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103話 あらあら、私の居場所ですって

 

「ハチ、私が言った言葉が理解出来ないのなら……本当のお別れよ」


 私は静かに、怒りを表現したわ。

 そもそも、トッシュが悪いのよ。

 ハチに変なことを教えるんだもの!

 でも真犯人は……特殊スキル“フリーザ”なのよ。

 このスキルの恐ろしい所は、最後の一言よね。


「その通り! 沢山の情報に見落としていたんだろ。本質的に言えば“暴食之王ベルゼビュート”と“フリーザ”は同じ能力だ。保管だなぁ。違いとしては、“暴食之王ベルゼビュート”の方は生きているモノも、保存が出来るし収納も可能だ。その一方で、“フリーザ”は生きているモノは基本ダメだが、それ以外の事は全て出来る。魔力の融合から隔離。属性の混合から化合まで出来る。新しい属性や魔術を開発することも容易いはずだ。そして……新しい魔獣も生み出すことが出来る」


 このスキルの特性は、保存、融合、隔離、混合。


 ……新しい魔獣の創造……。


 この言葉にピント来たのが、ハチ自身だったわ。

 特殊スキル“フリーザ”を使えば、キメラを創る事が出来るの。

 もちろん、スキル“闘気功”が使えるか、1分間の息止めが必要になるけれどね。

 それでも、神なる技よ。

 物凄いポテンシャルを秘めたスキルよね。

 ネズミ隊もルバー様もお父様も、惹きつけられるはずだわ。

 でも、私の心の中は不安で一杯だった。

 その想いは的中したの。


『ナナ! 成功したよ! なんちゃってコカトリス』


 新しいおもちゃを手に入れた子供みたいな声で、楽しそうに言い放ったわ。

 見せられた“なんちゃってコカトリス”とは、雀の身体にミミズの尻尾。

 恐れていたことをしたのよ。

 その事こそが、トッシュが言いたかった神なる魔術の真意だったみたい。

 だからこそ、彼ら龍神たちは神なる魔術を持つ者を保護しているらしいわ。

 まぁ〜、名目は保護でしょうけれど、実態は監禁よね。

 トッシュ自身は反対のスタンスをとっているわ。

 彼は、神のゆりかごで生きる私たちの味方ですもの。

 それにしても、空に居る龍神の声は気持ち悪かったわ。


『煩い! 小娘! ! お前に何が分かる? 神のおもちゃのクセに、出しゃばるでは無いわ! 火龍よ。そこに居る犬神とスアノース・ルバーを連れて参れ。保たれている世界が崩れる』


 頭の中に直接、響いた言葉だったのよね。

 脳幹をグラグラ揺らす声に、目眩がしたわ。

 まったく気持ち悪いじゃないの!

 すると、トッシュが柏手を2回パンパンと反響させたわ。

 あら、不思議。

 グラグラが収まったのよ。


「悪い。音による結界だ。今のは、もう1つ意味があったんだ。柏手は、神に話を聞いてもらうための合図なんだよ。アハハハ! ざま〜みろ! 幼い神を起こしてやったぜ。これで少しは時間が稼げるはずだ」


 なんとまぁ〜。

 神様を起こしたんですって。

 大胆な事をするわよね。

 でも、そのおかげで楽にはなれたんですけれど。

 その天空に居る、龍神と神様の事も気になるけれど……先ずはハチよね。

 ハチ! !


「ハチ。もう一度言うわ。命を弄ぶなんて、絶対に許さない。貴方にどんな権限があるの? 神にでもなったつもり。遊ぶぐらいなら、ここから出て行きなさい。そして、もう2度と乗らない。貴方とはお別れよ。……私がなぜ怒っているのか、分かる? 私の言った意味が、理解できる?」

『僕が……命で……遊んだから? で、でも! ナナに足を着ける事が出来るよ。魔力だって上げる事も! 僕なら出来る! 何だって出来る! !』


 意気揚々と言い切ったハチ。

 ため息しか、出ないわ。


「ハァ〜。私は要らないわ。新しい足も魔力も。何もいらないわ。だって、必要無いもの。取り換えの効かないモノが、命でしょう。

 ハチ、まだ理解できない。だったら貴方に聞くわ。私に足をくれるのよね。その足はどこから調達してくるの?」

『……』

「魔力もくれるんだったわね。魔力はハチが保有しているのをもらうとして……貴方には何が残るの? 私が欲しいと言えば、足でも魔力でも特殊スキルでも! 何でもくれるんでしょう? ……ハチ……まだ分からない?」

