session17 片側だけ地獄の狩り
「おはよう、クロウ」
「おはよう、テンペスト」
「……おはよう」
十一日目、同じ宿に泊まった俺、エトワールとテンペストは朝食を宿の食堂で取っていた。話題は勿論、今日の狩りなのだが、お互いのレベルには10以上の差があった。特に一緒にパーティーを組みにくい俺と一緒に行動するにはどうするかについて相談していたのだ。
「クロウ、今日はどうするの?パーティー組むの?」
「……『アレ』に耐えられるなら大丈夫」
「あ、ああ……確かに」
エトワールは何処か鬱そうな様子で同乗の事を『アレ』と言った。騎乗兵の後ろに騎乗は騎乗兵専用スキルである『騎乗』が無いと物凄く乗り心地が悪く、地獄なのだ。これまでエトワールは二度経験しており、どう見ても一緒に騎乗したくないような表情をしていた。
「そうだな。今日はパーティー経験値をテンペストに集めるためにもエトワールには部屋で待機してもらってもいいかい?二人でだったら、多少の無茶をテンペストにしてもらえば下級職を上級職にする事も可能かも知れないから……」
「何よ、その多少の無茶って?」
「……頑張れ」
いつの間にか茶碗の中が空になっていたエトワールはテンペストの肩を叩いて、我先にと部屋へ戻っていった。つまりは自分は可能ならば行きたくないとの意思表示なのだろう。彼女もまだレベルが足りないので連れていかなければならない。後で部屋から引っ張り出さないとと思いながらもテンペストを見た。
「えっと……、え?エトワールが逃げるほどの……無茶?」
「俺は平気なんだがな~」
滅多に自己主張をしないエトワールですら拒絶した様子を見たテンペストが冷や汗を流した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
北の森。
部屋から出ようとしなかったエトワールをテンペストと二人で、力ずくで引っ張り出して馬に乗せた。馬に乗った後は観念したように完全に沈黙していた。
そして一時間もすれば……。
「………………」
「………………」
同乗している二人の少女は完全に言葉を失い、ただ落ちないようクロウにしがみつくだけとなっていた。
「どうした、テンペスト」
「ど、どうしたも、こうしたも、ない……わよ」
もう喋る元気も無いと言わんばかりのご様子のテンペスト。でも、痴態を晒すわけにはいかないと、必死に平然を振舞おうにも彼女の顔は多少青ざめていた。
普段から強気を前面に出している彼女が弱っている姿は何とも苛めたくなるが、それをして彼女の機嫌を損ねては大変な事になるので、俺は気を使ってあるものを差し出す事にした。
「吐きたければ吐けよ。エチケット袋もあるからさ」
そう言って取り出すは皮の袋。前回・前々回と用意していなかったこのアイテムは単純に自然に配慮?したものだった。排出物はほとんど時間が経たずにすぐ分解されるのだが、そうとは言っても少しの間は残るのだ。エトワールやエイプリルには木の影でゲロさせたが、こちらとしても見えるのはあまり精神的にも良くないと言う事で用意したものだ。
「クロウ、アンタって最低ね。人が必死に我慢しているのに、吐き出せば楽になるって……。確かに、確かにそうだけど……」
「俺はお前が吐いても別に気にしない。エトワールも耐えられなかった以上、誰が吐いてもおかしくないから」
「うう……」
「わかった。俺は少し離れているから。魔物が来ない事は俺のスキルで既に確認済みだから大丈夫だよ」
「そ、そうじゃなくて!!」
テンペストは顔を赤く染めたまま俺を見る。どうしてここまで慌てているのか良く分からない。単純にスッキリさせるために道具まで与えたと言うのに何故だろうか。
「と、とにかく、見ないで……」
「あ、ああ……」
対処し終えた後、俺は何故か彼女に全力グーパンチで殴られた。……一応、物凄く効率のいいレベル上げなんだけどなぁ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
3回の休憩を挟んで昼時になった所で、俺たちは一度街へと戻る事にした。エトワールのレベルが50に到達したため、エトワールを降ろしてテンペストへの経験値量を多くするためだ。
「悪いがエトワール。お前は先に宿に戻って待機していてくれ。食事は行動食で何とかしてくれ」
「……分かった」
首を縦に振った彼女は何処か嬉しそうな感じだった。……そこまで同乗するのが嫌なのか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ううう……私のレベルの低さを恨むわ」
「仕方ないだろ、テンペスト。お前も上級職になっていないと勝算が無いんだから」
「分かってるわよ!」
愚痴を漏らしながらもテンペストは俺の背中にしがみついていた。顔を青ざめさせているものの、少し慣れてきたのか、文句を言う余裕が出てきたらしい。乗馬術を体感ながらコツを掴んできたようだ。エトワールとエイプリルは一向に回復しなかった事から、これも戦士職の御陰なのだろうか。
「それにしてもこれまでが冗談のように魔物を倒せるわね」
「そうだな。レベルが40超えたあたりから、一撃必殺になり始めた+『警邏』って言うスキルを会得してから、魔物を探せるようになったのもある」
「魔物を探す!?」
そう、スキルを使って魔物が居る場所まで向かう。魔物に遭遇するのでは無く、しにいく事でよりレベルアップ効率が上がったのだ。魔物を探すスキル『警邏』、それは周囲二百メートルぐらいは見渡せるチートスキルであったのだ。
「……これ、本当に地雷職なの?」
「初期の金がキツイからな。そこから先はこうして何とかなっているが」
「へぇー」
休憩を挟みながらも四時間後、テンペストもレベル50になったので、日が沈み始めた頃になってようやく街へと戻ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
宿に戻ると、途中から一人留守番をしていたエトワールが出迎えてくれた。
「……ご愁傷様だ、テンペスト」
「エトワール、『アレ』ってちゃんと説明してくれてもよかったんじゃないの!?そのせいでクロウの前で大恥かいちゃったじゃないの!!」
「大丈夫、私もやった」
「そういう問題じゃなくて!!」
出迎えたエトワールに対して食いかかるテンペストはどこか見ていて可愛らしいと思えた。その食ってかかる様子を見て、煽るようにエトワールはテンペストと話す。
「もう、同じ宿を取るんじゃなかった……。明日から恥ずかしくて部屋も出られないわよ……」
「明日、部屋から強引に引きずり出してでも教会へ連れて行くぞ。上級職に転職して貰わないといけないから」
「鬼!悪魔!人をあんな目に合わせておいて、まだ虐めるの!?」
「……えっと、なんと言うか、すまない」
結局、俺は何故あれほど彼女が怒っているか、ずっと理解出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~~party member~~
Player name:クロウ
Job:騎乗兵
Level:40⇒50
skill:『騎乗』、『突進』、『調馬』、『索敵』⇒『警邏』new、『魔物使い』、『調教』、『槍術』
Rank:51⇒27
Player name:エトワール
Job:僧侶
Level:38⇒50
skill:『杖術』、『浄化』
magic:『回復』、『付与』、『鈍化』、『風刃』、『異常回復』
Rank:65⇒27
Player name:テンペスト
Job:戦士
Level:20⇒50
skill:『闘志』、『根性』、『威圧』、『刀術』、『乗馬』new
Rank:ランキング外⇒27
8/1 修正




