World's End : Online
「みんな、もう何も心配する必要はなくなった! 残された3日間をどうかこころゆくまで楽しんで欲しい!」
壇上に登ったケインが今までの人生で最高だと言い切れるような心からの笑みを浮かべ、ジョッキから中身が零れるのも気にせずに目一杯高く掲げる。
まだ陽も沈み始めたばかりだというのに、気分は最高潮だった。
「それでは帰還を祝して……乾杯!」
「「「「乾杯っっ!」」」」
そこかしこでグラスが打ち鳴らされ、中には強すぎたのか硝子の割れる音さえ聞こえてくるのに誰も気にも留めない。
参加者の顔はどこまでも明るく、並んだ料理もまた、どこまでも豪勢だった。
約束通りセレス王へプレイヤーの装備品を献上したケインが宴会を行える広い部屋と大量の料理の当てがないか尋ねたところ、快く王城の一角を貸して貰えたのだ。
「よっしゃぁぁぁぁ、軍資金もたっぷりだ! 最後の三日三晩くらい楽しんでこようぜぇぇぇ!」
「ヒャッハー! ついていきますぜ兄貴ぃぃぃぃ!」
次々に運び込まれる料理に舌鼓を打ちながら談笑に興じる彼らの顔にはもはや一点の曇りもなかった。
「やっと、やっと帰れるんだよな。はは、まだ実感わかねぇや。母ちゃん怒るだろうなぁ」
「怒ってくれる人が居るだけ良いじゃねぇか。俺なんか独り身だぞ。てか家賃とか携帯とか支払止まって大丈夫か心配なんだけど」
「公共料金は後払いできるしどうでもいいじゃん。俺なんか会社無断欠勤2ヵ月以上だぞ。完全にクビだろ……再就職できんのか……?」
……ない、はずである。
セシリア達もそんな無秩序が支配する空間の片隅で、並んでいる豪勢な料理を楽しんでいた。
「なぁ、これって一体何の騒ぎなんだ?」
「私も兄様も場違いな気がします」
王城で開催される豪勢な食事会とくれば、高貴な人間にしか参加資格がないのが当然という認識なのか、完全に気後れしている。
食べ切れない程の豪勢な料理も、テーブル一つにつき一人は配置された給仕も、小さな村で暮らしていた2人には俄かに信じられない光景だった。
「大丈夫ですよ。2人には凄く凄く助けてもらいましたから。それから後で大切なお話があるんです。聞いてくれますか?」
自分達をセシリアの付属物としか考えていないのか、緊張気味に頷く。
「え、あ、あぁ。勿論だ!」
「お姉様が大切なお話……?」
それをきっと慣れないパーティーに参加したからだと思い込むセシリアはどこまでも自分に疎かった。
「しっかし、気になるのは最後のあれだよな。一体どういうつもりだったんだ?」
グラスに注がれた、滓や種の混じっていない透き通るような色合いの葡萄酒を口に運びながらカイトが首を傾げる。
親方が帽子屋に手をかけて暫く経ったあと、大掛かりな魔法が発動した。
対象は彼らが篭っていた要塞そのもの。
自由の翼の陣営に向かって撃つならともかく、自分達の居る要塞に叩き込むなんて自殺行為でしかない。
屋上でお茶会のメンバーを拘束していたプレイヤー達は予想だにしなかった抵抗に慌てて地上数十メートルから飛び降り軽くない怪我を負わされたが、幸いにも命に別状なかった。
問題は要塞の方で、飛来した魔法に耐えきれる筈もなく一瞬の内に崩落し、今は山のような瓦礫で埋め尽くされている。
理解しがたい事に、屋上から飛び降りたのは味方だけで、お茶会のメンバーは誰一人の例外もなく要塞に残ったままだった。
飛び降りたメンバーは敵とはいえ見捨ててしまった自責の念に駆られ、見ていたメンバーはお茶会がまだ何か悪巧みをしているのではないかと疑い、一時期は要塞の瓦礫を撤去して生き残りと死体を探そうと言う流れになりかけたのだが、意外なことにそれを制したのは親方だった。
『生きてるはずがねぇだろ。……大丈夫だ、そのままにしといてやれ。それよりよ、パァっと宴会でもしようや!』
本気で瓦礫を撤去するなら帰還に必要な3日を掛けても終わらない可能性が高い。
無駄な行為に時間を費やすより最後のこの時を楽しむべきだと言う、親方にしてはやや強引な誘いによって撤去の件はうやむやになり、こうして宴の場が設けられる運びとなったのだ。
「多分、親方は何か知っているんだと思います。でも、話すつもりはないみたい」
以前のセシリアならどんな手を使ってでも親方を問い詰めていたかもしれない。
そうしなかったのはひとえに彼女の成長故だろう。
誰かを信じる事。疑わない事。ずっと忘れていた気持ちを教えてくれたのはここに居るみんなだ。
(だから、2人にもちゃんと、参加する資格はあるんですよ)
セシリアは心の中でそう呟いてから、湧き上がる喜びに身を任せ、フィアとリリーを強く抱きしめる。
「フィア……哀れな子……」
何の気もなしに胸を押し付けているセシリアに、嬉しいながらも慌てている初心なフィアを見て、カイトが心からの憐憫を送っていた。
宴会はこの3日間エンドレスで行われる。
プレイヤーはいつ起きても良いし、いつ寝ても良い。お腹がすいたら深夜だろうと早朝だろうと昼下がりだろうと、ここで暖かな料理を食べられるようになっている。
セレス王へ渡した装備にはそれを二つ返事で了承させるほどの威力があった。
彼としてはこれらの装備を集め、使いこなしていたプレイヤーを自国に組み込みたい思惑もあるのだろう。
もっとも、3日後にはこの世界からいなくなるプレイヤーにとって、そんな思惑はどうでもよく、酔った勢いもあって適当な返事を繰り返すばかりだったが。
お腹がいっぱいになった後、カイトを除いた3人はアセリアでとった宿に帰る事にした。
カイトは給仕に参加していたフィアより少し年下と思わしき、可愛らしいショタ少年が琴線に触れたらしく、3日で絶対に落とすと息巻いている。
引き攣った顔で「……頑張って」と言うしかなかったセシリアは実に楽しそうな笑顔で突撃を敢行する親友を見送りながら王城を後にした。
アセリアで随一と言われている宿は多くのプレイヤーで貸切状態になっている。
これもセレス王が采配を揮ってくれたおかげだ。
リュミエールの屋敷とは比べ物にならないレベルの寝具に加え、様々な工夫が凝らされた大浴場まで設置されており、プレイヤーからの評価も高い。
「さて、お風呂に行く前にお話したい事があります」
セシリアがふかふかのベッドに腰掛けてから切りだすと、フィアは手近な椅子を引っ張ってきて正面に陣取る。
「えと、私も同席していいのでしょうか」
一方、リリーはセシリアとフィアを見比べるように視線を彷徨わせていた。
「勿論です。ここにどうぞ」
自分の隣をぽんぽんと叩くと、嬉しそうに身を寄せて座る。
セシリアはどこから話すべきか暫く考えた後、変に取り繕うよりもありのままを話そうと決意した。
「本当は言わないつもりだったの。騎士団と魔術学園に手紙だけ預けておいたから」
もし1週間以内に手紙を取りに来なければ、フィアとリリーの両名に渡して欲しいと言伝を頼んだでいたのだが、既に回収済みだ。
中にはこれから話す内容が事細かに記されている。
今日の作戦を無事終えて帰還アイテムが発動すればその時点で元の世界に帰る可能性もあった。
帽子屋の策略に負けて命を落とす可能性もあった。
話せる時間があるか分からないから手紙という手段に頼った……と言うのはただの言い訳に過ぎない。
なんてことはない、直接話すのが怖かったのだ。
「私はこの世界の人間じゃないんです。ううん、私だけじゃない。自由の翼に所属してる人は例外なくみんな、私と同じ別の世界の人間なの」
唐突な告白にフィアとリリーが目を丸くする。
「私達が今日まで頑張って来たのは、元の世界に帰る為。今日の宴会はその願いが叶ったご褒美みたいなものです」
信じられないといった面持ちで何か言おうとして、けれど言葉にならなくて、それを何度も繰り返いているようだった。
2人もセシリアを始めとしたプレイヤー達と自分達の間で何かが違っている事に薄々ながらも感付いていた事だろう。
