表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/154

102話 あらあら、神なる魔術ですって

 トッシュからこの世界の起源を聞いてしまったの。


「神のゆりかご……フン、この言葉かピッタリだな。そのゆりかごの管理者が俺たち龍神。火龍の俺。水龍のゴーゲン。風龍のポコ。土龍のイーガ。雷龍のチョンピ。黒龍のアーク。白龍のククル。……みんなで神のゆりかごを創り管理していた。上手く行っていたんだ。なんの問題もなくなぁ。

 ハァ〜、あまりにも上手くいきすぎていたのが、仇になったと思う。

 ハァ〜、俺の知らないところで、静かに想いが揺れ動いていたんだ。

 アークのが、密かに想いを寄せいた奴がいた。そしてもう1人、ククルにも想い人がいた。相思相愛のはずだったんだ。あいつら、側から見ていて分かるくらいの態度だったしな。でも、想いはすれ違う。感情は嘘をつく。愛は苦しい。

 ……ククルが……逃げたんだ。……仕事に……逃げたんだ。

 もとから、アークには仄暗い感情を隠し持っていた。黒龍だったしな。……その黒い情動に火を付けちぃまった。あっという間に加速し暴走した。それが100年前に起こった騒動のあらましだ。アークの野郎が、自我を崩壊させ全てを壊し始めた。それを食い止める為に、俺たちの奔走した。アークを、黒龍を、祠に封印することに成功したが……、神のゆりかごは跡形もなく壊れかけていた。責務を全うするには、俺たちの魔力を礎に創り直すしかなかった。その後が、あちらこちらにある龍の祠だ。あの祠は……俺の仲間達の成れの果て。アハハハ! ウケるだろう! あいつら力を使い果たし、眠るしか無かったんだ。誰も居なくなる訳にはいけないから、俺が残った。眠ると行っても、起きるわけじゃない。起きるのはククルだけだ。あいつは俺たちのまとめ役だったし、タカが外れた黒龍を止める役割も担っていた。アークの野郎は真面目で真剣で内気な性格だった。1度走り出すとなかなか止まらない暴走機関車。本当に暴走機関車だったなぁ。

 黒龍を封印した事で、解かれる事を危惧した白龍が自分も眠りに着くと言い出した。12年に1度、目を覚まし封印が解かれてないかを確認してまた眠る。それを繰り返してんだ」


 まさに、開いた口が塞がらないのことわざ通りね。

 だって、100年前の戦いを魔族と人族の領地争い、とお伽話でも有名な逸話よ。

 それが……ねェ。

 好きなのに…伝わらない、言えない……ひと夏の思い出……あばんちゅ〜る。

 ・・・・ごめんなさい。

 あまりの出来事に、くだらない事を言ってしまったわ。

 でも、それくらいの衝撃だったのよね。

 さらなる事実は、その白龍ククルが眠る龍の祠が、学園の卒業試験に使われているスアノースビーチの海蝕洞窟だったこと。

 なんとも、ご近所さんなことですわ。

 ハァ〜、さらに、さらに、トッシュは気になる事を言っていたわね。


「そのままの意味だ。随分前にルバーが言っていただろう。……神龍の柱は海になり、空になり、大地になり、風になり、そして、魔獣の王になった……だったかな。あの一文は間違いではない。そうしなければいけなかったんだ。追い込まれた末の選択だった。その原因になったのが……ハァ〜。神よ! もう少し喋らせろ! こいつらは当事者だ。知る権利ぐらいはある。何より、神なる魔術を持つ者には、秩序を保つ義務と権利が与えられる。その為にも知るべきだ! !」


 と、ね。

 気になる箇所は……神なる魔術。

 この一言だわ。

 問いただす前に、トッシュったら暴れたのよ。


「俺たち龍神は12年に1度、生まれ変わる。肉体を再構築し、魔力を補充する。俺はその年に代替わりをする。……ハァ〜、ただ分からないのが、封印が解かれたのに手を打たなかった事だ。ククルのやつは、アークの封印が解かれたのに何もしなかったんだ! なんでなんだ! 神よ! お前だって見ていただろう! !」


 そう叫んで、私の部屋の窓を破壊したのよ。

 お父様が、すっ飛んで来たもの。

 当たり前よね。

 娘の部屋から咆哮が聴こえ、パッリンと割れる音がしたんですもの。

 でも、ハチとロクに罪を被せてしまったわ。

 まさか、龍王が暴れたなんて言えば、大事になること請け合いですものね。

 仕方がなかったのよ。

 そんな顔をしないでよ! ごめんてば!

