session25 静まった街
久々の更新です。
前の話を大幅に書き直していますので、読み返しも推奨します……そんな事言える役ではありませんが。
目的地である街には日が暮れて少し時間が経ったぐらいで到着した。だが、最初の街に比べると非常に静かな印象を受けた。夜なのもあってか、街を歩く人影は殆ど無い。
「殆ど人が居ないわね~」
「夜店なども開いてないし……どうしたんだろう?」
「……人が居ない方が楽」
テンペストと俺は人が居ない事を不思議がっていたが、エトワールは人が少ない事を喜んでいた。そういえばエトワールは対人恐怖症だったなと思いながら、まずは食事処を探そうとしていたその時だった。
静まり返った街中から人影が此方に向かってくるのが見えた。
肩幅もその肉体もしっかりとしたその姿には頼もしさもあるが、一番最初に突然来られるとより不信感を煽られる気がした。
「おや、クロウじゃないか」
「あ、貴方は……確か金剛将軍でしたか?」
「将軍は止めてくれ、今は個人なんだ、恥ずかしいわい」
声を掛けてきたのは前回の闘争で戦った相手である鎧武者職に付いている人だった。闘争の時に、彼とだけは話し合ったので、話し掛けられた時も別に対して驚くことなく対応した。
「クロウ、この人は?」
「ギルド『十二神将』の金剛さんだよ。闘争の時は俺と戦った人だ」
「……!!」
闘争の時は本陣に居て、俺の状態を殆ど知らなかった彼女たちは警戒心を露にした。特にテンペストは腰に帯刀した刀の柄に手を添えて、居合切りの準備すらしている。
「お前等少しは落ち着け!敵対したからって今も警戒する理由がどこにある!?」
「そうだな。ここは街だから戦闘はルールで禁止されているし、もしも闇討ちするならこうも真正面から話し掛ける馬鹿がいるか?」
「そ、それは……」
「………………」
反論出来ずに二人とも黙った。エトワールは全く関係ない本人の事情で警戒しているだけだがそこの所は気にしないでおこう。
「それよりもクロウ、そっちは今到着したばかりだろう?」
「……そうですね」
先ほど着いたばかりである事をしっかりと言い当てられて、少し動揺した。これは何か目的があるのではと。だが、到着してから馬小屋に行って街に出てきただけだから、街に着いてからはまだ二十分も経っていないはずだ。
「何、そう警戒するなよ、クロウ。俺は情報屋が馬小屋を使った人が居ると聞いて飛び出してきたんだ。一度そちらと語り合ってみたかったからな。立場とか関係無しで」
「ふむ……」
俺は後ろにいる二人の表情を伺った。この二人が彼の事をどう思うかで対応を変えなければならないだろう。個人的には彼とは少し話してみたいのだが、許してくれるだろうか。
「私は別に構わないけど……」
「……宿で寝る」
エトワールはそれが気に食わなかったのか、さっさと宿を取れと間接的に言ってきた。念の為に言っておくが、エトワールの道具などの管理は全て俺がやらされている。つまりは宿を取ったら自分は宿に居ると言う意思表示なのだろう。
「金剛さん、ちょっと申し訳ないけど宿確保を先にしてきていいでしょうか?その後でなら……」
「そうか、なら俺はすぐそこの店で待ってるぜ。一緒にメシでも食おうや」
合意した所で俺は宿屋に行って部屋を二つ取った。ダブルが俺とエトワールで、シングルがテンペストだ。ここでも俺は拒否したかったが、エトワールが駄々をこねたためどうしようも無かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「来たかい、先に食っていたぜ」
「彼女も同席して宜しいですか?」
「ああ、問題無いさ」
「それでは」
そう言って俺たちは席に付いた。俺たちを招いた金剛さんは既に料理に手を付けているがその量がどう見ても五人前ぐらいの量だった。
「ん、ああ、済まないね。俺は昔から大食らいなモンで、食える時に食う主義なのさ。そっちの剣士さんとあの白人さんは、彼女か?」
「「違います」」
「息バッチリじゃん。二人、結婚しちゃいなよ」
「「俺|(私)たち、そんな仲じゃないです!」」
俺とテンペストの否定の言葉が同時に出てしまい、金剛がそう言ってきた。そして結婚と言う言葉に対しても同時に反応してしまった。お互いの声を聞いてしまった俺たちは顔を赤くしながら背けた。
「ただ、俺たちはリアルでのクラスメートなだけで……」
「なるほどね、リアルでの知り合いか。……セイもそうだったりするのかい?」
「えっと……」
