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不時着した煙

作者: N

揺れる電波に私たちの声も揺れていく夜。

部屋の窓から身を乗り出して、

君の声に手を伸ばし触れようとする私を、

遠くて喧嘩してる野良猫たちがにゃおんと笑った。

おおきなおおきなダンプカーが近くを通り、

ふわりと私の髪をなびかせる。

それに答えるように、

君に開けてもらったピアスはぐらりぐらりと光る。


暗くて冷たい真っ白の、

冷蔵庫で待ちぼうけのシュークリーム。

もういらないから食べてもいいよと、

そっけないホワイトボードの伝言。

あぁ、シュークリーム、

きみももういらないって言われてるよ、悲しいね。

でも私もいらないみたいなんだ。


しかも今は、私もお腹減ってないやごめんね。

まっ暗闇の箱の中でぐちゃりつぶれる

ふわふわかわいかったお菓子。

私ももうすぐそんな感じかな。

電波はいまだに揺れ続けていて、

笑ってるはずのわたし達の声がまるで泣いてるみたいだ。

黄色の箱に詰まった、

ゆっくりした時間が流れる煙草。

これの持ち主は今頃何を考えているの。

気になってパソコンを開いてみたけれど、

あの人の半分も生きてない私には、

まるで大人の言葉、

宇宙に浮かんで全ては無重力に浮かんで

ろくに触れることさえもできなかった。

煙ももくもくと無重力を楽しんでいるみたいだし。

私が考えている間、

あの人はよく煙草を吸っていたけれど、

私は今、何も考えないようにしながら

煙草をひたすら燃やしているよ。


君の声が海に潜ってしまったみたいに、

うまく聞き取れなくなってゆく。

海に沈んでいくのは君じゃなくて私かも。

じれったくなって

遠くで光る電波塔を蹴っ飛ばしたくなった。



ずっと眺めていた黄色い箱を潰す。

実はまだ一本残っていたけれど、もういいや。


私は不安症のお姉さんに、

子守唄を歌ってあげなければいけないから。

刺激的なものはやめてと言われていた。

お姉さんは今日もこの馬鹿みたいな世界をとても正しいと勘違いしながら傷付いているかもしれなかった。


電話の向こう、君の声が弾む、

私もつられて声のトーンを上げる。

そんな私を嘲笑うように、

煙がまとわりつく喉は軋んだ。

あぁ、やっぱりダメじゃないか。

これじゃお姉さんに怒られてしまう。

少しだけ反省した。

それでもきっと寂しさに耐えられない私は、

明日にはコンビニで身分詐称しているんだ。


君の声が聞こえなくなる、電波のせいだと思った私は窓からまた身を乗り出した。

湿った風がふわりと届いた。

私の体もふわりと浮く。

重力から逃げ回る私はそのうち捕まって逆さま世界にこんばんわと挨拶をした。


真っ白のイヤホンから君の寝息が聞こえた。

電波のせいではなかったようです。

庭に不時着した私はなんだかとても馬鹿馬鹿しい気持ちになって、

裸足のまま、

奇妙に痛む足首を引きずりながら郵便屋さんとすれ違う時間を目指して歩き出した。

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