another session2 化け物
ちょっと別件で忙しくてこちらに暇を割けませんでした。
~~セイ視点~~
クロウが左翼を引き付け、本隊が相手本隊を引きつけている間、俺は右翼の敵を圧倒していた。
ドゴーン!
「うわぁ~っ!!」
「また引っ掛かったか」
時折響く爆発音を他所に俺は魔術の準備をしていた。『火球』ではあるが、そこらへんの魔術師が出すモノとは桁が違う。数十メートル級の大きさの火球を用意するためにちょっと時間が必要だった。だから俺はある物を用意した。
「地雷原とかマジかよ!?」
「どうやって切り抜ければいいんだ!?」
「後ろでも爆発したよな!?どこに逃げれば良いんだよ!?」
そう、俺は自らの道具生成スキルを使って『対人地雷』を作り上げていたのだ。原理は単純、ちょっとした刺激があったら、その金属魔具に埋め込まれた魔法『火球』と『風刃』によって金属が爆散すると言う物だ。
「『道具生成』、『魔術具生成』、『金属製錬』。この三つを組み合わせたら作れなくもない。まぁ、俺は公表していなかったし、こんな卑怯武器は今回がラストにするから今後影響する事はないだろうが」
作れるのは製造方法を知っている俺だけ。他の誰にも作れないんだから、この右翼フィールドはもう俺の独壇場と言っても過言ではない。今後使われる可能性は無きにしもあらずだが、他の人が開発する前にはこのゲームの世界とやらを終わりにする予定なので使わないだろう。
地雷原によって全く動けなくなっている敵と俺の距離は大体70メートルほど。弓や魔術も届かないので、飛び道具に警戒する理由も無く、堂々と魔術の詠唱を行なう。
「って事で消し飛べ、『火球』!」
正しく灼熱の球と化したモノを地雷原へと投げ込んだ。
ドドドドドゴォォォーン!!
使った魔術の規模より遥かに大きな火柱が地雷原を中心に立った。俺が地雷原を用意したのは足止め目的ではない。本当の広範囲即死魔術を使うための連鎖起動爆薬だ。地雷は何かの反応があったら爆発するように設計したので、強力な魔術が撃たれれば、それに反応して連鎖爆発を起こす。それが数百個の地雷で同時に起こればどうなるか想像してみれば分かるだろう。
火柱だけでなく、中では大量の金属片も飛び交うので戦士のスキル『根性』も無意味だ。
結果、残ったのは俺と非常に大きなクレーターだけだった。
「生産職にも生産職なりの戦術と言うのがあるのだよ。道具の仕掛け場所に持っていくのも一つの戦術だよ、『御大将』」
右翼の殲滅に成功したセイはゆっくりと敵本陣へと歩き始めるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「セ、セイクリッド様!!敵が来ました!!」
「……右翼を地雷原で潰したセイか」
大将のセイクリッドは至極落ち着いた様子だった。彼は俺の道具生成スキルの事を知っており、右翼でどのように戦ったのかある程度想像が付いているのだろう。だからこそ、闘争中にも関わらずこの俺を自陣営に招き入れるような事をしたのだろう。流石にアイテム確認をしてきたが、拒否する意味など無いので素直に従って武器になりそうなモノは皆無である事を証明して彼の前へと立った。
「よう、セイクリッド」
「……セイか。まさかお前が攻め込んでくるとは夢にも思わなかったよ」
「ふっ、それは同感だな。かつての仲間に喧嘩を売るとは俺も想像だにしていなかったよ」
まだゲームが開始されて一週間。殆ど日付は経っていないが、一週間ではないプレイヤーは一部居るのだ。
テストプレイヤー、彼等はそれに加えて30日の余分がある。テストプレイとこの世界でギルドを変えた者は異変もあった事もあって、殆ど居なかった。
ギルドを変えた数少ない一人がこの俺、セイであった。
元々、十二神将はセイクリッドが『十二人』のプレイヤーを格に作り上げたギルドだ。
十二人がお互い別々の得意分野を持っていた。
俺は生産、ナーシェンは魔術、金剛とクロトは戦士としての戦闘を……と言った感じでそれぞれ得意分野があった。ギルドマスターのセイクリッドはある一つの特技を持っていた。
『人材登用』。飽くなきまでに人を集める、その能力にだけ長けていたのだ。開始直後から集めた結果、既に全体の八分の一:千人もの人材を集めたぐらいだ。その才能は本物だろう。
だが、俺はそれを嫌った。少数精鋭が必要となった以上、彼等に力を貸す意味など無くなったのだから。
「お互い大幅に消耗。残っているのはそっちの本営のみ。どうするのかい?」
「お前が来なければ間違いなく本陣襲撃を仕掛けただろう。かつての仲間のよしみだ、今降伏するなら殺しはしない」
「ふむ。この俺が『交渉』しに来ているとでも思っていたのか、セイクリッド?」
そう言って、俺は一歩、また一歩とセイクリッドに近付いた。
「う、打て、弓兵よ!」
そう言って俺に対して弓矢が飛んでくる。だが、俺は真っ直ぐ歩くだけ。その弓矢には全く反応しない。
する意味がないのだ。
ヒュン!カキン!
