夜行列車
○月×日 曇り
まずは、伊吹、退院おめでとう。
おまえが元気に帰ってきてくれて、本当によかった。
俺はおまえのおかげで散々な目にあったが……。
というわけで、今日の日記はあの日のことを書こうと思う。
あの日何があったのか、何をしていたのか。
今だから話せる、考え方によっては、ちょっと怖い話。
伊吹が事故にあって、意識不明の重態と聞いたとき、俺はさほど心配していなかった。
事故にあったのが蓮花や豹雅だったなら、それこそ事故にあったと聞いただけで心臓が止まってしまうくらいに驚いたと思うが、今まで何度だって、車にはねられたり、木から落ちて頭を打ったり、川で溺れたり、火事に巻き込まれたりしたけれど、2・3日後には復活してきたから。伊吹なら大丈夫だろうという思ってたんだ。
だから母さんに、父さんと樹里が帰るまで家で待つようにと言われても、異論はなかったし、落ち着いていられた。
蓮花も豹雅も静かではあったけど、落ち着いてはいなかったな。居間の机に向かって黙りこくって座って、真っ青な顔、険しい表情で、何度も時計を見たり、腕をさすったり、貧乏ゆすりをしたり。俺が何度「大丈夫だから」と言っても、返事もしなかった。
そんな雰囲気に堪えられなくなって、俺は外へ出た。
近くにある自動販売機でジュースを買って……確かその時、角を曲がってきた自転車と衝突したんだよな。
その後の記憶が曖昧なんだが、気付くと俺は待ち合い室にいた。駅の待ち合い室だ。新幹線や特急電車を待つ人がいる、休憩所のような場所があるだろう?
俺たちがよく使う地元の駅ではない。そもそもあの駅は各駅停車の在来線しかとまらないから、待ち合い室なんて存在しない。何処かはわからないが、大きな駅だった。
休憩所には俺の他にも人がいた。気難しい顔をしたおじさん、憂鬱そうな顔をした若い女性、穏やかな笑みを浮かべるおばあさん。保安灯の緑がかった青い光に照らされて、みんないやに顔色が悪く見えたな。
足元に置かれた一泊二日用の小さな旅行鞄を見て、俺は何でこんなところにいるんだろうか。いつ、どうやって来たんだろうか。というか、そもそもここは何処なんだと不思議に思った。
「もうすぐだね」
俺の隣の椅子には何故か伊吹がいた。
「伊吹? おまえ、何で、病院にいるんじゃ?」
「は? 病院? 何で?」
伊吹は眉を寄せて、訝しそうな顔をした。
「事故にあったって、意識不明の重態って」
「はっちゃん、寝惚けてんな?」
伊吹が不敵にニヤリと微笑む。
「居眠りしてたんだろ? 二人旅は初めてだから、緊張してあんま眠れなかったって言ってたしな」
「二人旅?」
俺と伊吹の二人旅?
何でまた二人旅?