『……』

「奪われた方は、何も無くなるのよ。貴方にとって魔力って、いらないモノなの?」

『……』

「私の足なんでしょう。その魔力で、守ってくれるんでしょう。なのに、私に上げたら貴方は用無しね。

 ハァ〜、ハチ……奪われる側の心を考えなさい。常に周りに、想いを巡らせなさい。ハチ……貴方のスキルは人の運命を変えてしまう力を秘めているわ。恐ろしい事よ。その、指先1つで人生を捻じ曲げてしまう。もちろん、捻じ曲がった人生を真っ直ぐにしてしまう事も出来るわ。だからこそ、だからこそ! 注意が必要なの。定めすら、変えてしまうのよ。私の定めも、貴方の定めも、ね。

 ハチ、私の話を聞いて考えてちょうだい。私のためと思っているのなら、思い上がりよ。私は嬉しくないわ。だって、不自由していないもの。足が無くても貴方がいるわ。魔力が無くてもロクがいるわ。家族が側にいなくてもあなた達がいるわ。足が無いからっといって、可哀想だと思わないで。魔力が無いかっらといって、格下と思わないで。私は私よ。ルジーゼ・ロタ・ナナよ! ハチとロクとネズミ隊の、護られる姫よ。そして、あなた達を守る主よ」


 私は力の限り、ハチを抱きしめた。

 背中に冷たいモノを感じだわ。


『ズッ〜ル、ズッル〜ズッ、ズッ〜ル。ナナ……ごめん。僕が間違っていた。すぐに戻すよ。ごめんよ。雀とミミズに謝る。僕が間違っていた。思い上がっていたんだ。何でも出来るから、出来てしまったから。……でも、でもでも、嬉しかったんだ。ナナの力になれると思って、嬉しかったんだ。ナナを歩かせる事が出来ると思って……嬉しかったんだ。

 ……違ったんだね。ナナにしてみたら、違ったんだね。善かれと思ってする事が、その人にとって良いとは限らない。ナナにしてみたら自分で歩くより、僕の背中に乗って歩く方が良いという事なんだ。何が最善の方法なのかが、大切だったんだね。雀はミミズの尻尾なんていらない。迷惑なだけだ。

 ロク、僕は怖いよ。僕の持つ力は、人や獣の運命を変えてしまうんだ。怖い事なのに、気付かずに、喜んでいた。さっきまでの自分の殴りたい。お前の思い上がりで、大切なモノを失くすところだったんだ! と……言いたい』

「ちゃんと理解したじゃなの! そうなのよ。怖い事なの。雀さん、ミミズさん、ごめんなさいね。すぐに戻してあげるからね」

『大丈夫だチュン』

「ありがとう」


 ハチが、特殊スキル“フリーザ”で元の姿に戻してから野に放ったわ。

 その時、雀の声が聞こえたの。

 もちろん、ハチに言ってあげたわ。

 嬉しそうにしていたわね。

 涙と鼻水でグチャグチャの顔がほころんでいたもの。

 これで、良し!

 私はまた、ハチに乗せてもらったわ。

 やっぱり落ち着くわね。

 私の居場所って感じかするもの。

 そして、もう一度トッシュに向き合ったわ。


「トッシュ、ハチは大丈夫よ」

「そのようだな」

「ねぇ。あの、脳幹を揺さぶるように直接、話してきたのは何なの?」

「あいつらは、神に仕える龍神だ。神の世話をする乳母みたいなもんだな。ついでに、神が幼いから代わりに神の仕事の代行をしてんだ。俺たちゆりかご派とは同等のクセに、偉そうなモノの言い方しやがるんだぜ」

「今は……妨害が……無かったわね」

「アハハハ! 言っただろう。神の幼名は“ちょこ”って言うんだが、これが名前の通り、ちょこちょこ動き回ってじっとしてないんだ。あっちで暴れて、こっちで泣いてと忙しいことこの上ない。マジで大変なんだぜ。初めに適正を見るために、少しだけ見たことがあったんだ。俺、死ぬかと思ったぜ。2度とするか! と、硬く誓ったね」

