109話 あらあら、不幸のタネですって
幸せな時間て、あっという間に過ぎるモノよ。
……お父様にも魔力があった……無属性と言う魔力がね。
そもそも、無属性と言う属性は無かったの。
当たり前と言えば、そうよね。
でもその事こそが、間違いだったみたい。
トッシュの話では、スキル“魔力察知”に問題があったようね。
これは、魔力を察知するためのスキル。
ところが察知していたのは、魔力ではなく属性だったようなの。
さらに、スキルでは無く魔術だと言うのよ。
「この世に魔力の無いものなぞいない!」
だって。
本当かしらと怪しんだけれど……マジもマジ!
大真面目な話だったの。
その鍵を握るのが、ルバー様のスキル“全能”。
「感じろ、そして名を与えろ」
どこかで聞いた台詞だけれど、ね。
まさに、その言葉通りにルバー様がすると……。
「……無属性……」
「ルバー! 俺に魔力だ! 魔力だ! 魔力だ! 魔力だ! 感じるぞ……明確に……魔力だ! !」
「わかった。わかったから少し落ち着け」
「無理だ! 魔力ーーーーーだ!」
大興奮のお父様。
仕方がない事かもしれないわ。
だって、この世に無属性が登録された瞬間だったんですもの。
そしてまた、この世に魔力が無い者などいない事を証明したんですものね。
お父様の喜ぶ様は、凄かったわ。
なんでそこまで……と、思ったのよ。
でもお父様は自分の事より、私やカムイの事を想っていたの。
魔力の無い者の苦しみを、1番理解しているのはお父様ですものね。
子供の事を想わない親はいないわ。
親と言う生き物は、煩わしいくもあり愛おしいくもあり、めんどくさい生き物なの。
そうね、家族と言う絆がそうさせているのかもしれないわね。
私の娘も、親孝行よ! の、旗振りの元あっちこっちと連れまわされたわ。
楽しかったけれどね。
その事を少しだけ話したの。
竜もいたし、娘と義理の息子の事を話したかったのよ。
竜に教えたかったの。
貴方の両親は、貴方を愛して愛して愛して! 止まなかった事をね。
もう少し話したかったわ。
でも……。
『ご歓談中、申し訳ありません。ど、ど、どうしても! ! 気になることがございます。話しても、よ、よ、よろしいですか?』
オドオドした様子で、話して来たのが……忠凶。
どうしても、ルバー様がやろうとしていた、ハチの特殊スキル“フリーザ”から生み出されるキメラ魔石を個別にするのでは無く1つのグループに纏めてはどうか? の案を考査し、実査したかったみたいなの。
そうそう、これもまた大変な騒ぎになる事があるわ。
「ガロス。トッシュ様の言う通り、この世にスキルは存在しない。あるのは魔術だけだと僕は考査する。全てを魔術に統一するべきでは無いのですか?」
「しかし、魔力を使わずに……。そうか、全ての人には無属性の魔力を備えている。……う〜ん。無属性の魔力を使うのがスキルと考えることは出来ないか。全てを魔術にするには無理がある。いきなりの変化は軋轢を生まないか?」
「……その通り……ですね。そこいら辺が落とし所……ですか」
「だなぁ」
そんな会話があって、成立したのがスキル=無属性魔術と言う事らしいわ。
そんな重大な事を、こんな所で決めていいのかしらと思うんですけれどね。
そして、始まったのがネズミ隊とハチとロクとルバー様とお父様が、待ちに待った特殊スキル“フリーザ”による実査が行われようとしたの。
ハァ〜、なんだか頭が痛いわね。
まずは、おさらいをするわね。
お父様とルバー様の勧めで、翡翠とガーネットを混合したの。
出来上がったのは、翡翠色の勾玉とガーネット色の勾玉が2つ合わさり、1つの円を形成している石が出て来たわ。
発動する魔術は……ファイヤストーム。
炎の竜巻小型版が、お父様の執務室の机を焦がしたの。
次に、お父様がガーネットとエメラルドで実査してくれと。
ところが、失敗に終わったの。
混合できなかったわ。
そこで、同じランク同士の魔石、ルビーとエメラルドでやってみたら……最高の魔石が誕生したの。
それは……補充可能な魔石。
それは……何度でも使用する事が出来る魔石。
それは……魔術“ファイヤストーム”が使える魔石。
それは……誰でも魔術を発動させる事が出来る魔石。
そう、キメラ魔石が完成したの。
そこまでは、順調に考査と実査が進んでいたわ。
ところがここで、トッシュが重要でもいらない事を言うから!
