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World's End Online  作者: yuki
第四章 それぞれの想い
75/83

それぞれの想い-7-

「さて、セシリアが居なくなった以上、中に入れば退路はない。逃げたい奴はここで逃げて良いぞ」

 消え去ったポータルゲートの残滓に背を向けて、カイトは再びアセリアへと向き直る。

 相当な距離がある筈なのに、城壁の中から散発的な爆音が届いていた。

 門を守る衛兵や外で開門を待つ商人も何かおかしいと気付いたようで、動きを慌ただしくしている。

 中心部では帽子屋によって狂気薬を与えられたプレイヤーが暴れている筈だ。

 同じ薬品を摂取していたセシリアの行動から類推するに、簡単な相手ではないだろう。

 恐らく、どちらの陣営にも死人と言う形の被害が出る。


「加減はするなよ。手を抜けば死ぬぞ」

 敵は帽子屋に狂気薬を飲まされただけのプレイヤーで何の罪もない。

 それでも、見境なく破壊を繰り返す彼らを放置するわけにはいかなかった。

 カイトの後に無言のまま一人、また一人と続く。

「優先すべきは手足の『破壊』だ。難しいなら行動不能を狙っても良い。どうしようもなければ再起不能にする」

 逃亡者は一人も出なかった。

 フレアドラゴンに飛び乗り、再びアセリア内部に向けて飛び立つ。

「……やりきれんな」

 誰かの呟きはこの場の心境を代弁していた。


 アセリアは所々で燃え上がる火の手によって上空からでも細部まで見渡せた。

 被害範囲は刻一刻と拡大しており、このままではアセリアそのものが壊滅しかねない勢いだ。

「厄介な魔法系から潰す! アセリア内部で発生しているスキルエフェクトを精査しろ!」

 カイトの掛け声の元、同乗したプレイヤーが周囲を注意深く見渡す。

「2の広場付近にフレアストーム発見!」

「6の露店外でサンダーブレイク発見!」

「8の大通りで多数のエフェクト有、プレイヤー同士で交戦中と思われます!」

 彼らは広大なアセリアを良く使われるテンキーの位置で大まかに分割し、目印と共に報告を続ける。

 思ったよりも数が多い。

 確認できたエフェクトが味方によるものなのか敵によるものなのか判断が難しかった。

「5番の王城前でメテオ確認……建物に向けて放たれています!」

 その中で敵味方の判断材料があるとすれば、魔法が何処に向かって撃たれているかくらいだ。

 常識的なプレイヤーが建物を好んで攻撃するとは思えない。

「5に急行、俺と一人で良い! 残りは上空から警戒を続け、危険な反応があれば対処に当たれ!」

「「「了解」」」


 高度を下げたフレアドラゴンからタイミングを見計らい、近くの屋根に飛び降りる。

 精々が4~5メートルしか離れていないと言うのに冷や汗が浮かんだ。

 現実世界なら足の1本や2本は折れそうだが、頑強なこの世界の身体は襲ってくる鈍い衝撃を受けても揺るがない。

「居た、単独だ。俺が正面からタゲを持つ。隙を見て背後から強襲しろ。設置魔法に気を付けろよ」

 目当ての魔術師の姿を捉えるなり、カイトが雄雄叫びを上げて飛び込んだ。

「武器を捨てて投降しろ!」

 突然現れたカイトに魔術師が血走った目を向けて甲高い奇声を発する。

 どう控えめに見ても正気を保っているとは思い難い。

「死にたくなければ抵抗するなっ」

 カイトが警告と共に剣を抜き放った瞬間、返事とばかりに無数の炎の矢が虚空へ出現し、一斉に解き放たれた。

 この手の単体系魔法の制御は射出の瞬間までしか及ばない。

 軌道は直線的で読みやすく、タイミングを合わせて盾を振るうだけで難なく弾き飛ばす。

 その代わりに数が多く距離を詰めている余裕はない。

 元より足止めのつもりだったのだろう。魔術師は次の詠唱に入っていた。

