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World's End Online  作者: yuki
第二章 異世界
13/83

森の中の村で-2-

 この村の周囲は深い森で覆われているため、平原のモンスターは極稀にしか侵入してこない。

 例え侵入してきたとしても危険なモンスター、いわゆる【アクティブ】な物は生息していなかった。

 それは森の中も同じで、湧き出る虫の扱いにさえ間違わなければ住みやすい村なのだという。

 事実、今までただの一度もこの村に危険なモンスターが迷い込んだことはない。

 だがつい先ほど、オークと呼ばれる特殊な文化を築くモンスターが突然この村を襲った。

 生息地はここよりずっと南東の方角でこんな風に村が襲われる事は普通に考えればありえない。

 何らかの理由で彼らが大移動を行ったのか、もしくは他の目的があるのか。


「村に女性がいないのは、そのせい?」

 老人が一度だけ弱々しく頷いた。

「オークは忌まわしき血が流れる故、雌の個体が少ないと聞いた事があります。時に人や獣を繁殖に使う、とも……」

 セシリアの顔が嫌そうに歪む。攫われた人間を放置すればどうなるか考えるのは止めた。

 老人はリュミエールに助けを求めると言ったが、準備を整えてここに辿り着くのは早くとも明後日の朝だろう。

 間に合わないという少年の言葉通り、賭けるにしては分が悪い。


 村人の数は30人程度と小規模だがオーク1匹で村一つ分の女性を攫うのは無理がある。

 誰も死んだ人が居なかったことから考えて、100や200といった果てしない規模ではない筈だ。

 ゲーム内のオークは強靭な肉体を持っているが魔法防御力が弱く、魔法使いなら1度は狩ったことのあるモンスターだ。

 斧や大剣、時には弓や槍を手にして戦うが然程強い相手ではない。レベル20もあれば前衛でも十分相手にできるだろう。

 セシリアは自分のレベルとステータスを鑑みて殲滅は不可能ではないと結論付ける。

 もし危険があった時は家屋を破壊した時のように、ポータルゲートで逃げればいいとも。


「どちらに逃げたか教えてください。それから、ランプか篝火に使えるようなものがあれば貸して頂けると助かります」

「まさか、救出に行くと?」

 ここから逃げたいので貸してくださいと言う筈ないだろう、と心中で毒づく。

 気がつけば集まっていた村人からざわざわと小さな声がさざ波のように広がっていた。

「時間が無いんです」

 説明するのも面倒だと思ったセシリアが強い口調で一喝すると。数人の村人が無事だった家屋からランプを持ち寄る。

 オークの逃げた方角は聞かずとも足跡で辿れるだろう。大型なオーク達は逃走の跡をくっきりと残していた。

 ランプを受け取ったセシリアは単身で後を追うべく、足跡と破壊の残る方面に向かって歩き出した時、その前に先ほどの少年が立ちはだかった。


「俺も連れて行ってくれ。邪魔はしない」

 セシリアは少年をしげしげと眺めつつ、胸に人差し指を当てるとレベルを下げた【スターライト】を発動させる。

 それだけで彼の身体はなす術もなく吹き飛んで地面を転がった。

 彼からすれば人差し指1本で吹き飛ばされたように感じたことだろう。

「傍にいるだけで邪魔なの」

 言い様は他にもあっただろうに、セシリアはわざと辛辣な言葉を氷のような冷たい口調で告げる。

 ポータルゲートで逃げる時に2人居ると手間取るし、先ほどの少年の加熱具合は見ていて清々しいとさえ思えるが、敵の前でそれをやられても無駄死にがオチだ。

 こういう熱くなりやすい気質のプレイヤーはゲーム内で脳筋と呼ばれていて、支援に負担をかける事で有名だ。