セシリアは2人が心の整理を終えるまでは何も話さずにじっと待ち続ける。
「帰るって、いつなんだ」
ようやく出てきたか細く震えた言葉は、セシリアの事情を理解して受け入れた事を如実に物語っていた。
「あと3日。ううん、もう2日と半分かな」
「なんで、どうして今まで言ってくれなかったんだよっ!」
フィアは座っていた椅子が転がる勢いで立ち上がり、セシリアの肩を掴む。
彼の瞳には滅多に見せない涙が薄く滲んでいた。
「ごめんなさい。それについては何も弁明できない。でも、言おうと思ったのはフィアのおかげなの」
そんな彼の瞳から視線を逸らさず、じっと見つめ返しながらセシリアは言う。
「フィアならきっと、今さら言い出した私を怒っても、許してくれるって思えたから」
途端に泣きそうな顔になって、だけど絶対に泣き出すもんかとばかりに歯を食いしばる。
「……っ! セシリアは、卑怯だ」
本当はもっともっと沢山の文句を言いたかったはずだ。
でもフィアは意地と根性でそれ以上の不平を全て飲みきる。
「ごめん。でもちゃんと言いたかったの。言わなきゃって、思えるようになったの」
「そりゃ俺だって、手紙なんかで伝えられるよりセシリアからちゃんと聞けて良かったさ……」
初めての出会いから毎日を過ごすようになって、もう随分と時間が経過した気がする。
いつのまにか不自然は自然になって、まるで家族のように一緒に居るのが当たり前になっていた。
「でも、だからってこんなの、ねぇだろ……」
それだけに、唐突な別れの言葉はフィアとリリーの心を大きく揺さぶった。
「だからせめて願い事があれば、私が叶えられる物なら叶えたいの」
今までずっと黙っていたお詫びをしたくて、助けて貰ったお礼もしたくて、できる事があれば全部してあげたいと思ってのことだ。
「リリーさんは何かないですか? 私にできる事」
「えっと……」
唐突に話を振られたリリーがあからさまに眉尻を下げ、困りきってしまう。
そんな顔をさせるつもりじゃなかったのにと、セシリアの顔が陰ったせいで余計に拍車が掛かる始末だ。
「お姉様は十分すぎるくらい沢山のものを私にくれました。だから、叶えて欲しいお願いごとなんて一つもありません」
迷った末にリリーはそう告げる。
だけど手はしっかりとセシリアの服を握っていて、本当はずっと傍にいて欲しかったと物語っていた。
聡明な彼女の事だ。そんなお願いをしてもセシリアを困らせるだけだと思って我慢したのだろう。
「私、ユウトさんにも挨拶してきますね。それから、一つだけ。兄様のこと、見てあげてください」
それだけ言うとリリーはそそくさと立ち上がって部屋を出て行く。
隣で泣きそうになっているフィアに気を使ったのが誰の目から見ても丸分かりだった。
「……遠慮されちゃいましたね。リリーさんは本当にいい子です」
気を使うはずが気を使われてしまい、セシリアの口から溜息が漏れる。
「俺はあいつほどいい子になれそうもない」
フィアはよくできた妹の背中を見送りながらポツリと漏らした。
「分かってます。遠慮の欠片もないのがフィアの良い所ですから」
最初から2人の願いなんて分かっていた。口に出して貰った上で断らなければならないのだ。
もしこのまま2人が黙ってセシリアを見送れば、引き止めなかったことを後悔する日が来るかもしれない。
憂いは断たなければ。前へと進む為に。後ろを振り返らないように。
「帰らないで欲しい。ずっと、傍に居て欲しい。……俺と、一緒になって欲しい」
「本当に遠慮のなしの欲張りさんですね。でも、ごめんなさい。それは無理なんです」
軽口の一つでも叩かなければ声が震えてしまいそうだった。
「なんでだよ。元の世界に、その、気になる奴がいるとか……?」
「そんな人はいないけど……」
恐る恐る尋ねるフィアにセシリアは不思議そうに首を傾げてから、どうしても帰らねばならない理由を告げる。
「フィアにとってのリリーさんが私の帰りを待ってるの」
「っ……!」
フィアが息を呑む傍ら、セシリアは自分の想いを口にする。
「絶対に果たさなきゃいけない約束があるの。もう二度と勝手にはいなくならないって、ずっと前に妹と約束したから。その約束だけは絶対に破れない」
「そっか……。約束は守ってやんないといけないもんな」
セシリアの決意を垣間見たフィアがふっと溜息をついて、とても悲しいけれど、凄く寂しいけれど、最後には受け入れて納得する。
申し訳ない気持ちで一杯だけれど、セシリアもこれだけは絶対に譲れなかった。
だからせめてこれだけはと、はにかんだ微笑を投げかける。
「でも、最後のお願いだけは聞いてあげられそうです」
フィアのしたお願いの内、2つは絶対に答えられない。
でも最後の一つだけなら今のセシリアでも答えられた。……答えても良いと思えた。
「もう残り時間は少ないけど、私の全部をフィアにあげます。フィアが私にしたいこと、全部好きにしてくれていいです。ちょっと怖いし、その、恥ずかしいけど……。全部、受け入れるから」
肩を掴んでいたフィアの手にそっと自分の手を重ねて背後のベッドに倒れこむ。
すぐ近くに困惑しつつもほんのりと赤らめているフィアの顔があった。
「意味、分かって言ってるのかよ……。俺だって男なんだぞ」
「分かってます。多分、フィアが思っているよりはずっと」
フィアの事は好きだ。けれど、セシリアにはそれが恋愛感情なのか分からない。今まで誰の事もそういう意味で好きになったことがないから。
これがお詫びなのかお礼なのか。渡せそうな物が自分の身体だけだからこうしているのかも分からない。
だから嫌か嫌じゃないかだけで考える。抵抗感がないわけではないけれど、嫌ではなかった。
その上でフィアがそれを望むのであれば拒む理由も思い浮かばなかった。
フィアが自分の事を好きになってくれたことくらい、いかに鈍いセシリアでも理解している。
正直に言えば、それに応える自身がなかったから手紙という間接的な手段に逃げようとした。
でも、それではあまりにもフィアが報われないではないか。
何も伝えないまま幻想のように消えてしまえばセシリアの存在はいつまでもフィアの心の中でトゲのように残り続けてしまう。
或いは、セシリアという存在を神格化してしまうかもしれない。
この世界に残れないセシリアがいつまでもフィアの心の中に残り続けてしまうのは不本意だった。
初恋……かどうかは分からないけれど、中途半端なままで終わらせるのは彼の為にならない。
だから最後に、全部をフィアへ捧げようと思った。
彼がセシリアを自分のものにすれば、神格化されつつあるイメージも、本質は自分と変わらないただの人間であると固定されるはず。
いつか、今度こそ本当に恋をしてもらう為にも必要なことなのだ。
「セシリアは無防備すぎるんだよ」
肩を掴んでいたフィアの腕が背中に回って、お互いの距離をより一層近づける。
「んっ」
首筋に当たる吐息のこそばゆさにセシリアが思わず小さな声を上げて目を閉じた。
セシリアは何をしても良いと言ってくれた。
好きな女の子にそんな事を言わわて反応しない男がいる筈もない。
何度も繰り返すが、フィアとて男の子だ。
今までだって欲求が湧きあがる度にどうにか抑えてきたのだ。
普段は手を伸ばしても届かない距離をぴたりと推し量られて近づけないのに、何かあると逆にこちらが手を出せなくなる距離まで近づいてくる。
どうしていいか分からず、そういう雰囲気になることもなく、手を拱き続けてきた。
千載一遇のチャンスにごくりと喉を鳴らすのも無理はない。
抑止力だったリリーも今は居らず、誰も来ない部屋のベッドの上で2人きりという最高のシチュエーション。
元の世界へ帰るまでの僅かな時間とはいえ、今ここで迫ればセシリアは答えてくれると確信できた。
この機会を逃せば次なんてないだろう。
