101話 あらあら、拝啓、僕は元気です。ですって
紅蓮の龍王……この世界を構築した龍神の柱。
100年前、人族と龍神達が力を合わせ世界の崩壊を止めた。
この世界でもっとも、ポピュラーな童話とされているわ。
桃太郎と同格ぐらいにね。
でも、真実だったの。
全てが! と、まではいかなくてもある程度は本当のことだったようよ。
そう証言してくれたのが、紅蓮の龍王トッシュ。
世界が壊れる時、この大地を護ったのが龍王達らしいの。
まぁ、誰も居なくなっては色々と困るから残ったらしいわ。
彼らしいわね。
神としてなら悠久の刻を生きる事は可能らしいのだけれど……「そんなの俺じゃねぇ!」……で、龍神にならずに龍王としてこの地を統治したの。
だから、彼にも寿命があるみたい。
でも、龍神としての仕事もしなければいけなから。
そこで、記憶と力の引き継ぎをする事で龍王として居続けたのね。
ある意味、よく考えたものよ。
本来は、記憶と力を受け継ぐだけで人格までは変わらないらしいの。
でも、トッシュが選んだ人物は異世界人の私の孫。
もちろん前世での! よ。
鐡竜一は、私の初孫だったの。
この子が7歳の時に、暴走車に跳ねられ川に落ちた。
そのまま、行方不明になったわ。
まさかまさかの、出来事だったのよ。
この世界に来ていただなんて!
驚きと喜びと、全てがないまぜとなって変な感情を露わにした記憶があるわ。
私は……ただただ嬉しかったのよ。
どんな形でもいいから生きて欲しかったからね。
トッシュは、竜一に取り込まれる予定だったの。
ウフフ、異世界人特有の特殊スキルの成せるワザよ。
竜一が保有しているのは、特殊スキル“暴食之王”このスキルは、捕食、保存、分離、融合、隔離が出来るらしいわ。
捕食はどんなモノでも取り込める、生きている者までいいらしいの。
死ぬ事はないけれど、時間は経過するみたい。
管理人はトッシュがしているわ。
あれ?
ハチの特殊スキル“フリーザ”と酷似しているわね。
何が違うのかしら知りたいわ!
まぁ、後からでいいわね。
今は竜一の事が優先よ。
紅蓮の龍王と成った竜一だけれど、生まれて初めて恋をしたの。
本気の恋よ。
それが、全ての悲劇だったと思いわ。
愛してはいけないなんて、なかったはずよ。
でも、本気になってはいけなかった。
お互いね。
竜一が愛した女性は、氷炎の魔人シャルル。
彼女は異世界人、北岡真理亜の別人格。
人を食べ、魔力を手に入れる行為に心も体も壊れてしまった人。
それでも、恋をする事で人格を保っていたの。
人を愛する気持ちは、最強の魔術だわ。
それでも……本気になってはいけなかったの。
そうよ!
本気になってはね。
マリアは竜一を追いかけ、愛を成就させたわ。
その引き換えに、命を差し出した結果となってしまったけれどね。
最善の方法を考えたわ。
その結果、みんなの愛が、優しさが、竜一を苦しめる事になってしまったの。
異世界人、刀祢昌利の特殊魔術によって死ぬより、ロクの中に眠る氷炎の魔人シャルルの魔力として、眠る事を選んだ。
結局、死ぬ運命にあったマリア。
可愛い孫の初恋を実らせたかった。
笑えなくなった、竜坊は私たちと距離をとったの。
「で! 竜、貴方なにをしていたの? こっちは物凄く大変だったんだから! このルジーゼ地方存続の危機だったのよ」
「なにがあったの?」
翌日の昼下がり、スキル“意思疎通”で連絡を入れたらすぐに来てくれたわ。
今はルジーゼ城、私の自室ね。
「竜もトッシュも話を聞いていてよ。
事の起こりは、北岡真理亜が貴方を追いかけた事にあるの。もう1つの恋が、愛とは呼べない恋心が、招いた結果のだと私は思うわ。楽満俊哉がマリアを探してルジーゼ城近くまで来たのよ。その想いが彼のスキルを暴走させたと思う。私が見たときは、黒い球体だったわ。その球体が私を取り込んだ事で、ハチがバーサー化してしまったの。……酷い状態だったわ。何もかも飲み込んだ球体。人も城も大地さえも、全てよ。私やルジーゼ城を内包し暴走したマンプク。その……彼を……。その……球体を……ハチが食べてしまったの。丸呑み」
思わずため息混じりで言ってしまったじゃないの。
ハチをチラッと見ると、気持ち良さそうに寝ていたわ。
埋もれるようにして、ロクも一緒なんだけれどね。
なんだか抓ってやりたくなったわ。
アハハハ! しないけれどね。
竜は少しだけ、微笑みロクを撫でたわ。
愛おしそうにね。
まだ、癒されていないんだわ。
チクリと胸が痛んだけれど、そこに触れてはダメ!
