104話 あらあら、清く正しく美しく! ですって
「バレてしまったのなら、仕方がないですね。僕がノックをしたのは「ハチは大丈夫よ」の後からです。あまりに返事がなかったので。聞き耳を立ててしまいましたよ。
ウフフ、詳しく知りたいです。僕のスキル“全能”が問題視されているようですね。誰にも言いませんから、この世界の理を知る手掛かりを下さい。
僕は、非常に興味あるんです。この世界は、なぜ魔族と人族が居るのか。ナナくんが齎した情報は、衝撃的でしたよ。なんせ、本当に魔族が居ると教えてくれたのですから。さらなる衝撃は、その魔族は僕らと変わらない姿をしていたんです。興味深いです! 非常〜に興味深いです! そ・し・て、聞いてしまった言葉。“神に仕える龍神”と“神の幼名はちょこ”。ハァ〜ハァ〜ハァ〜、教えて下さい。全てを僕に教えて下さい! ハァ〜ハァ〜ハァ〜」
こ、こ、怖いわ!
全力で逃げたくなる、そんな気持ちを押さえ込んで、この人をこちら側へと誘わなければならないんですものね。
でも……怖いものは怖いわ! !
「ル、ル、ルバー様。少し落ち着いて下さい」
「え? ハッ! す、す、済まない。謎か解明されるかと思うと、我を忘れてしまっていたようですね。そうだ! ガロスを呼ぼう。あの男がいると、ナナくんも話し易いだろう」
「ちょっと待ってください。お父様は呼ばないで欲しいのです。……これからからお話しする事は、お父様にも王様にもご家族にも、内緒です。誰にも話さないでください」
「……理解しました。それほど、重要な事柄なのですね。震えますよ。理に触れることが出来るなんて……感無量……この言葉に尽きる想いです」
と、しみじみ感慨に耽り始めたルバー様。
少しくらい放置で良いわね。
「トッシュ。ハチにしてもルバー様にしても、居なくなられては困る人達です。ハチはいいわ。私の足ですもの。この国に仕えている訳ではありませんから。私に仕えている大切な仲間です。でも、ルバー様は違うわ。国に仕える人。……どうする?」
私的にはトッシュに話したつもりだったんだけれど……ね。
「話すなと言われれば、誰にも言いませんよ。僕は確かに国に仕えいます。ですが、国は人なり!その信念が現国王の意思です。その意思は僕自身の意思でもあります。人が滅ぶ様な真似はいたしませんよ。王の意思ではありません」
「王の意思なら話すのかよ」
「話します」
「だったら、言えねぇ」
「ちょっと、トッシュ! 言わないつもりなの? それって、マズいんじゃないの?」
「確かに、マズいな。このままで行くと、強制連行だ」
「トッシュ! それは、ダメよ! そんな事をしては、ダメ! 人と神とが争う結果になるわ。貴方の本懐では無いはずよ」
「しかし!」
「しかしもヘチマもないの。ダメなものはダメなの! ルバー様を説得するしかないわ」
と、決意したものの……最大のミッションになりそうね。
まずは、ハチの特殊スキル“フリーザ”を話すべきよね。
はぁ〜、どれもこれも話せないことばかりね。
「「「……」」」
3人とも、だんまり。
「「「……」」」
沈黙が痛いわ。
そして、長いわ。
で、キレたのがトッシュだったの。
ある意味、ありがたかったわ。
「「「………」」」
「ダーー! 沈黙が重たいわ! ! 全て話す! 俺が責任を持つ」
「それしか……無いわね。まずは、神の魔術からですわ。ルバー様、願わくばこれから話す事は極秘にして下さい。そうしなければ……ご自身で大切な者を守る事が出来なるなりますよ」
「正直な話。承服しかねる! と、言いたいが。それでは、話が先に進まないみたいですね。よし! 僕は、ナナくんを信じる事にします。君は、僕の恩人でありガロスの娘だ。信じるに値るすよ。僕とガロスは、ソノア様を取り合った仲なんだ。今も昔も、僕のヒーローなんですよ。あ! これは絶対、秘密にして下さい。あの男に聞かれたら付け上がりますからね」
そう言って、ウインクしてくれたルバー様。
先に秘密の暴露をする事で、話しやすくしてくれたみたい。
ありがたいけえれど、秘密の重要度の差が激しいわね。
でも、嬉しかったわ。
その優しさが、私に話す勇気をくれたの。
「ルバー様、貴方の心遣いに感謝します。私が知りうる全てを話しますわ。先ずは、この子の特殊スキル“フリーザ”ですけれど。魔力や属性を与える事が出来るのはご存知ですね」
大きく頷くルバー様。
