繋がる僕らの
○月×日 曇り
今日、びっくりしたことがあって。
びっくりなんだけど、ちょっと嬉しくて、楽しいこと。
話の始まりは昨日の夜。何がきっかけだったか忘れちゃったけど、いっちゃんと小さい頃使ってたトランシーバーの話をしたんだ。
昔、僕らはトランシーバーを持ってて、学校の裏山に入っては、よくサバイバルごっこをしたよね。
運動神経の悪い僕は、よく山の中で怪我をして動けなくなって、その度にトランシーバーでハツに連絡をとって迎えに来てもらってたんだ。ハツは迷子を見つけだすのが得意だったから。
僕の話を聞くと、いっちゃんは不思議そうな顔して、「サバイバルごっこはよくやったけど、俺らトランシーバーなんか持ってなかったよ?」って言った。
「いっちゃんが忘れてるだけだよ」
「それ言うなら、豹くんの勘違いだよ。ぜーったいトランシーバーなんて持ってなかったもん」
ハツにも聞いてみようと思ったんだけど、もうすでに布団の中で心地良さそうな寝息をたてていた。
だから、議論はまた明日ってことにして、その日はおとなしく眠りについた。
そして、僕は夢を見たんだ。
鬱蒼とした林の中、ひとりぼっちで泣いている僕の手には、黒くて四角い、それからちょっと重いトランシーバーが握られていて、そこからはザーザーという雑音しか聞こえてこない。
使えないトランシーバーなんて持っていても仕方ないのにね。どうして僕はこんなものを持っているんだろう?
「泣くな。すぐに行くから」
どこからか、ハツの声がして、僕はトランシーバーを耳にあてる。でも聞こえてくるのは雑音ばっかり。
「何が見える?」
声は聞こえるのに姿は見えない。トランシーバーは使えないのに、どこから、どうやって、僕に話しかけてるの?
「ハツはいったい何処にいるのさ? 早く助けに来てよ」
ひとりぼっちの寂しさと不安、姿の見えないハツへの苛立ちから、叫んだ。
「なに言ってんの。はっちゃんなら隣にいるじゃん」
答えたのはいっちゃんの声。しかもその声は、何故か空から降ってきた。
何で? と思ったところで顔を覗かせたいっちゃんと視線がぶつかった。
「あれ、いっちゃんも迷子?」
「はー? 何言ってんのー?」
いっちゃんが、ぺちぺちと僕の頬を軽く叩く。
「ここは裏山でしょ?」
いっちゃんは瞬きを2回して、
「寝ぼけてるんだ」
「僕は山にいたんだよ」
「だから、夢見てたんでしょ?」
「夢?」
いっちゃんがニヤニヤ笑いながら、言った。
「ここの何処が、裏山だって?」
落ち着いて周りを見れば、確かにそこは、ハツと僕といっちゃんの3人が共同で使っている部屋だった。右手にはぐしゃぐしゃに乱れたいっちゃんの布団。左手には一糸乱さずきっちりと仰向けの姿勢で眠るハツの姿……いつも思うんだけど、ちゃんと寝返りしてるのかな?
必死だったから、すぐには夢だって気づかなかったんだよね。恥ずかしいことに。
「夢だね」
「夢だよ」
まだ5時とかなのに、いっちゃんは早朝ランニングに行っちゃった。僕の寝言で目が覚めちゃったんだって言ってた。いっちゃんには申し訳ないことしたね。
朝食の席で、ハツにトランシーバーの話をした。
低血圧で寝起きの悪いハツは頭を抱えたまま、何も言わなかったから、聞いてないんだと思った。
レンもジュリーも、トランシーバーのことなんか覚えてないって言うしさ、やっぱり、いっちゃんが正しくて、僕が勘違いをしてたのか。て、思ったんだ、その時は。
次にトランシーバーのことを思い出したのは、古典の時間。
お昼ご飯を食べた後の五限目だったから、とにかく眠くて眠くて。でも、寝ちゃうわけにいかない。
古典担当のウッツーこと宇津井先生は、ちょっとの居眠りやお喋りを絶対見逃さない。
その場で注意はしないけど、すぐに成績に赤をつける。
普段は寝てばかりいる運動部グループも、化粧直しやお喋りばかりしているギャルグループも、古典の授業だけは真面目に受けるくらいだから、そうとうなもんでしょ?