その愛おしさは竜のモノ。
マリアを想い、哀しむ権利があるのは彼だけよ。
私は、何も見ずに話をするだけ。
それが最良よ。
「ハァ〜、この子ったらゴックンと飲み込んで正気を取り戻したの。全てを元通りにして、眠りについたわ。もちろん私も城も完璧にしてね。翌朝、ハチを調べて驚いたのなんの! だってSランクに進化しているわ。特殊スキル“フリーザ”が宿っているわ。てんやわんやだったのよ。ネズミ隊にスキル“走破”で診てもらってようやく、私が理解したわ。ハチの特殊スキルは楽満俊哉の特殊スキル“冷蔵庫”から進化したもの。その恐ろしさは、竜が保有しているスキルに匹敵すると思いわ。
特殊スキル“フリーザ”とは……属性は無属性で、どんなものでも飲み込み貯蔵する事が出来ます。呑み込んだモノはハチの意志で、操作でき。種を飲み込めば発芽させ、実を付ける事も出来ますし、種の状態で永久に保存しておく事も可能です。また、体内に取り込んだモノに、自身の魔力や貯蔵した魔力を付与する事が可能です。もちろん、自分以外の者に与える事により、その者又は物のHPもしくはMPを回復する事が出来ます。
意志ある者は、スキル“闘気功・纏”を使用し1分以上息止めが出来るの者なら取り込め、その者に魔力・属性・スキルを与える事も可能です。ただし、意志ある者は長時間取り込んだままだと死を迎えます。ご注意を! さらに、取り込んだモノの時も操れます。人なら若返る事も、年をとる事も可能です。
無尽蔵に取り込める、大規模倉庫。それが特殊スキル“フリーザ”です。まさに、神なるスキルです……。
ハァ〜、何度も話しているうちに完璧に覚えてしまったわ。それから、先が大変だったのよ。ネズミ隊が実査が必要だらか、自分達でしたい! と、言い出したの。人族ではできないので、とかなんとか理由を付けていたわね。でも、その不確かな理由が採用されたの。だって、お父様もルバー様も私が言ったことを信じてくれなかったんです。もぉ〜、頭にきたわ。これに便乗したのがもちろんネズミ隊よ。嬉しそうに進化していたわ。ネズミ隊! みんな出てきてちょうだい!」
『『『『『はっ』』』』』
私の声で、影から出てきた面々。
その姿を見て異変に気がついたの。
「あなた達、魔獣化を許可した覚えはないわよ」
『と、言いますと……。なぁ! 忠吉、毛先が汚れているぞ。違うな……なるほど、なるほど、これは面白い。スキル“完全偽装”をもってしても、毛先に属性の色が出てしまっているようです。姫様、私の毛先は萌葱色をしていますか?』
「その通りよ。面白いわね」
『スキル“完全偽装”より、属性色が勝ったと言うことです。素晴らしいです!』
「忠凶は、そんな風に考査するのね。竜は……竜? どうしたの?」
竜が無言で、居並ぶネズミ隊をマジマジと見つめていたわ。
難しい顔をしてね。
「ハァ〜、僕がいない間に、とんでもない事になっていたんだね。ナナ……ごめん」
「あれから、どこにいたの?」
「僕は……」
話してくれた内容に、涙してしまったわ。
だってあまりにも、不器用すぎるんですもの。
失恋の痛手は、次の愛で癒すものよ。
その事を、教え忘れていたわね。
私達から距離を取った竜は、とある浜辺の洞窟に居たみたい。
その浜辺で、自問自答しいていたみたいね。
思わず言っちゃった。
「竜坊、ごめんね。失恋からの立ち直り方を教えていなかったよ。ばあちゃんが悪かった」
