98話 あらあら、特殊スキル“フリーザ”ですって
さて、困ったものね。
ハチが魔族 マンプクをパックと捕食してしまった事で、事態は完結したっかの様に思われたの。
……実際に終息したわ。
大地を滅茶苦茶にした元凶は、取り去ったものね。
何の問題もなく事が終わったわ。
で・も・ね!
ハチがSランクに進化してしまったの。
もちろん、その事で万事丸く収まった訳だけれど。
今となっては、その事が次の問題になったわ。
私は起きてすぐ、ハチに聞いたの?
「まぁ〜、そうだけれど、ね。今は何故、ルジーゼ地方へ来たのか! と、何故そんなの姿になっていたのか! が、知りたいわね」
そう話してハチに聞いてみたの。
『そのままの意味だよ。楽満俊哉は北岡真理亜に、ほのかな恋心を抱いていたんだ。そのマリアが居なくなった事で、いろんな心が壊れたんだと思う。ひょっとして、この世界に来たときから、壊れていたのかもしれないけれどね』
そんな感じで、話し出したハチ。
でも、だんだん楽満俊哉の記憶がハチを乗っ取りだしたの。
『……追いかけだんだ。僕は……死の物狂いで……追いかけたんだ。マリアは僕のマドンナ。マリアは僕の生き甲斐。マリアは僕の全て。マリアは……マリアは……』
「ハチ! ハチ! しっかりして! ハチ!」
私は慌てて、話を聞くのは止めたわ。
それでも、聞かないわけにはいかないわよね。
そこで、ネズミ隊にスキル“走破”を使ってもらう事にしたの。
キラキラお目目で、嬉しそうに使っていたわ。
私は少しだけ、後悔したけれどね。
だって、クラシュしたのよ!
意識を手放して、整理と理解に全てかけたのよ!
クラッシュとは、意識領域までも使用して処理する事みたいなのよ。
ルバー様に教えていただきましたわ。
その彼が、自身の趣味に走ってしまった事を言い出したの。
「だったら、先に魔術“スパイダーライトニング”の考査と実査と登録をしてはどうか?」
などと言ったのよ。
嬉しそうにね。
実はお父様も、満更でも無かったみたい。
魔術バカに着ける薬は無い! と、言う事ね。
そして、流石の一言に尽きるわ。
あっという間に理解し、魔術を展開してしまったの。
ルバー様が発動できたと言うことは……。
『『『やったぞ!』』』
忠吉、忠中、忠末の歓喜の声が、登録できたことを物語っていたわ。
その声に反応する様に、もう1つの喜悦の声が上がったの。
『なんだとぉ〜! ボクが寝ている間に、“スパイダーライトニング”が魔術認定されている! ! 忠吉! どうなっているの!』
もちろん、忠凶よ。
アハハハ……。
笑うしかないわね。
でも、忠大からとんでも無いことを聞いてしまったの。
『はっ。簡単に言いますと、誰でも進化が可能になります。どんな物でも魔力を付与する事が可能です』
そう、特殊スキル“フリーザ”についてよ。
何を言っているのか理解に苦しむわ。
でも、ジワジワと実感してしまったの。
……誰でも進化が可能。
……どんな物にも魔力を付与する事が可能。
ハチの特殊スキルってどんな能力なのよ!