「蓮花たちは?」
「いないよ。つーか招待されてないよ」
「招待されてない?」
「しっかりしてくれよ、はっちゃん」
伊吹はため息をついて、コートのポケットから黒い紙を取り出した。
「俺とはっちゃんの二人宛に、行き先不明のミステリーツアーの招待状が来たんじゃないかよ。で、せっかくだから行ってみようって話になって、これから集合場所に向かうとこだろ?」
そんな怪しげなツアーに行くのを了承した覚えなんてないぞ。というか、意識不明重態の人間が旅行なんて行ってる場合じゃないだろう。何してるんだこいつは。
そんな俺の気持ちはつゆしらず、伊吹は楽しそうに笑っていた。二人旅が嬉しくて仕方ないみたいに。
「そろそろ、行こうぜ」
伊吹が立ち上がって俺を振り返る。
「何処に?」
「14番線ホーム。そこから発車する黒鴉3号て電車に乗ればいいんだと。車中で集合場所へのヒントが与えられるらしいよ」
集合場所も明らかにされてないのか。ますます怪しい。
「ほら、早く」
止める間も無く、伊吹に手首を掴まれ待ち合い室の外へ連れていかれる。
駅の構内は俺たち以外に誰もいなくて、しんと静まり返っていた。
待ち合い室同様、保安灯の灯りに包まれ、辺りは一面青緑色の世界。もしかしてここは駅じゃなくて、宇宙船とか、そんな得たいの知れない物の中なんじゃないかと、くだらないことを思った。
そして俺たちは、長いエスカレーターに乗った。暗くて先が見えないくらいに長い長い、下りのエスカレーター。
「はっちゃん、途中でいなくなったりすんなよ。はぐれたらもう会えないかもしれないんだから」
伊吹は静かに、でも何処か有無を言わさない強い口調で言った。
掴まれた手首に力が込められる。
「伊吹、痛いから。手離して」
「二人で行くって決めたんだからな」
伊吹は微笑みながら俺を見つめる。口元はうっすらと歪められているのに、目は笑っていない、気がした。
伊吹らしくない気味の悪い笑い方に、うすら寒くなってくる。
「おまえ、何処へ行くか、本当に知らないのか?」
「なんか、すごい遠いところってのは聞いた」
伊吹がそう言うと同時に、ようやくエスカレーターを降りきった。
広いフロアにポツンと小さな改札がある。今時珍しい、有人改札だった。
俺たちはこれから電車に乗って、何処かはわからない遠い場所へ行くらしい。
「あったあった。あの改札だ」
伊吹は俺の腕を引いてずんずん進んでいく。足がもつれ、転びそうになりながら伊吹の後に続いた。
「すみません、切符を予約していたんですが」
さっき見せてくれた黒い招待状を窓口の駅員に渡し、声をかける。
帽子を目深に被っているうえに、うつむきがちだったので、表情はよくわからない。
「ご予約のお名前は?」
疲れきったような、覇気のない暗い声だった。近寄りがたい雰囲気に、俺はなんとなく身を引いた。途端に伊吹に強い力で引き戻されたが。
「萬屋 伊吹と、初亥です」
駅員は黒い表紙の大きなファイルを捲りはじめた。切符の予約をした人の名簿のようだ。
あの中に名前があったら、ちゃんと予約がされているというわけで、それはつまりこれから14番ホームに来る、黒鴉3号とかいう怪しげな名前の電車に乗らなければならないということだ。何処だかわからない遠い場所に行くために。
背骨の辺りにぴりぴり電気のような物を感じた。心臓の鼓動が大きくなる。暑いわけでもないのに汗が出てくる。息が詰まる。気持ちが悪い。
まずい。これは、まずい。身体の何処かで危険を知らせる警報が鳴っている。
ちょっと身動ぎしただけで、伊吹の手に力が込められた。痛みに顔を歪める。
「萬屋 伊吹様。ご予約を承っております」
駅員はファイルから黒いカードを一枚引き抜き、伊吹に手渡した。
「こちらが乗車券です。無くさないでください」
「ありがと」
伊吹は黒いカードを手に、満面の笑みを浮かべた。
「お連れ様、萬屋 初亥様は残念ながらご予約を頂いておりません」
「え、そんなはずはないと思いますよ?」
伊吹が不服そうに言った。伊吹の分があって、俺の分がないなんて。
「承っておりません」
「ここで購入は出来ないんすか?」
「事前の審査がありますので、それは出来かねます」
審査って、クレジットカードを作るわけじゃあるまいし、電車の切符買うだけで大袈裟だな。でも、俺は内心ほっとしていた。
切符がないなら電車に乗らなくてすむ。何処だか知らない遠い場所に行くこともない。
「仕方ないよ。でも、一人で行ってもつまらないだろう?」
だから家へ帰ろう。俺がその言葉を言う前に、
「申し訳ありませんが、切符をお持ちでない方にこちらにいられては困ります。お引き取りください」
気付けば、俺は道路の上で寝ていた。いや、寝ていたというより、倒れていたというほうが正しいだろうか。
自動販売機の前。辺りはあの駅のようにしんと静まり返り、闇が世界を支配していた。
今は夜なんだ。当たり前なことを思い、俺は何をしていたんだっけか、と考えた。
伊吹が病院に運ばれ、家の中の空気に堪えられなくなってジュースを買いに行き、自転車と衝突した、そして何処か知らない駅で伊吹と出会い、また俺は自動販売機の前にいる。
つまりだ、自転車と衝突したショックで俺は気を失い、長い夢を見ていた。そういうことだったんだ。
そうなると、伊吹はどうしたんだろうか? みんなも病院に行ったのか?