でもさ、古典なんて現代社会で生きる上でいったい何の役に立つのかな?
ただでさえ、今日は変な夢を見てよく眠れなかったって言うのに、午後の一番眠い時間に古典の授業を入れるなんて、居眠りしてくださいって言ってるようなものじゃないか。
ウッツーの妙なアクセントの古文を聞いてると、すぐに眠りの世界に引っ張られ、かといって教科書の文字を追おうと下を見れば、そのまま首が落ちていく。
僕が古典嫌いじゃなかったら、この時間の授業だって、きっとなんてことなかったのに。古典が好きだって言ってたハツが羨ましい。
うとうとしながらペンを握りしめ、懸命にノートを取っているようなポーズを作って、ハツは今、何をしてるかな? なんて思いを馳せた。
そしたらね、
「真面目に授業を受けろ」
て、頭のなかで、呆れたようなハツの声がした。
「だって、眠いんだもんさぁ」
僕もぼんやりと頭の中で返事をした。
「ハツはいいよね。古典好きだから、退屈しないし、眠くなることもないでしょ」
ハツはちょっと考えて、
「古典は好きだけど、昼休み後っていうのはつらいかな」
「でしょ? ましてや僕は大の古典嫌いなんだから。眠くなるのは仕方ないことだと思わない?」
「まあ、そうだな」
その時、肩をたたかれて、顔を上げた。隣の席の女の子が「次、当たりそうだよ」とノートの隅に書いて、教えてくれんだ。
僕は頷いて、ウッツー先生の言葉を待つ。
寝ないようにしようと思っていたのに、結局居眠りしちゃったよ。ハツと話をする夢まで見ちゃったしさ。
「危ないとこだった」
「本当だな」
姿は見えないけど、声でわかる。ハツはきっと、しょーがないって感じに笑っているだろうなと思った。
「じゃあ、次の文章を、萬屋、」
「そうえいば、朝の話なんだが、」
先生とハツの声がかぶった。朝の話。トランシーバーのこと。ハツはちゃんと聞いててくれたんだ。
「前に来て現代語訳しなさい」
「本物のトランシーバーは誰も持ってなかった。ただ、俺と豹雅だけはトランシーバーみたいなものを、今も持ってるよ」
「え?」
突然声を上げた僕に、先生が目を丸くした。僕も先生と同じような顔をしていたと思う。
自分で言うのもなんだけど、人よりも頭の回転が悪いからね、そこで初めて気付いたんだ。
いったいどこから、何でハツの声が聞こえるんだろう? 僕は、まだ夢の中にいるのかな? って。
「話がしたければ、あの頃みたいに、また声をかけろ。とりあえず今は目の前の問題を何とかしなさい」
「萬屋、何をしてる。早く前にでてきなさい」
それでも僕はすぐに動けなくて、今のはいったい何だったんだろう? としばしその場で考え込んじゃったんだ。
授業が終わったあと、本当ならすぐにでも電話をしたかったんだけど、ほら、ハツの学校は校則が厳しくて校内での携帯電話の使用は昼休みだけしか許されてないから。
ハツの学校が終わるのを待って電話するより、家で帰りを待つより、むしろ迎えに行った方が早いと思って、部活サボってハツの学校まで行ったんだ。
進学校は毎日7時間授業だっていうから、大変だよね。
近くの公園で今川焼き食べてるよー、早く来てー、なんてメールを送って、誰もいない公園のブランコを陣取った。はじめて入ったけど、住宅街なのに、近くに子どもがいないのか、やけにひっそりとした場所だったよ。
ブランコに揺られながら、僕は小さい頃のことをまた思い出していた。
サバイバルごっこをしたとき、みんなで遊びに行ったとき、やんちゃでお母さんの言うことを聞かないジュリーといっちゃんを追いかけて、何故か僕一人だけが迷子になる。そんな時、必ず、ハツが僕を見つけてくれた。
僕はずっと、ハツとトランシーバーで連絡をとっている気になっていたんだけど、本当はそうじゃなかったんだ。ハツがトランシーバーは、持ってなかったって言ってたから、それは確かなんだろう。
でも、僕の記憶にはちゃんと残ってる。迷子になると、ハツの声がする。
そこから何が見える?