 だが、それこそがカイトの狙いである。

「今だ!」

 無防備になった魔術師の背後から隠密行動に優れた盗賊(シーフ)が飛び出し、鈍器で頭を強打した。

 ハイドアタックからの強攻撃はスタンの状態異常率を飛躍的に上げる効果がある。

 その場に魔術師が崩れ落ち、暫く待っても起きる気配はない。


「貴様ら何者だ!」

 ほっと一息ついたのも束の間、様子を伺っていた騎士達が城の中からわらわらと大挙して押し寄せ、3人は瞬く間にぐるりと取り囲まれた。

「アセリアで暴れまわってる奴らを取り押さえるボランティアだよ。丁度いい、この魔術師を拘束できるか?」

 騎士は恐る恐ると言った様子で倒れている魔術師に近づき、気を失っているのを知ると露骨に安堵してから手錠をかける。

「お前達は襲撃犯を知っているのか? とにかく、我々と一緒に来て貰おう」

 どうやらこのまま逃すしてくれるつもりはないらしい。

 お役所仕事と考えれば当然だが、付き合うつもりはなかった。

「悪いがそんな暇はない。被害が終息するどころか拡大してるのは分かるだろ? ここの騎士団には荷が重い」

 罵倒の一つや二つくらい返されるかと思ったが、騎士達は悔しげに顔を伏す。

 多数で攻めれば与し易いはずの魔術師一人に手こずり、城への攻撃を許した手前、否定できないのだろう。

「カイトさん! そこから北北東の方向にも建物を攻撃している魔術師が居ます!」

 上空から降ってきた声にカイトは手を振って応える。

「分かるだろ? 時間がないんだ、そこをどいてくれ」

 聞かないなら力ずくで押し通るつもりでいたのだが、騎士達は思いのほか素直に道を開けた。

「……我々が言える義理ではないが、頼む」

 自分達の力が足りていない事は彼らが一番よく理解している。

 王城勤めの騎士となればそれなりの地位だろう。これまで培ってきたプライドだってある筈だ。

 それをかなぐり捨てて、見ず知らずの相手に頭を下げられるくらいにはこの街を愛しているのだろう。

「任せろ」

 カイトは短く告げると、モーゼの如く割れた人垣を全力で駆け抜けた。




 既に十数名のプレイヤーを無力化しているというのに、アセリアの混乱は収まる気配さえ見えなかった。

「どんだけ狂わせれば気が住むんだクソ野郎が!」

 狂気薬の効き方は様々で、恐怖に泣き叫びながら手当たり次第にスキルを連発する者も居る。

 「助けてくれ」「殺さないでくれ」そんな台詞を何度聞いた事か。

 脳裏にこびり付いた悲鳴が消える事はなく、討伐に参加しているプレイヤーの士気も低下の一途を辿るばかりだ。

 攻撃の手が緩み、反撃で瀕死の重傷を負った者も多い。

 自由の翼の一部だけで状況の収拾をつけるのは無理が出始めていた。


「これ以上はもう無理っすよ……」

 遂にメンバーの一人が泣き言を零す。

 平地では敵が何処に居るか分からず、常に鉢合わせの危険性と隣り合わせで緊張を強いられ、警戒に当たるメンバーの限界も近い。

「回復薬の数も減ってきています。このまま継戦すればじき尽きるかと……」

 そもそも自由の翼には回復役(ヒーラー)が少ないのだ。

 セシリアの居ない今、回復はアイテムに頼らざるを得ず、継続戦闘能力は高くなかった。

 今ここで撤退すればアセリアの被害がどれだけ拡大するか分からない。

 しかし、応戦するプレイヤーも疲弊の限界だ。

 安全に撤退できる内に被害を承知の上で退くか、限界ぎりぎりまで戦うか。


「ケインさん」

 判断を促されたケインが難しい表情で辺りを見渡す。

 壊れた建物、疲れ切ったプレイヤーの顔、どうしていいか分からず立ち尽くす街の人達。

「みんなよく頑張ってくれた。アセリアの被害が一部に留まっているのはみんなのおかげだ。だから……」

 いよいよその決断を下そうとした時。

「あの、プレイヤーの方々ですか!?」

 背後から思いもよらぬ声が掛かった。


