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92話 あらあら、2才児の驚異ですって

 ロクの新しい魔術とスキルの考査が一段落したのと、数年に1度の参勤交代とが重なった事もあり、私も一緒に帰郷する事にしたの。

 やっと私の弟カムイちゃんに会えるのよ!

 こんな嬉しいことは無いわ!

 あぁ〜、早く会いたい!

 それなのに羇旅で、この子達が毎朝するのよ。

 訓練と言う名のバトルを、ね。

 でも、Sランクへと進化したロクには叶わず、負けてばかりいるのがハチとネズミ隊の面々なの。

 そこに秘策をゴニョゴニョと、授けた人物がいたのよ。


『そんなんで、本当にイケるワンかぁ?』

「そんな不安そうな顔をするな。大丈夫だ! とりあえずやってみろ」

『分かったワン。やってみるワン。ネズミ隊!』


 はぁ〜、意外と策士なのよねお父様は。

 ハチとネズミ隊が授けた策を実行したの。

 至極かんたんな事だったわ。。


 途切れる事なく攻撃しろ!


 と、言ったみたいなの。

 素直なハチとネズミ隊は、途切れること無い連繋攻撃でロクに当てることに成功したわ。

 お父様の助言が、見事に当たったのね。

 流石だわ。

 でも、ハンナに言わせると。


「ナナ様。未来を視るスキルは脅威です。単発の攻撃では、ロクに傷をつける事はできません。複数の攻撃で、ロクに迫るには味方の連繋が必要不可欠です。出会ったばかりの人なら難しいかもしれませんが、ハチとネズミ隊なら問題はありません。阿吽の呼吸で連繋が取れる間柄だからです。だからこそガロス様は、途切れる事なく攻撃しろ! と言ったと考えます。彼等だからこその、指示だったのです」


 なんですって。

 なるほどね。

 ハンナもお父様も、この子達のことをよく見ているわ。

 感心している私をよそに、ロクがとんでもないことを言い出したの。


『そうかぁ! アレが完成したんだね! だからあれほどの連繋が取れていたんだ。納得だニャ』


 などと言ったものだから大騒ぎ。

 話を聞くと、スキル“闘気功”を糸のように細く長く伸ばし、相手にペタリと着けるみたいなの。

 糸電話を思い出すといいわ。

 機能も形状もそのままだもの。

 そんな“闘気功”の新たな使い道を発見したハチ達。

 そこに、何故か現れたルバー様。

 どうも、お父様が忘れ物をしたので、届けに来たみたいなの。

 また、ちょうど良い時に来るんですものね。

 まるで謀ったみたいに来たものだから怪しんだわよ。

 でも、その忘れ物を聞いた瞬間、呆れたわね。

 だって、カムイちゃんの絵本なら良かったのに、魔術やスキルに関する本だったり医学書だったり体術書だったり、けして子供が読む本では無かったの。

 全く、なんで来たのかしら?

 そんな事などお構い無しに、ルバー様はハチの新しいスキル“闘気功・糸”を登録したの。

 やっぱり、呆れるわね。

 はぁ〜、このままルジーゼまで付いて来るみたい。

 そして、ハチ達の朝練に、ルバー様とお父様が参加したの。

 ウフフ、可笑しいのよ。

 ハチとネズミ隊に加わるのは、ルバー様。

 ロクに加勢したのは、お父様。

 反対なのでは? と思うでしょう。


「僕はね。ロクの、Sランクの、魔術を受けてみたい!」


 お目々キラキラ言うんですもの。

 さらに、お父様に至っては。


「Sランクと同等の者を使う時の訓練になる」


 そう言って、ルバー様を見てニヤニヤ。

 あらあら、イヤな笑顔ですこと。

 それに驚いた事なんですけれど、お父様はちゃりスキル“闘気功・糸”をマスターしていたんですもの。

 流石ですわ。

 しかも、ハチよりもパーフェクトなんだもの、やってられないわ。

 私もお父様に試してもらったのだけれど、不思議な感じ。

 耳の側で、おんぼろレコードを聴いているようだったわ。

 途切れ途切れの片言ね。

 でも、意志が伝わるのだから侮れないわ。

 良く考えたものよね。


「ロク! 未来に頼るな! そこに活路は無い! 向こうにはルバーがいる。惑わされるなぁ」

『うぅ〜ニャ!』


 悔しそうな鳴き声を上げたロク。

 特殊スキル“未来予想図”、特殊魔術“未来予想図”には弱点があるのよ。

 スキル“未来予想図”で、見れる未来は5分前の未来。

 魔術“未来予想図”で、固定できるのも5分後の未来。

 キーワードは5分。

 それ以上の攻撃が続けば、5分先の未来をまた見せられる。

 そうする事で気が散り、攻撃が当たる訳ね。

 こんな簡単な事で!