もうすぐつくと思うから、泣くんじゃない。
もうすぐだから。
レンもジュリーもいっちゃんも知らなかった。
僕とハツは知っている。
僕とハツの記憶には残ってる。
僕とハツだけ、何かで繋がってる。
「双子のテレパシー、か」
「いや、俺たち双子じゃないから」
そう結論づけたと同時に、ハツがやって来た。
差しだした袋から今川焼きを一つ取り出して、ハツは隣のブランコに腰かけた。
「家で待ってればよかったのに」
「待ってられなかったんだよ」
「声かけろって言っただろ」
「ハツの学校はケータイ使っちゃいけないんじゃないの?」
「え?」
「え?」
顔を見合わせ、しばし沈黙。お互いに「何言ってるんだろう」って顔してた、たぶん。
「思い出したわけじゃなかったのか」
「何を」
「トランシーバーのこと」
今川焼きを一口かじり、ハツは言った。
「俺もよくわからないんだ。でも、考え方は間違ってないみたいだな。双子じゃないけど」
間違っていない。
「えぇ、じゃあ、本当にテレパシーなの?」
今川焼きにかじりついたまま、ハツは首を縦に振る。
まさか、とは思ってたけど、そのまさかが本当にあった。にわかには信じられない話だけど、ハツは嘘をつかない。
「僕らって実はエスパーなの?」
「それは違うと思うけど」
ハツは肩をすくめて、僕の、僕とハツの記憶にあるトランシーバーのことを、わかる範囲で教えてくれた。
僕は全然覚えてなかったけど、僕らには物心ついたときから、この不思議な力(というのは大袈裟かな?)があったらしい。
頭の中あてクイズと称して、頭の中で思い浮かべたものをあてるというゲームをよくやってたんだって。
僕とハツがやると百発百中であたるのに、相手がレン・ジュリー・いっちゃんだと、全然ダメ、十回やって一回当たるか当たらないか。
僕が迷子になったとき、ハツがいち早く駆けつけてくれたのは、僕の記憶にあるとおり、ハツと僕は連絡をとりあっていたから。ただし、それは『本物のトランシーバー』じゃなくて、僕ら二人にしかない『頭の中のトランシーバー』で。
「頭の中のトランシーバー? テレパシーじゃないの?」
「あの頃はテレパシーを知らなかったから」
幼い頃。ハツが迷子になった僕を迎えにきた帰り道、おもむろに訊いたらしい。
「何でハツには僕のいる場所がわかったの?」
「豹雅の泣いてる声が、遠くから聞こえたからだよ。豹雅にも俺の声が聞こえただろ?」
「うん。でも、何で聞こえるの? 他の人には聞こえないのに。どうして僕らは、離れていても話ができるの?」
答えを求め、目を輝かせる僕に、ハツはなんと言ったらいいか困って、
「きっと、俺と豹雅は頭の中にトランシーバーを持ってるんだよ」
「トランシーバー?」
「ほら、テレビでやってた離れてても話ができる『無線機』てやつだよ。何で俺たち2人だけなのかはわからないけど、俺たちは頭の中のトランシーバーで話をしてるんだよ。だからトランシーバーを持ってない人には聞こえないんだよ」
我ながら苦しい答えだと思った、とハツは笑いながら言った。
「でも、おまえは単純だから俺の言うことすぐに信じて、すごいねーっハツは何でも知ってるねーって感心してた」
「単純で悪かったね」
そりゃあね、僕は単純だし、普通の人ならにわかには信じ難い話だと思うよ。でも、それはハツがそう言ったから、信じたんだ。
物知りで冷静で、いつも先の先まで見て行動するハツの言葉が間違ってたことなんて、一度もなかったから。
みんなだって、ハツに一目おいてたから、幼い頃から僕ら五人のリーダーとして、ハツの言葉は絶対だって、決して逆らうことはなかったし、ハツの言葉を疑うなんて考えたこともないでしょ?