「ばあちゃん……違うんだよ。その浜辺に行ったのは……」
『まだ言うな!』
「トッシュ、隠し通せないよ。ナナには言うべきだ」
『……しかし』
「僕らはナナの配下魔獣だ。それに、ナナがこの世界に来た理由があると思うんだ。その考査を聞きたい。もちろんナナだけではなく、ハチやロク、ネズミ隊のみんなの意見も。……トッシュ……目覚めはすぐそこまで来ているんだ」
『……分かった。俺から話す。代われ』
「うん」
その一言で、優男からワイルドイケメンに姿を変えたわ。
紅蓮の龍王トッシュ。
生ける伝説の男。
この世界の理を知る男。
「ナナ、ハチ、ロク、忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶。今から言う事は誰にも言うな。俺からのお願いだ」
頭を下げたトッシュ。
『フン、そんなことされちゃ〜、誰にも言えなくなるニャ』
『だね』
『『『『『はっ、命令とあらば』』』』』
その返答に満足したみたい。
頭を上げたトッシュに、忠大が一歩、進み出たの。
『しかし、姫様の身に危険が及ぶ様なら話します。私にとって、至上命令は姫様を護る事! 龍神様と同等の力を持つ龍王様と言えど、破る事が出来ぬ命令でございます。ご了承いただきたい所存でございます』
この言葉に、二の句が継げなかったわ。
でも、困っていたのは私いだけでハチもロクも、ニヤリと笑っただけ。
その顔だけで肯定したみたいね。
『分かった。そうしてくれ』
諦めた様な、忠実に私を護る事を誓った家臣に満足している様な、どちらともつかない複雑な顔をしたわ。
なんだか可笑しいわね。
「スアノースビーチの先に海蝕洞窟がある。その奥に、龍の祠があるんだ。そこで眠っているヤツに会いたくて行ったんだ」
どこか悲しそうであり、寂しそうな顔をしたの。
まぁ、私の主観でしかないのだけれどね。
トッシュには、不釣り合いな顔をしたのは確かよ。
あれ? ?
今、龍の祠って……はぁ? !
「トッシュ……貴方が行ったのはスアノースビーチの海蝕洞窟よね。そこに祠があるのは、聞いたことがあるわ。卒業試験で使われるアノ祠よね。それって龍の祠だったの? !」
「そうだ。あそこには白龍神ククルが眠っている。この世界をこんな風にした張本人の1人だ」
「え? 張本人の1人と言うのは、どんな意味なの?」
「そのままの意味だ。随分前にルバーが言っていただろう。……神龍の柱は海になり、空になり、大地になり、風になり、そして、魔獣の王になった……だったかな。あの一文は間違いではない。そうしなければいけなかったんだ。追い込まれた末の選択だった。その原因になったのが……ハァ〜。神よ! もう少し喋らせろ! こいつらは当事者だ。知る権利ぐらいはある。何より、神なる魔術を持つ者には、秩序を保つ義務と権利が与えられる。その為にも知るべきだ! !」
はぁ?
トッシュは途中から誰に何を、言ったのかしら?
私でも無く、ハチでもロクでもネズミ隊でも無いわ。
「誰に言ったのですか?」
「う〜ん……。この世界は神のゆりかご。神の箱庭なんだよ。その管理者が俺たちなんだ。その事は極秘にされる。まぁ〜、事の起こりなんて言う必要はねェ〜からな。神の側にいる龍神が、余計な事を言うな! 広めるな! と、俺の口を閉ざすんだ。
あぁ! ! 煩い! 頭の中で喚くな!
