Episode4ー再び
ディアーナは庭園のベンチに腰掛けていた。
いつものバルコニーに行けなかったからだ。この1年、皇城で開かれるパーティーで、ディアーナとレインはダンスと挨拶が済むと、決まってそこで軽食とワインを片手に過ごした。
他の令嬢達は、気を使ってバルコニーには来なかったが、離婚した今となっては、令嬢達はディアーナに気を使わなくてもいいのだ。
(そりゃそうよね)
ディアーナは行き場なく、庭園に出て来た。
離婚した自分ではなく、他の令嬢に譲るべきだ。
頭ではそう思っても、もやもや、もやもやと胸に降りてくる感情。
「うううぅ」
ディアーナは唸った。
(――嫌だ。やっぱり嫌だ。レインが他の令嬢とあのバルコニーで過ごし、微笑うなんて)
下を向いていると、ボロボロと涙まで落ちて来た。
(泣くほど嫌なら、もっと早く気付けば良かった。もう遅い。離婚してしまったんだから。もう遅い)
「姉さん?えっ、何泣いて?」
アルノルドが慌てて駆け寄る。
「何だ?誰かに何かされたのか?」
慌てるアルノルドに、ディアーナは首を振り、涙をどうにかしようと目を擦った。
「擦ったら駄目だ」
アルノルドがディアーナの手を取った時、ズシリと空気が重くなった。
「――お前、何してる?」
低い声が響き、アルノルドが振り返ると、剣を片手にレインが近付いてくる。
魔王を連想とさせる形相だ。アルノルドとディアーナは恐怖で固まった。ディアーナですら怖いのだから、敵意を向けられているであろうアルノルドの恐怖は相当なものだろう。
剣を振り下ろされる前にディアーナが叫ぶ。
「レイン、弟だ!」
アルノルドも半泣きで叫んだ。
「義兄さん、俺です!」
「アルノルドか?」
レインはすぐに表情を直し、手に持っていた剣も消えた。ソードマスターの力だろうか。空気も軽くなった。
アルノルドは姉と元義兄を交互に見て、ため息混じりに言った。
「俺は会場に戻ります···」
若干震えている足取りで、ふらふらと戻って行った。
2人はしばらくアルノルドを見送り、気まずそうに目を合わす。
「泣いてる···」
レインが言う。
「誰が泣かせた?言ってくれ」
声がまた低くなる。
(言ってどうするというんだ)
貴方です。とは言えないじゃないか。
可笑しくなって、目に涙を溜めたまま微笑ってしまった。
立ち尽くしたままのレインを見上げる。
「どうした?座らないのか?」
「········ディアーナ。その、提案があるんだが」
「うん?」
「今日、君にも、僕にも、また求婚が復活しただろう?だから····」
「·····」
黙ってしまった。
「レイン?」
「どうした?調子が悪いんじゃないのか?」
立って顔色を見ようと覗き込むと、レインは手を伸ばしてディアーナを抱きしめた。
しがみつくと言った方が正しいかもしれない。
「·····僕は最低だ···」
とても小さな声だったが、そう聞こえた。
「レイン?」
小さく震える背中を、ディアーナはぽんぽんと撫でた。
強張っていた背中の力が抜け、レインは腕の長さだけディアーナを解放した。
「ディアーナ。君が好きなんだ。僕と、もう一度結婚してほしい」
熱の籠もった蒼い瞳をディアーナは吸い込まれるように見つめた。
どこから熱が湧いたのか分からない。顔も熱いし、心臓は煩いし、こんな嬉しさをディアーナは感じたことがなかった。
ディアーナの言葉の返しが遅かったからか、レインはもごどこと話始めた。
「もちろん研究は続けてほしい。研究室で過ごしてかまわない。僕が会いにいくし、ごはんもつくる。今まで通りにしていいから····」
途端に小さくなる語尾。
ディアーナは返事をしたいけど、「私も」だけではこの気持ちは伝わらない気がした。
ディアーナは少し背伸びをして、レインの唇に唇で触れた。
目を見開いたレインは、ディアーナが唇を放すと、もう一度噛み付くようにキスをした。
1度離して、今度はゆっくり丁寧に深く口づけをした。
唇が離れた瞬間、ディアーナは言った。
「私も、レインが好き。再婚しよう」
レインはまた強くディアーナを抱きしめた。力が強く、さすがにディアーナも呻く。
「う、レイン。くるしい」
震えながも、レインは少しだけ力を抜く。
「ディー、帝国法で、二度目は離婚出来ないんだ。それでもいいのか?」
「そうなのか?私はかまわない」
「良かった···」
レインはディアーナの肩に顔をうずめたまま呟いた。
そうして、2人の再婚は決まった。
――おわり――
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この後、2人は帝国では珍しい再婚式を挙げます。周囲に再婚であることを知らせ、離婚が出来ないよう外堀を埋めようというレインの考えがあるのかもしれません。
レインも実家の事をまだ言ってないので、まだ問題が発生しそうです。