かつてない勢いで鼓動を続ける心臓は流れに身を任せるべきだと訴えている。
「……やめた」
フィアが唐突に腕の力を弱めると、セシリアが閉じていた瞳を開き、どうして? と目で問いかける。
本音を言えば色々したい。はじめての相手が初恋の人なら、これほど幸せなことはないだろう。
けれどフィアに残された理性がどうしても納得してくれないのだ。欲望のままに手を出せば後悔し続けることになると告げている。
「今までずっと隠してたことに負い目を感じてるんだろ? そこにつけ込んでこんなお願いを聞いて貰うなんてしたくないんだ。俺だから、最後のお願いは訂正する」
自分の欲望とセシリアを天秤にかけた結果、どちらに傾いたかは問うまでもないだろう。
本当にぎりぎりの僅差ではあったが、セシリアを大切にしたくてフィアは3つ目のお願いを訂正した。
しかし当の本人はそれをどこか複雑そうな表情で聞いている。
とはいえ、フィアだってこのまま何もせずにはいさよならなんて真似はしたくでもできない。
「他の誰かにセシリアを渡す気はないからな。今の内に俺の物だって印をつけるくらいは許されると思うんだ」
確かに3つ目のお願いは諦めたが、訂正すると言っただけで、撤回するとは言っていない。
代わりに別の何かを要求しても帳尻は合うのだ。
まるで悪巧みを思いついた子どものような顔をして、呆気にとられているセシリアの鎖骨へ素早く舌を這わせた。
どのくらいの時間が経ったかは分からない。
フィアがセシリアの身体に納得のいくまで印を刻む頃には、目尻に溜まっていた涙が零れ落ちて痕をつけていた。
ようやく解放されたセシリアが生殺しのような責苦を終えて息も絶え絶えと言った様子で身を起こす。
捲れてしまった服からは数えるのも億劫な『印』が顔を覗かせていた。
「うぅ……。フィアがこんな趣向をしてたなんて予想外でした……」
印をつけられたのは太ももや腕、鎖骨を少し過ぎた辺りまでで、際どい部分は触れられるどころか見られてさえいないのに、死にたくなるほど恥ずかしい。
これならまだ普通に身体を求められた方が落ち着いていられただろう。
「それじゃ風呂に入ってこようぜ。その印が湯に浸かるとどうなるかも知りたいしな」
「こ、この状態で入れって言うんですか!?」
フィアはそんなセシリアの苦言を何処吹く風とばかりに受け流していた。
それどころか今まで散々舐めさせられた苦渋への意趣返しとばかりに爽やかな笑みさえ浮かべて提案する。
お願いを叶えると宣言したばかりのセシリアに拒否権などあろう筈もない。
湯船に浸かるまではタオルで身体を覆えばどうにかなるだろうと、渋々ながら納得した。
昨日は拘束されて入れなかったし、今日も朝から慌しく動き回ったせいで汗と埃にまみれている。
そろそろ熱い湯に浸かって疲れと汚れを流したい気持ちもあった。
なにより、身体中の印がお湯で流して消えるものならさっさと消してしまいたい。
そう思って準備をしている所に、フィアはまたあの悪巧みを思いついたような笑みを浮かべて囁いた。
「まだ終わってないからな?」
「……へ?」
「風呂上がりの方がもっとしっかりつくんじゃないかと思って。だからここは残しといた」
フィアは思わず間抜けな声を出したセシリアを背後から包み込むように抱きしめると、お腹の辺りを愛おしそうに何度もねっとりと撫でつける。
次のターゲットが何処なのか察したセシリアが、湧き上がる悪寒に顔を青く染めたのは言うまでもないだろう。
お風呂から戻って来たセシリアに入念なマーキングを行うこと数時間。
部屋の扉が開く音で解放されたセシリアは顔を真っ赤にしながら飛び起き、夜風に当たってくると叫びながら全速力で部屋を飛び出した。
「兄様はお姉様に何をお願いしたんですか?」
逃げるように走り去る姿に目を丸くしたリリーが部屋の中で曖昧な笑みを浮かべているフィアに尋ねる。
「いや、ずっと傍に居て欲しいって」
本当のことを言えるはずもなく、言葉を濁すフィアにリリーは胡乱げな瞳を向けた。
「お姉様が欲しいって言わなかったんですか?」
「え、まさか聞き耳立ててたのか!?」
その質問があまりにも的を射ていたせいでフィアが慌てる。
途端にリリーの視線の温度があからさまに下がった。
「……言ったんですね」
「あ、いや……。はい、言いました」
思わぬ形で白状させられ、気まずいながらも認めるしかなかった。
セシリアと出会ってからというもの、リリーの追及は巧妙化の一途を辿るばかりだ。
「それで、お姉様は何て?」
「好きにしていいって。全部あげるって言われて……」
嘘を吐いても見破られてしまいそうで、不承不承ながらも言われたままを教える。
「兄様はどうしたんですか?」
リリーの視線の先に自分への不安と期待が隠れていることくらいならフィアにもわかった。
だから兄として誇れるよう、優しい笑顔を浮かべて安心しろとばかりに言い放つ。
「ちゃんと断ったよ。セシリアをそんな脅すような形で手に入れても意味なんてないからな」
お前の兄はちゃんとそこんところ弁えてるからな、と伝えるつもりだったのだが、リリーは明らかな落胆の表情を浮かべ、あまつさえこれ見よがしの溜息さえ吐いて見せた。
「兄様は本っっっ当に馬鹿です! なに勝ち誇ったような顔してるんですか! その台詞を額面通りに受け取るなんてどうかしてます!」
いや、落胆どころか並々ならぬ怒りも含まれている。
納得がいかないのはフィアの方だ。
「なんで怒られるんだよ! 一時の感情に流されない鉄の理性を発揮したんだぞ!? 良い事しただろ!? 寧ろ褒められるべきだろ!?」
自信満々に自らの行動の正しさを主張する兄の姿に、リリーはこれはダメだと盛大な溜息を漏らした。
「もう……次にお姉様にあった時、目も合わせてくれないですよ」
「だから、なんでだよ!?」
なおも訳が分からないとばかりに騒ぐ兄に、リリーはもう一度、盛大に溜息を吐くしかなかった。
時間は過ぎる。それが楽しい物であればある程に早く。
空に浮かんだ進行度は規則的にカウントを続け、2日後の朝、遂に99%を迎えた。
帰還魔法の発動まであと1時間も残されていない。
この世界に別れを告げる時がようやく訪れたのだ。
多くのプレイヤー達は思い思いの場所で、その瞬間の到来を今か今かと待ち詫びていた。
セシリアとフィアとカイトとリリーの4人も宿の一室で身を寄せ合って窓から空を見あげている。
余談ではあるが、結局給仕をしていた少年を落としきれなかったらしい。あと1日、いや、2日あればと悔しげに呻いていた。
きっと、ケインから聞いた実情については胸に仕舞っておくべきなのだろう。
「フィアにはあの文字が読めないんですよね?」
「ああ。なんかこう、ぐにゃぐにゃしててさっぱりだ。少なくとも見た事のある文字じゃないな」
この世界の住民は空に起こった異変を天変地異の前触れではないかと囁いている。
セレス王からも何度か原因解明に力を貸してくれないかと打診された。
もちろん、ケインはその申し出を丁寧に断り続けている。
原因についてセレス王に説明はしなかった。
すればややこしくなるだろうし、この期に及んで無駄ないざこざは避けたい。
知らぬ存ぜぬを貫き通すのが一番波風の立たないやり過ごし方なのだ。短時間であれば十分に切り抜けられる。
帰還魔法の発動とともに空に踊る文字も消えるだろうから、またすぐに落ち着きを取り戻し、変わらない日常へ回帰するはずだ。
そして、待ちに待った瞬間がやってきた。空に浮かんだ進行度がようやく100%に達したのだ。
ある人にとっては待ち望んだ、ある人にとっては少しばかり惜しくもある瞬間が訪れる。
【プレイヤーの検索に成功しました。再コンバート処理を開始します】
空に浮かんだ文字が一箇所に集まって小さな球を作り出した。
それが段々と膨らんでいき、ある瞬間を境に爆発的な目も開けていられない光を放つ。
クエストで寄っていた小さな村に転送されたプレイヤーが居た。