こいつらはいいんだよ。それともう1人話さなければならない人物がいる。そいつに話すにしても、先ずはナナ達だ。全権俺に譲れ! ……良し。お前達はちょこ様だけの世話に集中しろ。この世界の事は俺たちがなんとかする。
ハァ〜、すまない。まったく仕方ねェ〜奴らだぜ。とりあえずは、お前達の胸の中だけに留めておいてくれ」
話がついたみたいね。
どうも、同時進行で話をしていたみたい、疲れるのも無理ないわね。
私たちに改めてお願いをしてから、この世界の核なる話をし出したの。
「神のゆりかご……フン、この言葉かピッタリだな。そのゆりかごの管理者が俺たち龍神。火龍の俺。水龍のゴーゲン。風龍のポコ。土龍のイーガ。雷龍のチョンピ。黒龍のアーク。白龍のククル。……みんなで神のゆりかごを創り管理していた。上手く行っていたんだ。なんの問題もなくなぁ。
ハァ〜、あまりにも上手くいきすぎていたのが、仇になったと思う。
ハァ〜、俺の知らないところで、静かに想いが揺れ動いていたんだ。
アークのが、密かに想いを寄せいた奴がいた。そしてもう1人、ククルにも想い人がいた。相思相愛のはずだったんだ。あいつら、側から見ていて分かるくらいの態度だったしな。でも、想いはすれ違う。感情は嘘をつく。愛は苦しい。
……ククルが……逃げたんだ。……仕事に……逃げたんだ。
もとから、アークには仄暗い感情を隠し持っていた。黒龍だったしな。……その黒い情動に火を付けちぃまった。あっという間に加速し暴走した。それが100年前に起こった騒動のあらましだ。アークの野郎が、自我を崩壊させ全てを壊し始めた。それを食い止める為に、俺たちの奔走した。アークを、黒龍を、祠に封印することに成功したが……、神のゆりかごは跡形もなく壊れかけていた。責務を全うするには、俺たちの魔力を礎に創り直すしかなかった。その後が、あちらこちらにある龍の祠だ。あの祠は……俺の仲間達の成れの果て。アハハハ! ウケるだろう! あいつら力を使い果たし、眠るしか無かったんだ。誰も居なくなる訳にはいけないから、俺が残った。眠ると行っても、起きるわけじゃない。起きるのはククルだけだ。あいつは俺たちのまとめ役だったし、タカが外れた黒龍を止める役割も担っていた。アークの野郎は真面目で真剣で内気な性格だった。1度走り出すとなかなか止まらない暴走機関車。本当に暴走機関車だったなぁ。
黒龍を封印した事で、解かれる事を危惧した白龍が自分も眠りに着くと言い出した。12年に1度、目を覚まし封印が解かれてないかを確認してまた眠る。それを繰り返してんだ」
「なんで、12年に1度なの?」
「俺たち龍神は12年に1度、生まれ変わる。肉体を再構築し、魔力を補充する。俺はその年に代替わりをする。……ハァ〜、ただ分からないのが、封印が解かれたのに手を打たなかった事だ。ククルのやつは、アークの封印が解かれたのに何もしなかったんだ! なんでなんだ! 神よ! お前だって見ていただろう! !」
トッシュの咆哮が窓を破壊したわ。
「ナナ! どうした!」
「お父様、何もありませんわ。ハチとロクが、いつものじゃれあいをしていただけです」
「そ、そうか。危ないからこちらに来なさい」
「平気ですわ。ガラスを持ってきて下さい。自分たちで直します。トッシュもお手伝いを、お願いしますね」
「あ、あぁ。もちろんだ」
不審に思いつつも、何も聞かないでいてくれたお父様。
本当に空気を読む人。
違うわね。
私の事を、信用してくれているだけですわ。
簡単な事では無いはずなのに、いとも容易く私を信じてくれる。
当たり前のように信じてくれる。
とても大切な人達だわ。
私はお父様を見て、確信したの。
黒龍だろうが!
白龍だろうが!
神であろうが!
守ってみせる! 守ってみせる! !
と、ね。
それにしても、100年前の戦いって恋をこじらせただけ?
マジで? !
そう感じたのは私だけ?
そろそろお気付きの方もいるかも知れませんが、某ゲームのキャラ名だけで何の関係もありません。
100年前も100年後も恋だ愛だの恋愛模様。
リアルな私は喪女のまま〜。
すいません。
本音がポロリ。
次回予告を100話到達につき、辞めたいと思います。
なかなかその通りに進んでくれないの事が多々あるので……。
私に文才がなく、思い通りに書けません。
文才のスキルでも覚えたらまた書きたいと思います。
すいません。
それではまた来週会いましょう!