「私、まだレベル低いですけどヒールできます!」

「僕はここで露店開いてましたから、回復薬とか触媒なら在庫がありますよ!」

 驚きのあまり目を丸くしているケインの前に一人のプレイヤーが歩み出る。

「遅れてすまない。俺は眠りネズミの一員だ。住民の避難に思ったより時間食っちまってよ。今さらだけど、俺達にも手伝わせてくれ」

 その背後には人人人……。数えきれない程のプレイヤーが大挙して押し寄せていた。

 中には狂わされたプレイヤーの攻撃を一度でも受ければ死んでしまう様な低レベルの人達も混ざっている。

 しかし、驚くべきはそれだけではない。

「高台へ弓手の配置完了しました! 索敵開始、さっそくこのブロックで破壊活動を行っている人を確認です! 場所は……」

 遠くのターゲットを視認可能な弓手のスキルを使った効率的な連絡網の構築。

 中継役がハンドサインを頼りにどこでどんな被害が発生しているのかをリアルタイムに捕捉できている。

「力を貸してくれって声かけたら思った以上に集まってくれてよ。こんな事態だ、じっとなんてしてらんねぇだろ?」


 立ったまま呆然とプレイヤー達を眺めているケインに、自由の翼の一人が苦笑を浮かべながら肩を叩く。

「指示を」

 気付けば座り込んでいる者は誰も居なかった。

 拙いヒールで回復に励むクレリックへお礼を言う者、尽きかけていた回復剤を融通して貰う者。

 先程までの悲観的な雰囲気はもうどこにも流れていない。

「……あぁ、そうだな。みんな、もう少しだけ頑張ってくれないか」

 まだ戦える。夜の広間にプレイヤー達の『応』という掛け声が木霊した。




「南3ブロックに魔術師発見! 妨害持ちとアタッカーで向かって!」

「北1ブロック制圧完了しました! 敵勢力の囲い込み成功です!」

「回復薬足りてますかー! まだまだ在庫有りますよー!」

 敵を捕捉次第フレアドラゴンで現場に急行し、無力化を行った後に拘束。

 人手が増えた事。それに、職ごとの相性を踏まえた作戦により交戦時間も負傷者もぐっと減った。

 街の中心に向かって敵を追い込む作戦も功を奏し、包囲網も完成している。

 このまま最後の一人を無力化するのは時間の問題だと誰もが思っていた。

 悪いニュースは決まってそんな時に運ばれてくるらしい。


「っ!? 大変、大変ですよ! 騎士が一人、包囲網を抜けて家屋に侵入! 場所は……魔術師学園幼少部宿舎です! しかもまだ生徒の避難が完了していませんっ」

 伝令を務めている女の子が素っ頓狂な叫び声を上げる。

 敵らしき姿はなく、直近のブロックの安全も確認されたと思われていただけに動揺が走った。

「馬鹿な! あの辺りは安全地帯だったんじゃないのか!?」

 目測での計測である以上死角が絶対にないと言い切れないのだ。

「分かりませんけど、死角にある抜け道を通った可能性があるとの事! 急いで確保に向ってください! 編成は……」

「俺が行く」

 真っ先に手を上げたのは丁度作戦本部に戻って来たカイトだった。

「あそこにはまだリリーが居る。くそ、やっぱり先に保護しとくべきだったかっ!」

 わざわざ安全地帯から危険地帯真っ只中の作戦本部に連れてくる必要はないと思っていたのが裏目に出た。

 言うが早いがカイトは待機していたフレアドラゴンに飛び乗る。

「待ってください、一人じゃ危険です!」

「騎士一人くらいなんとかする! お前達は侵入経路を割り出して塞いでくれ!」

 格下の前衛職相手に守護者が後れを取るとは思えない。

 それよりも後顧の憂いを塞ぐよう指示を出すと、目的地に向けて一気に加速した。




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「みんな、訓練を思い出して。焦らず急がず騒がずに避難しましょうね。先生がついてるから大丈夫よ」

