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session14 うわさ

 十日目。馬も生き物、一日動かしたらその翌日は休ませる必要がある。

 そのため、俺とエトワールは商人ギルド『1ダースの誓い』へと向かった。フォックスの勤務時間が午前中な事は既に知っているので、その間に行く事にした。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



「うん、今日の朝に上層部から『草原の微風』との取引中止命令が下ったわ。他にも数件のギルドとの取引禁止を指示されたわ。おそらく他二つの攻撃目標ターゲットね」

「そうか……。セイの言った通りになったな」


 一番金と物資を持っており、NPCに比べると安価に売買出来る『1ダースの誓い』ギルドとの取引禁止はレベル上げにかなり響く結果となる。


「セイ、クロウとエトワールが居ても状況は悪いままだわ。誰か戦士系のエースが居てくれればいいんだけど……」

「そうだな……」


 今、俺たちで動員出来るエースはたったの三人。

 ソロ活動が出来る俺、回復役のエトワール、そして生産職のセイだ。俺は単独で敵を引きつければ良いが、回復役のエトワールはどうしても対となる壁役が必要になる。セイの奴は自分でどうにかなる秘策か何かを持っているのだろう。上位ギルドへの挨拶回りもそれを狙ったモノな気がするほどだ。


「そうそう、聞いた噂なんだけど、東の草原で『剣姫』とか呼ばれるソロの戦士が居るらしいわよ」

「『剣姫』?」

「ええ。服装はまだ麻らしいんだけど、珍しく刀をオーダーメイドしたソロプレイヤーよ」

「へぇ~。刀ねぇ~」


 このゲームにおいて武器は基本的に『剣』『槍』『弓』『杖』の四種類からなっている。それ以外の武器を手にしようとした場合、人の手によるハンドメイドとなる。刀は剣の派生武器に該当するが、NPCは売ってくれないので、わざわざ鍛冶師に注文したと言う事になる。現時点で刀なんて特殊な武器を持っているプレイヤーは服を来ているプレイヤーと同じように嫌でも目立つ。


「アタシはそれが相沢さんなのではと疑っているわ」

「……智代の奴か。確かに有り得そうだ」


 俺とフォックスは同じ人物の事を棚に上げた。仲間の一人、相沢智代。実家が剣術道場を営んでおり、彼女自身も生粋の女剣士で破天荒な少女だ。身のこなしが良く、戦闘術にも長けている彼女ならば、誰にも従わずにソロで活動している事だって十分考えられた。そして、愛用の武器は刀である事も一致している。


「可能なら、今日の昼からでもいいから東の草原で聞きまわって貰えないかしら?高レベルなら馬に乗っていなくても大丈夫でしょう?」

「そうだな」


 フォックスの言う通り、午後になって低レベルのエリア戦うのも有りだろう。今まで馬を連れた状態でしか戦っていなかった事もあって、一度試しておきたい気持ちもあった。

 だが、一番レベルの低い西の平原は平原は昼でも安全性を重視した中級者が必死にレベル上げをしようと狩りに出るため、東の草原|(推奨レベル10)に行くのも悪くはない。上級職の練習場所にも持って来いだろう。そして、慣れてきたプレイヤーたちが流れ込み始める可能性があるだろう。彼女がここに来る可能性は決して低くないだろう。


「分かった、ちょっとした実験ついでに智代を探してみる事にするよ」

「お願いね。最悪の場合、私がギルドから脱退と言う手段もありなんだけど、エイプリルはここに居てくれと言っているし」

「そうだな。道具交渉においても商人ギルドに頼る事はあるだろうし」


 出来れば勝った後の事も考えると商人ギルドに知り合いが居るのは一番好都合だろう。


「おっ、アタシのレベルが50になったよ。売買協力ありがとね、クロウ」

「どういたしまして。数十万ぐらいなら今の俺にとってはあんまり大した支出にはならないしね」

「そう言って貰えると助かるよ」


 話をしている内に俺の無駄働きは終わったらしい。フォックスと俺の間で傷薬120個を売り買いし続けるだけの地味だな作業だが、これを一時間繰り返せば商人のレベルは確実に10は上がる。生活費のおよそ8倍の10万ジルぐらい必要だが、一番安全で手っ取り早いのだ。

