session4 常識なんて飾りです
「な、何でレベルが18もあるんだ?」
俺は見間違えたと思って何度かステータス画面を展開し直してみるが、その表示が変わることはなかった。開始直後のレベル1ではなくレベル18。ただ、異常にレベルが高くなっている事実だけがここにあった。
「……クロウ、ここに来る前にどれだけの魔物と戦ったんだ?」
顎から手を離して、椅子から立ち上がり体を乗り出してきたセイが聞いてきた。彼が長話をする時、いつもやるポーズを崩すぐらいなので余程驚いたのだろう。
俺は正直に猪の魔物に飛び乗って、その猪が縦横無尽に魔物の群れを襲った事を語った。
「本当によく無事だったな、クロウ」
「我ながらそう思うよ」
「……御疲れ様」
セイは俺の肩に手を置いてそう言い、エトワールも声を掛けてくれた。それだけ暴挙だったようだ。
そして俺は改めて思った。実際、復活場には大量の人たちが居た事からフィールドに落ちた後、魔物に襲われて死んだ人は非常に多かったのだろう。考えてみればあそこに居ない事が不思議なぐらいだ。あれだけの無茶をした報奨とでも思えばいいのだろうか。
「クロウ。結論から言うと、その猪『ビックボア』に捕まっていたと言う話だが、『騎乗』スキル発動時と同様の状態に取られたらしく、ビックボアが倒した魔物の経験値が全てお前に入った……そう思うのが一番妥当だと思う」
「………………」
魔物に乗って、その魔物が無双したらこんなに簡単にレベルが上がるとなれば物凄く楽な職業じゃないのか、これって。――飛び乗りは本当に命懸けだったけど、二度としたくないけど。
「本来なら、高額な馬を買わないと活かせないスキルと能力を有する騎乗兵は、更に高額かつ馬鹿にならない維持費が掛かる馬が必要なためにコストパフォーマンスが最悪で中々強くなれずに燻る事が非常に多いんだが――。お前のレベルが上がった方法は命懸け以外の何モノでもないからな」
セイは解説しながら頭を抱えていた。そりゃそうだろう。想定外過ぎる行動にセイも悩まざるを得ないのだろう。彼にとって嬉しい誤算なのだろうが、それはそれで頭を悩ませる要因にはなる。
「そ、そんなにこのレベルって凄いのか?」
「正直、一日で1レベル上がれば良い方だと思うよ。一日中――およそ16時間とか戦い続ければそりゃレベル10ぐらいまでは上がるだろうけど、現実の人間とほぼ変わらない以上、疲労や恐怖感、痛みなどに屈するだろうから、まず有り得ないね」
頭を手で支えているセイはそう呟いた。普段は手を顎に当てるこの男が額に手をやっている辺り、本当に参ったような様子だ。勿論良い意味でだが。
「それで、アイテムとかはどれぐらいあるんだ?」
「それなら……」
そう言って、俺は自らのアイテム欄を広げた。アイテム欄の中に『公開』と言う項目があったので、それを選ぶと向かい側に居たセイにも見えたようだ。見た途端にその表情は一変した。
「なんじゃこりゃ!?」
セイは頭を支えていた腕を取り払って再び立ち上がるほどの驚愕を見せた。傍に居るエトワールも表情は変えないものの、その空間スクリーンを凝視していた事から少なくとも驚いてはいるようだ。
この空間スクリーンとかの技術がどうなっているのかはよく分からないが。
「これだけあれば、馬も余裕で買えるだろう。これから馬を買いに行って明日に備えると良い」
「そ、そうなのか……」
一応、セイはベータ版テスト参加者でトッププレイヤーなのもあって、見ただけでそう判断していた。正直、よく分からないので、俺は彼の言う言葉にただただ口を合わせるだけだった。
「ならば丁度良い。エトワール!」
「はい」
「クロウと一緒にパーティーを組め。そしてレベルを上げてもらえ」
「分かりました」
「いや、パーティー組むのは良いけど……」
俺はそう言うしかなかった。別に拒否したい訳ではない。ただ、突然決められた事に驚いて、即座の決断をしかねているのだ。
「一応、エトワールには二時間程度である程度の情報を叩き込んではおいた。少なくともこのゲーム攻略において、知識面では役に立つと思うぞ?」
「二時間程度って何やってんだよ!?」
どうやらセイはエトワールにゲーム開始前からゲームに関する知識をある程度吹き込んでいたらしい。物覚えのよい、麒麟児とも言われる彼女なら、確かに覚え切れるかも知れないが、何無駄な事に時間を費やしているのか、全力で突っ込んだ。
だが、セイは真剣な顔で、必要な事を教えたまでさと言って誤魔化していた。
「それより、セイ。お前とパーティーを組むのは無理か?」
「無理だ。俺は『生産職』だぞ。俺は戦闘系スキルが少なくて、レベルの高さを武器にした肉壁にしかならないだろう。そんなのお前だってやりたくないだろう?」
「……そうだな、済まない」