「え?」
セイクリッドは驚きを隠せなかった。目の前にいる俺は何もせずに弓矢を弾き飛ばしたのだから。
「一体なんだと言うんだ……何故、お前は矢を弾ける!?」
「『最強の盾』と言うユニークスキルのせいでダメージも食らえない、そう説明すればよろしいか?」
「ユ、ユニークスキルだとぉ!」
そう言って俺はセイクリッドにステータス画面を見せる。
そこには『虚術師Lv1』と言う文字と生産系スキルの中で『最強盾』と言うスキルが目についた。
「そ、そんな事があるわけ……」
「ないって俺も思うよ。全く、誰がこんな冗談のようなスキルを作ったんだか」
愚痴を言うセイにセイクリッドは心底恐怖するしかなかった。ユニークスキルは『最高職』……即ち上級職を超えた存在で無ければ習得出来ないと言う。十二神将の中でも上級職は数えるばかり、全員まだ一桁レベルだ。信じられなかった。レベル上げすら難しい上級職の上限に到達した事が信じられなかった。
「優勢だと思っていたら、王手を掛けられていたと言う訳か」
「まぁ、そんな所だ。この俺を妨害しようが止められないぞ?」
「……何が目的だ!」
「この戦いの終わりを望む……かな」
「……それならば最期まで抵抗するぞ」
大将として、セイクリッドは暴れ回るつもりではあるらしいが、俺はそんな結末は望まない。
「流石にそんな事はしないさ。そうすればアイテムの『販売先』が無くなってしまうからな。引き分けにしてくれないかな?」
そこで初めて、商売人らしい面を見せたのだった。
「闘争中に相手大将へ商売をする奴なんて前代未聞だぞ。それが参戦目的か」
「ふふふ、自己利益追求は基本中の基本だよ、セイクリッド殿」
戦場であるにも関わらず商談で笑った。幾度か十二神将のメンバーが攻撃を仕掛けてはいるのだが、それは尽く『最強の盾』に弾かれている。それが余りにも人の悪い笑みにしか見えなかった。セイクリッドは観念して、交渉に乗り出す事にした。
「それで何割増で買えばいい?二割増か?」
「NPCへの購入額の5%引きでいい。引き分けと言う理不尽を飲んでもらうんだ」
「――本当にそれでいいのか?」
1ダースがNPC価格の9割で売るので、そう大差は無いと言う事になる金額を提示した。正直言うと相当甘い条件だったりするのだが、俺としては利益を上げる事などどうでもいいので、名目上の条件として掲げた。
「俺としては『草原の微風』が潰されては困るから、3位の『吊るされた男』などが攻めて来ない名声が欲しいだけだ。俺の手足を潰すのは困る」
「全く、トンデモナイ奴だ」
そう言って、セイクリッドは条件を飲んだ事で闘争は『引き分け』に終わった。
≪これで上位の足は鈍る。セイクリッドは人を集める能力には長けているが統率者には難有りな男だ。上位一つが鈍重になれば、それだけで大分楽になるのだろうな。さて、次は何を企むか……≫
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用語:ユニークスキル
最高職に就いた時に習得する事がある個々人のスキルの事。
『高速詠唱』のような魔術支援的なスキルもあれば、『二刀流』など普通は習得出来ない武器スキルや『特性無視』を習得する事もある。
だが、セイのスキル『最強の盾』に関しては『設定』だけはしてあったが、まさか該当者が出るとは開発側も思わっていなかったスキルである。
スキル:最強の盾
所持者:セイ
そのスキルを持つプレイヤーに対して発せられる攻撃はどんなものでも無効化する最強スキル。
ユニークスキルの一つ『特性無視』で唯一キャンセル可能だが、最高職自体が居ない現状では無敵のスキルである。
『特性無視』も出現率が非常に低いスキルなので、実質最強である。
発現条件はたった一度もダメージを受ける事無く最高職に到達する事と、全体でも『最初』に最高職に転職する事、そして戦闘回数が百回以上が条件。セイはグリモワールを取りに行った際に戦闘をしているため、上級職から最高職に成長した。だが、それを闘争前に知っていたのは『エイプリル』だけであった。
クロウもチートだけど、セイはそれ以上のチートです。
最強の名は伊達ではないと言うか、一人だけ次元が違います。
解決の鍵となる人物なので最高級のチートにしています。