 年配の教師が寝ていた児童を起こして周り、安全が確認されている外周へと先導する。

 児童を動揺させないよう、普段と何ら変わらない落ち着いた声色だが、こめかみを伝う汗には焦りを帯びている。

 避難ペースが想定よりずっと遅いのだ。

 教師が少ない夜間と言うのもあるが、安全確認に出向いた教師が戻ってこず、人手が足りていない。

 まだ幼い児童の中には夜中に突然起こされてぐずりだしてしまう子もいる。

「点呼を取ります。お名前を呼ばれたら元気よく返事をしてね」

 持ち出した名簿の名前を読み上げる。幸い、一人も欠けることなく揃っていた。

 最後の班は年齢差が広く、集合させるのに手間取っている。

 他のクラスはとっくに避難を始めており、残っている教師も2人だけだ。


「それじゃ移動しましょう。暗いからはぐれないように注意してね。大きな子は小さな子を見てあげて」

 宿舎のすぐ近くには薬草を採取する為の小さな森があり、夜は足元も覚束ない程に暗くなる。

 各自が初歩的な明かりの魔法を灯してその森を抜けようとした時、中でも一際小さな女の子が泣き出した。

「あたしこわい! もういや、おうちにかえる!」

 繋いでいた手を振り切って宿舎の方向に駆けだす。

「待って! 駄目よ! 戻ってきなさい!」

 年配の教師が慌てて声を張り上げるも、聞こえていないのか足を緩めはしなかった。

 そのせいで残された児童達にも動揺が走り、誰もが不安げに教師の顔を見る。

 この場に教師は一人だけ。探しに行けば置き去りにされた児童がパニックになるのは想像に難くない。

 かといって、宿舎の点検に残った最後の教師が逃げ出した子に気付く保証もない。


「私、あの子を連れ戻してきます」

 どうにもできない教師を見かねて、同じクラスだったリリーが小さく手を上げた。

「駄目よ。貴方は……」

 グレゴリー伯に託された生徒だから、という一言を寸での所で飲み込む。

 こんな時に保護者の権威を口にしてなんになるのか。

 しかし、そのせいで教師は次の言葉を継げなかった。

「私は大丈夫です。だから先に行ってください」

 きっと許可は下りないだろうと考えたリリーはそれきり、返事も聞かずに宿舎へを踵を返す。

「仕方ないな、それじゃこの僕も付き合ってあげようじゃないか」

 するとそれに乗じてリリーと同じくらいの年頃の男の子までもが宿舎へ戻ってしまった。


「待ちなさい! 駄目よ!」

 慌てて声をかけても既に闇に呑まれつつある2人が止まる筈もない。

「先生……」

 どうするの? とでも問いたげな児童を見やり、覚悟を決めて前へと向きなおった。

「みんな、3人は後で必ず先生が連れてくるから、今は行きましょう」

 自分が冷静さを欠くわけにはいかない。早くこの子たちを避難させて戻らなければ。

 今は暗がりの森の中を慌てず、焦らずに、声を掛けながら進むしかなかった。




「待ちたまえ! レディーが一人で夜道を歩くものではないよ」

 若干息を切らしながら駆けて来た男の子をリリーは不思議そうに見る。

「どうして来たの?」

「なに、女の子一人を行かせるのは僕の美学に反する行為だからさ。それに、僕が居ればお子様がぐずった時に背負えるだろう?」

 随分と大仰な言い方ではあったが、リリーよりも一回りは小さい女の子とはいえ、本気で暴れられたら手に負えないかもしれない。

「えっと……」

 名前を呼ぼうとして、しかし目の前の男の子が誰だったか思い出せずに言い淀む。

「アルバート・ルーカス・フォン・アセリア・イリスタ。僕の名前は長いからね、みんなからはアルトと呼ばれてる。だから君もそう呼び給えよ」

 アルトはそんなリリーの様子にいち早く気付いて優雅な一礼とともに名乗った。


「シャルちゃん、返事をしてくださいっ」

「シャル! 隠れてないで出てくるんだ!」

 宿舎までの道を戻りがてら声を張り上げるけれど、森は沈黙を保つばかりで物音一つしない。

「やっぱり宿舎の自分の部屋まで戻ってしまったんでしょうか……」

「かもしれないな。先に宿舎まで戻ろう。案外点検に残った教師が見つけているかもしれないよ」

 不安げに周囲を見渡すリリーへアルトが楽観的に笑いかける。

「ところで、シャルの部屋がどこかリリーは知っているかな」

「えと、アルトさんも知らないんですか……?」

「レディーの部屋をみだりに訪れるわけには行かないからね」

 まだ入学して日の浅いリリーはクラスの中でも目立っているアルトの名前さえ覚えていなかったほどだ。

 年下の女の子の部屋を知っているはずがなく、それはアルトとて同じである。

「しかし困ったな。となると、あの広い宿舎を一部屋ずつ見て回るしかないか」


 宿舎は点検の際に明かりが落とされていて薄暗く、人の気配のない廊下はただでさえ不気味な雰囲気をこれ以上ないくらい効果的に演出していた。

 古い床板は歩く度にギシリと悲鳴をあげて殊更に恐怖を煽ぎにかかる。

「ふ、二手に分かれたほうが効率は良いけど、何があるか分からないからな!」

「そ、そうですね! 一緒に探しましょう!」

 いつの間にかしっかりと手を握り合った状態で互いに頷き合い、右手と右足を同時に出しながら最初の部屋へと向かった。


「シャルちゃん、どこですかー!?」

 建物自体はしっかりとしているが、経年劣化によって木が欠けたり穴が開いたりして隙間も多い。

 大きな声を出せばかなり遠くまで聞こえる筈なのに、探している女の子からの返事はおろか、物音一つさえ聞こえなかった。

「シャルは本当にここに戻ってきたのかな」

 一つ一つ部屋を見回っている最中にアルトが呟く。

「僕は全然怖くないが、シャルくらいの小さな女の子は怖がるんじゃないかと思うんだ」