転移したあとも暫くはゲームの中だと思いこんで村人に手を貸していたらいつの間にか居ついてしまったのだ。
彼はこの2ヶ月あまりを村の為に費やし、絶大な信頼と感謝を贈られていた。
ほんの少しばかり、惜しい気はする。現実の自分はこんなにも感謝された事なんてなかった。
でもだからこそ、元の世界に帰ったならもう少しだけ努力してみようと思えた。
誰かに感謝されるのが、こんなにも素晴らしい事だったなんて知らなかったから。
「それじゃ、俺は行くよ」
誰一人欠かさず見送りに着てくれた村人に向かって、彼が小さく手を振ると、空から溢れ出た光が彼の身体を包み込み、次の瞬間には何も残っていなかった。
苦労を共にした2人のプレイヤーが居た。
素材集めの格下モンスター狩りだったとはいえ、突然の転移に茫然自失し、殺されかけていたところを助けたのが出会いだ。
からくも町にたどり着いた2人は生活の糧を得るためにペアを組んで助け合いながら今日までを過ごしてきた。
「えっとね、今まで守ってくれてありがとう」
「いや、俺こそ何度も助けられた」
仄かに頬を赤く染めて、所在なさげに視線を逸らしている様子からも、2人がそういう仲になったのは想像に難くない。
「もし良かったらさ、元の世界に帰った後に会えないかな」
「うん、もちろんだよ」
名前や住所、電話番号といった連絡先を交換し終わるタイミングを見計らったかのように、空から降り注いだ光が2人を包み込んだ。
「時間だな」
前兆を感じたセシリアがフィアとリリーの2人を抱きしめる。
「これでお別れです。今まで本当にありがとうございました」
悲しい別れではないと自分に言い聞かせて精一杯の笑顔を浮かべる。
「俺、諦めないから。さよならは言わない」
「私もです。きっとまた、すぐに会えます」
また会える日が来る事を2人は微塵も疑っていないのだろう。
心からの笑顔で笑いかける。
セシリアはそんな2人に向かい、片手を頭より少し高い位置に掲げた。
「私の世界のおまじないです」
フィアとリリーが倣うようにして同じ位置に手を持ってくる。
3人の手がそれぞれぶつかり、ぱちんと小気味のいい音を打ち鳴らす。
その瞬間、生まれた光の本流が4人を包みこんだ。
抗いがたいまどろみが身体を包み、意識が薄れ始める。
セシリアの意識が闇に飲まれる直前に、フィアとリリーの声が聞こえた気がした。
「行っちゃいましたね……」
光が治まる頃にはセシリアの姿もカイトの姿も、まるで全てが幻だったかのように掻き消えていた。
不吉の象徴だと噂されていた空の文字も、今は片鱗さえ見つけられない。
「あぁ。でもおかげで目標が出来ただろ?」
元から世界を見てまわりたい、と言うのがフィアの願いだ。
でも今はそこに、セシリアの居る世界にも行ってみたいと言う、壮大な計画が追加された。
「あれだって一種の転移魔法だ。きっとこの国の偉い魔術師なら調べてる。それを手がかりに世界中を探せば、セシリアの世界に渡る方法だって見つかるさ」
A=Bなら、きっとB=A。セシリアと会えた現実を忘れない限り、会える手段は残されている。
何の根拠もない楽観的な言葉にリリーは呆れ混じりの溜息をついた。
「その行動力を少しでもお姉様に向ければよかったんです」
ぽつりと呟いたリリーの言葉は未来の展望を妄想しているのであろうフィアに届いていない。
「でも、私もお姉様の世界を見てみたいです」
まずは騎士学校と魔術師学園を卒業するところから。
2人の冒険はまだ始まったばかりなのだ。
□□□□□□□□□□□□□□□
人の訪れない山奥の地下に作られた研究所は空前絶後の大混乱に陥っていた。
メインラボに備え付けられた第一実験室では数十の技術者がパソコンの画面に視線を縫い付けられている。
「し、システムの再起動を確認! World's Endからのエネルギー供給開始! ……帰還プロセスが作動しています!」
事件から2ヶ月と少し、異世界へと転送された誰かがようやく帰還用アイテムを発動させたのだ。
「時間丁度か……」
研究室の所長でもある霧島裕也は改めて少女の持つ規格外の力を思い知らされた。
彼女の強力がなければ多くの政治家たちの弱みを握って、封鎖中だった研究所を強引に再開させるなんて真似はできなかっただろう。
何せ彼らは異世界に転送されたユーザーが戻ってくる事を快く思っていないのだ。
情報が漏れるくらいなら一人残らず死ねばよかったのだとのたまう輩さえいる。
霧島が何の策も持たず上部へ掛け合ったところで門前払いにされるのがオチだっただろう。
「プレイヤーの帰還処理オールグリーン! まもなく一人目の再コンバートが完了します!」
コンソールには帰還シークエンスの処理状況が滝のような速度で流れていく。
Success。再コンバートになんら支障がなく、この2ヶ月を生き残り、無事に生還を果たしたプレイヤー達だ。
しかしその裏で、Not Foundの文字も散見できる。
プレイヤーの検索に失敗。それはつまり、かの世界で存在を検知できなかった事を、帰還より前に息を引き取った事を意味する。
Successの文字の方が圧倒的に多いとはいえ、Not Foundの文字も決して少なくない。
「こんなに、死んだのか……」
見知らぬ土地で、凄惨な死を遂げたであろうプレイヤー達の無念を思うと胸が痛んだ。
全ては自分の責任で、だからこそ無駄にしてはいけない。
悔やむのは後だ。今はこの結果を、この世界の未来を繋げる為に使わせてもらう。
それが報いになるとはとても思えなかったが、無駄になるよりはずっとましだ。
「フルダイブシステムに搭載されていたパーソナリティデータ記録システムと照合を開始……、成功です!」
「監視システムから対象ユーザーのバイタルデータの受信を確認! 生存しています!」
市販されているフルダイブシステムには、使用者の身体データを詳細に記録・保持する機構が備わっている。
異世界から電子的な通信を用いて転送された、魂とでも言うべき人の存在の根幹は、そのデータベースの情報を元に身体を再構築してこの世界に生還するのだ。
既に事件から2ヶ月が過ぎているから、彼らの身体は2ヶ月前のまま何も変わっていない事になるものの、それくらいなら何ら問題はない。
もし帰還アイテムの起動に5年10年の歳月が費やされていたら、取り返しのつかない大混乱に見舞われたことだろう。
このまま無事に一人残らず帰還シークエンスを終えて欲しい。
なのにこの世界は少女の言っていた通り、理不尽に満ちていた。
「再コンバートにエラー発生! パーソナルデータの再構築で原因不明の異常が発生しました!」
予期せぬ問題に研究室が慌しく動く。
「対象ユーザーのバイタルデータ確認急げ!」
「検索中です! ……出ました! 脈拍呼吸脳波共に正常値! 現実世界に問題なく帰還できています! 生存です!」
途端に方々からわっと歓声が上がる。
「エラーの原因はなんだ?」
霧島は沸き立つ彼らの合間を縫ってログの監視を続けている古川へ歩み寄った。
生存が確認できたとはいえ、本来発生するはずのないエラーが出たのは大きな問題だ。
「パーソナルデータの再構築中にアクセス権限エラーが出たみたいっす。……でもそんな事、ありえないはずなんすよ」
フルダイブシステムのパーソナルデータにはアクセス権限という構造自体が存在していない。
「もし拒否できるとしたら、システムの強制力を超えたユーザー『願望』くらいっす。結局、このコンバートシステムも使っているのは魔法理論っすよね。まだ解明が十分じゃない以上、ユーザーが自分の意思でシステムを乗っ取って関数をオーバーライドする事も不可能じゃないっす」
ここ数ヶ月ですっかり専門家に成り上がった古川の解説に霧島が唸り声を上げる。
彼の言う通り、魔法理論には未だ未解明のブラックボックスが多いのだ。
原因の理由を探るのは並大抵の苦労ではない。
