貨殖列伝より 白圭
魏の文侯の時代、周の地にひとりの商人がいます。
「ぼくはね、時勢の流れを読むのが趣味なんですよ」
そう語るのは白圭さん。
白圭さんは周に店を構え、穀物や布を売買して生計を立てています。
――時勢の流れ?
「うん。その、たとえば稗や粟が出回れば秋だな~、とか。いつもより仕入れ値が高かったら、今年は不作なんだな~、とか」
お店にはところ狭しと稗や粟が入った麻袋が並んでいます。
――なぜ周で商売を?
「ぼくの地元、っていうのもあるけど、やっぱり一番は大陸の中央にあるってとこかな」
――大陸の中央にあるとどうなる?
「いろんなところに仕入れに行きやすいよね。あとは周王室があるから、それで各地の情報が集まりやすいっていうのもありますね」
白圭さんのお店には、年中いろんなところから商人が買付にやってきます。
そのうちのひとりに声をかけました。
――あなたはどこから?
「魏の国からです。穀物を白圭さんに買い取ってもらおうと」
そう言うと魏の商人さんは荷車に積んだ大量の穀物をみせてくれました。
――すごい量ですね。
「ええ。いま李克様が農地改革しておられまして、それで収穫量が上がって」
これを白圭さんは絹糸や漆と交換します。
――この漆はどちらから?
「これは斉から。あそこの漆は質がいいんだよ。照りが違う。だから夏のうちに買い込んでおくの」
白圭さんは商品の品質、仕入れ時期に人一倍気を使っています。
「大事なのはね。人が棄てるものを取っ人が取りたいものを与えることだよ」
白圭さんは言います。
――どういうことですか?
「つまり豊作になったら稗とか粟とか余るから、そのときに買ってあげる。で、不作になったらみんな欲しがるから売ってあげる。商売ってのは人助けなんだよ」
――ようは転売するってことですね。
「いや、ぼくのは人助けだから。金儲けしたいわけじゃないから。そう、ぼくのところでは食べる用と作付け用では扱いを分けてるね。売ってもらった種籾から質の良いのを選り分けて、そっちは農家さんに売る。良い種籾はより良い収穫をもたらすからね。農家さんが儲かればぼくらも儲かるってわけ。農家さんといっしょになってやってるの。だから買い占めて値段を釣り上げるような問屋とはいっしょにしないでほしいかな」
白圭さんはこのやり方で資産を毎年、倍にしていきました。
――でも、豊作の年が続いたら、買値より売値が安くなることもありますよね?
取材班の問いに、白圭さんはあきれたように笑います。
「どうしようかな。これはね、企業秘密だからあんまり言いたくないんだけど」
と白圭さんは地図をみせてくれました。
「いいかい。太陰が卯にある時は豊作で、翌年は不作になる。太陰が午に差し掛かったら日照りで、翌年は豊作。酉なら豊作、翌年は不作。子なら大干ばつで、翌年は豊作になるんだ。だからそれに合わせて商品を仕入れて、卸すんだよ」
卯は東、午は南、酉は西、子は北をあらわすようです。
――太陰?
「それは秘密だよ。ぜったい教えない」
だめだめ、と白圭さんは手を振って苦笑いしました。
白圭さんはこのジンクスを信じて投機をおこなっています。
――その占いは外れない?
「ほぼほぼ当たるかな。かなり高い確率で。うん。まあでも外してもあまり影響はないかもね。中華も広いから。どこかしら豊作の場所や不作の場所がある。地域密着でやるのもいいけど、手広くやるとそういうメリットもあるよね」
そんなお金持ちの白圭さんですが、普段は粗食を心がけ、節制し、お店で働く従業員と変わらない暮らしぶりをしています。
――お金があるのに使わないんですか?
「ぼくはね。商人だから。お金は稼ぐために使うの。お金は商売道具。商売道具を雑に扱う人はいないでしょ?」
白圭さんはにっこり笑います。
「商売はね。伊尹や呂尚が謀をめぐらすように、孫武や呉起が兵を用いるようにしなくちゃだめなの。だから頭を使って変化を読んで、ときには勇気をもって損切りしたりホールドしなきゃだめ。あと、仁の心をもって取ったり与えたり、売り買いしないと(いつか刺されちゃうよ)。これができなきゃぼくの商売は真似できないね」
白圭さんの店は今日も賑わっています。