 言われて見れば、シャルは夜の森を怖がって逃げ出したのだ。

 避難誘導を始めたばかりの、魔法で明るく照らされていた宿舎に帰ろうとしていたのだとしたら、ここに入らなかった可能性もある。

「でも、ここに戻るまでシャルちゃんは見つかりませんでしたし……」

 シャルが逃げた森からこの宿舎までは子どもの足でも数分の距離だ。

 恐れていた森の方角に逃げたとは思えないし、やはり考えられるのはこの宿舎くらいしかない。

「嫌な予感がする。少しペースを速められるかい?」

「大丈夫です」


 異変が起こったのは1階を調べ終わり、2階に捜査の手を広めようとした時だった。

 まるで何か巨大な物が窓ガラスを打ち破ったかのような音が宿舎に響き渡る。

 場所までは特定できないが、この宿舎のどこかである事に違いなかった。

「何が起こったんでしょう……」

「分からないけど、歓迎すべき事態でないことだけは確かだ。……早くシャルを探そう。居ないと分かればこんな場所に用はない」


 何かが起こっていると感付いた時点から、アルトの中に渦巻いていた恐怖は跡形もなく消えていた。

 不安そうに身体を縮めたリリーを励ますように言うと繋いだ手を引き、あらん限りの声で叫ぶ。

「シャル! 居たら返事をするんだ!」

 やはり返事はない。この近くには居ないと判断したアルトが先へ進もうとした。

 手を引かれたリリーもその後に続こうとして、不意に背後から視線を向けられている気がして振り返る。

「伏せてくださいっ!」

 飛んできた何かから反射的に逃れるべくアルトに身体ごとぶつかった。

「急に何を……!?」

 アルトが抗議の声を上げた瞬間、目標を見失い壁にぶつかった何かが盛大な破砕音を響かせる。

 顔を上げた先では頑丈そうな大理石の柱が半ばから砕けていた。

 目の前の事態に理解が追い付かず、呆然としているアルトをリリーが引っ張りあげる。

 素早く周囲を見渡すと背後の闇で何かが蠢いた。

「何かいますっ。こっちに!」

 直線的な廊下では逃げ場がないと察して元来た階段を駆け下りる。

 背後から破砕音が追いかけてくるものの、振り返って様子を見ている暇はない。

 階段を折り返すとすぐ近くにある食堂へ転がるようにして飛び込んだ。


「一体何のつもりだ!? 何がどうなってる!」

 もしもリリーが咄嗟に押し出してくれなかったら直撃していた。

 今になって湧き上がってくる恐怖にアルトが平静を保てず取り乱すのを見て、リリーは一度深呼吸をしてからアルトの口を手で塞いだ。

「むぐっ」

「落ち着いてください。騒いだらすぐに見つかってしまいます。そういう時は大きく息を吸ってから吐くと良いって教わりました」

 耳元で囁くとアルトは驚いた様子でリリーを見てから小さく頷いた。

 口を覆っていた小さな手が外され、静かに深呼吸を繰り返す。

「……すまなかったね。しかし君はどうしてこうも落ち着いていられるんだい?」

「似たようなことがあったから。……もう怯えて座り込むのは嫌なんです」



 記憶の片隅にあるのはリュミエールでの一件だ。

 もしもあの時、自分に向かって投げつけられたナイフを交わせていたら。

 兄様もカイトさんもお姉様に何があったのかちゃんと教えてくれなかった。

 でも、私のせいでお姉様と逢えなくなってしまった事くらい分かる。

 そのせいで沢山の人が悲しそうな表情を浮かべていた。

「起こってしまった事はなかった事にできないから、次に後悔しないようにするんだって、父様が言ってました」

 ちゃんとできるか分からないけど、何もしないで怯えているだけじゃ何も変わらない。


 しっかりと前を見据えるリリーの姿にアルトも気を取り直す。

「良いお父様をお持ちだね。はは、格好良い所を見せようとしていたのになんて様だ」

 しっかりとした足取りで立ち上がると肌身離さず身に着けている小型の杖を取り出した。

「相手が誰であれ、この僕に向けて攻撃したんだ。相応の報いは受けて貰おうじゃないか」

 同時に食堂の入り口で薄紅色の刀身が煌めいた。


「集え風神 刃となりて大地を切り裂けッ!」


 先手必勝とばかりに短い詠唱を口にして杖を向ける。

 展開された魔法陣が入口を中心に淡い緑色の光で包まれ、生み出された不可視の刃が縦横無尽に踊り狂った。

 巻き込まれた壁が、机が、椅子が、巻き起こる風に弄ばれながら細かく寸断されていく。

「アセリア・イリスタに刃向った己の浅慮を嘆くがいいっ!」

 生身の人間がどう足掻いた所で防ぎきれる筈がない。

 身を乗り出して勝利を確信するアルトを、リリーは慌てて物陰に引っ張り込む。

 同時に、数瞬前まで彼が立っていた場所を薄紅色の衝撃波が突き抜け、巻き込まれた数本の前髪がはらりと舞った。

 視界の先ではアルトの魔法を強引に弾き飛ばした騎士が油断なく剣を構えている姿が映る。


「馬鹿な! あの魔法を受けて無傷で居られる筈が……」

 アルトはまだ幼いが、魔法の才に関して言えば大人をも凌ぐほどだ。

 にも拘らず。腕や足に多少の出血が見受けられる程度のダメージしか通っていない。

(アルトさんの魔法が弱い訳じゃない)

 リリーはばれないように顔を出して騎士の持つ剣をじっと見つめた。

(似てる……。色は違うけど、お姉様が兄様に渡した剣に)

 ここに来る前。まだリュミエールでのんびりとした毎日を送っていた頃に、リリーは自分と2つか3つしか違わない男の子から魔法を教えて貰った。

 その時は教えて貰った知識が魔術師にとっての常識なのだろうと思ったのだが、この学園に来て魔法を学んでみると、あの男の子が教師はおろか、本の中にしか出てこない大魔導師と呼ばれる人達よりもずっと高度な技術を使っていたのだと思い知らされた。