頭は痛かったが我慢して、走って家に帰った。
玄関の戸に手をかけたのと同時に中から樹里が飛び出してきた。
「初兄!? 何で? 今まで何処行ってたの!?」
出会い頭に唐突に怒鳴られ、俺はすぐに返事ができなかった。
樹里は俺の両肩を痛いくらいに強くつかんだ。泣き出しそうな顔で口を開き、すぐに唇を噛み締めて、うつむいた。
「どうした?」
ただならぬ様子。肩から全身に伝わる振動。樹里の手が震えていた。
「伊吹が」
はっと息を吸ってから、
「伊吹が危ないんだっ! 容態が急変したとか言って、なんかヤバいことになってんだよっ! だからみんな病院行ってて、こんな時に初兄どっか行っちゃってて、ケータイ持ってかねーし、初亥はなかなか帰ってこないおまえを探しに行ったのかも、だからおまえは待ってろって言われて、あたしだって心配してんのに、けど初兄帰ってこねーし、だから待ちきれなくて、それでっ」
樹里の腕を静かに撫でてやった。
「落ち着け。ほら、深呼吸。大丈夫。伊吹なら大丈夫」
樹里は俺にしがみついたまま、荒い呼吸を整えるように深呼吸を繰り返した。
「一緒に病院に行こう。荷物を取ってくる。待ってられるか?」
地面にへたりこんだ樹里は、鼻をすすりながら頷いた。
嫌な考えが浮かび上がる。もしかして、あの夢は、このことを暗示していたのかもしれない。
行き先不明のミステリーツアーの招待状。あれは死後の世界への招待状だったんじゃ?
伊吹の切符があって、俺の切符がなかったということは、伊吹が、伊吹一人だけが、この世界を離れ死後の世界へ旅立つ日が来たと、そういうことじゃないのか?
胸が痛くなり、手で押さえる。どくんどくんと心臓が大きな音をたてる。壊れんばかりの働きぶりに反して、額の髪を払うために触れた指先は冷たかった。
しっかりしろ。そんなファンタジーみたいな話があるか。大丈夫だ。伊吹に何かあるわけがない。今までだって大丈夫だったんだから。そう自分に言い聞かせて。
携帯電話と財布をポケットに詰め込んだ時、下から電話の音が聞こえた。
病院からかと慌てて、慌てすぎて、最後の三段を尻で滑り落ちながら階段を降りて、痛む尻をさすりながら、電話にむしゃぶりついた。
「もしもしっ」
『はっちゃん?』
相手の声に思わず息をのんだ。
「……伊吹?」
『はっちゃん、大丈夫?』
電話の向こうから聞こえてくるのは、紛れもなく伊吹の声だった。なんだか泣きたくなるくらいに、すごく懐かしい感じがした。
「伊吹、おまえ、どうして電話なんか……今、何処にいるんだ? 何してるんだ?」
受話器を握りしめ、震える声で訊ねる。
『何処って、駅に決まってんじゃん。はっちゃん、なに言ってんのさ』
額に手をやり、くらくらズキズキする頭を支える。
どういうことだ?