 セシリアもこれまでの支援の中で何度も遭遇した事があり、その度に何故そこで前に出る! と叫びたくなる事がままあった。

 少年は言葉もなく、唖然とセシリアを見上げていた。まさか自分より小柄な少女に軽々と吹き飛ばされるなんて思いもしなかったのだろう。

 そんな少年に目もくれず、セシリアは夜の森に向かって駆け出した。

 ヘイスティとリメスの声が静寂に包まれた村の中で微かに響いた。




 オークの痕跡は捜すまでもなかった。

 木を迂回するという概念が無いのか森の中は枝を折られ、草むらを刈られ、無残な姿を晒している。

 明かりがあるおかげで視界が確保でき、木の根に足を取られる下手もおかさない。

 走りながらオークをどうやって相手取るかに頭を働かせる。

 動きは鈍重だがパワーはある。体力は高いが防御力は皆無に等しい。魔法となれば尚更だ。

 威力の弱すぎる【スターライト】で倒すのは厳しいが、【ホーリーランス】なら5本の内の1本でも急所に当ればHPを削りきれる。

 後は本拠地を見つけ、見つからないように【セイクリッド・パージ】を使い大部分を殲滅できれば問題ない。

 基本方針を固め終わった頃、やや進んだ先にランプとは違うオレンジ色の明かりを発見する。数は1。はぐれたのか、偵察なのか。


 セシリアにとってはどちらでも良かった。

 真正面から堂々と駆け寄ると、作り出した5つの槍が頭と喉と両の肺と腹を貫き一瞬で絶命させる。

 悲鳴すら上がらず倒れたオークからどす黒い液体が溢れ出したのを気にも留めず先へ先へとひた走った。


 暫く先を進むと【リメス】が何かを弾く音がする。

 弓を使うオークだと当たりをつけると飛来してきた方向を見極め、【スターライト】を飛ばした。

 この魔法が持つ淡い燐光が一瞬だけ周囲を照らすと醜悪な顔をしたオークが弓を番え不遜に笑っている姿が宵闇に浮かび上がる。

 相手はセシリアの持つランプを狙って射掛けているのだろう。

 本来なら明かりを消して対処すべきところだが、セシリアはそんな時間も惜しいのか再び虚空に5本の槍を作り上げる。

 元から仲間が今どこにいるのかを把握するのは支援にとって重要なプレイヤースキルの一つだ。

 本当に僅かな時間だったが、【スターライト】によって照らし出されたオークの位置は正確に把握されていた。

 弓に番えられた矢がセシリアに向けて放たれるよりも早く、作り出された槍はオークの頭と喉にそれぞれ突き刺さり、離れた場所から巨体の倒れる音だけが聞こえる。

 それっきり森は沈黙した。


 流石にこの一連の行動でオーク達もセシリアという侵入者に気付いたのだろう。

 この期に及んでもランプを灯したままなのだから見つけてくださいといっているようなものだ。

 松明を持った一団が森の奥から向かってくる。数は5か、6。

 支援魔法を再展開してからセシリアは躊躇うこともなく敵の中ほどへと突き進んだ。

 集団のど真ん中であらゆる方向から攻撃を受けるが、オーク程度の攻撃力では【リメス】を破る事など出来ず、その全てが弾かれる。

 跳ね上がった武器に引っ張られるようにしてオークのバランスが崩れた。

 その瞬間、飛び込む直前から準備していた【ホーリーランス】が5匹を正確に串刺しにし、最後の1匹が表情の乏しい顔を驚きに染めている。

 本来なら再び【ホーリーランス】の洗礼を浴びせたいところだが、クールタイムはすぐに解けない。

 仕方なくセシリアが右手に持っていた杖を振りかぶり敵の足を払う。

 彼女の力は弱かったが渾身の一撃を弾かれたオークの体勢は崩れに崩れていて臨界点の直前だった。

 どう、と倒れたオークに馬乗りになってディレイもクールタイムもない【スターライト】を倒れた頭に向けて連発する。

