第1話
「おぎゃあ、おぎゃあ」
――うるさいな。
ぼやけた視界。
耳に届く甲高い泣き声が、やけに近い。
(……あ)
(俺、死んだんだよな)
前世の記憶が、遅れて繋がる。
(ってことは――)
「おぎゃあ、おぎゃあ」
(……この鳴き声、俺か)
理解した瞬間、なんとも言えない脱力感が襲ってきた。
「おぉ……ついに生まれたか」
低く、少し掠れた男の声。
「えぇ、元気な子ですね。ほら、よしよし」
続いて、柔らかい女の声。
抱き上げられ、視界が大きく揺れる。
(……この人たちが、今世の親か)
声の感じからして、前世の自分とそう変わらない年齢だろう。
同い年くらいの人間にあやされているという事実が、妙にむず痒かった。
「よし。この子の名前は――リオンだ」
「いい名前ですね」
(……名前、決まったのか)
そういえば、どこかで聞いたことがある。
アニメだか漫画だか、オタクの友人がよく口にしていた言葉。
(ステータスオープン、だっけ)
意識した瞬間、確かに“何か”は見えた。
だが、視界がぼやけていて文字は判別できない。
(……今は無理か)
(自分のステータスを見るのは、もう少し先になりそうだな)
――三か月後。
視界はすっかりはっきりし、周囲の輪郭も問題なく捉えられるようになった。
(……今なら、いけるな)
心の中で呟き、意識する。
(ステータスオープン)
リオン
年齢:0歳
種族:人
性別:男
今日の能力値
HP:10
MP:10
STR:10
INT:100
DEF:10
RES:10
LUK:50
魔法適正:全適正
スキル:羅動能力
入手可能スキル:なし
(……これが俺のステータス、か)
数値の高低は正直わからない。
比較対象がいない以上、判断のしようがないからだ。
(INTとLUKがやけに高いな……)
(それに、魔法全適正?)
だが、それ以上に気になったのは――
(“今日の能力値”って、なんだ?)
嫌な予感が胸をよぎる。
(……とりあえず、スキルを確認するか)
スキル:羅動能力
能力値が変動可能なものから、ランダムに決定される。
毎日0時00分に強制発動。
HP・MPは、現在値の割合を新しい最大値に適用。
小数点以下は四捨五入。
変動範囲
HP:8~12
MP:8~12
STR:8~12
INT:100~120
DEF:8~12
RES:8~12
LUK:50~70
(……)
(これ)
(かなりギャンブル要素強くないか?)
毎日、強制的に能力値が再抽選。
しかも、任意じゃない。
(メリット……あるか?)
(どう考えても、デメリットの塊だろ)
その頃。
遥か高次の領域にて、別の意味で頭を抱えている存在がいた。
「……記憶の消し忘れとは、どういうことだ」
冷え切った声が空間に響く。
「誠に、申し訳ございません」
項垂れるのは、下位神――カエリオン。
目の前には、最高神アーク・ノクス。
その怒りは、空間そのものを凍てつかせていた。
「今すぐ、そいつを探し出せ。そして記憶を消せ」
「……不可能です」
カエリオンは、絞り出すように答える。
「幾億もの世界。幾億もの星。幾億もの生命の中から、特定の一人を見つけ出すことは……」
「言い訳は聞いていない」
「……わかりました」
これは明確な失態だった。
カエリオンに反論の余地はない。