 それゆえに商人のレベルアップは、商人は信頼出来る相手に高価な贈り物をして、その費用分を自分の経験値に変えてもらうと言うのが定跡手段らしい。

 そんなモノ、仲間関係と常識外れな騎乗兵によって打ち壊してしまったが。


「これでアタシのランクも30を切って商人ギルド内での発言力も上がると思うわ」

「そうか。それで俺たちとの関係をギルド側は?」

「知っているわ。それでどうなるか泳がせているようよ。一応は両方の情報を集めたいようだから、アタシにも情報を求められてもいるけど」

「そうか……。と言うことは俺が協力する事も?」

「明日には報告する事になるわ。セイとクロウがエイプリルに協力するってね」


 と済まし顔で言われた。と言う事は今日中にある程度の量のアイテムを買っておいた方がいいだろう。


「じゃあ、ちょっとアイテムを買おうか。傷薬を三百個から……」


 金には余裕があるのだから、今の内に買っておく。傷薬や馬の餌から匂い袋、ロープや保存食と言った冒険に必要なモノまであらゆるモノを買い集めた。今の販売役はフォックスなので、例え売り切れようがお構いなしに売る。それまでに十万以上の金を貢いだ以上、ギルド側からしても販売を断る理由など無いのだ。


「毎度ありー」

「でもまだお金自体は余っているな……」


 と手元を見るとまだ金貨一枚が残っている。まだまだ余裕があるので、どうでもいい日用品の方を見て回ろうとして彼女に気が付いた。


「………………」

「見ていて面白いか?」

「……(コクン)」


 俺とフォックスが売買をしている間ずっと、エトワールは店の一角にあるアクアリウムを眺めていた。売り物がたくさんある中で唯一商品ではない物品だった。先日に来た時も彼女は興味を持っていたので、何時かは買ってみたいものだが、こんな物を作ってもらうのも大変だ。


「『勝利の礎』ギルドの技師の一人が作ったらしいけど、それが誰かって事は知らないわ」

「そうか……。維持とかはどうなんだ?」

「維持費は必要ないらしいよ。この世界のアイテムって使うことで磨耗していくだけみたいで、アクアリウムは『飾る』だけなのもあって、全く消費しないの。だから一度買って飾れば処置無しでも半永久的に飾れると思うわ」

「半永久的?」

「クロウ、アンタここに永住する気あるの?」

「ないな、ハハハ」


 でも、処置する必要もないのであれば、部屋に飾るために買うのも有りかも知れない。珍しくエトワールも興味を持っているみたいだし。部屋のインテリアなんて今まで殆ど気にしたこともなかったけど、考え直してみるのもいい機会かも知れない、と俺は思った。


「さてと、私の仕事時間は終了ね。これから暇だから、食事しに行こうか、クロウにエトワール」

「そうだな」

「……(コクリ)」


 こうして俺たちは『1ダースの誓い』の店から出て行った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


Guild名:1ダースの誓い(わんだーすのちかい)

Guild Rank:fifth

Guild Master:トレイン[職業:豪商]

テストプレイ時から存在する商人ギルド。

一回の取引に12個単位で取引をすると特別に割引することを売り文句にしたギルド。回復薬や気付け薬と言った消耗品や、皮や肉と言った素材なども纏め買いをするギルドとして大きく名を上げる事に成功したギルドとなる。

ギルド所属者平均レベルは第二位。(商人は売買を繰り返すだけでレベルが上がるため。上級職は最多の8人)

時々、ギルド所属者を壁役として別ギルドへ派遣するなどもしている。


8/1 修正

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