ちょっと言い訳程度に口を漏らした事で、セイの事を聞かれた。アイツはこの世界に来てからも何をやっているのか、全く分からない男だ。それゆえに金剛はどうでもいい事でも知ろうとしているのだろう。
「いや、リアルフレンドだったら、セイの動きも少しは納得出来ると思ってね。将来有望程度じゃ力を貸すとも思えなかったから」
「……そうですね」
「アイツとは一ヶ月の間、同じギルドに居たが、全く持って分からない奴だったからな。超ド級の廃人である事以外何一つ分からなかったんだ。何時見てもログインしていて、何時見てもしっかり鍛冶をしている。呆れるほど生真面目で合理的な奴だったよ。それ故に衝突したことも少なくは無かった」
確かにそうだ。あの天上天下唯我独尊を貫くあの気紛れ野郎はやるべきことに関しては無駄に合理的で隙の無い動きを見せる。あの闘争の時の容赦の無い殲滅は正しくあのセイらしかった。
「想像は出来ますね。アイツ、リアルでも中学時代にウマの合わなかった魔術教師と大喧嘩してその教師を再起不能に追いやった武勇伝を持つ男ですからね」
「なるほどな。ありがとう、アイツのことが少し分かった気がしたよ」
「疑問解決のお力になれただけ良かったです」
「それ以上に気になるのは君たちのことだよ、クロウ!まず、そちらの剣姫さんとさっきまで連れていた白人のことだけど、ランク27位の『テンペスト』さんと『エトワール』さんであっているかな?」
「あ、はい。私はテンペストと言います。もう一人がエトワールですけど……どうして?」
名前を言い当てられたことでまた警戒心を表に出すテンペストだが、その事は予想出来るだろう。
「……ランキングで知らない名前があったらそりゃ気になるだろう。商人ギルドに所属するフォックスは例外で他に急上昇したプレイヤーの名前を調べたんだろうさ。上位百人ぐらいはあんまり変動しないんだから、奇妙な変動の仕方をするプレイヤーを探せばすぐに見つかるだろう」
「あ、クロウにレベル上げをしてもらったことが……」
「なるほど、騎乗兵のクロウが彼女たちを戦力として育て上げたのか」
うんうんと首を縦に振る金剛。彼は先ほどからこちらの情報を露骨に探ってきている。その事を宜しく思わないテンペストが口を挟んだ。
「あれはエイプリルのギルド存続のために仕方なくやった事で……っ!」
「草原の微風のギルドマスターもリアルフレンドか。ふむ……」
≪あー、テンペストを連れてくるんじゃなかったかなー。連れてくるならエトワールにした方が幾分かマシだったか≫
次々とこちらの情報を開示してしまっているテンペストを横目にそう思った。元々武芸一辺倒な彼女を護衛のような感じで連れてきたがこういう話し合いの場では強気な発言は逆に邪魔だ。
「それより、この街は人が少ないように感じますけど……?」
「そりゃそうだろう。お前等も抜けてきたんだろう、あの北の森を?」
「……ええ」
「今の所、ウチでもあの森を突破出来たのは上級職だけで構成されたパーティーだけだ。魔物とのエンカウント率が多過ぎる上に長い距離を移動しないといけないから、『円卓の騎士』と『十二神将』のトップパーティーしかここにはたどり着けていないんだ」
その言葉で街に人が少ない理由がよく分かった。あのヘキサトラップに生き残るためにはやっぱりトッププレイヤーでないと辛いと言うこと、それを突破出来たのは『2つ』のパーティーだけと言う事だ。
2つのパーティー=12人と考えれば最初の街とは段違いの人数だ。最初の街に何人居るかは知らないが数千人は下らない事から少ないと感じるのは仕方ないだろう。
「まぁ、ここに来たのも何か目的があるのだろう?『魔術書』がこの近くにあるとか」
「そ、そんな事あるわけないじゃない!上級職レベル1だし、こんな近くに『魔術書』なんてあるわけが……」
「……大馬鹿野郎」
テンペストの言い方にクロウは頭を抱えた。連れてくるべきじゃなかったと後悔した。そんな反論の仕方をされるとそうですと断言しているようなものだ。
「なるほど。セイの奴がこの街に送り込んできたなら、無駄な行動は無いと踏んでいたがその通りだったか。ならば勝負だ、クロウ!どちらが『魔術書』を手に入れるか競争だ!」
「……分かったよ。知られてしまった以上は早い者勝ちになるだろうし」
こうして、円卓の騎士・十二神将・クロウの三パーティーによる『魔術書』の争奪戦が始まるのだった。
テンペストはアホの子です。だけどアホではありますが、訳ありでクロウの力になると言う目的を持っているので、この中のキャラの中ではかなりしっかりしてます。