似たような事は、あるわよね。
どこにでも!
何でこんな時に、そんな重要な事を言うの! ! って事。
間が悪かったのよ。
違う方向に考査が進み、実査が止まったの。
改めて進めるにあたり、コレまでのことを話したわ。
ひと呼吸したのね。
紅茶まで入れてあげたわ。
「ハチから生まれる物質を、アトリビュートと纏める事に関しては良いと思うぜ」
「トッシュ、どんな風に登録されるの?」
「おそらくだが……」
ニャリと笑った顔が怖いわ。
「忠吉、お前はどう考査する?」
『僕? ですか?』
目を丸くしたのは忠吉だけでは無く、この場にいる方々みんなが驚いた顔をしたの。
もちろん私もよ。
「どうして、忠吉なの?」
「え? 大した理由は無いんだが……。出来上がるのはマジックアイテムだぜ。アイテムなら忠吉だろう?」
「それも……そうね」
盲点だったわ。
魔術だから忠凶かとばかり思っていたの。
よくよく考えたら、キメラ魔石は魔石だからアイテムよね。
失念していたわ。
で、その忠吉の答えは……。
みんなが注目する中、話すのって緊張するわよね。
ガチガチの忠吉が可哀想だわ。
『えっと……その……僕がこ、こ、考査するに……』
吃ってしまっている彼を助けてくれたのは、私では無くお父様だったの。
「トッシュ様。マジックアイテムに属性はあまり重要ではありません。その物の質量だったり、素材の良し悪しの方が大切なのです。魔力や属性は二の次三の次なのです」
この言葉に忠吉ったら、大きく頷いて賛同していたの。
お父様に勇気付けられたのか、ノリノリで話し出したわ。
『その通りです。魔力より、器です。なぜ皆様は、魔力や属性に拘るのかが甚だ疑問に思っております。僕は魔力より器の方が重要と考査いたします。アイテムの真骨頂は、補うです。その為、魔力や属性より、持ち主が何を求めているか! そちらの方が大切なのです。そもそも……』
「忠吉! ストップ! 止まって! 話が違う方向に進もうとしている。貴方のマジックアイテムに対する熱い想いは、理解したわ。……落ち着いてちょうだい」
『は、はい。失礼いたしました』
あらあら、消え入りそうなか細い声でしょげちゃったわ。
意気揚々と話していただけに、申し訳ない事をしたわね。
「アハハハ! そうか、そうか、そうなのか。俺はてっきり、魔力の代用品がアイテムだと思っていたんだ。まさか、持ち主が何を求めているか、が重要なんて思ってもいなかったよ。なるほど、その考査なら魔力や属性などどうでも良いわなぁ。それよりも、魔石のランクによって質が変わる方が、より重要度が増す訳だ」
『はい! その通りでございます!』
顔を上げて、元気よく答えた忠吉。
キラキラお目目が可愛いわ。
あくまでも忠吉が、ですよ。
お父様やルバー様は、気持ちが悪いだけです。
でも、みんな楽しそうに2人の会話を聞いているの。
なんだか私も、ワクワクしてきた!
「よくよく考えてみると……不公平ね」
「ナナくん、何が不公平なのですか?」
「ルバー様。だって、ですよ。キメラ魔石を生成する事をアトリビュートで登録したとします。魔石を作るときに、ハチの魔力の半分が、神様に献上して作るのでしょう。そして魔石として使う時も、半分を神様にお渡しする。ね! 二重取りになりません? 狡くないですか?」
「……たしかに……」
「お父様もそう思いませんか?」
「う〜ん。登録はしても魔力を込めるだけなら、神様に献上されないのではないのかな?」
「変ですわ。キメラ魔石は混合するのでしょう? その行為は、ハチの魔力を使ってするのですから、魔術“アトリビュート”ですわ。魔術なら半分は持っていかれると私は考査します!」
「「「……」」」
私、余計な事を言ったのかしら?