「そうなのね。だったら、天の乳母達は気にしなくても良さそう。次は……ルバー様よ。そもそも、ハチの特殊スキル“フリーザ”は倫理的に問題があったから、神が保護するのは理解出来るのよ。でも、ルバー様はなぜなの?」


 あらあら、少し悩んでいるわね。


「ハチほど重要性は無いが。人の身で、していい範疇を超えているんだ。問題はスキル“全能”にある」

「“全能”ですか? でも、あれってルバー様が使用して世界に登録されるスキルですよね。それのどこに問題があるのですか?」

「う〜ん。まず1つ!使える条件にある」

「条件かぁ」

「「ルバー(様)」」


 そうなの!

 いつの間にか、ロクの横で正座をして居たのよ。

 誰だって、びっくり仰天でしょう

 驚いても仕方ない事だと思うわ。


「ルバー様! 女性の部屋に、勝手に入るのはマナー違反です! お父様に話しますよ!」

「すまない、すまない。ノックもしたし、声も掛けたのだが、返事も無くて……ついついね。僕の名前が出ていたしね……ついついね。トッシュ様が来ている様だったし……ついついね。……ついつい、すいません。で、僕がどうしたのですか?」


 開いた口が塞がらないわ。

 返事が無ければ、その場で待つのが紳士の嗜みでしょう。

 憧れのトッシュが居るからって、コソコソ中に入りますか? !

 まったく、恋する乙女は凄いわね。

 その行動力に呆れるわ。


「ルバー様、しばらくお待ちください」

「も、もちろんだよ」

<「みんな、聞こえる?」>


 私は、スキル“意思疎通”で話しかけたわ。

 最近、新しい機能が開発されたの。

 それは、グループ機能。

 まぁ〜、パーティー登録してある人、限定ではあるのだけれどね。

 複数人と話が可能なの。

 1度で済むから楽でいいわ。

 しかも、密談するには持ってこいなのよ。


<『はいワン』>

<『聞こているニャ』>

<『『『『『ハッ』』』』』>

<「おう」>

<「どうする? まずは、トッシュの意見を聞かせて」>

<「そうだなぁ。俺は、話してもいいように思う。ルバーなら、受け止められると思うが……天の龍神やゆりかごの龍神は、話さない方が無難だろうなぁ」>

<「どんな風に話せばいいのよ」>

<「俺が話す」>

<「お願いね」>


 めんどくさい事になったものね。

 だいたい、タイミング良すぎなのよ。

 思わずジト目で見ちゃったじゃないの。

 ウフフ、みんなで見ちゃったものだからたじろいてるわ。

 ウケる。


「ぼ、僕が……すいません。帰ります。ナナくん、窓を修理するから部屋を開けてくれ、とガロスが言っていたので、言いに来たのですが……」

「分かりましたわ。その前にルバー様に話がありますの。いいですか?」

「もちろん、いいとも」


 ニコニコ顔のルバー様。

 気持ち悪いわね。

 トッシュが咳払いをして、自分に注目させたの。

 ヘッタクソな咳払いだったんですけれどね。


「エッヘン。……な、なんだよ。こう言うの苦手なんだよ。と、とりあえずルバー! 俺の話を聞け」

「は、はい!」


 ハァ〜、畏っちゃたじゃないの。でも、ニコニコ顔を崩さないルバー様は流石ね。

 さて、どうするのかしら?

 お手並み拝見ね。

 その前に、私から言っとかないといけないわ。


「ルバー様。スキル“全能”に問題があるみたいなんです」

「僕の……かい?」

「あぁ、そうだ。神の領域の秘術。神の魔術なんだ」

「僕が保有しているスキルですが、魔術では無いですよ?」

「アハハハ! ナナでさえツッコミを入れなかった事を言ったぞ!」

「私だって、分かっていましたよ!」

「すまんすまん。神にして見たら、魔術もスキルも同じなんだ。魔力を使い術を発動させるのが魔術。身体に廻る気を使い術を発動させるのがスキル。魔力と気の違いだけで、まったく同じなんだ」

「それは、初耳ですね。その考査が正しければ、魔力がない人でも、魔力の素があれば魔術の発動が可能と言う事になります」

「その通りだ。だいたい、難しく考えすぎなんだよ。魔力は身体に廻る気の1つだ。そもそも、魔力が無い者がいる方がおかしいんだ。ナナちょっとそこに立ってみろ」


 などと、突然言い出したトッシュ。

 とりあえず、ハチの上で姿勢を正したわ。


「良し。ジッとしていろよ」


 大きく頷いたわ。

 トッシュは目を閉じ、私の身体の1センチ上をゆっくり動かし始めたの。

 何度も、何度もね。


「う〜ん? はぁ? えっ! マジかよ? ? ?」


 何よ! 何がマジなの?