「それなのにひどいなぁ、適当なこと言って、僕の純粋な子ども心をもてあそんだんだ」
「そう言われても、俺だって突然そんなこと訊ねられて困ったんだから仕方ないだろう。おまえたちは昔から、何かわからないことがあると、すぐ俺のとこに聞きにきてたしな。わからない、知らないなんて言えなかったよ」
「だって、ハツは何でも知ってると思ってたから」
「今だから言えるけど、俺にだって知らないこと、わからないことはたくさんあるんだよ」
それもそうだよね。ハツがこの世界のこと、何もかもすべて知っていたら、ハツは僕らの頼れる兄ちゃんじゃなくて、神様か何かになっちゃうもの。
「僕は勝手に、頭の中にあるかもしれないトランシーバーを、本当にトランシーバーを持ってたって記憶に改ざんしちゃってたんだ」
「そういうこと」
と言っても、まさか頭の中に本当にトランシーバーが埋め込まれてるわけがないから、やっぱりこれは、俗に言うテレパシー的なものなんだろうね。
「でも、よく声だけで僕がどこにいるかまでわかったね」
GPS機能でも付いてるのかな。なんて言ったら、「そんなわけないだろう」て、ハツにすぐ否定された。
「だから、いつも訊いてたんだよ。そこから何が見える、って」
「あ、そういうこと」
「おまえの返事が来ると同時に頭の中に景色が浮かぶんだ。目の前の、俺が見ているのとは違う、まったく別の場所の景色が」
「僕の見てるものが、ハツにも見えるってこと?」
「うまくいけばな。調子が悪いと頭の中の景色が霞んで、ちゃんと見えないこともあったから」
「へぇ! すごいね! そんなことまで出来ちゃうんだ!」
僕は嬉しかった。何の取り柄もない自分に、こんなすごい力があったなんて知らなかったから。
「すごい力って言っても、俺たち2人しか使えないんだぞ?」
「でもさ、話そうと思えばいつでもどこでもハツと頭の中で話ができるんでしょ? 例えばテストの時にわからない問題があったら、教えてもらえるじゃん」
「不正に手を貸す気はない」
ハツはきっぱり言ったけど、どうかな。ハツならどーしても! って言えば教えてくれる気がするんだよね。
「でも、何で僕ら二人だけなんだろ?」
「さあな」
「それにさ、何で今まで、こんな便利な力のことを忘れてたのかな?」
例えば、そう例えば、高校受験!