お父様もルバー様もトッシュも、黙り込んでしまったの。
プチ!
何かが切れる音がしたわ。
『ダー! ! うだうだ、考査をしてもキリが無いワン! そもそも、有機物であろうが無機物であろうが、生きている者に違いないワン。神の禁忌をすることに違いないから、少し多く献上するくらいが丁度いいワン』
「アハハハ! アハハハ! ハチの言う通りだ。生きもんでもそうで無いもんでも、大地に生まれたもんなら倫理に触れる。神の身技だ。ルバー、ハチに触れて感じろ。そして“アトリビュート”と登録しろ。ハチは融合・混合・化合を、ルバーに感じやすいようにゆっくり丁寧にやってみろ。こいつなら、それだけで、理解するはずだ。問題は何を作るか、だ」
『だったら、混合は火と水で霧が出来ないかい』
「ロク、何を言ってんの? 相反する属性は出来ないでしょう。それに霧って、水蒸気を含んだ大気の温度が、何らかの理由で温度が下がる時に、含まれていた水蒸気が小さな水粒となって空中に浮かんだ状態を言うのよ。火なら温度が上がるからダメよ」
私は、知り得た知識をフル動員して話したわ。
ドヤ顔もバッチリ決まったし申し分無し、ね。
「いやいや、面白い案ですよ。火属性の魔石ランクを下げれば混合は可能です。それに、下げるには上げなければなりません。発動後に霧となる……この考査で十分、成功するでしょう」
「ブー!」
ルバー様のさも当たり前に考査に、思わず心の声が出てきてしまったわ。
「アハハハ! ナナは良い! マジでいいぜ! 面白い着眼点んとズレている知識。そのバランスが絶妙でいいね」
「トッシュ。それ……褒めてないわ」
「「「「『『『『『『『アハハハ!』』』』』』』」」」」
みんなで笑い合って、実査をする事にしたの。
まずは、魔石集め。
「混合は、ガーネットでは無くてルビーなんですか?」
「あぁ、そうだ。小さいのを持って来た。ランクを下げると混合が出来ないからな。そして、エメラルドだ」
「僕が持って来たのは、シトリンと黒真珠です。化合は……」
私をみんなが見つめたわ。
前世での知識を、披露して欲しいのね
「う〜ん。1番有名なのは水素と酸素で水のH2Oですわね。最近では健康志向の強い女子が、水素水なんて物も飲んでいたけれど……化学的根拠はゼロだったらしいわ。何が良いのやら? 私にはさっぱり理解出来なかったね」
「水素水……水素……酸素……水素、水素水素水素」
「お父様?」
「その水素とは……コレの事か」
そう言って、マジックバック改から取り出したのは、皮の袋。
「随分、昔に水が噴き出る洞窟から採取したガズなんだ。このガズが水なのではと考査したが……実査まで至らなかったんだ。今のナナの話だと。このガズ状の物と酸素で水になるんだろ? 酸素? 酸素? 酸素? ? ?」
「ハチ。空気中の酸素を分解して、皮袋の中身のガスと化合してみて。混じりっけ無しの水が出来るはずよ。それで化合が出来るはずだわ。……昔の事ですもの! これ以上は知ら無いわ」
『わかったワン。やってみる』
「ゆっくりで良いからね! 確か、急いで化合すると爆発するはずよ。水素爆弾の原理だったはず」
「なるほど……急速な化合で爆発するのか……このガスで爆弾が出来る……作ってみてくれ」
「お父様! そんな物を作って、どうするのですか! この世には、不必要な物です」
「科学は人を幸せにする学問です。人の不幸を招く知恵ではありません。人を傷つける化合はやめてください」
「ナナくん、なぜそんなに反応するんですか?」
ルバー様が不思議そうに私を見たわ。
私は目を閉じて自分に、落ち着け〜落ち着け〜、と言い聞かせていたわ。
私は……。
そう、私は……。
「あたしは、戦争経験者。爆弾と聞くと、どうしても思い出してしまうんだよ。原爆も核化合で引き起こされる爆発だからね。その原爆が招いた悲劇を見てきた、あたし達にその話をしないでおくれ。あの時の、苦しい時代と一緒に蘇って来るんだよ。哀しくて苦しくて辛い記憶が……。あんな物さえ生まれなければ、回避されていた結末だったと、今でも思っているよ。核爆弾から齎される事は、悲しみしかない。やめとくれ。この世界に、哀傷を撒き散らす物を作らないでおくれ」
「「……」」
お父様とルバー様から、ワクワクが消え去っていたわ。
私の哀しみが伝わってくれたのなら、良いんだけれど。
背負わなくて良い、不幸は避けたいわ。
悲嘆に暮れる、お父様の姿が見えた気がしたもの。
そんなのは絶対に嫌!
