回想
10月8日PM12:00 京橋区に『プラン総合保険』の一室。
分厚いファイルの並ぶ本棚に囲われた部屋ドアには『特別事件保険科』っという張り紙がしてある。
20歳前後と思われる白衣姿の女がのんびりとカップラーメンを食べているところに彼の部下で今年の春に新しく配属されてきた男が息を荒げて慌ただしく飛び込んできた。
カップラーメンを食べていた女の名は<黒城 暦>中身が残念で変わり者として社内でも有名な女である。
そのくせ彼女は、頭はよく顔も麗しく、スタイルもモデル並みにいいといから始末におけない。
「クロウ君そんなに慌ててどうしたの?私の大事なカップ麺に埃が入ってしまうじゃない。」
暦は左手にもったカップラーメンと右手に持った箸を一旦テーブルに置き、カップラーメンの湯気で曇っていたレンズを拭きながら走りこんできた部下に訪ねる。
「先輩のんきにカップラーメンなんて食べてる場合じゃないっすよ!」
その一言に暦は顔をゆがませる。
クロウはその暦の表情に気がつき「やべぇ」と思ったがもう遅い。
「『カップラーメンなんて』クロウ君はいまそう言ったね?ただでさえ私が神聖なるカップ麺を食べているのを邪魔しておきながら、あまつさえ『カップラーメンなんて』だって?君はカップ麺の素晴らしさをまだ理解してないというのかな?この間の<猿でもわかるカップ麺の素晴らしさ 1号君>を使った特別授業では君に難しかったんだね・・・。しょうがない今度は<クロウ君『ですら』わかるカップ麺の素晴らしさ1号君>の出番のようだ・・・」
「いやまってくださいよ!?僕『ですら』で猿以下に扱いしないでほしいっす…
それにいまのはたまたまです。言葉の綾ってやつっすよ!?
カップ麺の素晴らしさは僕も完全に理解させていただきましったっす。
だから頭に変な機会をつけないでくださいっすぅぅぅ!!!?
あ・・頭に変な映像と音楽がながれてくるぅぅぅぅ!!いやぁぁやめてこないで!?麺が・・・麺が襲ってくるぅ…」
クロウはなにかを思い出したように血の気の引いた青い顔をしながら部屋の隅で小さくなりぶるぶる震えさせる。
そんな彼の様子を3分くらい見ながらカップラーメンを食べつづけてた後、少し気が晴れたのか最後のカップラーメンの汁を飲みほし
暦が落ち着きを取り戻しつつあるクロウに尋ねる。
「ところでクロウ君なにが『また』なの?もしかして『また』女性職員に告白でもして振られたかな?そういえば総務課の薫子君に最近ちょっかいをだしているらしいじゃない。君も本当に懲りない男だよね。香子君は署内の童顔で可愛い顔・愛くるしい性格で社内のアイドル的存在。そんな薫子君が百合の花だとすればハルト君は空き地に咲くクローバーつまり雑草だね。薫子君は高根の花で無謀もいいとこだと思うよ?悪い事は言わないから諦めたほうがいいよ?」」
「な!?先輩どこでその話を!?っていうか、そ・・そんなんじゃないっす。
薫子さんはたしかに素晴らしい女性で出来ることならお近づきになりたいとは思っているっすけど、
なにぶん本人より周りのガードが固くて全然近づけないっすよ…。」
若干落ち込みながらクロウがボヤく。
ちなみにクロウはここ4ヶ月ですでに2人の女性に振られている。
しかしクロウが全て悪いかと言えばそうではなく…。一番の原因は他にあるというのはまた別の話。
「まぁクロウ君も顔はそれなりでまだまだ若いんだからこれからチャンスはあるさ。若人よ大志抱きたまえ。」
暦は右手をシャキーンと伸ばし箸を突き立てるようなポーズをする。
「いやいやいやさっきと言ってることが全然逆っす!?それに若人って先輩の方が入社が早いだけで僕のほうが何度もいってますが僕は今年で24で年上っすからね…」
そうクロウは大学を卒業後この会社に入社して研修期間が終わった6月にこの部署に配属された。
その時には暦は既にこの部署にいたので、少なくとも今年度入社ではないはずである。
後から聞いた話によるとこの部署が出来たのはクロウが配属される1か月前だったようで、なぜか部署のメンバーは暦とクロウだけである。
(まぁこの先輩には何言っても無駄なんすよね…ハァ…)
クロウは諦めたようなため息を付く。
「って違うっす!?そんな話をしにきたんじゃないんすよ!?予告場が届いたんっす。ブラックウルフからの!!?」
ブラックウルフという名前を聞いた瞬間暦の目が光る。
獲物を狙うチーターの目のように。
クリスマスの夜にプレゼントを楽しみにする少年の目のように。
そして憧れの彼を見つけた少女の目のように。
「ほう黒狼タンからの予告状ねぇ~なんでそれはもっとはやくいってくれなかったの?もったいぶったのかな?