 とも思うけれど、そんなもんよ。

 攻撃も人生もね!

 アハハハ!

 ちょっと言い過ぎたかしら?


「ナナ様。疲れてはいませんか? 馬車は少し揺れるので、お身体に負担をかけていませんか?」

「ハンナ。大丈夫よ。それよりも、やっと会えるのね。私のカムイちゃんに」

「はい、会えますよ」

「2歳よね」

「はい、そうですよ」

「2歳と言えば、可愛い盛りじゃないの! おしゃべりは出来てるかしら? 」

「片言なら、お話が出来るかと存じます。ウフフ、ナナ様の時は早かったですね。今、思うと異世界人でしたので、早かったのですね」

「そうね。黙っていてごめんなさい」

「仕方ないことです。右も左もわからない世界に、放り出されたのですよ。不安になるのは当然です」

「ありがとう。私は幸せ者ね。ハチとロクと、貴女が居てくれた。カムイには誰がいるのかしら? あの子の味方になってくれる人はいるの?」

「貴女が居るではありませんか。ナナ様が、味方になれば良いのです」

「でも……、そうね! 私が味方になるわ」

「はい、そうですよ。ホラ! 見えてきました! ルジーゼ城です」


 私は、でも……のあとの言葉を飲みんだわ。


 ……異世界人よ……。


 そう、言いそうになったの。

 この世界で、異世界人がどんな扱いを受けていたかを知っているからこその言葉。

 私って駄目ね。

 ウフフ、バカみたいだわ。

 私自身が、異世界人のレッテルを貼ってどうするのかしら。

 笑っちゃうわ。

 そんな事より、やらなければ行けない事が沢山あるのにね。

 ウフフ、まずはカムイちゃんに会うことよ!

 そして言うの!

 私がお姉ちゃんよ! !

 抱き締めてあげちゃうだから。


 見えてきた懐かしき出発の地。

 お母様に見送られ旅立ったのは2年前のこと。

 私の思い付きでネズミ隊に、お父様とお母様を調べてもらったことが事の発端だったわ。

 お母様には呪いがかかっていたの。

 その哀しみが、ロクを取り込んだのよね。

 あの時は本気で焦ったわ。

 ハチがロクを見捨てようとしたの。

 そんなの私が許さないわ。

 足が無かろうが、異世界人であろうが、関係ない。

 守るべき命は、どんな手段を使っても守るの!

 私の命に変えても!

 その思いだけで、走りきった感があったわね。

 お父様には随分、呆れ顔をされた記憶があるもの。

 私だって、必死だったんです!

 そんな懐かしい、記憶を思い出してしまったわ。

 望郷の念に思い馳せている私に、とんでも無い光景が目に飛び込んできたの。

 砦のような古城の屋根に、ヨチヨチ歩きの小さな子供が歩いていたの。


「キャー! 屋根に子供が居るわ! 誰か助けて!ハチ! 」

『僕が行くワン』


 動き出す寸前、玄関に見知った人が私達を出迎えてくれたわ。


「あら? ナナじゃないの!帰ってきたのね!おかえりなさい!」

「お母様! 屋根に! 屋根に!」

「え? 屋根? あらあら、カムイちゃん! 降りてきなさい!」


 なんとも簡潔に、まるでいつもの事のような言い方で、屋根に向かっておいでおいでをしたお母様。

 さらに、ため息まじりで爆弾発言を放ったの。


「もう、カムイちゃんったら。お父様にスキル“闘気功・纏”を教えてもらってから、いつもこんなんですよ。始めは、椅子の上だったから、凄い凄い! と、褒めてしまったのがいけなかったのかしら? テーブルから箪笥に変わって、外に出したら木に登り出して、慌てて止めたの。でも、気が付けば屋根の上に……はぁ〜。貴方、どうすれば止めてくれるのですか?」

「「「……」」」

『アハハハ! ガロスの子だね。間違いないニャ』

『だ、ワンね』

『素晴らしい。スキルの使い方です。魔力が無いのが悔やまれます』


 はぁ〜。

 コメントを話したのは、ロクとハチと忠凶。

 私を含め、4人がアホ面をして見上げてしまったわ。

 だって、ママ〜、とか何とか言いながらヨチヨチ歩きで、壁をトコトコしているのよ!