「ナナ、すまん。もう少し考査を重ねたい」

「ちょっと、説明してよ!」


 明後日の方向を見ながら、乾いた笑いをしたわ。


「アハハハ〜……何にもねぇ。すっからかんなんだ。コレがナナだけなのかが、分からん。ルバーは何か知っているかぁ?」

「いいえ、知りません。魔力が無い者は、無いだけだと。そこから先に考査はしておりません。……確かに、不自然ですね。なぜ、魔力がある者と無い者が産まれてくるのか? その違いなど、考査した事もありませんでした。面白い着眼点です! 流石、トッシュ様! !」

「だろう! ちょっと、他のヤツも見てみよう」

「もちろんです!」


 今にも、出て行きそうな雰囲気を醸し出し始めたの。

 慌てたのは、私。


「ちょっと、トッシュ! 説明するんじゃなかったの? 話が違うじゃなの!」

「バカ、それを言うな! シィ、シィ」


 人差し指を口に当てて、静かにしろをアピールしていたわ。

 ひょっとして、トッシュの“俺が話す”は“俺が話をそらす”の間違いだったの?


「それが許される訳ないでしょうが! 私は、ちゃんと話すと思っていたのに! まったく、そんなんでルバー様の気が削がれる思ったんですか? あの顔を見てください。僕はしっかり聞きましたよ的な表情です。その考査が終われば、しっかり聞いてきますよ。この方はこんな人なんです!」


 私は、ルバー様を指差しつつそう言ってやりましたわ。

 当のルバー様は、ニヤリと不敵な笑みを張り付かせていましたの。

 そのままの顔で、言い切りましたわ。


「バレてしまったのなら、仕方がないですね。僕がノックをしたのは「ハチは大丈夫よ」の後からです。あまりに返事がなかったので。聞き耳を立ててしまいましたよ。

 ウフフ、詳しく知りたいです。僕のスキル“全能”が問題視されているようですね。誰にも言いませんから、この世界の理を知る手掛かりを下さい。

 僕は、非常に興味あるんです。この世界は、なぜ魔族と人族が居るのか。ナナくんが齎した情報は、衝撃的でしたよ。なんせ、本当に魔族が居ると教えてくれたのですから。さらなる衝撃は、その魔族は僕らと変わらない姿をしていたんです。興味深いです! 非常〜に興味深いです! そ・し・て、聞いてしまった言葉。“神に仕える龍神”と“神の幼名はちょこ”。ハァ〜ハァ〜ハァ〜、教えて下さい。全てを僕に教えて下さい! ハァ〜ハァ〜ハァ〜」


 こ、こ、怖いわ。

 全員で後ずさったの。

 だって、目が本気と書いてマジと読むの、本気だったんですもの。

 しかも、にじり寄る笑顔がコレまた……ね。

 夢に出てきそう。

 私はジト目で、トッシュを睨んだわ。

 そして小声で話したの。


「どうしてくれるのよ。ちゃんと話さないからよ」

「なに言ってんだよ。ナナがあそこで止めなければ、ここまで酷くなる事は無かったはずだぞ」

「私のせいだと言いたいんですか?」

「あぁ、その通りだ」

「責任転換です」

「はぁ?……」

『姫様! トッシュ様! 私が思いますに。今は、ルバー様に説明するのが先です! 逃げる時では御座いません!』

「「……はい。すいません」」


 でもね、忠大。

 ルバー様になんて言えば良いのよ。

 しかも、壊れたルバー様にどう話せばいいの?

 誰でもいいから助けて! !

壊れたルバー様は恐怖ですね。

1つの事に集中している時の私もアレくらい怖いのかしら?

皆様も気を付けて下さいね。

友達なくしますよ。


それでは、また来週会いましょう!

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