伊吹は事故にあって、病院にいるはずだ。しかも今はとても危険な状態らしく、一刻でも早く病院に向かわなくてはいけない。
それなのに、駅にいると言う伊吹から電話が入っている。しかし、伊吹が二人いるわけがない。
となると、やっぱりこれも夢ということか。俺はまだ夢の続きを見ているということか。肩を震わせ泣いていた樹里も、夢。
『残念だな、はっちゃんとの二人旅楽しみだったのに』
電話の向こうで、伊吹が拗ねたような声を出す。
受話器を握ったまま、壁に背を預け、ずるずる沈むように床に座った。何だかすごく疲れた。
「……伊吹。なんだかよくわからないけど、悪いことは言わないから、戻ってこい」
『は?』
がんっと大きな音がして、思わず受話器を耳から遠ざける。
『あっごめんっ。え、今、何て?』
「戻っておいでって」
『何で?』
「嫌な予感がするから」
『えー、何だよ、それ。答えになってなくねー? そんな理由で旅行キャンセルなんてやなんですけど』
「嫌でも仕方ないだろう」
俺の第六感的な物が、そう言うんだから。
『だってもう電車乗っちゃったぜ。すげーの。外も中も全部真っ黒でさあ。しかも寝台特急! 寝台特急のるチャンスなんてなかなかないじゃん?』
「そうか。でもこれからだって乗ろうと思えばいくらでも乗れるから。とにかく一回戻って来な」
『はっちゃん、話し聞いてた?』
「聞いてた。いいから戻って来い」
『全然聞いてないじゃん!』
「いいから、戻れ」
受話器の向こうで伊吹が黙り込む。
唇尖らせ不服そうな顔をしているのが、容易に想像できる。
しかし、俺がこんな有無を言わさない命令口調で話すことは滅多にないから、面白くないと思いながらも、どうしたものかと戸惑っているようだった。
「伊吹、俺はおまえのためを思って言ってるんだよ」
頭ごなしに言っても駄目だ。努めて優しく、諭すように語る。
「危ないから川で遊んではいけない、嫌な感じがするから今日は外に出ない方がいい、不穏な物を感じるからあの家に近づくな」
このやり方はずるいかなという考えが頭をよぎった。しかし、伊吹のためだと開き直る。
「俺が助言してやったにもかかわらず、伊吹は川で遊んだし、出掛けたし、他所の家へ入っていったよな。おかげで散々な思いをしたのを覚えているか?」
『覚えてるけど』
不貞腐れたような声。
「今まで俺が間違ったことを言ったことがあったか?」
『ないけど』
「だったら俺を信じて、すぐにこっちに戻って来い」
『えぇー……せっかくここまで来たのに』
これは夢だ。たぶん、おそらく、夢。夢だと思いたいけど、身体が、心が、ぴりぴりする。危険を感じる。取り返しのつかない恐ろしくて悲しいことが、じわりじわりと近づいてきている。そんな気がしてならない。
「伊吹が渋る気持ちはわかるよ。だけど、例え夢の中でも、俺の勝手な思い込みだったとしても、おまえを得たいの知れない遠い所へ行かせたくないんだ」
『なになに、何をそんなマジになってんの? どーしちゃったんだよ。おかしいよ、はっちゃん。さっきからなに言ってんだか、さっぱりワケわかんないよ』
俺の異変に気付いたのか、受話器の向こうから伊吹慌てたように訊ねた。
「わからなくてもいいよ。というか、俺もよくわかってないんだ。ただ俺は、おまえに戻ってもらいたいだけなんだ。頼む、伊吹。思いなおしてくれ。戻ってきてくれ」
目を閉じて祈るように受話器を握りしめる。
夢なら早く覚めてくれればいいのにと思いながら。
『……わーかったよっ。帰ればいいんだろっ?』
伊吹のやけっぱちな声に身体の力が抜けた。
『自分が旅行に行けなくて、悲しいからってそんなマジな声出さないでよ。俺が悪いことしてるみたいじゃんかよ』
伊吹は何か勘違いしているようだった。別にそんなつもりじゃなかったんだけど、伊吹にはそう聞こえたらしい。
「みんな待ってるから、早く戻っておいで」
『んー』
電話はそこで切れた。ふっと息をついて、俺の意識もそこで途絶えた。
そしてみんな知っての通り、翌朝は散々だった。
電話の前で寝こけているところを叩き起こされたと思ったら、樹里には怒鳴られ、蓮花には泣かれ、母さんにはなじられ、父さんには静かに説教をされた。
あれで豹雅にまで何か言われたら、俺の方がキレるか泣くかしていたかもしれないな。
まさか本当に伊吹の容態が急変したと連絡が入っていたとは思いもしなかったから。
病院のベッドの上で退屈そうに欠伸をする伊吹の姿を見るまで、気が気じゃなかったよ。
あれは、夢じゃなかったんだ。
もし、あそこで伊吹を止めなかったら、一人で行かせていたら、いったいどうなっていたんだろう?