「忠凶、貴女ならもっと詳しく説明してくれる?」
『はっ。忠大が言った通りです。さらに付け加えるとしたら。1分呼吸を止める事とスキル“闘気功 纏”ができる事が条件になります。後、ハチ様に付与する属性が有る事も必要になります』
「だったら、私が取り込まれた時は……えっと……どんな風になていたの?」
私は言葉を選んでしまったわ。
だって、下手なこと言えないんですもの。
今だってお父様とルバー様が、怪訝な表情でこちらを見ているわ。
そりゃ〜、そうよね。
いつもなら、ネズミ隊が喋るのと同時に私が話していたから。
それをしないんですもの。
あれ? と思われているわよね。
それでも、私を信用して黙っているんですわ。
ありがたいことね。
感謝しつつ、忠凶の話に耳を傾けたの。
『はっ。ナナ様が取り込まれた時、一度分解されていたと思われます。ハチ様が捕食しなければ……死んでいたと……』
「……死んで……いたの?」
あまりの事実に思わず、口をついて出てしまったの。
反応したのはお母様。
「貴方! !」
「ソノア、分かっている。少し静観しなさい。ナナを信じるんだ。俺だって……」
お父様は自分の胸を強く握り締め、嗚咽を噛み殺していたの。
「ごめんなさい。でも、これだけは分かってほしいです。私は、お父様のことは信用していない訳ではないんです。あまりにも、ハチの特殊スキル“フリーザ”が特殊すぎて危険らしいのです。もう少し、もう少しだけ、私に時間を下さい」
「……分かった。俺は執務室にいる。話せるようになったら来なさい」
「はい、お父様」
踵を返したわ。
その後をお母様がカムイ抱え、付いて行ったの。
名残惜しそうに、私を見ながらね。
それを見送ったのは、私とルバー様。
「僕はもう少し、実査をしてから執務室に行くよ」
「私達は、自室に戻りますわ」
「ナナくん。話したくないのなら、無理して話す事はないよ。僕だってスキル“走破”の使い手なんだ。僕は1人だから、1週間はクラッシュしたままだけれどね。記憶の分割は良案だよ」
「そうですわね。ウフフ、分割しれくれる相方が必要ですわよ。ルバー様と同等のスキル“走破”の使い手はいますか?」
「ナナくんは厳しい事を言うよね。ソノア様にそっくりだよ」
「それは褒め言葉として、受け取って置きますわ」
「……アハハハ……ハァ〜ァ」
盛大なため息と共に、肩を落としていたルバー様。
本当に優しい人。
私の事やネズミ隊の事。
全ての事に、気を配っている人だわね。
私はみんなを連れて、朝以来の自室に戻ったわ。
「ごめんなさい。忠凶、初めから話してくれる?」
『姫様。先ずは事の起こりからお聞きになる方がよろしいかと存じます』
「そう……ね。忠大、楽満俊哉はなぜルジーゼ地方へと来たの?」
『はっ。ハチ様の話された通り、北岡真理亜様に恋心を抱いていたようです。しかし、すでに岩城秀幸様との恋人関係にあり、諦めたようです。ところが、マリア様は紅蓮の龍王こと鐵竜一様に恋してしまいます。自分にも脈があるのではと思い、恋心に拍車がかかった様です。その、マリア様が居なくなった事で、保たれていた心のバランスが崩れ去り、後を追いかける暴挙に走ったものと思われます。そもそも、この世界に来た時に壊れかけていたのではないでしょうか。自我が瓦解ようです。人と言う生き物は、心が折れてしまうとこんなにも脆いものなんですね。ハチ様ロク様が私たちに仰る通り、心を護る行為がこれほど大切な事だとは……不徳の致すところです。
今回の事で完全に崩壊した、マンプク様の心がスキルに飲み込まれてしまい、あの様な姿になったと思われます。スキルが暴走したのでしょう。マリア様を求め、魔力を求め、彷徨ううちに体力がなくなり。手当たり次第、その身に飲み込んで行ったのでしょうね。自我が無いのですから、スキルの動きやすい姿に変わったようです。
これが、楽満俊哉様から得た情報です。取り急ぎ、今回の事に関することのみ、まとめましたので不備がありましたら後日、ご連絡いたします』
「……。忠凶、スキル・魔力の暴走とかあるえるの?」
『普通では考えられません。その様な、話など聞いた事はありません。ですが、ルバー様ならご存知かもしれません』
「……そうなのね」
私は落ち着くために、紅茶を入れたわ。
ネズミ隊には紅茶、ハチとロクにはミルクね。
それにしても暴走の原因が、恋の病だったなんて信じられない。
恋は盲目とはよく言ったもので、正に何も見えなくなってしまったのね。
憐れだわ。
哀しすぎるわ。
ハァ〜、でも恋の麻疹に要注意!とも、言うわね。
大人になってかかると重症化してしまう。
拗らせてしまったみたいね。
ハァ〜、頭が痛いわ。
さて、原因は理解できいた。
