session5 買い物
俺はパーティーメンバーとなったエトワールを連れて工房を後にした。
「………………」
「………………」
何と言うか気不味い。俺の後ろに軽鴨の子のごとく着いて来る彼女はずっと黙ったままだ。元々あまり喋らない上に人嫌いでもあったので、彼女が積極的に喋らない事は知っていた事だが、それでも居辛い。
「ねぇ、そこの子、僧侶でしょ?僕たちと一緒にパーティー組まない?」
「お~彼女可愛いね。俺たちと組まねぇ?」
「……お断りします」
外見は文句無しの銀髪白人美女のエトワールは度々勧誘されていたが、全部即座に断っていた。対人恐怖症の彼女がそのナンパ野郎に杖で撲り掛からないか心配になったが、そこは抑えてくれたらしい。
幾度の勧誘を受けるよりかはまだ沈黙の方がまだマシだと思ったので、俺はこの沈黙を気にしない事にした。勧誘に関してはエトワールが最早用意されていたテンプレのごとく、すぐに断るため悩む必要もなかった。まぁ、俺には勧誘が皆無だったのもあるが。流石は地雷と評される騎乗兵と言うか。
何だかんだあったが、俺たちは市場に到着していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ビッグボアの皮など全てを合わせて三百七十万ジルだ」
「分かった、売ろう。商談成立だ」
俺はNPC商人にアイテム欄内のアイテムを全て渡して、俺は金貨三枚と銀貨七百枚を手に入れた。どうやら百万単位が金貨で千単位が銀貨らしい。多分、一単位の硬貨は銅貨なのだろう。よくも七百枚をも用意して数えたものだなと思ったが、これがNPCと言う存在なのだろう。硬貨を手に取ると、手元から消えて無くなりアイテム欄に表示された。
「七百枚とかも普通に入りやがった。確かにこれなら楽だな」
思考の中に在る異次元空間。その欄には三百種類のアイテムを九九九まで収納することができる。硬貨も一つのアイテムとし見倣されているのか、簡単に収納してしまった。俺が『銀貨二十枚』と念じれば、手元には二十枚の銀貨が手の中にあった。
これは非常に便利だなとアイテム欄を使いながら感心していた。
「………………」
一方、エトワールは俺が道具を売る間もずっと俺を凝視し続けるだけしかしなかった。……何か彼女が欲しがる物を買ってあげてもいいかなと思ってはいるのだが、そんな素振りも見せないので彼女への対応に困っている。
「まずは言われたとおり、馬を買いに行くか」
軽鴨の子のように着いてくるエトワールを後ろに連れて、馬を売る商人の下へと向かったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
馬は一頭あたり平均が三百万ジル。一番安い馬なら二百万ジルぐらいだが、人を運べるような馬ではなく生まれて余り時間が経っていない仔馬や、死に掛けのような老馬しか居なかった。一般的な成年馬(3~15歳)はやはり高額になっていた。その上で一番厳しいモノが維持費であった。
「馬小屋と馬の食費で毎月二十万ジル掛かるのかよ……」
寝るために必要な宿泊費が一日二百ジル、三食で追加の二百ジルが掛かる事を考えると、最低でも掛かるので最低限の人の生活をするのに必要な費用が毎月一万二千ジル。十六倍以上掛かる馬の維持費は余りに高額だ。
「確かに、これは地雷地雷言うわな……」
あれほどあったアイテムを売って手に入った資金の八割が消え失せるのだ。騎乗兵が地雷と言うのは納得の行く話だろう。その上で武器強化などもあるので無駄な金を割く必要もあるのだ。馬を買う金など用意出来るはずも無いだろう。
俺は結局平均ぐらいの三百万の青毛の馬を買う事にした。競馬は全く知らないので馬の品種とかは全く知るわけが無い。選別については最早適当だ。とにかく三百万ジルの馬を選んだだけだった。
買った馬は基本、飼育場に放置で良いらしい。餌なども飼育場がやってくれるとの事だ。理不尽に高い維持費もこれが原因なのかもしれないと心の中で思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
手持ちの金は五十万ジルを切ってしまったがこれでも今は大金。出来れば十万以下にしたかったので、残った金で特殊効果の付いたアクセサリーを見てみる事にした。
アクセサリーは高いものだと一億ジルを超すトンデモナイものから、数百ジル程度の安物もあった。
「エトワール、どれが欲しい?」
「………………」
ずっと黙ったまま着いてきた彼女にプレゼントでも買ってやろうかと言う気持ちで聞いてみるが、全くの無反応だった。まぁ、本来なら守銭奴である俺もよく分からない間に手に入ったアイテムで売ったお金。あんまり重要だとは思わない金だったので無駄遣いしてしまえとまで思っていたのだった。
「………………」
ずっと黙っているようだったが、十字架のアクセサリーに少し興味を持っていたのか、それだけを見つめていた。
≪価格は二十五万ジル、それなりだな。よし≫
「これください」
「毎度、二十五万ジルだよ」
俺は財布の中から銀貨二百五十枚を取り出して、店のおっさんに渡して、鎖つきの十字架を受け取った。そしてその十字架をエトワールの首へと架けてあげた。
「……!」
「い、嫌だったのか……?」
驚いた彼女につい、申し訳ない気持ちになってしまいそうだった。
「……違う。本当にいいの、これ……?」
彼女は十字架を手に取って、上目遣いで俺の方を見てくる。しゃがんでいる彼女の上目遣いはそれはもう反則級に可愛いです。背が高い彼女を上から見ると威圧感が薄れるのもあって、可愛さ倍増である。
「い、いいんだ!元々この金は偶然で稼いだものだから」
「そう……ありがとう、クロウ」
「……っ!」
彼女の非常に珍しい感謝の意に俺は固まってしまう。
「……クロウ?」
「い、いや……どう致しまして」
な、何とか返答をしたのだった。残りは傷薬などに加えて馬の餌を買って、所持金は九万ジル=銀貨90枚まで消費したのだった。正直、ここだけの話、この日の内に服を買えば良かったと後悔した。皆、麻の服だったから悪目立ちしただろうが、そうすべきだった。
こんな美少女に質素感を出させる申し訳なさがあったから。
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職業:僧侶
体力:E
攻撃力:E
防御力:E
精神力:B
魔術耐性:A
敏捷力:E
技量:D
※Eが最低でSが最高
skill:無し
magic:『回復』『付与』『鈍化』『風刃』
回復職。
回復魔術を中心に習得していくが、一部付与魔術も使えるようになるためパーティーとしても重要性の高い役割を担う存在。一つのパーティーに一人もしくは二人入れる必要がある職業で戦士、魔術師の次にプレイヤーが多く、勧誘するパーティーやギルドも多数存在する。
耐性が高く、状態異常になりにくいため、いざと言う時のパーティーの収拾役にもなる。
攻撃魔術は『風』属性のものを会得出来る。