「夢の様なスキルだね」
などと言いながら、ハチをひと撫で。
グルグルと気持ち良さげな声をあげたわ。
「この力は、それだけに止まらなかったんです。トッシュの言葉を借りるなら……本質的に言えば“暴食之王”と“フリーザ”は同じ能力。保管だ。違いとしては、“暴食之王”の方は生きているモノも、保存が出来るし収納も可能。その一方で、“フリーザ”は生きているモノは基本ダメだが、それ以外の事は全て出来る。魔力の融合から隔離。属性の混合から化合まで出来る。新しい属性や魔術を開発することも容易いはずだ。そして……新しい魔獣も生み出すことが出来る……」
「新しい魔獣……キメラ……ですか」
「流石、ルバー様です。この子は私の目の前で、雀とミミズを混合して見せましたわ。なんちゃてコカトリスとかなんとか言っていたわね」
あらあら、心なしかハチが小さくなったわね。
「ウフフ、ごめんなさい。もう、言わないわ」
「なるほど。ハチくんは命を弄んでしまったんだね。それで、しょんぼりしていたのか。少しは、気持ちを理解しているよ。僕だって、魔力に溺れた事があるんです。術の考査が楽しくてね。そこいら辺にいる、獣を練習台にしていた事があるんです。もちろん、ガロスにこっぴどく叱られましたね。1つの命を奪う権利は無い! 自分に跳ね返ってくることを、考えた事が無いのか! 魔力があるからと言って調子に乗るなよ! お前なんか、俺がぶっ飛ばしてやる! ……懐かしいですね。そうそう、そのあと本当に殴られましたよ。その時、思ったのです。魔力が力では無いのだという事に。本当の力とは、魔術を使う術だと理解しましたね。ハチくんは、自分のスキルでナナくんを助ける事が出来ると、勘違いをしてしまったんでしょう」
ルバー様はハチを諭すように、目を見て話を続けたわ。
「助けたい、力になりたい、喜んでほしい……その気持ちは、十二分にナナくんに伝わっていますよ。
……キメラですか。確かに、魅惑的な響きですね。ですが、人道的に反します。あたらに生命を宿すならまだしも、獣の命を使うのなら問題があるでしょうね。自分に置き換えると理解しやすいでしょう。ナナくんの足であるハチくんに、ミミズの尻尾が着く。どうです? 凄い不便でしょう。困ること請け合いですね。それに、人体とは合理的で完璧な、存在なのでよ。これほど、美しいモノはありません。獣も然りです。僕は完璧なモノなど存在しないと思っていますが、人体だけはパーフェクトなモノだと思います。知っていますか? 怪我をすれば、勝手に傷を塞いで治そうとするのですよ。命令なしにね。そんな事が出来るのは、生きているモノだけです。
ハチくん、ナナくんを守るのが君たちの役目。そして、君たちを守り導くのはナナくんの務め。その為に、強くならなければならない。しかし、強さに惑わされてはいけないよ。常に、清く正しく美しくあれ! 心正しくあれば、おのずと強さは身につくモノです。その証拠がガロスですよ。あの男は本当に強いからなぁ〜。……理解できたかい?」
『はい! ワン』
口を挟む事が出来なかったわ。
怒る事で理解させようとした、私が間違っていたのね。
教えるって難しいわ。
「ルバー様、ありがとうございます。ウフフ、ルバー様にとってお父様は友であり、ライバルでもあり、とても大切な存在なんですのね」
「くれぐれも内緒にしてくれよ」
「はい、そうします」
私が続きを話す前に、トッシュが割り込んだわ。
「ルバー、お前は本当に苦労したんだな。
そこから先は、俺が話す。この世には人の身で使用してはいけない魔術がある。いくつかあるが、今のところハチの特殊スキル“フリーザ”とお前にスキル“全能”だ。
ハチのスキルは言わずもがなの、命を使用するスキルだ。そして、お前のスキルはこの世に生み出された魔術を世界に記憶させるスキル。そんな事が許されるのは神だけなんだぜ。それを、やってしまったんだ。神にしか出来ないはずの魔術を、なぁ。本来なら、神の領域、神界へと保護するのが慣例なんだが……。俺は、その必要はないと思っている」
「ちょっと、トッシュ。スキル”全能“にどんな問題があるの?」
「はぁ? だから、神にしか出来ない魔術だからだよ」
「だから、神にしか出来ないからなんなのよ!」
私とトッシュが不毛な言い合いが、5分も続いたの。
進まない話に、業を煮やしたルバー様。
なんで私より、理解が早いのよ!