 1発のダメージは少なかったが、とてつもない力で顔面を殴打される衝撃にオークの身体が幾度も跳ねた。

 絶え間なく放たれた十数発のスキルダメージが累積したのか、鈍い音が響くなり一際大きく痙攣した後、全身を弛緩させる。首が奇妙な方向にねじれていた。

 動かなくなった身体の上から飛び降りて再度【リメス】を展開。MPの残量はまだ有り余るほど残っている。


 やがて森の先に篝火が灯っている場所を発見した。

 ランプを消してインベントリに仕舞い、こっそりと木々の間から覗くと20近いオークが好き勝手に寛いでいる姿が見て取れる。

 攫われてきたと思しき女性たちは広間の一角、碌な加工も施されていない檻の中に窮屈そうに詰め込まれているようだ。

 どうにか間に合った事に安堵しつつ、ここからどう攻めるべきか考えあぐねる。

 オークと人質の距離が近すぎるのだ。

 このまま【セイクリッド・パージ】を撃てば人質を巻き込んでしまう可能性は高い。

 ゲーム内では範囲魔法を味方に重ねても効果はなかったが、ここでそれが適用されるかは怪しい所だ。

 【スターライト】を他人に使えるのを考えれば敵味方の識別機能は失われていると見た方がいい。

 となるとホーリーランスを上手く制御したとしても殲滅するまでに4か5回の発動が必要になる。

 クールタイムを考えると初撃で5匹を討ち取ったとしても、再使用までに15匹ものオークから攻撃を受け続けるだろう。

 【リメス】がいかに頑強だったとしても最大防御回数がある以上、どこかのタイミングで【リメス】の再展開が間に合わなくなる計算だ。

 防御魔法なしで敵の攻撃を受ける必要が出てくる。


 これがゲームであれば、オークから受けるダメージは精々が50程度で済む。

 5桁に達するセシリアのHPから考えれば暫くの間何もせずに立っていたとしても致命傷にはなり得ない。

 まして、セシリアはヒールが使えるのだ。オーク相手では一生掛かっても削りきることなどできまい。

 けれど、慎重になりすぎているのか何か嫌な予感がするのも事実だった。

 どうすべきか、とオークの様子を伺っていると1匹が檻に向かって歩く。

 その手が粗末な格子を開けようとしていると悟った瞬間、セシリアは覚悟を決めて彼らの集まる広間に飛び出していた。

 5本の槍が虚空に出現し、檻に取り付く1体とその周囲を纏めて貫く。

 突然仲間が殺された事に少なくない動揺を抱いていた彼等だが、やがて敵が小柄な少女一人だと理解するなり怒りに吼える。

 転がっていた武器を拾うとセシリアを切り殺さんと突撃を敢行した。


 1匹目のオークの斧が【リメス】によって弾かれる。2、3、4、数は増え続けセシリアは完全に包囲された。

 クールタイムが解除されるまでの時間を頭の中で正確にカウントしつつも、迫り来る巨体が一心不乱に振り回す武器の数々には戦慄を覚えずにいられない。

 ゲームの中ではこんな荒い息使いだっただろうか。これ程迫力があっただろうか。

 違和感の正体はすぐに分かった。ゲームの中の敵は機械が作り上げたただの幻に過ぎない。

 だが目の前に立ちはだかるオーク達からは生々しい感情が濃厚に溢れ出ていた。

 仲間を殺された事への怒りと恨み。セシリアに向けて放たれる威圧と殺意。

 どこか遠くで何かが砕けるような音がした。身体が自然と【リメス】を再使用する。

 だが再展開した【リメス】は数の多いオークの攻撃によって【ホーリーランス】のクールタイム前に消滅してしまう計算だ。

 間は数秒。ヒールを使いつつ敵の攻撃を掻い潜り、【リメス】と【ホーリーランス】が使用可能になった瞬間、ダメージの隙を縫って【リメス】を発動し、防御が効いている間に【ホーリーランス】を再使用する。