「どの道このユーザーは生存してるっす。アカウントから個人情報を調べて調査すればいいっすよ」
コンバートに何らかのエラーが発生したものの、帰還自体は成功しているのだ。
今はとりあえずよしとして、事が済んだら時間をかけて解明に挑むべきだろうと納得したところで、今度はまた別の悲鳴が上がった。
「再コンバートにまたエラーです! 今度のエラーは……。そんな、ありえない!」
声の主は椅子を蹴り飛ばしそうな勢いで立ち上がり、タブレット型の携帯端末を手に古川の元へ駆け寄る。
そこには短く、『personal data Not Found.』とだけ書かれていた。
フルダイブシステムが起動の度に必ず記録している身体の状態や構成が書かれたデータが見つからない。
これではユーザーがどんな身体を持っていたのか判断する物がなく、肉体の再構築のしようがなかった。
元の形が分からないものなんてどうやっても作れるはずがない。
「まさか、フルダイブシステムの初期不良か!?」
何らかの理由で組み込まれていたパーソナルデータの記録が破損したのではないか。
しかし古川はどんな些細な情報も逃すまいと目を細めながらログを追う傍らで否定してみせる。
「いや、それはありえないっす。World's End Onlineに接続する為にはパーソナルデータの記録が必須っす。じゃないと機器にエラーが起こる仕様になって……っ!」
古川がそこまで口にした瞬間、不意に何かに気付いてしまったのか目を見開いた。
「エラーの発生したアカウントのキャラ名はなんすか!? 登録情報を出すっす!」
「す、すぐに調べます!」
先ほどまでの落ち着いた様子とは打って変わった慌しい態度に驚きつつも、研究者は言われた資料を求めて手を動かす。
古川の言う通り、World's End Onlineへ接続する直前にパーソナルデータのチェックが行われ、保存されていなかったり破損していた場合にはログイン自体ができなくなる仕組みになっていた。
これはフルダイブシステムによる魔法研究を行ううえで施された安全策のうちの一つだ。
万が一、実験によって現実の身体に重大な問題が発生したとしても、魂とでも言うべき人の存在の根幹さえ無事ならパーソナルデータから身体を再構築できる。
今回のような事件でもない限り、ほぼ確実に被害を抑えられるはずだったのだ。
なのに、一番大事なパーソナルデータが保存されていない。
「出ました! キャラクター名は……『セシリア』です」
「だと思ったっす!」
古川が唯一ありえるかもしれないと思い至った可能性。
一緒にこのゲームの開発をしたこともあるネット上の友人の名前を聞いて頭を抱える。
そこまで判明してしまえば、理由を推測するのも簡単だった。
「開発用のマシンっす。あれならパーソナルデータの記録システムが組み込まれていなくとも、World's End Onlineに接続できるっす……」
World's End Onlineの開発は魔法の研究とほぼ同時期に始まった。
その時にはまだパーソナルデータを記録し、事故の際にはそこから身体を復元する安全装置が開発されていなかったのだ。
当然だろう。ゲームの開発中に実験は行われないのだから、安全装置自体が必要ない。
「馬鹿な! ゲーム開始前に開発用の機材は一つ残らず回収したはずだ!」
「そうっすね。確かに回収を迫られて泣く泣く手放したっす。でも回収したハードの中身をちゃんと一つ一つ分解して調べたっすか?」
「な……っ」
疲れたような溜息を吐き出した古川に、霧島は言葉を失う。
回収した開発用のマシンは安全装置が組み込まれていない、いわば欠陥品だ。
チェックが終わればすぐに破棄され、中身がどうだったかなんていちいち調べていない。
「このセシリアっていうプレイヤーは、開発用のマシンを使ってゲーム用のアバターを作ってたっす。それを手放すくらいなら、市販のフルダイブマシンを買ってきて、内側の基盤をそっくりそのまま交換するくらいやってのけるっすよ……」
古川は過去に一度、確かにそんなような話を本人から聞いている。
「だとしても……やはりありえない! 確かに開発用のマシンで接続したのであればパーソナルデータが保存されていない説明は付く。だけど、組み込まれていないのは安全装置だけじゃない。一番大事な脳内パルス制御システムも当時は未完成だっただろう!」
魔法はWorld's End Onlineに接続したプレイヤー達の脳波をコントロールする事で発動する。
開発当初はこの脳内パルス制御システムも完成しておらず、従って開発用のマシンにも組み込まれていなかった。
つまり、『セシリア』というプレイヤーが本当に開発用のマシンを使ってゲームに接続していたのであれば、異世界へ転送さているはずがないのだ。
「このプレイヤーが異世界に転移されているのは事実だ。開発用のマシンなら魔法の影響を受けるはずがない!」
霧島の言う事も最もである。
現実問題、このプレイヤーは異世界へ転送され、帰還する為のコンバートの処理に失敗しているのだ。
それはつまり、市販されているマシンで接続しているという事実に他ならないのではないか。
古川は何も答えず、タブレット端末のブラウザを霧島に差し出した。
「これ、そのセシリアっていうプレイヤーのブログっす。実験の為にラグを発生させるコマンドを使った日に、感知できない筈のラグに触れてるっす」
パソコン上に表示された可愛らしいブログには古川の言った通り、プレイヤーが感知できるはずのないラグに触れていた。
脳内パルス制御システムの組み込まれていない開発用のマシンは運営による魔法の実験の影響を受けない。
その為、実験中の時間も意識を保ち続け、ラグを検知できたのだろう。
「……転移があった当日もこのマシンを使っていたとは限らないんじゃないか?」
このブログの記事はあくまでこの日に開発用のマシンを使っていた証拠であって、当日も使っていた証拠にはなりえない。
普通に考えれば霧島の言う通り、当日だけは運悪く市販のフルダイブシステムを、例えばネットカフェ等で使っていたと考えるべきだ。
だが古川は『セシリア』の個人的な事情をよく理解していた。
「だから多分、彼女は他人の魔法に巻き込まれたんすよ……」
古川は引き攣った表情で5桁近いコメントが付いている最新のブログ記事を表示する。
『ネカマに騙されて今どんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち? 折角だからその気持ちが知りたいんですけどーwww』
煽り文言が踊るブログのタイトルをクリックすると、文章の末尾には話がしたい人は17時に幻想桜の木の下にログインしてねと書かれていた。
その時間は奇しくも彼らがプレイヤーを異世界に転送させた時間と見事に一致していたのだ。
「魔法は不特定多数の人間が共通の何かを願う事で発動するんすよね……」
魔法の基本的な発動条件なら古川も良く知るところだ。
確認された霧島は怪訝に思いながらもそうだと頷き返す。
「その時、なるべく脳波パターンが近い方が強力な力を発揮できるから古代の人達は形式ばった儀式を編み出したって言ってたっすよね…」
同じ動作や作業を取り入れる事で一体感を共有すると人の脳波は似た形状を描き出し、魔法の効力が強化される。
「まさか……」
霧島もようやく古川が言わんとしている事を理解した。
「集まったプレイヤーは『怒り心頭した』に決まってるっす。すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感をって感じで、儀式なんて目じゃないくらいの凄い奴っす。そんな状態でみんながみんな『セシリア』の事を思ったとしたら、どうなるっすか……?」
運営が行った異世界転移の対象に『セシリア』は含まれない。