 彼らは自分達の事を「プレイヤー」と呼んでいた。

 どういう意味かは分からないけれど、きっと特別な存在なのだろう。

 もし目の前の騎士が「プレイヤー」なのだとしたらまず勝ち目はない。

「大人を呼びに戻りましょう。今なら逃げられると思います」

 1階に逃げ込んだのは正解だった。縦に長い食堂を迂回し、窓から外に出て闇夜に紛れればあの騎士も追ってこれまい。

「3つ数えたら明かりの魔法を出来る限り強い光で使ってください」

「……なるほど、目晦ましというわけか。分かった」

 無言で頷きあうと、小さな声でカウントを始める。

 ……1。騎士は慎重にこちらを窺いながら距離を詰め始めていた。

 ……2。落ち着いて騎士の視線の先を読む。出来る限り目の近くで展開した方が効果的だ。

 ……3。閃光に備えて目を瞑り、最大級の明かりを発動しようとした刹那、騎士の背後から小さな女の子の悲鳴が響き渡った。

 まずいと思うよりも早く真っ白な閃光が食堂に爆ぜる。

 しかし、騎士は発動の直前に悲鳴の聞こえた方角へ視線を逸らしていた。

 眩しさに目を押さえているが、直接視界に入れた訳ではなく、ダメージは期待できそうもない。


「君は助けを呼びにいけ!」

 悲鳴の主は間違いなくシャルだ。声の方角からして恐らく2階のすぐ近く。

 このまま助けを呼びに行けば騎士はシャルの居る2階へ行くだろう。

 今さら撤退なんてできなかった。一刻を争う状況でアルトはシャルを確保すべく、騎士の居る入口に向けて駆ける。

 だが、リリーは今にも立ち上がりそうな騎士の姿をしっかりと捉えていた。

「ダメ!」

 アルトが扉を潜り抜けるより早く、眼を覆っていた騎士が復活を果たし、飛び込んできた獲物に壮絶な表情で斬りかかった。

 避けきれない。けれどアルトは目を閉じなかった。

「おォォォッ!」

 裂帛の気合いと共に騎士の間合いへ飛び込んだ瞬間。

「スターライトっ!」

 リリーの放った魔法が騎士の身体を派手に吹き飛ばした。




『攻撃魔法って言っても、色々な種類があるんだ』

 男の子はどこか得意げに幾つかの魔法を披露する。

『大きく言えば直接効果を及ぼすものと、間接的に効果を及ぼす物だね』

 例えば、相手の居る空間を直接燃やす魔法と、火の玉を作って投げつける魔法。

 どちらも最終的には敵を燃やすけれど、魔法の効果が同じとは言えない。

『空間を直接燃やすのは完全な魔法ダメージだけだけど、火の玉を作って投げれば当たった時にゴツンって衝撃が来るよね。こうすれば打撃ダメージも入るんだ』

 球なら打撃に、槍なら刺突に、薄く延ばして風と一緒に飛ばすなら斬撃に。

 同じ炎の魔法でも加工の仕方によって様々な効果を得られる。

『魔法が効き難い敵に出会った時、すぐに諦めるんじゃなくて、どんな魔法なら効果的にダメージを与えられるかとか、味方を助けられるかって考えるんだよ』




 アルトの魔法は一定の範囲内を風の刃で切り裂く魔法だ。

 細かく寸断した軽い木材を吹き飛ばせても、鎧を着込んだ騎士は吹き飛ばせない。

 それならもっと、直接的な打撃を与えられる魔法ならどうか。

 一か八かの賭けだったが、功を奏したようで安心する。

「早くシャルを連れて逃げましょう!」

 アルトからは逃げろと言われたが、シャルを背負った状態で満足に戦えるとは思えない。

 リリーは迷うことなく起き上がりつつある騎士の隣を駆け抜けると、驚くアルトに並んだ。

「君には驚かされてばかりだよ。スペルキャストなんて高度な技術をどこで習ったんだい?」

 普通、魔法を使う際にはアルトがしたように呪文を詠唱する事でイメージを強化し、効果を安定させる必要がある。

 だが、戦場で敵から意識を逸らして呪文を唱えれば多大な隙を晒す羽目になる。

 そうならないよう、魔法の名前を発言するだけで魔法を安定させるのがスペルキャストと呼ばれる特殊な技術だ。

 しかし、たった一言で発動する魔法の形を強固にイメージするのは5桁に及ぶ反復練習を繰り返しても難しいと言われている。

「えと……秘密です」

 リリーは申し訳なさそうにそう言うと服の下に着けているネックレスに触れる。

 魔法の練習をしている時にセシリアとユウトから貰った2つの宝具が硬い感触を返した。


 階段を昇りきった先、廊下の奥に小さな女の子の姿を見とめる。

「居ましたっ。おいで!」

 リリーとアルトの姿を見てシャルがぱっと表情を明るくさせた。

 しかし2人が駆け寄る暇もなく床下から爆音が響き、重厚な造りの階段が大きく軋んだかと思えば、木の割れる乾いた音と共に崩落する。

 その最中、倒れていた騎士の姿が2人とシャルを分断する形で空中に浮かび上がった。

「ははは、騎士というのはここまで常識外れな動きが出来るのかい?」

 アルトが乾いた笑い声を上げ、引き攣った顔で後ずさる。

 騎士になれば誰でもこんな芸当が出来るようになるなら、人類のテリトリーはもう少し広がっていた筈だ。

 騎士は何も語らず、血走らせて両眼で獲物を見定める。

 奥の少女と、手前の二人。ターゲットはその場の全員だった。一歩も動かずに剣を水平に構えると刀身が光を放つ。


 危険を感じた時にはすでに遅すぎた。

 ぐるりと円を描くように振り抜かれた刀身が灼熱の炎を辺り一面にまき散らす。

 アルトの魔法とは比べ物にならない暴風染みた風が廊下を、その先に立つ3人を一瞬の内に飲み込んだ。

 襲い来る熱波を前にこれは死んだかもしれないと目を強く瞑り、身体を突き抜けるであろう痛みに身構える。

 だが、それらしき痛みは少しも訪れない。

 不思議に思いつつも恐る恐る目を開くと、凄惨な光景が飛び込んできた。


 廊下の床板はほぼ全てが剥がれ落ち、騎士の周辺に散らばる炭化した破片は煙を上げ、窓はガラスどころか枠ごと吹き飛び、壁一面が開放的なテラスへと変貌を遂げ、夜の冷たい風が吹き込んでいた。

「は……?」

 想像を絶する破壊の痕跡にアルトが間の抜けた声を上げる。

 ただの騎士が呪文を必要とする魔術師よりも広範囲へ攻撃できるなら、この世界に魔術師など必要ない。

 魔術師が居るのは、騎士にそんな真似が出来ないからだ。

 なら、目の前のあれは一体なんだ?

 いや、それより、どうして自分は傷一つ負っていない?