考えるだけで、ぞっとする。
しかし、あいつはこっちの苦労も知らないで、俺の顔を見るなり、
「はっちゃんのせいで寝台特急乗り損ねちゃったよ」
などと文句を言った。
あの時、みんなきょとんとしていたが、あの発言の裏にはこんなことがあったんだよ。
自分がどういう状況下にいたのか、本当にわかっているのか? と訊きたい。
まあ、過ぎたことだ。伊吹もこうして無事に帰ってきたことだし、よしとしよう。
みんなも、くれぐれも気をつけてくれよ。
☆
「……伊吹っ!」
「……いっちゃん!」
「「よく生きて帰ってきてくれた!」」
「二人いっぺんにくっつかれると重いんだけどー。てーか、大袈裟だから」
「大袈裟なものですか! 病院から連絡が来たときは本当に身が引き裂かれるような思いだったんだから。楽しかった想い出が走馬灯のように頭の中を巡っていってね」
「ショックのあまり、レンと二人でアルバム引っ張り出してきて、思い出話に花を咲かせちゃったんだよ。そしたら、ジュリーにしっかりしろって怒鳴り付けられてね」
「だって病院行かなきゃって言ってるのに、二人して泣きながらアルバム見だしたから。これはやべぇなと」
「樹里は泣かないで頑張ってたな。俺が帰ってきたときも、唇噛み締めて泣きたいのぐっとこらえて」
「まあ、ね」
「ふーん。じゅりじゅりは泣いてくれなかったのか」
「あんたが死んだらあたしだって泣いたよ。でも、あの時は初兄がいなかったし、泣いてる場合じゃない、あたしがしっかりしなきゃって、必死だったから」
「苦労かけたな」
「全然。初兄のが大変だったんでしょ。伊吹が大人しく言うこと聞かないから」
「だってさー、現実の俺がまさかそんなことになってるなんて思いもしないじゃん? 寝台特急にだって滅多に乗れるもんじゃないしー」
「寝台特急なんていつでも乗れるでしょっ! もう本当に心配かけて……」
「もーいいじゃん。退院したんだからさー」
「しかし、一時は危篤とまで言われてたのに、まさか1週間で退院しちゃうとは、いっちゃんの回復力はすごいね」
「『元気になったんで帰ります』の一言で本当に退院させる方もどうかと思うけどな」
「――あのさ、あたし、今気付いたんだけど、伊吹と初兄のって俗に言う臨死体験てやつだよね?」
「おそらくな」
「伊吹は事故にあって、危篤状態になったからあんな体験したわけだよね?」
「そうなるわね」
「じゃあ、初兄は?」
「え?」
「初兄も自転車と衝突して気を失ってる間に臨死体験しちゃったわけだよね?」
「て、ことはー、」
「初兄も、実は危なかったってことなんじゃないの?」
「ああ、なるほど。じゃあやっぱり、あの予約者名簿の中に俺の名前があったら、俺も伊吹と一緒にあっちの世界に旅立っていたってわけか」
「……兄さんっ!」
「ハツっ!」
「ちょ、重いから」
「人の心配してる場合じゃないじゃん、初兄のバカっ!」
「や、だから重いって……」
「はっちゃーん! よかったねー俺ら生きて帰ってこれてー!」
「……今、まさに圧死しそうなんだけど」