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session13 突然の報告

「な、何でお前がここにぃっ!」


 俺はつい大声で叫んで周囲から注目を受けてしまう。俺たちの席に来た男はここ一週間を留守にしていたセイだった。その外見はこの異世界には全く似合わない、外から来た存在のような黒ずくめのスーツ姿であり、義妹と同じ銀髪と臙脂色のネクタイが異色を放っていた。

 服を持つプレイヤーも増えてきたが、この場でスーツは異色でしかない。通勤列車の中とかならまだしも、冒険者風なプレイヤーたちが占めるこの世界ではより一層目立っていた。


「セイ……だね。改めまして、『草原の微風そよかぜ』のギルドマスターであるエイプリルだ、よろしく」

「フォックスよ。商人ギルド『1ダースの誓い』の一員よ」

「こちらこそ宜しく頼む。俺はセイだ。総合ランクのトップランカーの鍛冶師だ」


 そう言ってセイはエイプリルとフォックスの手を握った。


「どうしていきなりここに……、まぁいいか。取り敢えず座れよ」


 そう言って俺は席を立ってエトワールの奥の席へと移動して、俺の居た席はセイに明け渡した。エトワールは仲間内での懐き度で言えばセイ>>俺>その他仲間>>>>>>一般人と言った感じだ。なので、セイがいるときは自然とエトワールの隣をセイに譲る癖がついていた。


「相変わらず、君は自由人だね」

「そうでなければ思い立った時に行動出来ないからな。さっきまでは『円卓の騎士』『十二神将』『吊るされた男ハングドマン』『勝利の礎ヴィクトリアファンド』『1ダースの誓い』と上位ギルド回りしていただけだが」

「あ、そう言えば今日の午前中、ギルドマスタートレインさんが上客との接待をするって言ってたけど、あれセイだったんだ」


 机に肘を突いて、顎に左手を添えた前傾姿勢を取ったセイ。さらりと言っているが、彼が訪問した場所は一位から五位までの上位ギルドである。上三つはベータ版テスト参加者を多数抱えた攻略派ギルドで勝利の礎ヴィクトリアファンドは鍛冶師軍団の筆頭だ。次点フィフスにフォックスの所属する商人ギルドの1ダースの誓いなのだが、上位に簡単に接触出来る辺り、彼がテストプレイヤーの中でもずば抜けた存在だった事が分かる。そんな彼は近況報告と言わんばかりにエイプリル・フォックスと会話をし始めた。俺は蚊帳の外だなと思いつつも耳を傾けるのであった。



「クロウにエトワールを任せているのが君の指示である事は聞いていた。と言う事は僕のギルドに加入する事は有り得ない……でいいのかな?」

「ああ。俺がギルドに加入する利が無いからな。『味方でも無く敵でも無く』。これが俺の情報屋としての心情なのは知っているだろう?」


 セイはそう言った。彼は自らを『中立』と称す事を嫌っているのでこんなややこしい事を言う。対立する陣営があった場合はその『どちらにも』求められれば協力すると言うスタンスを取る戦争商人とでも言おうか、そんないい加減な男なのだ。


「まぁ、今回は少し問題が生じたから、特別に『草原の微風』に味方するよ」

「……珍しいね、セイがそんな事を言うなんて」


 エイプリルは正直に感想を述べた。この男が直接手を貸すなんて滅多に無い事なのだから。特に彼の信条から『味方』と言い張るのは非常に珍しい事だったから。三年以上この男の親友をやってきたが、彼が味方と言う言葉を俺たちに使ってきたのは本当に初めてだった。


「俺が今日の上位回りで入手した情報だが、どうやら第二位『十二神将』が『草原の微風』の併呑を企んでいるらしい」

「なっ!?」

「ええっ!?」

「はぁ!?」

「………………」


 その場にいた三者三様の驚き方をしてしまった。エイプリルはまさに寝耳に水様子で、フォックスは自分も知らなかった情報と言わんばかりの様子だった。そして俺はどうしてそんな事をするのか理解すら出来ていなかった。