 訳が分からず呆然としているアルトの前で人影が立ち上がる。

「フィアもリリーもどうしてこうトラブルに巻き込まれるんだ……。とにかく、間に合って良かった」

 子ども2人をすっぽり覆い隠してもまだ余りある大きな盾が月の光を受けて鈍く煌めいた。

「カイトさん!」

 リリーの明るい声によってアルトも突然現れた人物が敵でない事を悟る。

「そうだ、シャルは!? 廊下の向こうに小さな女の子が居た筈なんだ!」

 自分達は目の前の男の盾によって守られたのかもしれないが、シャルは反対側の届かない場所に居たのだ。

「安心しろ、ちゃんと守った」

「守ったって……場所が全然違うだろう!?」

 最悪の事態を想像して慌てるアルトに、カイトは指で廊下の奥を指差す。

「ダメージは全部肩代わりしたからな。掠り傷一つでも付けたらセシリアにドヤされちまう」

 そこには傷一つないシャルが両手で頭を押さえながら恐る恐る周囲を見渡していた。

 一体どういう理屈なのかとアルトは目を白黒させる。


「さて、随分と派手に暴れまわってくれたな。よりにもよって子ども相手に大技かよ。おかげで罪悪感に悩まされずに済みそうだ」

 盾を背後の2人に預け、攻めるに転ずるべく片手剣を抜き放つ。レベル3桁の最上位職とただの二次職の力の差は歴然だ。

 現にほとんど防具をつけていない子ども3人のダメージを肩代わりしたにも拘らず体力は殆ど減っていない。

 これまで感情らしき物を見せなかった騎士が剣を構えるカイトの姿に圧倒され後ずさる。

 そして何を思ったのか、倒れているシャルの足目掛けて剣を突き立て、抉るように刀身を捻った。

「クソ野郎が!」

 カイトの足に猛烈な痛みが走り思わず片膝をつく。

 削られた微々たる体力と神経を揺さぶる痛みはどう考えても比例していない。

 騎士はそれがカイトの弱点と見抜いたようで、恐怖に竦んで頭を抱えるシャルへ執拗に剣を振るう。

 その度に立ち上がろうとしたカイトの表情が苦悶に歪んだ。


「チィッ!」

 思い通りに動かない身体に思わず舌打ちする。

 要はセシリアが帽子屋の陣営の守護者相手にアルスマグナを使ってやったのと同じ行為だ。

 数値上のスペックは比べ物にならないのに、痛みと言う現実が行動に著しい制限を課してくる。

 スキルの維持に意識を傾ければ傾けるほど身体はその場に縫い付けられたかのように動かなかった。

 このままではまずい。今のところ敵は通常攻撃に傾倒しているが、状態異常持ちのスキルを使われたらスキルを貫通する可能性がある。

 特に部位破壊系の状態異常が貫通すればどうなるかは想像もしたくなかった。

 状況をひっくり返せるとすれば背後の2人だけ。

 しかし救援を頼んだところで状態異常貫通のリスクは免れない上、肩代わりできるのはダメージだけで、腕を掴まれるなどの物理的に拘束には意味を成さない。

 やはりここは2人を逃がすべきだと判断し、指示を出す。

「早く逃げろ。あの子は俺が責任を持って連れ帰る!」

 だが、素直に聞き入れる二人ではなかった。


「ここで逃げるような奴が国を守れるものかっ!」

 フォン・アセリア・イリスタはこの国に代々伝わる王族の血筋だけが名乗る事を許される名だ。

 魔物の住むこの世界は常に戦いが付き纏う。

 アルトの父は王家直属の魔術師部隊の元帥を務めており、出現した魔物の掃討任務に就く事も多かった。

 退けば民に犠牲が出る。アルトの父は事あるごとにそう語った。

 戦略上、どうしても一度退いて態勢を整えなければならない時もある。

 しかしその時、犠牲にした民の事を忘れてはならないと。

 今は退くべき時だろうか。態勢を立て直さねばならない時だろうか。

 アルトの出した答えは否だ。


「シャルを離せぇぇぇっ!」

 雄叫びと共に足を繰り、魔術師にあるまじき全速力の飛び蹴りを放つ。

 数十キロの質量が勢いよくぶち当たれば如何なる大人でも吹き飛ばせる。まして剣を振り上げた不安定な態勢ともなれば尚更だろう。