次は特殊スキル“フリーザ”の正体ね。
「忠凶、どんなスキルなの?」
『はっ。とても特殊で危険なスキルです。ですが……魅力的なスキルです』
「え! 魅力的?」
『姫様にとっても、ボクにとっても、です』
話を区切った忠凶。
紅茶を一口啜って、話し出したわ。
勿体ぶった行動をとるわね。
『すいません。これから話す事の重大さに、少々怖気付いております。フゥ〜』
「大袈裟ね。貴女だってさっき言っていたじゃ無いの。スキル“闘気功・纏”と1分息を止める事が出来れば、スキルの力で進化が出来るのでしょう」
『姫様は、魔力が欲しいと思った事は御座いませんか?』
「……あるわね。みんなに迷惑かけているから。……まさか!」
『そのまさかで御座います。誰にでも魔力を、属性を、付与する事が可能です。条件として、ハチ様に魔力のスットクが必要ですが……それも簡単です。魔石から取り込めばいいだけですから……簡単です』
「簡単なのね。誰にでも……簡単に……簡単に……」
そう、簡単に誰にでも……。
この言葉が、私の中でリフレインしたわ。
「忠凶はハチが、狙われると思っているの?」
『人族も魔族も魔獣も、生きとし生ける全ての者は、みな私欲に忠実です。姫様を盾に取れば……ボクたちは……逆らえない……かと存じます』
『アホな事を言うんじゃ無いよ! あたしを誰だと思っているんだい。ナナを盾に取られるだと? ! そんな事できるわけないわ! ナナに降りかかる災いは、あたしとハチとネズミ隊。あんた達も一緒に振り払うんだよ!』
『『『『『はっ』』』』』
「私だって護られるばかりでは、申し訳ないわ」
『ナナには必要ないワン。ナナは僕たちの心。心に魔力は要らないワン』
「……ハチ。私は……心だったのね。……ありがとう。そしてこれからも……よろしくね」
私は、そう言うしか無かったわ。
だって、この子達の想いが強かったから。
目が、ね。
真剣なんですのも。
……ありがとう……しか、言葉を紡ぐ事しか出来なかった。
「忠凶、ハチの特集スキル“フリーザ”って、魔力や属性を付与するスキルなの?」
『いいえ、本来の目的は倉庫です。
属性は無属性で、どんなものでも飲み込み貯蔵する事が出来ます。呑み込んだモノはハチ様の意志で、操作でき。種を飲み込めば発芽させ、実を付ける事も出来ますし、種の状態で永久に保存しておく事も可能です。また、体内に取り込んだモノに、自身の魔力や貯蔵した魔力を付与する事が可能です。もちろん、自分以外の者に与える事により、その者又は物のHPまたはMPを回復する事が出来ます。
意志ある者、スキル“闘気功・纏”を使用し1分以上息止めが出来るの者なら取り込め、その者に魔力・属性・スキルを与える事も可能です。ただし、意志ある者は長時間取り込んだままだと死を迎えます。ご注意を! さらに、取り込んだモノの時も操れます。人なら若返る事も、年をとる事も可能です。
無尽蔵に取り込める、大規模倉庫。それが特殊スキル“フリーザ”です。まさに、神なるスキルです』
「『『……』』」
私とロク当の本人であるハチさえ、間抜け面で忠凶の話を聞いてしまったわ。
だってあまりにも、理不尽なスキルなんですもの。
……大規模倉庫。
……どんなモノでも飲み込んでしまう貯蔵庫。
……それをハチの意思で操作できるウエアハウス。
ルバー様やお父様に王様がこの事を知れば、ハチを我が物にするため色々と画策するわね。
それこそ、私を盾にするでしょう。
頭を抱える私に、忠大が不思議な忠告をしてくれたわ。
『ハチ様。もしかしてお腹が減るのが早いかも知れません。ひょっとすると、いくら食べても満腹になる事がないかも知れません』
「なに、言ってんの?」
『はっ、実は魔族 パンプク様は大食漢で、どれだけ食べても満足する事がなく。常に食べていないと体の維持が出来なかったようです。今のハチ様にその様な症状が出ておりませんが……少しだけ気を付けて置いてください』
「なにそれ? ハチ……どんな感じ?」
『なんと……もないワン? ?』
「どうしたの?」
『逆だワン。お腹が空くと言う、感覚が無いワン』
『なるほど。そう言う事ですか』
「? ? ?」
私が、不思議な顔をしていると説明してくれたわ。
『おそらくですが、魔族マンプク様は元が人族です。お腹が空くと言う感覚が残り、食べ続けなければいけないと、思い込んでいた様に思います。ハチ様にしても、ロク様にしても、私達にしても、魔獣です。お腹が空くと言う感覚がございません。その為、平気なのかも知れません』
『なるほどワンね』
変な話だけれど、怖い事だわ。
どんだけ食べても、お腹が減るのよ!
常に食べていないと、生きていけないのよ!