「恐らく最初の二週間の停戦が切れたら即吸収に向かってくるだろう」

「ギルド間のシステム停戦か……」


 一応プレイヤー同士の戦闘は禁じられていないが、アイテムや経験値を大量に奪えるわけでもないので利益が非常に少ない。

 だが、ギルド間の争いだと『闘争』と言うルールが設けられ、それなりに利益が出る事もあるのだ。趣旨は簡単で近くの低レベルフィールドにてギルド同士の大将が居座って、その大将を倒したら勝ちと言う明瞭なルールだ。しかもプレイヤー同士の戦いとは違って、この『闘争』は基本的には拒否出来ないのだ。倒されたギルドは『従属』の扱いになり、『賠償金を支払う』か、『解体する』か、その『ギルドの一員になる』か。その三択を迫られるのだ。

 そして今は賠償金を払うお金などギルドには存在せず、また上位ギルドの上級職たちに新規ギルドは対抗策を有していないため、対処法が存在しない行為――即ち併呑と言う事になる。

 あまりマナーも良くない行為である事から過度に行うと周囲から批難が集中して複数のギルドが手を組んで、そのギルドの討伐に走る事もあるだろうが、今は何処も殆ど力が無い状況であるためか、上位の談合により半ば黙認されているのが現状だろう。

 ゲームの世界である以上、その制限が解けたら開戦も十分有りうるだろう。


「十二神将と吊るされた男は円卓の騎士に対抗するために、出来るだけ有能そうなプレイヤーをギルドごと引き抜く事にしたのさ。日本人は一度器に入ると中々抜け出さない習性もあるしな」

「なんて事だ……」


 エイプリルは頭を抱えた。当然だが、テストプレイヤーは居らず、最高レベルは俺によって引き上げられたエイプリルだが、それでもレベルは24、ランキング915位の彼だけではどうする事も出来ないだろう。

 その上、第二位――確か人数的に最大の規模を誇るギルドだったか――十二神将はテストプレイヤーも多く抱えており、何人かセイと同じ上級職になっているプレイヤーも居るほどだ。初期職と上級職には大きな実力差があると言われている程だ。アドバンテージがあるベータ版テストプレイヤーがほぼ上位三ギルドに固まっている現状で上位ギルドに対抗する手段はほぼ皆無だ。


「ど、どうするつもりだ、セイ!テストプレイヤー多数相手に戦える俺たちじゃないぞ!」

「こういうゲームは人数差よりも個人の質がモノを言う。やる気と言う面では僕たちも負ける気はしないが、流石にテストプレイヤーとのレベルと職業による差はどうやっても引っ繰り返せない。此方もそれなりの上級職が居ないと……」

「『円卓トップ』と『吊男サード』、『1ダースフィフス』に静観が成立している。テストプレイヤーしか居ない上級職も現状、上位5ギルド以外では生産職である俺以外存在しない」

「上級職かぁ。確かレベル50にならないといけないんだっけ?」

「そうだな。レベル50になった時に教会で転職を志願する事で上級職になれる。だが現状で上級職になっているのは1ヶ月多くプレイしたベータ版テストプレイヤーだけだからな」

「ウチも静観って事は一番上級職になりやすいアタシが協力するのも無理よね……」


 どうしようも無い事実だった。

 テストプレイヤーとの格差は序盤ではどうやっても引っ繰り返せない格差であり、上級職ともなるとその実力の差は雲泥の差とも言えるらしい。その上で現在の上級職は全員抑えて、かつ一番上級職を輩出しやすい商人ギルドも抑えられているのだ。フォックスが『1ダース』所属なので彼女の協力が出来ない事となる。


