session7 馬を持った騎乗兵
二日目、泊まった宿屋で朝食を取った俺たちはセイの泊まっている宿屋を訪ねた。まだ道は覚えていなかったのでエトワールに案内をしてもらった。工房には昨日と全く変わらない様子で武器を片手に検査しているセイの姿があった。
「おはよう、クロウ」
「お前は……寝てないのか?」
「ああ。徹夜でお前たちの武器と防具を作っていたからな。人間はたまに仮眠さえ取れば働き続けれるものだからな」
部屋の中には昨日から全く様子の変わっていないセイが椅子に座って書類を眺めていた。恐らくはクエストか何かの依頼書なのだろう。それが十枚近くだろうか、彼は持っていた。
「要らん話はおいておいて。武器防具は作っておいた。青銅の槍と鎧だ。最下級の素材しか手に入らなかったが、最高レベルの俺が作った以上、現段階の最強装備になっている。北側の森で鍛錬するといいだろう」
そう言われて俺はセイから槍と鎧を受け取った。些か重たいぐらいだが、機動力が馬任せなら重量の在る武器を使っても回避に影響は出ないだろう。
「でも森だと俺は馬を使いにくい気がするのだが……」
「大丈夫、大丈夫。騎乗兵の『突破』系スキルで草木と言った障害物ごと魔物に体当たりかませばいいから」
「そんなに自然破壊しても大丈夫なのか……」
俺は呆れ半分に返答した。街は東西南北に開けており、一番レベルが低い西の草原が初期推奨、次の東の平地がレベル10、南の荒野は20、北の森は推奨パーティー平均レベル30となっている。これはテスト時代の情報で昨日調べた限りは変わっていなかったと言う情報があったそうだ。
(ちなみに俺が出現したのは南の荒野だった)
一応、北の森はパーティーの平均レベル30以上が推奨レベルだったはずなのだが……、アタッカーがレベル18の俺だけで大丈夫なのかと疑問に思うほどだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「俺つえー」
「………………」
一言で言ってしまえば、馬を持った騎乗兵は文字通り無双だった。俺が持っている『突進』スキルはどうやら攻防一体のスキルだったらしく、攻撃中は超強化状態になって相手を蹂躙するものであった。単純に敵に向かって馬ごと体当たりするだけなのだが、単純であるだけに扱いやすい。勢いを付けて駆け回る騎乗兵は森にある木や魔物たちも為す術無く押し潰していく。当然、騎乗している俺と馬には体当たりの反動で少しダメージが返ってくるが、微々たるモノで僧侶のエトワールに一時間に一度ぐらいのペースで回復してもらう程度で十分なほどだった。
≪プギャァァァッ!≫
≪ウゴォァッ!≫
「次行くぞ、次!」
「ヒヒ~ン!」
昨日、荒野で襲ってきた猪も初めてみた小鬼のような魔物も、草木と一緒に纏めて皆体当たりで吹っ飛んだ。倒された小鬼や猪、草木などはアイテム化して自動でパーティーアイテムボックスの中へと入っていた。わざわざ回収のために馬から降りる必要も無いので、戦闘継続も非常にしやすい。その上、馬の機動力がそのまま殲滅力にも移動力にも繋がるため、魔物との遭遇率も非常に高かった。
≪まぁ、問題と言えば≫
「………………」
「……大丈夫か、エトワール?」
「……大丈夫、じゃない」
馬上の俺の背中で顔を青ざめさせているエトワール。体は俺にもたれ掛かり、如何にも限界間近と言う様子。豊満な胸が押し付けられているがそれ以上に恐れている事が有る。
「……うぷ」
「は、吐かないでくれよ?」
エトワールは口を押さえる素振りを何度も見せた。馬による乗り物酔いだ。馬が縦横無尽に悪路を駆け回り、その上下感がそのまま伝わってくる馬上は乗り心地最悪で『騎乗』のスキルが無ければ俺も吐いていただろうと思えるほどだ。
パーティーの制約から一定距離以上離れられない事もあって、桁違いの機動力を持つ騎乗兵に取って、パーティーメンバーと歩調を合わせるのが非常に難しいのだ。(一定距離離れると経験値の享受が出来ない)
最初は乗る事に反対もしていたが、俺の『突進』スキルが攻防一体のスキルと分かったら渋々彼女も騎乗した。馬も二人ぐらいなら別に問題無く走ってくれるので彼女の安全確保と狩り効率を合わせるのもに非常に都合がよかったのだ。
だが、問題はそれとは全く関係の無い所だ。
「……クロウ、限界」
「ちょっと待て、後少し待て!今すぐ降ろしてやるから!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
我慢強いエトワールでも一時間が限界だったようで降ろして事を済ませた後、二十分ほど周囲の安全を確認しながら休む事にした。ついでに僧侶である彼女の回復魔術をかけてもらって、お互い万全の状態にしておいた。
「大丈夫か、エトワール?」
「……今は大丈夫じゃないけど、休めば大丈夫。まだ狩りをしよう」
彼女がそう言うのでちょっと気が引けたが、調子が回復した彼女を後ろに乗せて再度魔物と戦い始めた。この後もダメージは受けたが、僧侶であるエトワールの回復を受ければすぐに全快したので少し買っていた数少ない傷薬を使う機会も無く、戦い続ける事が出来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇
結果休憩を三度挟んで戦闘四時間、休憩一時間の合計五時間ほど魔物狩りをして、二人で分けても俺の取り分が昨日の偶然に匹敵するほどの量の素材を手にする事が出来た。
それだけ戦闘回数が半端ないと言う事でもある。普通に一分間に二度戦闘とかもやっていたからだ。
「アイテム管理はどうする?」
「……クロウに任せる。アイテムだけでなくお金も全部」
「いいのか?」
「……(コクリ)」
と言う事で、俺は二人で回収したアイテムを全部自分のアイテム欄の中へと入れた。一番多かったのは薪の五百四十個。どうやら木を倒した時にもアイテムを回収出来るようだ。
でも、これだけあっても加工などの技術も無いため売るしか無いのが悲しい所だ。
「………………」
「流石に戻ろう。腹も減ったから」
「……よく、食事とか考える元気があるな、クロウ」
何度か嘔吐したエトワールが珍しく苦言した。しがみついていた彼女も最終的には俺にもたれかかるように捕まっているような状態となっていたぐらいだったが、まだ文句を言う程度の気力は残っていたらしい。でも、これ以上追い討ちをかける意味も無いので、俺たちは街へと戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
Player name:クロウ
Job:騎乗兵
Level:18⇒29
skill:『騎乗』、『突進』、『調馬』、『索敵』、『魔物使い』、『調教』、『槍術』new
Rank:121
Player name:エトワール
Job:僧侶
Level:1⇒24
skill:『杖術』、『浄化』
magic:『回復』、『付与』、『鈍化』、『風刃』、『異常回復』
Rank:528
7/30 修正
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