 そんな気持ちで、頭を撫でることで誤魔化したわ。

 しょうがないねぇ〜。

 みたいな表情たっだから、許してくれたみたい。

 ありがたいわね。

 何も語らなくても、通じるって素敵だわ。

 少し厚手のベニア板で、窓を塞いで話を続けたの。


「少し風通りが良くなったわね。……トッシュ……暴れないでちょうだい」

「悪りぃ〜。エキサイトしちぃまったわぁ。自重する。なんでも聞いてくれ。俺が全て話す! 誰も文句は言わせんぞ! !」


 また、空に向かって言っているみたい。

 天に誰か、いるのかしらね。


「ま、まぁ〜、いいわ。まず、聞きたいのは竜の特殊スキル“暴食之王ベルゼビュート”とハチの特殊スキル“フリーザ”がとても似ていると思うの?」

「……確かに似てはいるが……大きな違いがある」

「違い?」

「そうだ。竜が持っている“暴食之王ベルゼビュート”は保存が主なスキルだ」

「え?保存だけ?」

「あぁ、そうだ」

「違うでしょう。捕食、保存、分離、融合、隔離……よね?」

「それは間違いだ。確かに、捕食と保存と隔離は出来る。しかし、分離と融合は出来ない。竜の特殊スキルは保管だ」

「え? ! そうなの? だって竜が……あれ? 誰から聞いたんだっけ?」

「多分だが、ハチの“フリーザ”とごちゃ混ぜになったんじゃ〜ないのか? “フリーザ”は分離と隔離、さらに付与と混合が特徴だと思うぞ」

「ハァ? 混合ってなに? 混合と何が違うの? どちらも混ぜて1つにする事でしょう? 知ってる? みんな」


 私は側で、ワクワク顔の忠凶に話を振ったわ。

 すると首をフルフル。

 次にハチを見てもフルフル。

 みんなでフルフルして、トッシュを見たわ。


「マジでかぁ! 忠凶、スキル“走破”で診たんだろ?」

『確かに拝見して……混ぜる……そうか! 僕は混同していたんだ! 融合と混合は違う。融合は溶け合って1つになる事。混合は異なったモノが混じり合う事。融合は同質なモノ。混合は異質なモノ。融合は同じ属性、同じ形状のモノ。混合は違う属性、違う形状のモノ。凄いです! !』

「当たりなの?」

「その通り! 沢山の情報に見落としていたんだろ。本質的に言えば“暴食之王ベルゼビュート”と“フリーザ”は同じ能力だ。保管だなぁ。違いとしては、“暴食之王ベルゼビュート”の方は生きているモノも、保存が出来るし収納も可能だ。その一方で、“フリーザ”は生きているモノはダメだが、それ以外の事は全て出来る。魔力の融合から隔離。属性の混合から化合まで出来る。新しい属性や魔術を開発することも容易いはずだ。そして……新しい魔獣も生み出すことが出来る」

「ハァ?」

『キメラだワン』


 突然ハチが口を挟んだの。

 驚いて凝視してしまったわ。


「キメラって、あのキメラ?」

「そうだ。魔獣や獣を混合し、この世ならざる魔獣を誕生させることも……出来る。まさに……」

「神様ね」

「ナナ……その通りだ」


 私もそうだけれど、トッシュもハチを見つめたわ。

 この子の持っているポテンシャルが、天井知らずなのなんですもの。

 今更ながらに、怖い気がしたから。

 でも、そのあどけない顔を見ていると癒されるのよね。

 罪だわ。


「ハァ〜。ハチ、キメラなんて創らないでよ」

『……分かった……ワン』


 あらあら、しょげちゃったわね。

 でも、しっかり釘を刺しておかないと、とんでもない魔獣を創りかねないわ。

 倫理的に見てもダメよ。

 それでも、創りそうよね。

 しかも、ルバー様と一緒にね。

 タチ悪いわ!