私たちの仕事は銀狼たんの被害に関する保障をしているって事を忘れたのかな?それで今回こそは本物なのかな?」
ニヤリと笑いながら暦がクロウに迫っていく
その迫力に押されるようにクロウは両手を振りながら後ろに下がる。
「いやいやいや待ってっ下さいっす。冤罪っす。!!先輩が話を聞いてくれなかったんじゃないっすか!?僕は最初に言おうとし「まぁそれに関しては置いといて後で聞くとして、なんて書いてあったの?」
クロノ言葉を遮るように続きをを促す。
「いや置いとかないで今聞いて欲しいんっすけど…ヒャア!?すいません言います。言いますから。そんなに睨まないで欲しいっす…
ブラックウルフからの予告状の内容はこれっす。」
そういうとクロウは慌てながら懐から取り出した紙を一枚暦に渡す。
白くノートの半分くらいのサイズの紙を・・・
ありていに言えば普通のA5の用紙だった。
「その紙はブラックウルフの予告状をコピーしたものっす。朝、美術館の職員が玄関先に貼られているのを発見したらしいっす。」
渡された紙をまじまじと見つめる暦
「それでさっきも聞いたけど、この予告状は本物なの?最近、模倣犯やいたずら目的で影琅たんを騙った虚偽の予告状が多いんだけど・・・」
そういうと暦はクロウをジロリと睨む。
「こ・・・今回に関しては少なくとも警察の方じゃ本物として警戒を始めてるようっすね。ぼ・・・僕も馬鹿じゃないっすから少しは調べてから先輩に渡すようにしたっす。そんなに疑うなら先輩も自分で調べてみるといいっす。」
「ん~そうなんだけど。すでに本物って確証があるなら無駄なことはしたくはないじゃん。それに…」
「本物だろうが、偽物だろうが、めんどくさがろうが、仕事な以上放置はできないだよね~。それが社畜というものなのだよ…。偽物だとわかっていても上からの命令には逆らえないのさ。」
そういうと彼女はどこか遠くを眺めていた。
ここ半年くらい前から『ブラックウルフ』と名乗る怪盗による窃盗事件が相次いでいた。
ブラックウルフに関しては情報がまだ少なく、わかっていることと言えば、名前と犯行前に予告状を出すというくらいである。
そう彼女たちの仕事はブラックウルフが活発に活動ははじめてから被害を恐れた持ち主などに対して保険を掛けてもらい、保険対象がブラックウルフの被害にあった場合保障するというものなのだ。
業務内容の中には本当にブラックウルフの犯行かの見極めから、できる限り被害を抑える。というものまで多岐にわたるのだった。
そしてその中には、ブラックウルフの犯行の分析をするために保険の掛っていないものでも現場を赴くことも多々ある。もちろんその場合もしブラックウルフの犯行であっても
保険金は保障されないのだが。
そして模倣犯などの快楽犯の予告状などにも念のために対応しなければならないのだ。
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ケース1
9/16
「先輩こいつっす!こいつが今回予告のあったブラックウルフの獲物っす。」
「・・・本当にこれが黒狼たんの獲物だというの・・・?警察の姿も全く見えないし、それがすごいものには思えないんだけど・・・」
「少なくともこの予告状にはそう書いてありますっす。それに警察には連絡はいってないらしっす。なんか理由があるらしいんすけど…」
そういうと自信満々に予告状と思われる紙ともふもふとして物体を掲げるクロウ。
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『予告状』
9/16に3丁目 岡本さんの家に飼われているタマの首輪を、
いだだきに参ります。
ブラックウルフ
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「にゃーーーーーーー」
クロウ腕から飛び出て逃げるタマ。
「あぁ待つっす!!君は危険なんっすよ!?」
「・・・・・・・・・・・・クロウ君私もこんなことは言いたくないんだけど・・・君・・・馬鹿でしょ?そりゃ飼い主も警察に届け出せないよね…」
暦の眺める先、右手に首輪を持ちながらタマを追いかけるクロウの姿があった。
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ケース2
9/22
「ふむ・・・今回はまともそうじゃないか。ここには研究に必要で価値のあるものもたくさんあるしな。
