリンのキメラ魔石。

 右手にはスモーキークォーツのキメラ魔石。

 まずは、左手を差し出し魔術を口にしたわ。


「……“ミスト”……」


 恐る恐る、魔術を唱えたお父様。

 その瞬間、視界ゼロの霧が部屋を覆ったの。

 ベタつく感じではなく、ハワイの雨? 霧のロンドン? とにかくカラッとしていて、ベタついていないのよ。


「全く見えませんわね。でも……何に使えるんですか?」


 私が、最大の謎を議題に上げてしまったようね。

 沈黙が痛いわ。

 そこに、小さな手が上がったの。


『す、すいません。発言してもよろしいでしょうか?』

「忠大? いいわよ。何かしら?」


 一歩前に出て、会釈したから話し出したわ。


『では、失礼いたします。“創造クリエイト・電受”で受け取りました映像を映し出す、スクリーンに活用をできませんか? ……ダメです。このミストを一箇所に留めておく事が出来ないので、無理……です』


 反応が芳しくなかったのか、発言は尻すぼみし、一歩下がってしまったわ。

 助けて上げたいけれど……私では無理ね。

 ハチを見たわ。首を横に振るだけ。

 ロクを見たわ。下を向いたわね。

 ネズミ隊を見たわ。それぞれが、明後日の方向を見て固まっていたの。

 お父様を見たわ。左手にあるキメラ魔石を見つめて動かない。

 最後にルバー様を見たわ。ミストを見つめて触ろうと両手をフリフリ。

 まるで泳いでいるみたいだったわね。

 触らぬ神に祟りなし。

 ハァ〜、どうしましょう。

 その時、お父様の頭にビックリマークが点灯したの。

 こんな風にね! !


「面白いぞ! ! ! !」


 突然の雄叫びに驚いたの何の。

 みんなの頭にもビックリマーク! よ。

 でも、お父様が左手を振ると……さらなる現象が起こったの。

 何という事でしょう!

 部屋全体に拡散していたミストが、お父様の手に合わせて動き出したの。

 ビックリマークが、もう一個増えたわよ。

 本当に驚いたわ。

 さらに、左手で円を描いて止まると……球体に集まり停止したわ。


「これなら、投影が出来ないか」


 何よ! そのドヤ顔。


「操れるのか」

「そうだ。意のままに」

「使えるな」

「だな」


 そして、阿吽の呼吸で意見をまとめた、お父様とルバー様。

 息ぴったりね。

 ちなみに、目をキラキラさせていたのはネズミ隊。

 投影が出来る事が分かると、興奮してお父様の周りを走り回っているわ。

 自分にも! ! の、境地よね。

 お父様は、忠吉の前にルビー&アクアマリンのキメラ魔石を置いたわ。

 頷いて手を離したの。


「色々、考査しなさい」

『はい!』


 師弟関係が強化された瞬間ね。


「次だ。ナナではないが……。本日のメインの実査だ。おそらく、文字を書くアイテムだと考査する。そのため紙を用意した」


 お父様は、ご自身のマジックバック改から1枚のA4サイズの用紙を取り出したわ。

 そこに、スモーキークォーツのキメラ魔石を握ったままの右手を翳したの。

 そして、一言。


「……“エクリール”……」

「嘘でしょう!」

『ひ、ひ、ひ、姫様! ! その、キメラ魔石を私に! どうか、私に! どうか……』

「忠大、落ち着きなさい。貴方の気持ちは理解できます。貴方だけではないでしょう。ネズミ隊やハチやロクも、同じ様に欲しいはずよ。落ち着きなさい」

『申し訳ございません。興奮して、我を忘れてしまいました。申し訳ございません』


 忠大が、顫動する気持ちも分かるわ。

 だって、お父様が“エクリール”と唱えた瞬間、真っ白い紙にお父様が頭の中に思っていた考査を、文字という形式で描かれていたんですもの。

 さらに……。


「……“エクリール”……」

「お母様!」


 お父様は、考査の描いていた紙の裏側にお母様の似顔を描いて見せたわ。

 まるで、転写をした様に美しいお母様をね。

 まだまだ! みたいな顔をしているわ。

 今度は何よ!