ハツの力を借りさえすれば、おバカな僕だって第一志望の高校に合格できたはずなのにさ。こんな便利な力があるってわかってれば、使わない手はなかったのに。なーんで僕はこの力のことを、今の今まですっかり忘れていたんだろう。
「大人になるにつれて、こういう力って薄れていくものだからな」
ハツ曰く、サバイバルごっこをやらなくなった頃から、徐々にハツには僕の声が聞こえなくなって、ハツの声は僕に届かなくなっていったんだって。
「昔はご近所でも有名な仲良し五人だったけど、だんだん、それぞれ別々の友達と遊ぶようになって、兄弟のこと気にかけなくなっただろ。仲が悪くなったとかじゃないんだ。今までお互いにお互いのこと、100%の気持ちで想っていたとしたら、外の世界を知って、それが50%とかに半減した。たぶん、それだけなんだよ」
「ふーん」
僕は、そんなつもりなかったけどな。幼い頃と変わらず、みんなのこと一番の友達だと思ってたつもりだった。産まれる前から側にいる、一番最初の友達なんだから。
「それなら、何で今日になってまた急に復活したんだろうね」
「おまえが、声をかけてきたからだろ?」
「僕が?」
「授業中に、今なにしてるって」
「そういえばそんなことちらっと考えてたけど。そんなちょっとのことでも繋がるものなんだ?」
「たぶん、」
ハツは今川焼きを軽く揉みながら、言葉を探しているようだった。
あんまり強く押すと中身が出ちゃうんじゃないかと、僕は言葉の続きよりもそっちが気になった。
「豹雅は無意識に交信を断ってたんだよ、きっと」
「交信を断つ?」
「いつからか、豹雅は外の世界に興味を持って、頭の中にあるトランシーバーの存在を忘れてしまった。何度、交信を試みようとしても、おまえのトランシーバーは俺の無線を受信しなかった」
「ごめん」
僕自身にはそんなつもりなかったけど。
「いや、これは仕方のないことだから。さっきも言ったように、大人に近づくと子どもの頃のことって忘れていく。寂しい気はしたけど、仕方ない。でも、またいつか、豹雅から交信がくるかもしれないって思って、俺はずっと受信状態にしてたんだ」
「頭の中にあるトランシーバーを?」
本当にあるかどうかもわからない、トランシーバーを受信状態にしてたって、具体的に何をどうしてたんだろう?
ハツは「トランシーバーは例え話だから、深く考えるな」て言って、僕の疑問には答えてくれなかった。
「ちなみにどれくらい?」
「10年近く」
「それなら待ってないで言えばよかったのに!」
ハツは首を振って、「思い出されなかったら、それはそれで仕方ないことだから」なんて言ってたけど、僕としては何でもっと早く言わないのさ! って何だかすごく損をした気分。気が利かないというか、馬鹿というか。
「じゃあ、偶然、いっちゃんと話をしたのがきっかけで、僕がトランシーバーのことを思い出して、」
「たぶん、それが引き金になって豹雅の中の何かが、トランシーバーで言うところの、送信機能が復活したんだと思う」
「そして、これまた偶然、退屈な古典の授業中、ハツに対して『今、何してるかな』なんてちらっと思いを馳せたのが自動的に送信されて、」
「俺がそれを受信したんだろうな」
「うん、なんだか、わかったような、わからないような」
頭の悪い僕でもはっきりわかったのは、10年の時を経て、僕とハツはまた繋がったということ。
テレパシーだか、頭の中のトランシーバーだかで。
「今、『これがハツじゃなくて、何処か遠くの街に住んでる可愛い女の子とテレパシーで繋がったとかだったらよかったのに……』とか思っただろ?」
「何でわかったの?」
「そんなイメージが送られてきた」
「送ったつもりはないんだけど」
「久しぶりだから、まだコントロールが効かないんだろ」
それは困る。頭の中で考えたこと、何でもかんでもハツにわかっちゃったら、たまったもんじゃないよ。
「これ、コントロール、出来るんだよね?」
「練習すれば」
「じゃあ、練習しよ。僕は覚えてないんだけどさ、久しぶりに頭の中あてクイズやってみようよ」
それから、二人で頭の中あてクイズをやった。今、食べたい物は? とか、最近やったテストの中で一番いい点は? とか、質問を声に出して言う。相手は頭の中でその質問に答える。意思の疎通ができてれば質問した方はその答えをまた口にして、あっているかを確認する。
そしたらびっくり! 本当にハツが何を考えているか、僕が何を考えているか、ちゃんと伝わるんだ。
ハツには僕の声が聞こえるし、僕にもハツの声が聞こえる。本当にトランシーバーで話をしているみたいに。これって、すごいことだよね。
「なんだか変な感じ。でも、なんだか楽しいね」
口に出した言葉に、ハツも「そうだな」と口に出して答える。
「また、こうやって話ができる日が来るのを待ってたんだ」
優しい目をしたハツにじっと見つめられて、僕は少し変な心地がした。
「何で、俺たちだけなんだろうな」
「それ、さっき言った」
「そうだったか」
ハツは息を吐いて、「そろそろ帰ろう」と立ち上がった。
トランシーバーなんて使わなくてもわかった。ハツのことだから、「二人だけ」っていうのが残念だったんだよ。
何をするにも五人一緒だったあの頃は、もちろん楽しかったけど、『いついかなる時もみんな一緒』というのから、離れたいと思う時も、たぶんあったはず。だからハツは僕としか通じない、頭の中にあるトランシーバーが嬉しかったんだろうね。あの頃は。
でも今は、いつだって五人一緒なんて、なかなかそうはいかないでしょ?