「ナナくん。僕のスキル”全能“は全ての属性を備え、全ての魔術とスキルを習得する必要があるんです。これがなかなか難しい。属性は、生まれ持ったモノなのでどうにもなりませんが、術は考査次第で使えますし、スキルに関しては訓練あるのみ! なので、本当に大変なんですよ。次に難しいのが、どんな魔術やスキルがこの世界に相応しいかを見極めなければいけません」
「なぜ、そんな事をするんですか?」
「もし、もしも、ですよ。無差別に殺してしまう魔術を世界に登録したとします。属性が合っていれば、誰にでも使えるようになる訳です。誰にでも! ですよ。大量殺戮魔術を使える人族が、大勢いる事になるんです。そんな事、許される訳がありません。登録する魔術やスキルの考査をしっかりした上での、登録なんです」
「ですが、ルバー様が未登録の魔術をしてしまうと、登録されませんか?」
「ウフフ……。実は登録をする前に”レコード“と唱えています。口には出しませんけれど。その場合、魔術としてはまだまだですね、と言って登録しません。そんな人族にも危ない魔術は、この世には必要ありませんからね。それに、国の意思ではありません」
「ルバー、それが正解だ。ハチの”フリーザ“も似たようなもんだ。この世には不必要な力。いらねぇんだ。その意見に対して何の不満もない。しかし、有無を言わさないやり方が気にくわない。保護なんて嘘っぱちな言い方しやがって。やっている事は監禁なんだ。そんな事が許される訳があるかぁ! 俺は100%ゆりかご派なんだぜ」
「ゆりかご派? と、は何ですか?」
怒れるトッシュを置き去りにして、とんでもないところを気にしたルバー様。
流石というか何というか。
おもしろい箇所が気になる人なのよね。
この人は。
「ルバー様。この世は神様のゆりかご何ですって。そのゆりかごを創ったのが龍神。そして、幼い神様を守っているのも龍神。そこで、この世界を創った龍神をゆりかご派と言っているんです。幼い神様を守っている龍神は……?」
「ちょこ派……だな」
「プッ、プッ、プッーー!ちょことはおもしろい神様ですね」
『神を愚弄する気か! ! 人風情が! ! !』
『イヤーーー!』
『ちょこ様。いけません! そちらへは! ちょこ様! !』
ルバー様が神様を笑った瞬間、脳幹をグラグラと揺らす気持ち悪い声が頭に響いたの。
もちろん、私だけではなくルバー様にもね。
本当に酷いわ。
でも、すぐに治ったの。
不思議に思っていると、トッシュの話した内容で理解したわ。
「フン。俺たちの事にかまけている間などないだろうに。なにが、神を愚弄するな! だ。お前らこそ、人を、魔獣を、知恵ある者たちを、なめるなよ!」
トッシュの怒りが、その言葉に込められていたわ。
彼は、どこまで行っても私たちの味方なのね。
そんな心強い言葉にホットしたのが私で、面妖な顔をしているのがルバー様。
これも当たり前といえば、そうなのよね。
私もそうだったもの。
アレは、結構クルのよ。
本気で不愉快極まり無いわ。
「ルバー様。大丈夫ですか? 生きていますか?」
「あぁ、あぁぁ……。今のは何なんですか? 脳を強く揺さぶられましたよ。もしくは、物凄く強い酒をたらふく飲まされた後のような、気持ち悪さがありました。ハァ〜、ハァ〜・・・ウゥ! 吐きそう」
「ルバー様!」
ハチも心配しながら、近付いてくれたわ。
トッシュも同じような、動きをしたの。
ルバー様は青い顔をしながら、うつ向いてしまったわ。
吐きはしなかったけれど、グッタリしてしまったの。
虚ろな目で、訴えてきたわ。
一言も話さなかったけれどね。
「今のが、ちょこ派と言われている方達みたいです。“ちょこ“とは、神様の幼名なんですって。なんか、ちょこちょこ動き回るから付けられた、お名前みたいですよ。私はとっても可愛いと思うんですけれど」
ここでチャチャを入れてしまうのが、トッシュの悪い癖。
迷惑を被るのは私達。
ハァ〜、流石に2連チャンは辛いわね。
「そうかぁ? 腐っても神だぞ。アレが言うことを聞く様な玉じゃない。聞かずに、あっちこっちと動き回るんだ。飛んだ迷惑野郎だぜ」
余程の怨みか、怨念があるみたいね。
その遺恨が怖いわ。
そんな事を言うとまた……。
『火龍! 口を慎まぬか! ! ! !』
「キャーー!」
「ウゥ、ウゥ、ウェ〜」
「キャーー! ルバー様! しっかりして下さい! !」
そうなの。
トッシュが要らないことを言うから、龍神の鉄槌が下っちゃったじゃない。
1番の被害者は……ルバー様。
せっかく耐えたのに……憐れなり……。
ハァ〜、掃除が大変かも?
少しだけ短くてすいません。
しかも、ルバー様がリバースして終わりました。
これでいいのか! とも思いましたが、私らしいのでOK!
それではまた来週会いましょう!




