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七階の窓から

○月×日 曇り



 今日、久しぶりにやらかしちゃった。


 つれてきちゃったんだ、お客さん。


 何でこんなことになったのかって言うと、放課後、部活のみんなと肝試しをしたんだ。真冬だけど。


 部室に集まったんだけど、暇でね、やる気しなくてね、雑談したんだよね。


 その時、後輩の女の子が「少し霊感があるんです」みたいなことを言い出して。


 はっきり見えるってわけじゃないけど、事故が起きた交差点だったり踏切だったりの近くを通ったりすると、気配を感じたり、音が聞こえたり、気分が悪くなったりするんだって。


 そしたら別の後輩(男子なんだけど)が、自分が住んでるマンションで自殺した人がいるから、肝試しにいこうだなんて、不謹慎なこと言い出してさあ。


 霊感少女の後輩ちゃんと、他の怖がりな女の子たちは反対したんだけど、男子たちのノリと勢いに押し切られて、結局、行くことになっちゃった。


 本当言うと、僕も少し嫌だったんだ。


 でも臆病だと思われるのも嫌だったから、賛成も反対もしないでいたんだ。


 後輩の住むマンションは学校から歩いて15分くらいのところにあった。


 見た目はごく普通のマンション。あたりまえだけど。


 彼の話によると、去年の春、七階に住んでた地方出身の女子大生が、当時おつきあいしていた男性にこっぴどく振られたショックで、自室のベランダから飛び降りたそうだ。


 彼女が倒れていたといわれる場所に立って、彼女が住んでいた部屋を下から見上げてみた。


「ここ、なんか感じる? 何かいる?」


 後輩の男子がふざけて問うと、霊感少女な後輩ちゃんは青い顔して、頷いた。


 だもんだから女の子たちは、きゃーきゃー騒ぎだすし、男子たちも「マジで!?」「すげー!」って興奮しだすし。


 僕には霊感なんてないから、見えないし、気配も感じないし、嫌な気分にもならなかったけど、想像しちゃった。


 今は誰も住んでいないと言うあの部屋、もし、部屋のガラス戸が開いて、誰かが、件の女子大生がベランダに現れたら、僕たちめがけて、飛び降りてきたら……。背筋がぞぞーっと寒くなった。


「もう、帰ろうよ。軽い気持ちでこんなことするの、やっぱりよくないよ」


 霊感少女な後輩ちゃんが真剣な顔で言うと、周りの女の子たちも、怖いし寒いから帰りたいって言い出して。


 来たばっかりなのに、すぐ帰ることになった。


 でも、後輩ちゃんはずっと顔色が悪くて、あんまり気分良さそうじゃなかったんだ。


 あったかいものでも食べてこうよと誘っても、先に帰りますって、行っちゃったし。よっぽど辛かったんだね。


 みんな、なんだか悪いことしちゃったね、って反省して、めいめい好きなものを食べて(僕はお腹すいてなかったからドリンクだけにした)、落ち着いたところで、解散。


 その後は寄り道もせず、家に帰ってきた。


 玄関のドアに手をかけたところで、


「待った!」


 って後ろから大きな声で言われて。振り返ったらハツがいた。


 息を切らしてね、あとで聞いたら前を歩く僕に気づいて、走って帰ってきたんだって。


 で、びっくりして、とりあえず、言われたとおり、待ったんだけど、扉はもう数センチ開けちゃってたんだ。


 ハツはゆっくりと手をおろして、「遅かった」って疲れたような声でいった。


「なにが?」


「入っちゃった」


「誰が?」


「女の人」


「女の人?」


 いやーな予感がした。

 まさかと思って、聞いてみた。


「その人って、大学生くらい? 血塗れだったりする?」


 ハツは僕を憐れむような目で見て、


「血塗れどころか、頭が割れてたよ」って。


 嫌な予感的中で、あのマンションにいた地方出身の元・女子大生さんが、ついて来ちゃってたんだ。


 事の顛末を説明したら、ハツには「阿呆」って言われて、叩かれた。


 レンには「お馬鹿」って言われて、呆れられた。


 なーんで僕はあっちの世界の人に好かれちゃうんだろう。


 見えないし、聞こえないし、体に影響もないし(あったら困るけど)、そんな僕につきまとったって、いい事なんてないだろうに。


 霊感少女の後輩ちゃんが、マンションから離れた後も具合悪そうにしてたのは、女子大生が僕にくっついてきてたせいだよね。


 あの子には本当に悪いことしちゃったなぁ。

 ますます罪悪感。明日会ったら謝らなきゃ。


 まあ、そんなわけで、そのお姉さん、僕たちの部屋にいるらしいから(僕にはまったくわかんないんだけど)、そのつもりでね。




「何しちゃってんの! ていうか、知ってたら入んなかったんですけど! そういうことは先に言っとけよ! 日記に書くなよ!」


「大丈夫、今はもういないらしいから。安心して」


「初亥に説得してもらって、お帰りいただきました」


「豹くんて、ほんっとによくお客さん連れてくるよねー。しかも自覚あるくせに、よくまあ肝試しなんか行ったよねー」


「それ、嫌味?」


「なにか、あちらの世界の人を魅了する、誘惑する、フェロモンでも出てるのかしら?」


「フェロモンが出てるかどうかはわからないが、今回の彼女は別れた男に似てたからついてきたって言ってたぞ」


「別れたじゃんなくて、ふられたんだよね?」


「そういうこと言わないの」


「また遊びに来たいって言ってたから、それは断ったけど、よかったら、また会いに来てほしいとさ」


「豹兄、絶対、行かないでね。危ないからね。何されるかわかんねーんだから。行っちゃだめだよ。行くなよ。ぜったいに、行くんじゃねーぞ!」


「幽霊のお姉さんより、じゅりじゅりのが断然怖いよねー」


「だから、そういう余計なこと言わないの」





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