つまり彼らからしてみればそこに居たはずのセシリアが『消えた』ように映るのだ。
怒りに染まった彼らはこう思うだろう。『セシリアは何処だ』と。
強い想いは願いと変わらない。そして彼らの願いは『セシリア』そのものだ。
数多の人間がたった一人のキャラクターに計り知れない怒りをぶつける事である種の脳波ネットワークが構築され、本来は転移を免れるはずだった『セシリア』を目の前に、つまり異世界に転送させる魔法と化した。
「そんな、馬鹿な……」
奇跡みたいな確率を何度も潜り抜けなければありえない。ありえないがしかし、理屈はきちんと通っている。
「流石にこんな事態は想定してないっすよ!? どうすんスか! パーソナルデータがなきゃこっちの世界の身体を再構築できないっす!」
「プレイヤーの再コンバート作業、80%が完了しました! 推定残り時間、約10分です!」
時間がなかった。
この研究所が魔法の力の一端を取り戻したのは、プレイヤーの起動した帰還用アイテムからこの研究所を稼動させられるだけの燃料となる魔力が流れ込んで来ているからに過ぎない。
全プレイヤーの再コンバート処理が終われば魔力の供給も終わり、機器は再び沈黙を保つだろう。
それまでに待機状態のセシリアをどうにかしなければ、プレイヤーの魂は永遠に電子の海を彷徨う羽目になる。
「どうにかしてこちらの世界に持ち越せないのか!?」
「無理っすよ! 他人のパーソナルデータじゃ再構築できない事くらい、所長もご存知のはずっすよね!」
魂と身体には密接な関係がある。
他人のデータを使って身体を再構築しようとしても魂が受け入れてくれないのだ。
その点、自分で作ったゲームのキャラクターは自分の分身とも言うべきもので、魂の抵抗が薄い。
「残り5分、もう時間がありません!」
手をこまねいている間に時間は半分を切ってしまった。すぐにでも手を打たなければ間に合わなくなる。
「……この世界がダメなら、あっちの世界しかないっすよ」
霧島も古川も行きついた先の結論は同じだった。
セシリアを再び異世界に転移させれば、電子の海を永遠に彷徨う最悪の事態だけは免れるのだ。
だが、今度ばかりは帰還用のアイテムを生成して持たせている暇もリソースもない。
帰る手段は永遠に失われる。
「死ぬよりは、マシっす」
迷っている時間はなかった。古川はすぐに手元のコンソールを慌しく打ち始める。
「何をしているんだ?」
「生成にリソースが必要なアイテムは無理でも、概要を書いた手紙くらいなら持たせられるっす。セシリアの中の人ならこれを元に帰ってこれる可能性もある……はずっす」
理解できない魔法と言う概念にも法則のあるシステムであることに変わりはない。
帰還用アイテムだって元のプログラムを圧縮してアイテムの形状に変換しただけだ。
ソースコードさえあればセシリア自身が異世界で転移魔法を構築できる可能性はある。
これは賭けだ。
セシリアのインベントリに帰還用アイテムで使ったソースコードをそのままコピーペーストした手紙アイテムを持たせる。
World's End Onlineの開発に関わっていたセシリアなら手紙の意味は分かるはずだ。
ただし、それをそのまま魔法に変換して起動できたとしても、パーソナルデータの未登録によって同じようにエラーとなる。
そこでパーソナルデータを参照して身体を再構築する記述を消し、ゲームのアバターの姿のままで帰還できるようにソースコードの一部を修正するのだ。
「本来の自分の姿は失われるっすけど、セシリアの姿でこっちに帰ってこれる可能性はゼロではないっす……」
苦し紛れの思い付きではあったが理屈の上では筋も通っている。
もっとも、成功する可能性は古川の言う通り、ゼロでは無い程度の微々たる確率でしかない。
帰還用アイテムを作れたのは、こちらの世界で組まれたプログラムを、あちらの世界の魔法やアイテムといった概念に変換できるコンソールという便利な魔法があったからだ。
当然ながら、異世界にいるセシリアにそんな魔法は与えられていない。
もしも古川のいう可能性を実現させるのであれば、かの世界の魔法を研究し、解析し、自由に改変できるほど理解しつくさなくてはならないのだ。
発見されたばかりの古代文明の文字をたった一人で解読してみせろと言っているに等しい。
挙句、この世界とWorld's End Onlineを元に作られた世界が同じ法則を持っている保証はない。
大気の成分や身体の構造が大きく異なっていれば、この世界に転移したが最後、死んでしまう可能性だってある。
だからこそ、彼らを異世界に転移する際に膨大なリソースを割いてでも、ゲームのキャラクター性能をそのままそっくりコピーしたのだ。
ゲームのWorld's End Onlineで作られたキャラクターならば、異世界の法則にも対応しているだろうと言う、なんとも楽観的極まりない理由で。
「あと1分です……」
なるべく多くの情報を書き残すべく、古川の指が一心不乱にキーボードを叩く。
時折ちらりと時計を眺めながらできた長文はやはりどうにも物足りないが、潔く筆をおく。間に合わなければどんな長文にも意味はない。
「インベントリに配布完了したっす! 再転送処理急ぐっす!」
研究所に送られてくる残り僅かな魔力を元に、もう二度と使うことはないだろうと思っていた転送プロセスを叩く。
黒いコンソールにSuccessの文字列が一瞬だけ明滅した瞬間、電気が止まったかのように画面が消え去った。
タイムリミット。異世界で発動した帰還用アイテムのリソースが尽きたのだ。
これでこの研究室は電源を失ったに等しい。
「プレイヤーの帰還処理、完了しました。エラーは2件です」
コンソールを監視していた研究員が溜息混じりに報告を告げる。
「やれる事は、やったっすよ」
古川が溜息とともに身体を弛緩させた。
「いいや、まだだよ。まだ、始まったばかりだ」
霧島は決意に満ちた表情で立ちあがると、無事この世界へ戻ってきたであろうプレイヤー達への確認作業を手配すべく電話へと走る。
「まだ、できる事がなくなったわけじゃない……!」
異世界にただ一人取り残されてしまったプレイヤーを助け出す手立てがあお一つだけ残されている。
あの少女に言われたとおり、自分の手で異世界への扉を開く術を見つければいいのだ。
データは揃った。これを解析すればきっと、異世界へ至る道か、その手がかりが見つかるはずだ。
やる事もやれる事も多い。ようやく再開した研究所だ。このまま火を落とす気は微塵もなかった。
□□□□□□□□□□□□□□□
心地よいまどろみからの強制的な覚醒はいかにも暴力的で、視界がぐるぐるとまわっていた。
身体は少しも言う事を聞いてくれず、その場に崩れ落ちる。
「なに、これ……」
声を出すのも億劫で、とても回復魔法の詠唱は出来そうにない。
仕方なくインベントリからポーションを取り出そうとしたところで、今度は猛烈な頭痛に襲われた。
「ぁぐ……っ」
霞んでいく視界の中で虚空から現れたポーションへ手を伸ばす。
だがしかし、指先が瓶に触れるよりも早く、セシリアの意識は再び闇に飲まれた。
1st Stage『World's End : Online』 Clear.
Next Stage『World's End : Offline』
To Be Continued...
まだ明日に更新される1話が残っているものの、とりあえず完結です。
いわゆる第一部完ってやつです。
物語は第二部『World's End Offline』へ続くのです。
こう、今までの『Online』の部分が『Offline』にピコンって切り替わる感じで。
読者の皆様には百万の感謝をっ。
よもやこれ程のPV数を稼げるとは……、正直微塵も思っていませんでした。
開幕主人公がネカマばらして「ねぇどんな気持ちwww ねぇねぇ今どんな気持ちwww?」とか言っちゃうんですよ?