 怖いわ! !

 お口ポカーンでしょう。

 なのに、この子達は感心した感想を述べたのよ。

 そっちはそっちで、怖いわ! !

 はぁ〜、カムイちゃんは本当に魔力が無いのよね?


「ルバー、アレは魔力では無いのか?」

「違う。スキルだ。魔力を感じ無い。凄いなぁ。ソノア様、本当にスキル“闘気功・纏”を教えただけですか?」

「ヨイショ、と。そうよ。お父様が面白がって色々、教えたんだけれど。なぜかスキル“闘気功”シリーズだけは、すぐにマスターしたのよ。そしたら、あんな風に色んなところを、歩いて回るようになっちゃって。この間、倉庫の火属性の魔石が大量に盗まれた、ばかりだから心配なの。いくら言っても、言う事を聞いてくれなくて。どうしたらいいのかしら? 貴方? 貴方? 私の話を聞いていますか?」

「え? あ! す、すまない。そうだなぁ〜」

「アハハハ! 間違いなく、お父様の息子ですわ。カムイ、私が貴方のお姉ちゃんですよ」


 思いっきり笑い飛ばしてやりましたわ。

 だってお父様ったら、困った声はしていても顔は笑顔。

 素晴らしい才能が息子にあるんですものね。

 喜びの困り顔だわ。

 私はハンナの腕の中から精一杯、腕を伸ばしたの。

 すると、お母様が寄ってきてくれた。

 思いっきり抱きしめたの。

 嫌がる素振りも無く、ニコニコ顔のカムイ。

 あぁ〜、なんて可愛いのかしら!

 天使の笑顔が眩しいわ。

 改めて見ると、お父様に似てないわね。

 私と同じお母様似だわ。

 でも、性格や素質はお父様のようね。

 ウフフ、本当に魔力が無いのかしら?

 そう思わせるのよ。

 だってこの子、今もスキル“闘気功・纏”を使って私に張り付いてるんですもの。

 何なの?


「カムイ。紹介するわ。この子がハチ」

『宜しくワン』

「この子がロク」

『素質あるわよ。宜しくニャ』

「こちらから、忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶」

『『『『『はっ』』』』』


 私は一通り会わせたの。

 カムイは、わんわん! にゃんにゃん! ちゅうちゅう!

 とても、楽しそうに手を叩いて、ご機嫌さんだったわ。

 そんな、カムイをお父様が抱っこする為に手を伸ばしたの。

 ところが、ピクリとも動かなかった。

 ガッチリ私に張り付いたまま。


「う、う、嘘だろう! ルバー! お前がやってみろ」

「はぁ? 僕が? 泣かしていいなら……喜んで」

「かまわん」

「では、遠慮なく」


 カムイは私に張り付く感じで、ハンナに抱かれているわ。

 両手に花の体勢な訳ね。

 よほどの子供好きではないと、耐えられない重さよ。

 それでも、涼しい顔をして抱いているあたり、ハンナも勇者ね。


「カムイくん。泣かないでくれよ〜」

「うぅ〜、うぅ〜、ぅわあああ〜、ママ! ママ! ネェネェ! ネェネェ!!」

「あらあら、泣かないで。ヨシヨシ、良い子でしょう。怖くないわよ。変なおじさんだけれど、大丈夫よ」

「変な、は酷いなぁ。ナナくん。ガロス、僕が子供に近付くだけで、なせが泣かれるなのは知っているはずだぞ。何かしたいんだ。泣かせたいだけなのか?」

「そこじゃない。スキル“闘気功・纏”じゃないぞ。カムイが使っているのは“纏”では無く、別のスキル“闘気功”だ。それを確認して欲しかったんだが」

「「はぁ?」」


 私とルバー様の声が重なったわ。

 その声が面白かったのね。

 泣いたカラスが笑ったわ。


「確かに……違う?」


 ルバー様は、私に張り付いているカムイに優しく触れたわ。

 あら?

 今度は泣かなかったわね。

 え? ! 泣かなかった? ?

 この子、私が言った事を理解したのかしら。

 まさかね。

 ルバー様は、唸りながらも考査に耽り始めたの。


「お、お、お母様。とりあえず、中に入りませんか?」

「そ、そ、そうね。そうしましょう。ナナも疲れたでしょう。部屋を用意したから。今日はゆっくり休みなさい」


 促され、城の中へと入って行こうたのに!

