session22 新天地
十二神将との闘争の引き分けから三日。エイプリルのギルド『草原の微風』の風評は瞬く間に上がり、トップスリーに対抗しうる勢力として噂されるようになった。
それと同時にこの俺クロウも『青騎士』として無駄に有名となってしまい、この三日間に十を超える弱小ギルドから相互防衛の提携をしてくれないかと打診も受けたが、全て断った。何の理由もなしに断るのは面倒だったので、『俺は草原の微風と契約を結んでいる。だからギルドマスターに聞け』と言って厄介事をエイプリルへと押し付けておいた。事実、今もエイプリルとの共闘関係は残っているままなので、彼の許可無く契約を結ぶのは実に無作法だと思う。
その大きな対抗手段の一つとなってしまった俺は仲間である二人の少女を連れて食事をしていた。
「ねぇ、クロウ。これからどうするつもりかしら?」
「………………」
テンペストにこれからの予定を聞かれるが、先日の闘争の疲れで丸二日潰した後なので、これからの身の振り方について全く考えていなかったのだ。
「とりあえずは……アッチャーとリアスの捜索、かな?」
「あの二人の捜索かぁ」
アッチャーとリアス。この世界に来ているであろう俺たちの残る仲間の二人だ。俺、セイ、エトワール、エイプリル、フォックス、テンペスト。セイを除く五人は今、お互いの安全を確認する連絡手段を持っているが、残る親友二人の行方が未だつかめないのは気掛かりではあった。
「……でも探すのは大変。ここはエイプリルの下に二人が訪ねるのを待つのが一番だと思う」
「エイプリル任せか……。それが妥当かも知れないな」
そう俺は呟いた。闇雲に探すよりは一度目立っておいて、そこに集まるようにした方がこちらとしても楽だろう。あれだけ目立った闘争だったんだ、この世界にいる住民の大半がこの事についても知っている事だ。
「そう考えると、何をすれば良いのか。レベル上げと言っても、この一帯ではもう効率が悪いだけだろう?」
「そうだな」
上級職となってしまった今、この三人はこの最初の街近辺だと魔物のレベルが低すぎて話にならないのだ。こお一帯で上級職のレベルはそう簡単には上がらない上、最高職はレベルが75必要だと言う事なので、その先はまだまだ遠いと言えよう。
「ここは一つ、セイにでもどうすれば良いか、指針を聞いてみるかな。他力本願だけど」
アイツの事だ、何か有力な情報を握っているに違いないと思い、俺たちはセイの工房を訪ねた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なら、北の森を突き抜けて、次の村に行ってみると良い。トップスリーギルドも何度か到達したらしいからそこへ行ってみると良い。ついでに近くの洞窟に行って魔術書を取ってきても構わんぞ?」
「近くにあるんかい!」
セイがついでと言わんばかりにグリモワールの話をしたのでついつい俺は突っ込んでしまった。
「まぁ、今はまだトップスリーのエースしか到達出来ていないから、少しはのんびり出来るとは思っているが。普通なら移動には二日掛かるが……馬がいるんだ、一日で行けるだろうな、クロウなら」
「また、あの地獄を味わう必要があるわけ?それは流石に勘弁……」
「……私も」
女子二人は同乗の話になると即座に拒否の言葉を口にした。そりゃ、乗り物酔い確定の乗り物に誰が乗りたがるだろうかと言われたら納得の行く話かも知れないが、今回は間違いなく誤解だと思う。
「あのなぁ……。馬が常にあんなに駆け回らせてると思っているのか?」
「え?」
「馬は全速力で走るときは基本的に敵から逃げる時の行為で、歩くだけなら人間の歩きの倍速程度だぞ?それに二人が上級職になった今なら戦闘時に同乗する必要もないだろうし」
「あ、それもそうか」
テンペストは納得したようだ。馬にしろ、牛にしろ、草食動物は基本的にのんびりとした動物が多い。あんまりイメージが出来ないだろうから、アフリカのシマウマなどを思い浮かべると良いと思う。普段はのんびり草を食べているけど、ライオンを見たら全速力で逃げ出すその様子。それこそが動物の本能であり、行動の基本となる行為だ。
戦闘中は半強制的に激昂状態にして駆け回らせているに過ぎないのだ。
そして二人が上級職となった今では彼女たちを同乗させてまで守る意味も無い。
「……経験値が入らないなら効率度外視してもいいと言う訳か?」
「そうだよ、エトワール」
「……納得」
今まで一番あの地獄を体験してきたエトワールは暫くの間、拒否をしていたが説明を受けて納得したようだ。今回は狩りではなく、移動なのだから無理に魔物と戦う意味も無い。
「とりあえず、暫くはお前等三人で行動しとけ~。俺は情報整理でここから動かんし、エイプリルもギルドがあるからまだこの街からは当分出られないだろうし、次々道を切り開いていけー」
「は、はぁ」
まるで期待していないような棒読みの言葉をぶつけてくるセイに俺は脱力してしまった。新たな場所に行くならそれなりの忠告ぐらいはするものだろうと思ったが、この男にそんなリップサービスなど求めても意味はないかと思い、これ以上文句は言わなかった。
「まぁ、今日は昼も過ぎたし、明日の朝一で行動開始とするか」
「そうね」
「……分かった」
俺たち三人はセイの工房を後にした。