 自分で取っ払ってしまった壁が騎士の身体を支える筈もなく、いっそ呆気ないくらい簡単に夜の闇へ落ちて行った。

「僕が来たからにはもう大丈夫だ」

 蹲っていたシャルにアルトが手を差し伸べる。

 怯えていた少女は彼の顔を見るなり、泣きながら飛びついた。


「ダメージはなくてもノックバックは発生するもんな。ナイスファイトだった」

 もし魔法を使っていれば騎士にダメージは通らず、返す刀でカイトの負担が増えただけだ。

 リリーの使ったスターライトが騎士を吹き飛ばしたのを見て、自分がどうすればあれを再現できるのか考えたのだろう。

 身体に残る痛みをポーションで誤魔化したカイトがシャルを背負って走って来たアルトの頭を撫でる。

「そんでもって、ここからは俺のステージだ」

 2階から落ちた程度でプレイヤーが動けなくなるはずもない。

 騎士は階段を破壊した時と同じように床を巻き上げながら再び舞台に上がって来た。


「逃げなかったのは褒めてやるよ。追う手間が省けるからな!」

 敵の振るった剣が再び燐光を放ち、無数の衝撃波を生み出す。

 カイトは前方に盾を構える事でその全てを完璧に防ぎきった。

 魔剣のエンチャントスキルは隙が少ないとはいえ無限に使えるわけではない。

 攻撃の手が緩んだ一瞬の隙をついて手に持っていた盾を全力で投げつける。

 重さ数十キロの鉄の塊にはさしもの騎士も危機感を覚えたのだろう。咄嗟に身体を捻ることでどうにか射線上から逃れた。

 僅か1秒にも満たない挙動ではあるが、この狭い廊下で間合いに潜り込むには十分すぎる。

 盾を捨てて身軽になったカイトが拳を振り上げて唸りを上げた。

 距離を詰める為になるべく身を軽くした結果、手に剣はなく、ただの素手だ。

 やや反応が遅れた騎士は無謀な突撃に侮蔑の笑みを浮かべつつ剣を構える。

 素手の一撃など脅威にならないと踏んだのか、騎士は避けようともしなかった。

 その顔面に向かってカイトの拳が伸びた刹那。

「シールドインパクトッ!」

 インベントリから盾を装着した。

 先程よりもさらに一回り大きな、前面に鋭利な棘の突き出る盾が騎士の身体に突き刺さる。

 その勢いは猛烈で、騎士の身体をいとも簡単に吹き飛ばすどころか、床板の中に埋没させた。

 シールドインパクトの効果と極端なレベル差によって、HPの7割以上を削られた騎士は完全に気を失っており、死んでいるのではないかと疑わしいほどぴくりともしない。


 大盾は強力な武器にも防具にもなるが行動に制限が加わる為、ゲーム時代からこまめな付け替えを要求されるのだ。

 システムの消えたこの世界において唯一残されたインベントリはこの特性をどうにか維持していた。

 守護者相手に真正面から向き合った時点で騎士に勝ち目はほんの一滴さえ残されていない。

「んじゃ3人とも、夜の空中散歩としゃれ込もうか」

 退避させていたフレアドラゴンを呼び戻すと、外壁がなくなったおかげで丁度いい発着場に見えなくもなかった。

 子どもたち3人が跳ねるように喜んだのは言うまでもないだろう。

Tips


 リリーがネックレスに通して持っている宝具。

 リングオブヘリオス

  異世界の太陽神が宿った指輪。

盲目に対する耐性+100%

  火風地水聖属性魔法に以下のボーナスを得る。

  魔法攻撃力+10%

  ディレイ-10%

  リングオブヘカテーと共に装備時、追加で以下のボーナスを得る。

  『スターライト』の詠唱時間-100%

  『スターライト』のダメージ+100%

 

 リングオブヘカテー

  異世界の冥府神が宿った指輪。

  モンスターを倒した時に得られる経験値+5%

  雷氷毒念闇属性魔法に以下のボーナスを得る。

  魔法攻撃力+10%

  ディレイ-10%

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