ただただ、食べるだけの存在になるの。
食事って、美味しく楽しくするものなのよ。
家族や仲間でワイワイ食べるも良し。
好きな人とラブラブで食べるも良し。
みんなと食べるから美味しいのよ。
作るにしても同じよね。
娘と作ったカレーライスは、格別の味だったわ。
だから、食べるだけの存在になるなんて……哀しみ以外ないわね。
楽満俊哉に言いたいわ。
もう、止めていいのよ。
もう、食べなくていいんだからね。
夢の中で、大好きだった北岡真理亜の事を想っていていいのよ。
愛していいのよ!
夢の中なら、貴方は自由だわ!
私はハチを抱きしめる事で、この子の中に居る楽満俊哉に語りかけた。
すると、ハチの目から涙が溢れ出したの。
泣いているのね。
私は、抱きしめる腕に力を込めたわ。
「もう、眠っていいのよ」
思わず言ってしまったの。
すると、ハチの中から聞こえたわ。
……あ……り……が……と……う……。
ハチは、そう言うと意識を手放したの。
私の腕の中で、スヤスヤと眠り出したわ。
でも、変なの?
ハチの声を聞いたのは私だけ。
私だけが、声なき声を聞いたみたい。
でも、満足出来たのなら良かったわ。
なんだか嬉しくなって笑っていると、どんでもない事を言い出した子達がいたの。
そう言えば、居たわね。
ここに、ルバー様2号が!
『姫様。あの、その、えっと……。ボクに白属性の魔力を! ボクに、白属性の魔力を授けて下さい! !』
『忠凶! ずるいぞ! オレだって、火属性の魔力が欲しい!』
『忠末! ずるいぞ! 俺なら水属性!』
『忠中! ずるいぞ! 僕なら土属性だよね!』
『忠吉までも……ですか。ちなみに、私なら風属性でよろしくお願いいたします』
「……本気なの?」
呆れてものが言えないわ。
私が不許可を言う前に、割り込んで来た子が……ハァ〜、なんで余計な事を言うのよ! ロク! !
『面白いじゃないの。でも、危険もあるんじゃないのかい?』
『いいえ。危険などございません。姫様を見てもらってもお分かりの様に、ハチ様は完全掌握しております。それ故に、後は実査のみかと存じます。だったら、私たちが実査者となり、我が身に経験したいと思います』
「ダメに決まってるじゃ無いの! あなた達の身に何かあれば取り返しが効かないのよ!」
『あら? あたしは良いと思うよ。実査はしなければいけないし。ルバー達にも、話さなけれなダメだろう。人族で実査は以ての外だしね。だったら、ネズミ隊でするのが妥当だろう。いいかい、お前たち。魔力=力と思っちゃいけないよ。自分のモノにするまで、無茶しない事だね。それが守れるかい?』
『『『『『はっ』』』』』
「なに勝手に話をまとめているの! 私が許可した覚えは無いわよ」
『ナナ。無理ニャ。この目を見て、ダメだって言えるかい? あたしは言えないね』
「……」
確かに、言えないわね。
それほどのキラキラ顔。
どうしましょう。
「……ハ、ハチに、失敗が無いのか聞いてからね」
『『『『『はっ』』』』』
本当に、どうしましょう。
先ずは、ネズミ隊がどうやったら諦めてくれるか!
次に、ルバー様とお父様に特殊スキル“フリーザ”をどこまで話すのか!
この2つよね。
ハァ〜、お先真っ暗。
私の未来は明るいのかしら?
神なるスキルでなんとかならないものかしら?
特殊スキル“フリーザ”様! なんとかして! !
良いですね。
けして某アニメのキャラではありませんよ!
傲慢大王の復活のF様ではありませんよ!
……好きですけれどね。
次回予告
「なぁ〜ホゼ。絶対俺らの事忘れているよなぁ〜」
「エディ。確実、だね」
「ここで存在感を出しとかないとダメだと思うんだ」
「おそらく」
「俺……が、言いていい?」
「……良いよ。譲るよ」
「……あ……り……が……と……う……。次回予告。
特殊スキル“フリーザ”が巻き起こす騒動がナナたちを襲う。ナナは全てを話すのか?ハチを守る為に隠匿してしまうのか?1つの決断が、運命を変える!そして、ネズミ隊の希望は通るのか!見逃せない変革はすぐそこにある!!」
「余韻に浸っているとこ、悪いんだけれど……。最初の真似はいる?」
エディとホゼにしてもらいました。
忘れてはいませんよ!
たぶん……エヘヘ。
それではまた来週会いましょう!