私の願いは……届いたみたかしら?
「ナナくん、理解したよ。ガロス、化合の登録しない。僕は、異世界人から前世での記憶を記録しています。そん中で、最も多い負のワードは……戦争・原爆・放射性物質・テロなどです。危険な現象は、この世界には不必要と考査します。化学が無くても魔術があります。必要ありません」
良かった! と、思ったのもつかの間。
この発言に、噛み付いた人がいたの。
「しかし! 魔力を使わない化学が、どれほど恩恵を与えるか考査した事はないのか! 化学が! 化合が! 魔力が無い者に、力を与えるかもしれないんだぞ! 俺は、俺は、考査と実査を……するべきだと思う。たとえ、危険でもやるだけの価値はある!」
「ですが、お父様……」
私の言葉を遮ってルバー様が話し出したの。
何とか止めて! !
「ガロスの気持ちはよく分かる。僕とて同じ気持ちだ。特に魔力を持たなかったガロスなら、なおの事だろう。でも……不幸のタネは……蒔け無い。カムイくんを悲しませる気か! ナナくんを苦しめるつもりか! 誰もそんな事は望んでいない。今は、全ての人に魔力が宿っている事が証明された。今すべきは、化合の登録・考査・実査では無く、無属性の無限可能性を考査する方が大切だろう。魔力は個人のモノでも、マジックアイテムは全てのモノの為にある! ……だろう?ガロス」
「……マジックアイテムは全てのモノの為にある……。フッ、フッ、フフフ……アハハハ! そうだったな。すまない。どうしても、魔力が無かった時の感覚が残っているんだ。“魔力を使わない化学”、この言葉がとても魅力的な響きに聞こえたんだ。そうだなぁ。今の俺には無属性と言う魔力があったんだ。そっちを優先すべきだ」
素直に謝罪したわ。
さずが、私よりも長く友を続けているのも伊達じゃ無いわね。
「不幸のタネを蒔け無い……かぁ。良い言葉だな。未来が見えている証拠のセリフだ」
「ウフフ、そうね。私もそう思うわトッシュ。タネを蒔かなければ花は咲かないし、実も付かない。不幸な事柄は見なかった事にしましょう」
「アハハハ! それも兵法の1つだなぁ」
一頻り笑って決心したの。
化合は登録しない。
不幸のタネは蒔か無いの。
前世でも、こうすれば平和な世界が待っていたのかしら?
それは、誰にも解らないわね。
「さぁ! ハチ! 貴方の出番よ! 登録するのは融合と混合よ。それにより齎される現象をアトリビュートとして、ルバー様が感じて名を与えれば良いわけね。なんだか、私もワクワクしてきたわ!」
みんなが一斉に頷いたの。
トッシュまでも、子供みたいな顔をしていたわ。
男の子なのね。
そうして……ルバー様の“全能”による、神への供物を登録したわ。
私たちは、目の前の玩具に見惚れて、色々と忘れていたようね。
この世界でも、前の世界でも同じ。
ほ・れん・そう……報告・連絡・相談。
コレを怠ったばっかりに、騒動に巻き込まれたの。
私がね。
ハァ〜〜〜〜。
誰も不幸のタネなんて育てたくありませんよね。
でも……不幸のタネなんて初めから分かっていれば誰も蒔か無いって!
わからないから育てちゃいんですよ!
ウフフ、そんな花……枯らして捨てちゃってください!
ゴミ箱にポイっと、ね。
それではまた来週会いましょう!