 鋭い叫びが、私の行く手を阻んだわ。

 正確にはハンナのだけれどね。


「ガロス! アレはスキル“闘気功・纏”だ。ただ、粘着性を高めにしたスキル“闘気功・纏”。カムイくんオリジナルの“纏”だね。流石、ガウラ様の孫であり、お前の息子だなぁ。ナナくんの時も驚いたが、カムイくんにもびっくりしたぞ」

「そうかぁ。流石、俺の息子だ」


 まぁまぁ、お父様の嬉しそうな顔ですこと。

 鼻の下が、伸び伸びですわよ。

 だらしないわね。

 放っといて中へと入りましょう。


「ハンナ。行きましょう」

「そうですね」

「重くない?」

「平気です。ソノア様。両手に天使ですよ! こんな幸せな事はありません。

 カムイ様、はじめまして。ナナ様のお側に使えています。火の勇者ハンナです。流石、兄弟です。とても、よく似ていらっしゃいます」

「そう! ナナの時はどうだったの? カムイみたいに手の掛かる子だった?」

「いえいえ、全く手はかかりませんでしたよ。今、思い返してみますと。ナナ様は異世界人だったので、手がかからなかったと考えます。カムイ様も利発で聡明な、印象です」

「ハンナ、ありがとう。でも、食事に関しては何でもよく食べるのよ。ただ、目を話すと何処かへと行ってしまうの。ほんの少し! ほんの少しよ! いなくなるのよね。ナナの時も、同じだったのかしら?」

「はい、ナナ様も歩き始めた時は、だいぶんウロウロされましたよ。ですが、ハチが常に一緒でしたので、安心して掃除や洗濯をしていました。ウフフ、ナナ様を呼ぶとハチが咥えて連れてきれくれるんですけれど。可愛い声で……やなの! あしょぶの!……と、抵抗していましたね。本当に可愛らしかったでしたよ」

「はぁ〜、見たかったわ。仕方が無いことだと、思うわ。それでも、見たかったわ! 聞きたかったわ!」


 ママ友のような会話に驚いたわ。

 まぁ、お母様もハンナも楽しそうだから、良いんだけれどね。

 それにしても、カムイは元気いっぱいニコニコね。

 私に向けて手を伸ばしているわ。

 手をそっと差し出すと、ギュウっと握り返してくれたの。

 ウフフ、可愛いわ。

 ウフフ、本当に可愛いわ。

 ウフフ、この笑顔は……私のものよね。

 ウフフ、ウフフ、ウフフ。




「ルバー。どうだ」

「確かに、山の向こうから微振動がする。だが、ガウラ様が心配する事なのか? 僕には分からない」

「すまないが、様子見を頼めるか」

「もちろん。朝昼晩、と取り敢えずは3回、調べてみるよ」

「よろしく頼む」

「あぁ」


 夜の帳が下り、誰もが寝静まった深夜。

 お父様とルバー様は、お爺様から頼まれた事の調査を始めたみたいね。

 この時の私は、何も知らされないまま。

 お父様達だけが知る事。

 でも、甘く見ないでもらいたいわね。

 私には最強の情報部隊がいるのよ。

 ルジーゼ地方へと足を踏み入れた時から、私の側には忠凶しかいなかった。

 でも、カムイに紹介する時は全員揃っていたのよね。

 面白いでしょう。

 忠凶以外の皆は、野に放たれた影。

 この地で起こった事や、これから起こり得る全てのことを調べ尽くすプロ。

 ネズミ隊が動いていたの。

 そして、翌朝。

 私の元に齎される現実が、ルジーゼ地方を震撼させる。

 私に太刀打ちできるかしら?

弟カムイちゃんの登場です。

良いですね。

私には姉しかいませんが、妹の様に可愛がっている子ならいます。

可愛いですものね。

でも、弟って……どんな感じなんでしょうね。

やっぱり、パシリになるんでしょうかね。


次回予告

「迫り来る驚異。ナナ達はその驚異に気付かない。その姿は……。ナナは太刀打ちできるのか! ナナ最大の危機が押し寄せて来る!

さぁ〜、問題です。僕は誰でしょう? 正解は……また来週!」


彼は来週……出てくるかも知れないキャラです。

登場しなければ……来週の次週予告に再登場します。


それではまた来週会いましょう!




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