「トッシュ、次の質問をしてもいいかしら?」

「あぁ、いいぞ」

「神なる魔術って何?」

「正確には、神なる魔術を持つ者、だな」

「者? という事は人族なの?」

「そうだ。人族だけとは限らないがな。要は、神と同等の魔術を持っているヤツの事だ。もっと簡単に言うと……ハチの特殊スキル“フリーザ”とルバーのスキル“全能”だ」

「え? ! ルバー様?」

「そうだ。新しい現象を、世界に認めさせる行為は神の領域。人族であろうが、魔獣であろうがやってはいけない事なんだ。もちろん俺たち龍神にも、許されてはいない」

「だったら何故、ルバー様が使えるのですか?」

「良い質問だ。答えは簡単」


 私たちを見回したの。

 生唾をゴクリ。


「答えは……神のみぞ知る……だ」


 ズコー! !


 盛大にコケたわ。


「トッシュ! ちゃんと答えてよ!」

「知らん。分からないんだ。時々、そんな能力を持って生まれてくる者がいる。でも、大抵そんなヤツは、早死にするんだ。訳の分からない、魔術やスキルを持った者は狂っているヤツが大半だからな。きみ悪がられ、野垂れ死するのが関の山だろう。仕方がないと思うぜ。自分の力に酔いしれるヤツだっているだろうし、小さな頃から抑圧されて育てば精神がおかしくなるもんだろう。ところが、ルバーは生きている。死ぬような目に何度も直面したはずだ。それを掻い潜って、今を生きてる。コレがどれほど大変なのか、想像を絶するよ」


 知らなかったわ。

 ルバー様に、そんな過去があったなんて。

 そう言えば、お父様に言っていたわね。


「あぁ、分からないね。だったら、お前に最大級の魔力を持って生まれてきてしまった、僕の気持ちが分かるのかよ! 常に狙われ、恐れられ、怖がられる。手を繋いだたけで、悲鳴を上げられた事があるか? 目を合わせただけで、殺さないでくれと言われた事があるか? 祖父に、地下牢へと閉じ込められた事があるか?

 それでも僕が生きてこれたのは、何も無いながらも、ひた向きに己と向き合い、持っているものを最大限に活かす方法を編み出すしながら、愛する者を守り通したルジーゼ・ロタ・ガロスと出会えたからだ。

 ガロス……頼むよ。目の前のまやかしに惑わされるな。その真理に目を向けろ!」


 と、ね。

 この言葉の意味を今、理解したわ。

 ルバー様こそ、魔力を捨てたかった事でしょうね。

 何度も、自分の魔力をお父様に上げることが出来ないかと、考えたでしょう。

 そう思うと、自然と涙がこみ上げて来たわ。


「その、ハチとルバー様が神の魔術を持つ者で、何が問題でもあるのですか?」


 トッシュは、ミルクティーを飲み干し、一呼吸してから話し出したわ。


「フウ〜。今、言いたよなぁ。神なる魔術や魔力を持っている者は大抵、狂ってんだ。利用されるだけして、殺されるのがオチなんだよ。それでも生き残るヤツはいる。国に保護されるパターンもある。そんなヤツは、この世界の秩序を護る義務が生じるんんだ。神と同じ能力なんだぜ。そいつがわがままで自分勝手なヤツなら、この世の終わりだろ。そう言ったヤツには、俺たち龍神が保護するのが慣例なんだ」

「だったら、どうしてルバー様は放って置かれたの?」

「……すまん! それに関しては、全面的に俺たちが悪い。そもそも、俺たち龍神はたくさん居るんだ。しかし、生まれたばかりの神が、幼すぎて手がかかりやがる。そのため、俺たち七柱にんに神のゆりかご創りを託されたんだ。ところが……」

「色恋沙汰をしてしまった訳ね」

「ナナ、……面目無い。俺たちが自分のことにかまけている間に、本来しなければいけない仕事を放棄した。そのせいで、保護しなければならないルバーを放置した。そのせいで、護らなければならない命を見殺しにした。そのせいで……神のゆりかごを……ぶっ壊した。俺たちが悪いんだ」


 男泣きをしたトッシュ。

 膝をついて泣き崩れたわ。

 歴史の真実ね。

 人なら、失敗は成功の近道! と、言えるのだけれど龍神がそれをしてはダメよね。

 だって神なんですもの。

 間違いでした、すいません。

 では済まないわよ。

 許されるはずないわ。

 でも、龍神と言えども心も持つ者ですもの。

 失敗もすれば、間違いもする。

 男と女が居れば、恋にも落ちる。

 誰にも責められるべき事では無いわ。

 それでも彼らは責任を持って、自らを犠牲にして今の世界を保って居るのよ。

 せつないわ。

 私は泣き崩れて居る、トッシュの背中を思いっきり喝を入れたの。

 ここは気合よ入れるのが一番よ!