そんな今だからこそ、トランシーバーでもテレパシーでもいいから、五人で一つ繋がっていたい。ハツはそう考えたに決まってる。
ハツにはやめといたほうがいいと思うって言われたけど、黙ってるのも変な感じがしたから、ここに書いてみた。
僕とハツが出来たんだから、みんなも練習すれば出来るんじゃないかなーとも思って。
やってみる価値はあると思うけど、どうかな?
☆
「無理よ。こういう力は持って生まれたものだし、成長するにつれて薄れていくものだから。幼い頃に出来なかったことが、今なら出来るなんてこと、まずないわね」
「そっか。残念」
「てか、何で豹くんだ!? ずるいっ! おかしいっ!」
「そう言われても……ねえ?」
「だから書くなって言ったんだよ」
「すっげぇムカつく。あたしらのけ者かよ」
「のけ者にしてるつもりはないし、する気もないから」
「私は素敵だと思う。初亥と豹雅の間には、私たち五人の結束以上に、強い信頼関係、繋がりがあるってことでしょう?」
「じゃあ、俺らははっちゃんと豹くんに信用されてないってことなんだー。二人して頭の中で俺らの悪口言って楽しんでんでしょー? そのための脳内トランシーバーなんでしょ?」
「そういう使い方もあるな」
「余計なこと言わないでよ」
「マジで、何で二人だけなの? 納得いかないんですけど」
「何でと言われても、」
「二人とも男の子だから?」
「俺だって男ですー」
「じゃあ、お母さん似だから?」
「それ言うならあたしだって母さん似だし。つーか豹兄は明らかに父さん似じゃん」
「そうね。じゃあ、血液型? 性格? あ、身長の問題かもしれないわね」
「とにかく、僕らにも何でなんだか、わからないんだってば」
「もういいじゃない、兄さんと豹雅は鋼のように硬い『絆』という名の鎖で繋がれた特別な関係なのよ。きっと産まれる前からそう決まっていたの。運命共同体なの。そういうことにしておきましょう? キリがないから」
「やだっ。豹くんだけずるいっ! 」
「まだお姉なら許せるけど、豹兄てのが」
「……それ、どういう意味?」
「二人ともそんなに初亥のことが好きなの。でも、そんな言い方したら豹雅が可哀想でしょ? もう大きいんだからヤキモチやかないの」
「そーじゃなくてっ。豹くん言ってたじゃん。はっちゃんにテストの答え教えてもらえるって。それがずるいっての!」
「初兄と結託して、自分だけ赤点免れようだなんて。豹兄、見損なったよ」
「なんだ、そういうことだったの。よかったわね、豹雅。二人ともあなたにヤキモチやいていたわけじゃなかったみたい」
「よかった……の?」
「もう、いいよ。めんどくさいから、そういうことにしとこう」