「そう……だね。僕たちではどうしようもないよ。他ギルドに援護を求めた所で戦える力が無い以上は参戦する意味が無い。人材も武器も防具も道具も全てが不足しているよ。商人ギルドを抑えられたと言う事はNPCへの売買をしなければいけないし」


 そう、抵抗しても蹂躙されるだけでは抵抗の意味も無い。数を集めたとしてもその数は相手の方が圧倒的に多い。質で負けるのに数でも負ける状況。それ故に『次は我が身』と怯えるばかりで他ギルドも協力出来ないのだ。そして、取引の大手である商人ギルドも取引拒否となるとそれまたアイテムの調達にも大きな負担となってしまう。


「何処か、エイプリルたちに協力出来る上級職が居ればいいのだけど……」

「テストプレイヤーで無くても、上級職候補なら少なからずいるだろう?」

「……どういうことだ?」


 どうにかしようと作戦を考えようとして、セイの言葉に遮られた。『上級職候補』と言う言葉にエイプリルが食いついた。


「そういえば、ランキングが二桁の人がここには三人も居たよね?」

「そうね」

「……(コクリ)」

「え?」


 俺だけ情けない声を上げたが、そうなのだ。俺もエトワールもフォックスも現在のランキングは二桁台に入り込んでいる。上級職に転職しているのがまだ殆ど居ない現状で候補が三人も居るのだ。

(内一人はギルドのせいで動けないが)


「クロウ。後5日でレベル50……行けるよな?」


 そう、セイは言った。つまり、俺とエトワールにエイプリルへ加勢しろとおっしゃいたいんですね。


「……俺の意思とかは関係無しかよ、セイ。まぁいいけど。エイプリルを助けるのは当然だからな」

「本当かい、クロウ!」

「ああ。エイプリルのためだ、協力しよう」

「そうなると、商人取引の方は……クロウを代理人に立てれば取引出来ると思うわ。あくまで上部から禁止されるのはその『ギルド』限定だろうから」

「本当か!それは助かる!」


 そうして俺たちはエイプリルの側に付く事を決断した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


Guild名:十二神将

Guild Rank:second

Guild Master:セイクリッド(鎧武者:戦士上級職)

テストオープンの頃から存在するギルドで上級職に到達したプレイヤーも数名居る第二位のギルド。

テストプレイヤーだけで無く、通常開始のプレイヤーも多数受け入れており、ギルド所属人数では最大を誇る。現在、一千人オーバーで他ギルドとは比べ物にならないほど大きなギルドでもある。

最大人数を売りにするため、多少有能なプレイヤーをギルドごと吸収する事も日々行なっている。

テストプレイ開始時に十二人のプレイヤーから始まったことから、その創始者を称えるためにこの名前を付けたが、現在はそのプレイヤーの半分が別のギルドに移っている。

ギルドマスターのセイクリッドは実力者としての能力よりも人を集める能力に優れていると他のギルドより高い評価を得ている。



Guild名:草原の微風

Guild Rank:eleventh

Guild Master:エイプリル(魔術師)

公式サービス開始直後に作られた数多あるギルドの一つ。

しかし、三日間の狩りでギルドマスターが戦闘恐怖症に陥り、ギルドマスターの続行を拒否。

三日間で最も活躍していたエイプリルが推薦された。

ギルドマスターエイプリルを中心に纏まっているギルドとして知られ、馬持ち騎乗兵クロウとも交流があるため、良くも悪くも注目を集めていた。


8/1 修正



ちなみに上位のギルドの名前はすべて12が関係するモノ。


『円卓の騎士』:アーサー王伝説にて円卓に座ることを許された12人の騎士。(13と言う説もあり)

『十二神将』:仏教における信仰対象となる天部の神々。

『吊るされた男』:大アルカナXII「吊るされた男」より。

『勝利のヴィクトリアファンド』:小惑星番号12「ヴィクトリア」より。礎はfoundationファンデーション

『1ダースの誓い』:1ダース=12個

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