 バチン! !


「しっかりしなさい! 男でしょう! あなた達は頑張ったわ。私たち、人族も魔族も魔獣も獣たちも植物も、みんな生きているわ!」

「仕事を放り出した事は事実だ」

「確かにそうね。でも、神のゆりかごを修復したじゃない」

「……4柱の命を犠牲にしてな」


 私の中で何かが壊れた。


 バチン! !


 もう一度、背中を大きく叩いた。

 赤く腫れ上がった背中。

 それを痛がる素振りも見せずに、私を睨んできたわ。

 挑んできたわね。

 でも、ちっとも怖くないわ。

 だって、私も怒っているからね。


「いい加減にしなさい。龍神と言えでも、心がある! 生きている者だわ。恋もすれば、失敗もする。泣ける心がある人間だわ! 目を背けていたのは貴方だわ。そして、空にいる方たちよ」


 私は天井を見て言い放った。


『煩い! 小娘! ! お前に何が分かる? 神のおもちゃのクセに、出しゃばるでは無いわ! 火龍よ。そこに居る犬神とスアノース・ルバーを連れて参れ。保たれている世界が崩れる』


 頭の中に直接、響いた言葉。

 気持ち悪いわ。

 脳幹を揺るがす、酔いが私を襲ったの。


「キ、キ、キモチワルイ」

『『ナナ!』』

「ハチとロク。だ、だ、大丈夫よ」


 その光景を黙って見ていたトッシュ。

 うずくまる私の頭の上で、柏手を2回打ったの。


 パン! パン!


 甲高い音が、部屋中に響き渡ったわ。

 すると、あら不思議!

 クラクラと目が回っていた感覚が無くなり、吐き気も治ったわ。

 なんでなの?


「トッシュが、何をしたの?」

「悪い。音による結界だ。今のは、もう1つ意味があったんだ。柏手は、神に話を聞いてもらうための合図なんだよ。アハハハ! ざま〜みろ! 幼い神を起こしてやったぜ。これで少しは時間が稼げるはずだ」

「でも……ハチを連れて行くの?」

「まだ分からない。ククルに相談だな」

「でも、その龍神様は寝ているんでしょう? そんな、時間があるの?」

「うん? 神を起こしたんだぞ! 2年は安心していいぞ」

「ハァ? 2年? ? ?」

「この世の神だぞ。いくら幼いと言っても神は神だ。柏手には反応する。起きちまうんだ。そうなれば、なかなか寝てくれない。今頃、上では大騒ぎだろうよ」

「そんない酷いの?」

「まぁ〜、な。その間に、ククルが目覚める。……2年後だ」

「2年」


 思わず呟いた私。

 ため息しか出てこないわ。

 私に何が出来るのかしら?

 神に、対抗するには何が必要なの?

 私とトッシュが思い悩んでいる影で、とんでも無いことが進行中だったのよ。


『ナナ! 成功したよ! なんちゃってコカトリス』

「え? !」


 ハチが、そい言って私の目の前に差し出したのは……コカトリス? ? ?


「そんな訳あるかい!」


 思わずツッコミを入れてしまったわ。

 だって、どう見ても私の目には、雀の体にミミズの尻尾。

 得体の知れない物体が鎮座していたんですもの。

 絶対にコカトリスでは無いわ。


 ……恐れていたことをしたの。


 私は静かに怒りをあらわにしたわ。


「ハチ。元に戻しなさい。貴方ならできるわね。すぐにしなさい」

『え……でも……』

「……ハチ。命を弄ぶなんて、絶対に許さない。貴方にどんな権限があるの? 神にでもなったつもり。遊ぶぐらいなら、ここから出て行きなさい。ロク、背中を貸してちょうだい。トッシュでもいいわ。抱っこしてちょうだい。ハチから降りる。下ろして。そして、もう2度と乗らない。貴方とはお別れよ」

『え? ! ……な、なんで?』


 私は無言で、トッシュの腕へと移ったわ。

 惚けているハチを残してね。

 ハチには、私が怒った理由が理解できないみたい。

 今だにポカーンと、しているもの。

 私の怒りは収まらないわ!


「ハチ、私が言った言葉が理解出来ないのなら……本当のお別れよ」


 そい言い放ち目をそらした。



 私の怒りは……沸点に達したわ。

神なる魔術……“フリーザ”様は神なるスキルです!

ハチはどうなるんでしょうかね?



それでは、また来週会いましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