 大丈夫だ、と何度も心で唱えても何かを忘れているような気がしてならない。

 ガツン、ガツンと硬質な音が響くたびに湧きあがってくる感情は紛れもない恐怖だ。

 再び何かが砕けるような音がする。何か、ではない。自分を守っていた防御魔法そのものである。


 セシリアはまだどこか、これがゲームだという思いを捨て切れていなかった。

 ゲームの中のキャラと同じ魔法が使えて、同じステータスで、同じ姿で。ゲームを意識しない方が無理なのだ。

 けれどこの世界はゲームでどという生易しい架空の存在ではない。

 システムに保護される事もなく、少しの理不尽は残していても、大部分は救いようのない現実に支配されている、当たり前の世界なのだ。


 斧の切っ先がセシリアの胴を凪いだ瞬間、小柄な身体が吹き飛んだ。

 背後に生えていた太い幹に叩きつけられ、肺に残っていた空気が残らず搾り出される。

 切り裂かれた脇腹からは容赦なく生暖かな液体が溢れ出し地面を彩っていく。

「っぁ……」

 声が出ない程の激痛が脇腹と背を貫く。

 オークが持つ刃こぼれだらけの斧はぎざぎざで切れ味が悪かったが、力によって無理矢理に傷を抉ることで、痛みを与えることに関してはより凶悪な獲物になっていた。

 叩きつけられた背中からは感覚が失せ、地面に沈みこんだ身体は指一本たりとも動かない。

 抉られた脇腹からは熱せられた鉄を押し付けられたような痛みが駆け抜け頭を真っ白に塗り替えた。

 回復魔法を使う事さえも考えられない程思考が混濁する。カウントしていた残りのクールタイムも吹き飛んでいた。


 想像を絶する痛みが与えた物は同じく想像を絶する恐怖だ。

 けれど、見た目の傷に反してセシリアのHPは1ドット程度しか削られていない。

 彼女が思っていたようにオークから受けたダメージは精々が50前後で、間違っても3桁には届かない微細なダメージだ。ゲームの仕様と然程変わらない。

 ただ一つ、現実的な痛みが伴う以外は。


 現代人は痛みに慣れているとは言い難い。

 怪我をする可能性は極限まで低下し、病気になっても優れた医療技術が痛みや苦しみを和らげる。

 セシリアもまた、保護された環境で純粋培養された人間だ。狭い世界になればなるほど怪我の頻度は減るだろう。

 オークの1撃によって与えられた痛みは平常時の彼女が耐えられる限界を遥かに超えていた。 この世界におけるHPは死ぬまでの苦痛をただ長引かせるだけの呪いでしかない。


 上手く動かない肺から送られる酸素は少なく、涙に滲んだ視界の先で巨大なオークが斧を振り上げる。

 それが降ろされれば先ほどとは比べ物にならない苦痛が襲ってくると分かりきっているのに身体は依然として動かず、避けられない。

 広間の中央に焚かれた篝火の炎を受けて刃こぼれた斧が鈍く煌く。

 セシリアに向けて巨大な質量が振り下ろされる、刹那。

「その人に、触れるなッ!」

 薪を割るための小ぶりな手斧が回転しながら飛来し、今まさに斧を振り下ろそうとしているオークの腹に突き刺さって地面に押し倒した。


 振り上げていた斧が反動で空を舞い、2度、3度回転したかと思えば、重力に従って落下を始め、真下に倒れていたオークの顔に突き刺さる。

 身の毛のよだつ醜悪な絶叫が大気を震えたのち、ピクリとも動かなくなった。

「皆の者、かかれ!」

 何十という人が恐怖を打ち消すため、己を鼓舞するため、奪われた人を助けるため、夜の森を騒がせる。

 そこに居たのは先ほど分かれたはずのあの村の村人達だった。

「大丈夫か」

 滲んだ視界に映ったのはあの時セシリアを唖然と見ていた少年だ。今度はセシリアの方が唖然と少年を見返している。

「休んでろ、村の皆を攫われて黙っていられるか」


 村人は自分の無力さを知っていて、だからこそリュミエールに助けを求めたのだろう。

 そこにセシリアという異分子が混ざり、一人でオークの元に向かった事で、手をこまねいている訳には行かなくなった。

 戦闘用の武器があるわけでも防具があるわけでもない。レベルが高いわけでもない。オークと戦えば少なくない人数が死ぬだろう。

 だとしたら、それは全てセシリアの責任だ。