個人的にはアクセル全開で飛ばしたつもりでした。
ついてきてくれる訓練された読者さんはそう居ないだろうなぁと思ってました。
蓋を開けてみれば多くの方々に楽しんで頂けたようで、日本の未来の明るさに涙が出そうです。
ありがとう、ありがとう、そしてありがとう!
『World's End : Online』のOnlineは、まだ現実世界の繋がりがあるよーっていう意味合いもありました。
物語も運営から提示された帰還方法を巡って展開しています。
登場人物も基本的にプレイヤー中心で、現地の人達とは権力者を除けば関わりはありません。
『World's End : Offline』は現実との繋がりが完全に切れ、帰還方法が失われた後の物語になります。
自由の翼を始めとした現実世界のプレイヤーにはご退場願い、異世界のごく一般的な人物を中心に進んでいく予定。
タイトルを表現するなら『On』がバッテンで消されて『Off』が乗ってる感じでしょうか。
おっと、こんな時間に誰か来たようだ。
第一部完に至った経緯をちょろっと。
VRMMO転移物の切り口って大きく話けて3つあると思ってます。
1.多人数が一斉に異世界へ転移する
2.自分だけが異世界に転移する
3.寧ろ異世界の何かが現実世界に転移する
1はいわゆる集団転移もの。
『World's End Online』もこの分類です。
異世界で集団を維持するのはそれなりに苦労の連続だと思っています。
異世界人にとってプレイヤー集団は正体不明の超強力な軍事力扱いでしょうし。
プレイヤーだって一枚岩ではないので、ギルド間の衝突とかプレイヤー同士の人間関係とかにも話は広がります。
廃人、中堅、ライト層では考え方も違う。MPKギルドが暴れたりもする。まさに波乱万丈ですね。
内容的にはこっちの方が荒れるので好きです。逆境とか大好きです。
個人的にはタリアさんが好きです。大好きです。愛してます。
私は死ぬまで更新を待つぞーっ!
2はトリップと転生に分けられますが、個人だけが転移する物。
どちらにせよ、個人なら異世界に順応するのもそう難しくありません。
文化や風習の違いはあるでしょうが、広い世界であればどこにだって田舎者くらい居ますし。
圧倒的な力を持っていても所詮は個人。
最初から権力者に目を付けられる可能性は低いのです。
場末のギルドから徐々に名を馳せていくとか、気付いたらいつのまにか物凄い地位に居たとか、燃える展開が楽しめます。
有力者に召喚されて馬車馬のように働きヒィヒィ言うのもありだと思います。
現代知識で活躍したり、逆に自由気ままな一介の冒険日記風も面白いですよね。
上級者向けだけど、ぼっち絶望展開まであるよ!
3はデジモンとかそっち系。
異世界側の何かが現実世界に来てしまう展開です。
広義に言えばウルトラマンとか仮面ライダーもそうだと思うの。
話は変わるんですが、今期のライダー何で果物なん!?
バナナとかどう見ても、「耳にバナナが入っていてな」のあれじゃないですかー!
あれのせいで個人的にネタキャラ扱いです。
異世界転移VRMMOモノを書こうと思い至ったので3は除外したものの、個人転移か集団転移かで迷いに迷いました。
当然ながら、1と2を同じ題材で同時に書くのは無理です。
でも設定作り直したりキャラクター再構築したりって一番手間で面倒じゃないですか。
どうにか手を抜けないか悩み抜いた末、他のプレイヤーは強制的に帰還したよっていう流れならイケる事に気付き、今の形のプロットに仕上がりました。
なので今後掲載予定の『World's End Offline』は、一人だけ異世界に取り残されてしまったセシリアが、再び元の世界への帰還を夢見て、現地住民と絡みながら頑張るお話となります。
最大の武器でもある集団の力『自由の翼』を失ったセシリアに残されたのは、プロネカマとして磨いた数々の技術のみ。
果たしてセシリアに未来はあるのか、新たな冒険が再び幕を開けようとしているっ(ババーン
みたいな感じです。初っ端から割と絶望。
持前の知恵とアバターの外観と能力を活かしつつ奮闘する姿をお楽しみください。
そして最後にちょこっとネタばらし。
第一部『World's End Online』はプレイヤー間の人間関係と異世界におけるプレイヤー達の立ち位置をテーマに書いたつもりです。
出てくる事件にも色々と元ネタがあるので、もしかしたら知っている人も居るんじゃないかと。
支援不足&マゾ育成も大昔の某MMOネタです。今もあるけどかなり過疎気味。
当時はひたすら同じMobのハントに明け暮れ、6桁のオーダーをこなさなければ転職さえままならず。
Int極振りのせいで与ダメ低いわ被ダメ痛いわ回復魔法でもあんまり回復しないわ魔法に使うSPの回復速度も遅いわ、今思うと凄いバランスでした。
Int120調整にどれだけ高額アイテム使うと思ってんだゴルァ!
あの頃は月額課金以外に課金要素もなく、レベルを上げる為には本当に、ひたすら敵を倒すしかなかったのです。
個人的にはもう少しねちっこく語りたかったのですが、本編と関係ないので割愛……してあの長さです、はい。
どの程度の恨みが積もり積もっているかご理解頂ければと思います。
なお、その後のパッチで断続的な緩和が続き、現在ではキャラクター数No1の栄光を飾るまでになりました。
ちなみにその大部分が効率化を求めた末の、2PC支援で必要だったからという、なんとも理不尽な理由です。
オークの討伐資金低下も某MMOネタです。
ちょっと報酬美味し過ぎるからって再受注制限1日から1週間に変更とか酷くないですか運営さん!
後続との差がパネェ事になるですよ!
ついでに報酬も下げましたって……激ウマクエストが激マズクエストになってるじゃないですか、やだー!
これって本当に再受注制限を引き延ばす必要があるのです?
拾ったアイテムの店売り価格80%オフとか何考えてるんですか運営さん!
回復アイテムの購入もままならなくなりましたよ!?
え? 雑魚から手に入るお金の量を上げる? やったー!
ボスでも1桁なのは何の冗談ですかー!
バランス調整はMMORPGにとってなくてはならない物とはいえ、闇雲に下方修正すればいいって訳じゃないと思うの!
だから必滅の声なんていわれてるんですよ!
追憶のHDD事件といい、アップデート名が自虐にしかなってないじゃない……。
プレイヤーの横領もやっぱり某MMOネタです。
大規模PvPコンテンツは参加者を増やす為に消費したアイテムを経費としてギルドが支給してくれるタイプもあります。
ええ、実際に居るんですよ。使ってもいないアイテムを大量に請求してくる方々が。
経費を担っているプレイヤーにとって、この水増し請求は頭を悩ませる大問題だったりします。
ギルドによっては現物支給に切り替えるところもあるほど。ただし、現物を確保する労力で死ねます。
知っている中で一番大きかったのは512M請求事件ですかね。
1Mがそこそこ大金のゲームで230M以上の水増しがありました。
当事者は当初否定の連発でしたが、後にノリで水増しした事をゲロリましたとさ。
請求の明細を見ましたが、誤魔化す気が微塵もない適当過ぎる内容に草生えた。
自由の翼の一般プレイヤー達の頭が軽いのも……まぁなんというか、経験者ならきっと分かってくれる、筈。
ギルドとかクランに属してると、毎週〇曜日の〇時から狩に行く定期イベントがよくあります。
他にも、暇してそうな人が多ければどこか狩りに行こうよ!って誘ったりもします。
私の場合、別作業してる不参加な人を見極める為にギルドやクラン専用のチャットで全体に声をかけます。
行く行くーって参加表明した人達を中心に狩場を決めるのですが、後は用意して出発って段階まできてるのに突然、参加表明してなかった人に『その狩場は嫌だ』と言われ、狩場から決め直す事が多く随分悩まされました。
チャットに直すとこんな感じ。
私「狩いこー! 参加者募集中!」
A,B,C,D,E「参加しますー!」
私「この面子なら〇〇とかどうです?」
A,B,C,D,E「おk、準備してきま」
----準備中(10分経過)----
A,B,C,D,E「準備おk」
私「じゃあしゅっぱt」
F「その狩場嫌いだから変えて」
私「……」
もうね、なら最初から話し合いに参加しとけやー! というか参加表明くらいしろとー!