考えても見れば分かるだろう。総合トップも今のランキングはそのままレベル差が順位差に大きく影響する。総合トップが生産職なら、それなりの高い体力を有しているだろうが、それだけ。肉壁にしかならないのならば進んで戦いに行く奴も多くは無いだろう。
「まぁ、そういう事でエトワールを頼む。俺はこれから鍛冶師クエストなどで情報を集めつつ、レベルを上げていこうと思う。ただ、エトワールは僧侶で戦闘支援職だから、俺と一緒の行動は取れなくてね。安心して任せるのにクロウは丁度いいわけだ」
「なるほど……確かにそれは一理あるが……」
「と言う事で決定な~。クロウ、エトワールを頼んだ」
「……宜しく」
そう言って、セイは勝手に話を進めてきたので俺は呆れながら返事をした。
俺はエトワールの事を嫌っている訳ではない。むしろ、仲間として好感を抱いている。そして知識もあるなら今までのように参謀役としては十分使えるだろうから、願ってもいない最高級の相棒ではあった。
だが、些か外見で不釣り合いなのが嫌だった。
片や一般人、片や絶世の美女とも言えるような白人さん。この対比がいやになりそうだった。
「あ、そうだったそうだった。警告程度に、俺たちの仲間を除いた別の人をパーティーには入れない事。ギルドにも入らないこと。それだけは守ってくれ」
「あ、ああ……」
対比が嫌だから誰か入れようと思った矢先にセイにダメだと言われてしまった。俺はショックを受けたが彼の言葉を解釈する事にした。
「なら、仲間だったらパーティーに入れてもいいわけだね。了解した。俺がエトワールを連れて皆を探してくるよ」
「って、事で頼むわ~。家事全般ダメで風呂も一人で満足に入れないような義妹を宜しく頼むぞ」
「ああ、分かった……ってちょっと待て、何だ最後の風呂にも満足に入れないって!?」
「ん?エトワールは一人じゃ髪も洗えないぞ?いつもは俺が一緒に入って洗ってやってるぞ」
「オイマテ」
確かにエトワールが裁縫や料理といった事をやった事を見たことが無かったので出来ないだろうとは内心思っていたが、風呂にも入れないってどういう意味だよと問いたくなった。
いい年の兄妹が一緒に風呂に入っていると言う事実も初めて知った。どうでもいい事だとは思っていたが、問題発言を問題になるときに限って遠慮無く投げてくるこの男にも心底参る。
「って、事で後は任せるぞ、クロウ。あ、間違いも起こしても別に良いぞー、つーか起こしちまえ!大丈夫、お前ならやれるって!それと、この部屋は一応俺名義で取っているが、大抵は不在だ。だから、お前たち二人で使ってもいいぞ。鍵はエトワールに持たせてるから」
「やらねぇよ!!」
「……(ジトー)」
「済みませんでした」
いつの間にかセイと言い争いになっていた俺はエトワールに睨まれて頭を下げた。そりゃあ、目の前で自らの貞操どうこう言われていたら、流石に非難もしたくなるだろう。
「……お腹が空いた」
「はいはい、分かりましたよ。でも食べ物は無いから、外食かな?出掛けるとするか」
「……(コクリ)」
エトワールも非難し続ける事が無意味だと分かっていたのか、その謝罪と言わんばかりに俺へ食事を要求してきた。この宿にある時計がもう時期午後六時を刺そうとしていたのも確認した俺とエトワールは一旦宿を後にしたのであった。
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~職業能力値基準~
職業:騎乗兵
体力:D
攻撃力:D→A
防御力:E→D
精神力:E
魔術耐性:D
敏捷力:E→A
技量:E→C
※能力評価:E<D<C<B<A<Sの順。Sが最高。
E=1、A=5計算で能力合計は10。下級職平均が15、上級職平均が20である。
skill:『騎乗』、『突破⇒突進』、『調馬』、『索敵』
(『騎乗』・『突破』は騎乗時のみのスキル)
能力変更は騎乗スキル発動時。
初期能力は全職業中最低だが、騎乗すれば上級職相手でも見劣りはしない程の能力を持つ最強のアタッカー職業種。
ただし、基本攻撃スキルが騎乗時限定のモノが多く、騎乗を行うための馬は最低でもゲーム内通貨で二百万ジンは下らないので、レベル30ぐらいまで弱い生身で戦う必要がある。(パーティーを組んでの一日レベル上げれる平均が1である)。ちなみに二百万ジンは武器も殆ど買わずにレベル上げでの結果なので基本は足でまといにしかならない。そのため、パーティーやギルドからは序盤の加入を断られる事が非常に多い。
槍術や杖術などの武器スキルや魔物使いなどの特殊スキルは一定期間装備するなどの『条件』を満たせば習得出来るが武器系統は基本戦士職が、杖系統は魔術職が、槌系統は生産職が得意とする。
※ジンはゲーム内通貨。1ジン=10円程度に思えばいいぐらいに考えています。
7/30 大幅改変。
クロウのレベル29⇒18に変更
セイの職業:錬金術師⇒鍛冶師?に変更。