 助力を乞われたわけでもないのに勝手に助けに行って、無様に転がされて、結局は村人たちに助けられている。

 セシリアは痛みに喘いでいた唇を強く噛み締めた。今ではもう、はっきりと自分のHPを視認できている。

「この程度のダメージで倒れるなんて、情けない」

 血が噴出すのも構わずよろよろと立ち上がったセシリアを見て、少年はぎょっとしていた。

 立ち上がったせいで辛うじてくっついていた肉の繊維がぷちぷちと音を立てて千切れる。

 今にも気を失いそうなほど痛い。それでもセシリアは立ち上がった。


「【ヒール】」

 淡い燐光が傷を完全に癒す。瞳はもう恐怖に染まっていなかった。支援としての感覚が戻り始める。

「私に命を預けられますか?」

 脇腹を血で濡らし、片手に杖を構えオークを見据えるセシリアはさぞ迫力のあったことだろう。

 村人達はまだ幼いセシリアの言葉に是と叫ぶ。これまでの道中に転がっていたオークの死骸を誰が作ったのかは彼等も知るところだ。

「人質と敵の分断を。左右から追い立てるように展開して! 右はもっと詰めて、敵を攻撃する時は2人以上で挟み込んで! 敵の正面に立つ人は防ぐ事だけでいいです。背後に回った人は力の限り攻撃を!」

 矢継ぎ早に送られた指示だったが村人達は的確に反応した。

 彼らの人数は30人、対するオークは15匹。

 簡易な木の盾と農具らしき武器しか持っていないが、セシリアの各種支援によって動きは格段によくなる。

「【プロテクション】」

 【リメス】は強力だが単体にしか効果がない。対してプロテクションは複数人に効果がある。

 村人達だけをターゲットに収めて発動した魔法は薄青光でもって広間を僅かに照らす。

 ただしプロテクションには長いクールタイムが設定されている上、防御性能も【リメス】に劣る。

「無理に攻めなくて構いません。そのまま広場の端まで追いやってください! 攻撃を2度受けたら他の人と交代を!」

 広間を横断するように展開した村人はオークを端へ端へと追い詰めていく。

 だが、オークも自分たちより体格の劣る人間相手に数が負けていても逃げるような真似はしない。

 時々突き立てられる農具を受け、血を流しながらも手にしている武器を縦横無尽に振るう。

 村人はセシリアの言われたとおりに、自分が受けた攻撃の回数をカウントして後ろに控えていた村人とスイッチする。

 プロテクションのクールタイムが切れるに従ってセシリアは再び魔法を再展開した。


「そのまま戦線を支えられますか!?」

 この問いに対する村人の答えも「是」だった。セシリアが微かに笑顔さえ作って魔法の準備にかかる。

 村人の武器ではオークを倒すまでに時間が掛かりすぎる。

 武器として設計されていない農具では、まして木製の物まで混じっているとなれば与えられるダメージは微々たる物だろう。

 トドメをさせるのはセシリアしか居なかった。選択肢は2つ。

 【ホーリーランス】を3か4回使い小分けに倒すか、【セイクリッド・パージ】で纏めて倒すか。

 戦闘に慣れない村人に長い間戦線を支えてもらうのは危険だと判断したセシリアは後者を選んでいた。

 早く終われと焦れながら意識を集中し魔法の完成を急ぐ。村人のプロテクションが幾度か削られ、後方の控えと再びのスイッチ。

 中には防御魔法の効果が切れたのか、斧の一撃で吹き飛ばされる村人もいた。

 彼らは一様にふらつきながらも立ち上がって再び武器を構えている。セシリアよりずっと酷い傷を受けているにも拘らずだ。

「全員、離れて!」

 永遠にも感じられた時間が遂に終わりを迎える。目の前の光景に何が起こるかを理解したのだろう。言われるがままに村人が慌てて距離を取った。

 オークがやや遅れて追いすがろうとした時には純白の光球がオークの周囲をとっくに埋め尽くしている。

「【セイクリッド・パージ】」

 凜とした声がスキル名を叫ぶ。

 深夜の森が爆発的な光によって照らし出され、空に昇った光の柱はオーク達の断末魔すらも飲み込んで森を引き裂いた。

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