『もう締め切ったから次回ね』ってやんわり断ると拗ねられるし、何故かギルド狩りでハブられたとか喚くし!
清廉潔白な支援職を演じてる身の上では迂闊に不満の一つも漏らせませぬ。
狩場によって職構成や必要な装備は大きく変わりますし、職によっては不向きなダンジョンも多々あります。
同じギルドやクランのメンバーの装備なら大体把握していますから、見合った狩場の提案は幾らでもできるんですけど、誰が行くか決まってないと絞りようがないの!
途中参加は歓迎だけど、決まった内容に文句をつけるのは本当に勘弁してくださいと凄く言いたい。
言っても聞かないんだけどさ。
狩場変更になると用意してた装備を全とっかえしなきゃいけない事もざらにあるので、再準備に時間が掛かるんです。
募集開始から狩り開始まで30分以上かかると参加者がダレちゃうの!
『開始まで長いから行きたくない』とか思われちゃうと、参加者がどんどん減りますorz
挙句にそういう人から『なんか最近参加者少なくない?』とか言われると幾ら清廉潔白な支援職でも(#^ω^)ってなるの。
かといって途中参加を制限すると企画とか一切しない名ばかりマスターから『ギルド狩りなら途中参加の人も連れてってね^^』って注意が飛んでくる始末。
『全体チャットで確認した』って言っても、『見れてない人も居るから^^;』って、知るかボケー!
私か! 私が悪いのか! 顔文字で煽りやがってっ(冤罪
メンバー同士のいざこざを仲裁する俺カッコイイ! に浸る前に何が問題なのか少しくらい調べてください。本気で。
メンバーの大多数は優しい方々なので抜けたくないけど、絶対に1人2人は強烈な方がいらっしゃる。
最終的には耐えきれず、誰も居ない時にさくっと抜けて別ギルドへ移籍。
え? 居なくなると狩で支援出せる人が減る?
なんでメイン支援が居ついてくれないのか少しは考えよっか♪
狩の話になりますが、支援職って思った以上に仕事が多いです。
支援魔法の他に攻撃スキルを持ってたり、Mobを寝かせられる行動阻害系スキル持ってると特に。
効果時間の長い支援は戦闘前や直後、移動中などのヘイトを稼がないタイミングでかけ直しつつ、切れるタイミングをしっかりと把握する。
戦闘中はヘイトを稼がないダメージ軽減系スキルをメインに、回復量とヘイト上昇量を見極めて適宜ヒール。
時にはダメージを溜めてからの回復も必要です。
1000回復*3より、3000回復*1の方がヘイト上昇率が低いとか、消費魔力が低いとかよくある。
MP最大値の時以外は500しか減ってないのに1000回復しても大抵は無駄です。
後衛付近に沸いたりアタッカーがヘイト稼ぎ過ぎてタゲが行ったら、『自分が回収する』か『寝かせる』か『前衛に取り返して貰う』か『そのまま倒してしまう』かを素早く判断。
ヘイト量とMPに余裕があるなら攻撃に参加して火力の補助も忘れずに。
無駄にスキル使ってMP管理ができないのは論外としても、味方を死なせたら大体が支援の責任です。
でも、大ダメージを出せる火力職や多くの敵を抱えても平然としている前衛とかと違って、全く目立ちません。
なんかいつもより狩がスムーズだなぁくらいの感覚です。
おかげさまで一部の方から『〇〇さんて経験値吸ってるだけだよね』とか『支援て楽そう』とか言われちゃうわけです。
(#^ω^)オモテヘデロ。
ちなみにタンカーも似たような理由でやる事多いのに突っ立ってるだけで楽そうだよねとか言われます。
勿論他職が簡単だという訳ではありませんが、いろんな職をやった上でも支援とタンクの軽視は群を抜いてました……。
それならやってください。全職あるんで幾らでも変わりますから!
え? 装備がない? その言い訳はもう聞き飽きたわ!
最近のだと某MOの30分間だけ張れる突発クエストにメンバーで参加して3週できないとその後暫くは延々と嘆かれるお方とか。
2種類あるうちの片方は割と条件が厳しいので、最低でも武器と防具をそれなりに鍛えて殲滅力確保しないと間に合いません。
足りない人数は野良で埋めるとなれば尚更。
3週したいなら自分達で他の人をカバーできるくらいでなければなりません。
他人の装備に文句言うくらいなら野良で参加せず、自分でガチ面子を集めればいいのです。
なのにソロの時はクリアできたって言われても……。
それって野良の人達が強かっただけで、おんぶに抱っこでクリアしただけですからー!
多少の愚痴くらいなら聞くけど、事あるごとに繰り返されるとぶっちゃけうざいの!
とりあえずその星が7個の武器を変えて、攻撃のタイミングを見極める練習をして、防具も自分の職にあった物に変えて、レベルカンストさせれば全然違うよって、思いつく限りのやんわりとした口調で言っても、〇〇さんみたいに廃人じゃないから無理とか……。
このゲームのレベルは比較的簡単にカンストまで持っていけます。
武器はゲームを進める事で必ず手に入る割には相当強力な物があります。
そのまま鍛えれば十分に使えるし、鍛えるつもりがあるなら必要な補助アイテムを融通する準備もあります。
……高いから売ったらしいですが。
防具は超簡単にドロップしまくるイベントが大量発生していました。
防具の強化は複雑ですが、慣れているので効率のいい方法を教えられます。
きちんと揃えれば今みたいに何か食らうと即死っていう現状は脱却できるはず。
なのに廃人じゃないと無理って、おま……。
2週間こつこつ頑張るだけでお金は絶対に溜まるから!
作った装備そのままくれって、おま……。
直接取引できない以前にそこまでする義理などないわ!
なのに他のメンバーが頑張るって言うから素材融通したの見て激おこぷんぷん丸になるし。
素材だけくれって、どう見ても転売する気満々じゃないですかー!
〇〇揃えたいなー、でも〇〇さんみたいに廃人じゃないから無理だなーとか言われると流石に(#^ω^)ってなっちゃう。
清廉潔白な身の上では文句なんて言えないけど!
接続時間だけで言えばこのチーム中で下から数えた方が早いから!
出勤中の電車の中と休憩時間くらいにしか繋げないし。
人を装備だけで廃人扱いするなし!
時間なくて1職特化してるから装備は整えたけど、これを揃えるのに少ない時間でいかにお金を稼ぐか研究してるの!
新コンテンツ実装されたら真っ先にクリアして敵がおいしい商材落とさないか調べるだけでも良いの!
なのに面倒って言うし……もうどうにでもなーれ☆ミ
あれです。MHで開口一番蜂蜜くださいって言ったり、募集主差し置いてクエ貼る人がそれなりに居るのと同じです。
MMOという不特定多数のプレイヤーが集まる場所には一定数の『残念な方々』が居られるのです。
そしてこの『残念な方々』に限ってレベルが低いのもまた事実。
ゲーム時代なら害は(精神的な負担以外には)ないけれど、異世界転移に巻き込まれればトラブルメーカーになること必至。
そりゃ廃人様方もリュミエールに捨て置きますって。相手にするのは疲れるもの。
そんなこんなでリュミエールは低レベル中心の、そこはかとない残念な方々が集まってしまいました。
……という事にしておいてください。
ほんとMMOってカオスですよねっ!
随分と長い事かかりましたが、明日の1話でおしまいです。
最後までお楽しみくださいっ。