「これはいいぞ! ……“エクリール”!」


 何ない空中にゴシック体でデカデカと、ルバー! 面白いぞ! ! の、文字を描いて見せたの。

 目が点。

 みんなの、目が大きく見開き浮いている文字をマジマジと見つめてしまったわ。

 誰もが言葉を忘れてしまったかの様にね。

 それからが、大変だったわ。

 ルビー&アクアマリンのキメラ魔石を放置して、スモーキークォーツのキメラ魔石の取り合いになったの。

 そこで急遽、人数分のキメラ魔石が用意されたわ。

 もちろん、私の手元にもある。

 これで、私を介さず魔獣と話が出来るの。

 思った事を文字に起こせる魔法のキメラ魔石。

 まるで、夢の様な魔術だわ。


 そう、悦に浸っていると、扉を勢いよく開け放たれた。


「ルバー! 返事をせぬか! ! ! ! ! !」

「王! なぜ、この様な席に? スキル“意思疎通”で連絡していただければ、参上いたしました……のに?」


 明らかに様子が変。

 その後ろには、イヴァン様にマキノ様、ベルネ様と、お父様以外の貴族様。

 ハンナにグフさん。

 沢山の人が、鈴なりに押しかけていたの。

 驚いたのは私たち。

 何が起こったのか理解できずにオロオロしてしまったわ。


「王! 何かあったのですか?」


 立ち直ったのはお父様。

 ルバー様は、誰かに連絡をしたみたい。

 口がモゴモゴしていたもの。

 王様が答えるより先に、ルバー様が事の真相を話してくれたわ。


「ガロス。“アトリビュート”の実査をしたいばかりに順番を間違えたようです。今、オットーに連絡をしたら……。外では大騒ぎになっていた様です。当たり前と言えば……当たり前ですね。突然、無属性の属性がこの世に生まれたんです。この世界のすべての人に、無属性の表示がされたはずです。その影響で、ギルドはパニック。パンク寸前……だそうです。説明を頼みます。僕はギルドへ急ぎ、詳細を話します。このまま解除します。“解”。では!」


 王の一礼して、横をスルスルと抜けいていてしまわれたわ。

 残されたのは、お父様と私。

 ほんの出来心で仕掛けた悪戯が、思いのほか大きく反響し、怒られたしまった子供。

 しこたま怒られる子供たち。

 そんな構図よ。

 王様とイヴァン様、マギノ様、ベルネ様の前に、正座をして説明をしろ! と、迫っているんですもの。

 しかも、無言の圧力でよ。

 怖くて話せないわ!

 チラリと、お父様を見ると目を瞑り天を仰いでいるわ。

 これでは役に立たない!

 困ったわ。

 どうしましょう。

 すると、そこに1枚の紙がヒラヒラと舞い降りたの。

 王様をそれを取り、読み上げたわ。


「私、ルジーゼ・ロタ・ナナ様の家臣、忠大と申します。

 この度は、報告も無しにこの様な騒動を起こしました事を、心からお詫び申し上げます。我々とて、この様な騒動になる事を考査しておりませんでした事もお詫びいたします。申し訳ございませんでした。

 この度、紅蓮の龍王トッシュ様の発言により、この世に魔力を持たない者などいないとの事。さらに、ルバー様のスキル“全能”はスキルでも魔術でもなかったようでございます。“全能”は“全能”。魔力を神へと献上するためのシステムだったようです。

 特殊魔術であろうが、特殊スキルであろうが、属性であろうが、登録する事が出来るとの事です。その事を実査するために、無属性を登録いたした次第。結果は大成功。見事、この世に無属性が登録され、全ての者に魔力があると確定したのです。この時に、王様や貴族様方にご連絡をしていれば何の問題も無かった事でしょう。大切な報告を怠り、次なる考査と実査を始めてしまった次第です。その報告は後日、改めてガロス様とルバー様からあるものと思われます。

 取り急ぎ、掻い摘んでご説明いたしました。ネズミ隊・忠大」

「「「「「「………? !」」」」」」

『アハハハ! あんた達、早速そのキメラ魔石を使ったんだね。上手いじゃないの』

『これで、僕たちの声がみんなに届くワン』

『ですが、一回使っただけでこの様に壊れました。よく見てみますと。最初に“アトリビュート”いたしました、スモーキークォーツのキメラ魔石も壊れていたようですね。補充も出来ないようです。ランクの高い魔石で実査をしてみたいものです』

『『やろう! やろう!』』


 開いた口を閉じるのを辞めて、思考も停止して、呆然とこの子達の考査を聞いていたわ。

 お願いだから、場の空気を読んで!

 忠大だけは、私の味方だと思ったのに!

 違ったみたい……。

 ハァ〜。

 凍った、この部屋を溶かしてくれる方!

 急募です! !

 救世主を求む! !


 無情な時間だけが流れていく……。

私も欲しい!

スモーキークォーツのキメラ魔石!

頭の中にあるプロットを忘れない為に、絶対欲しい! と思った人!

手を上げて!……ハイ、全員ですね。


気が付けば110話。

早いような〜、早いような〜、やっぱり早いですね。

読んで頂いている神様(読者様)達へ。

本当にありがとうございます。


それではまた来週会いましょう!

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