それにここ最近黒狼たんの犯行も起きてないしそろそろ起きてもおかしくないだろ?」
暦は安心を顔に浮かべながらどこか懐かしそうに辺り建物の中を見渡す。
「ここはあんまり変ってないなぁ。」
今回彼女たちがいる場所は、『国立 東洋化学大学』の何を隠そう暦の母校である。
その母校の廊下に二人は立っているのだった。
「それでクロウ君今回の黒狼たんの標的はなにかな?」
「はい!先輩!あれっす!!」
そういってある人物を指差す。その指先には・・・
購買部のパンがあった・・・
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~~予告状~~~
国立 東洋化学大学で大人気の限定焼きそばパンを頂きに参ります。
ブラックウルフ
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「・・・・・・・・・」
暦が言葉を無くしていると…その目の前では・・・
「もぐもぐもぐ、せんは~いこれさふがよこくされるだけあるっすよ。めっふぁくちゃうまいっふ。」
「帰る。」
「先輩!?待ってくださいよ!?これも仕事!?仕事っすよ!?」
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ケース3
10/1
「先輩予告状が届いたっす!!」
暦がカップラーメンを食べようと包装紙をとっている時にそういってクロウが部屋に飛び込んできた。
名残惜しそうにカップ麺を一瞥した暦がカップラーメンを諦めたように机に置きクロウに向き合う。
そんな暦の行動は一切気にせずにクロウは一枚の紙を渡す。
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☆彡予告状だひoょω彡☆
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みωなσハ→├はハ〃≠ュ→冫っとぃたた〃ぃちゃぅた〃ひoょω(=^・^=)
★ヒo冫勹ゥサヒoョ冫★
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そこにはよくわからない文字が並んでいた。
さすがに暦も戸惑いながらクロウに尋ねる。
「・・・なにこれ?暗号?」
「なんか調べた結果・・・ギャル文字みたいっすね。ちなみにこっちが解読したものっす。
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☆彡予告状だぴょん彡☆
§ §
みんなのハートはバキューンっといただいちゃうだぴょん(=^・^=)
★ピンクウサピョン★
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『ぐしゃ』
思わず渡された予告状を暦は握りつぶしていた。
「せ・・・先輩?どうしたんっすか?」
クロウは恐る恐る暦に尋ねる。
「クロウ君私はクロウ君のこと馬鹿だ馬鹿だと今までも散々言ってきたが・・・ここまでとは・・・貴重なカップ麺を食べる時間すら削って君の話を聞いているというのに・・・。」
暦の手紙を握りつぶす手がプルプル震えている。心なしかメガネの奥の瞳も座っているようなきがする。
「もうてめぇー舐めんのもいい加減にしろよ!?なんだよこのふざけた予告状は!ピンクウサピョンってだれだよ!?既に銀狼たんですらないじゃねぇかよ!?いままでは我慢したけど、さすがにこれはないだろ!?ギャル文字だよ?ギャル文字!!ハートを頂いちゃうってどこの恋愛マスターだよ!?予告状が届いたら何でもかんでも対応すればいいってもんじゃねぇだろ!てめぇも一応プロだろ!?すこしは吟味しろよ!?馬鹿なの?死ぬの?カップ麺に謝れよ!!!!ゼハァゼハァ・・・」
怒りのあまり一気にまくし立てたため酸欠状態にまでなってしまった暦。前かがみになり両手を久の上に乗せて息を整えている。
「せ・・・先輩・・・キャラが・・・キャラがおかしくなってるっす。女の子がそんな言葉使いしちゃだめっすよ。そしてカップラーメンは関係ないような・・・」
あぁ?」
顔だけを上に受けて暦がクロウを睨みつける。
「な・・・なんでもないっす…」
さすがに暦がキャラを崩してまで激怒したこともあり、若干ながらこの後からはクロウも予告状の吟味を始めるのであった。