Episode3ーレイン・ブラッドフォール
レイン・ブラッドフォールは、決して性格が良いとは言えなかった。実は、ディアーナには伝えていないが、レインは公爵家の出身だった。帝国を代表するセフター公爵家の五男だ。
五男ともなれば、爵位を継ぐこともなく、引継ぐものもない。早々と戦場に送られて放置された。
死に物狂いで生き残り、剣だけを磨いて戦果を挙げた。ブラッドフォールは騎士の名誉爵だ。
レインは皇室騎士団の隊長に任命されてからは、専らブラッドフォールを名乗った。
レインに来る縁談や、詰め寄る令嬢たちは、レインの容姿に惹かれる者もいれば、セフター公爵家の血筋と見て来る者もいる。どちらにしてもレインにとっては煩わしいものでしかない。
そんな折に出会ったディアーナ・ドーラン。他の令嬢達とは違う空気感を持つディアーナに、単純に関心を持った。
(面白い)
若干酒の勢いもあっただろう。提案した契約結婚をあっさり承諾したディアーナに、レインはますます興味を抱いた。
自身の出身が公爵家であることは伏せ、結婚式もしなかった。それでもディアーナは特に気にしたそぶりはない。ディアーナの両親には挨拶をしたが、レインの両親にはタイミングが合わないことを理由に避けていたら、その内話題に上がらなくなった。
(僕にあまり関心がないのだな)
レインの出身は調べれば分かることなので、気にしないディアーナに寂しさを感じた。
半年もすれば、レインにとってディアーナは特別な存在になった。ディアーナの好きなものは、魔術と研究と食べること。
ディアーナには野営がきっかけと言ったが、自炊にハマったのはディアーナが美味しそうに食べてくれるからだ。
飾らず、素直で純粋なディアーナに、レインはどんどんのめり込んだ。
契約の1年が近付いて来ると、一縷の望みをかけて期間の延長を提案してみた。断られたけど。
(まだ駄目か)
しかし胃袋は掴んでいる。上々だ。悪くない。離婚をしたとしても、再婚をすれば良い。むしろ、帝国法ではそちらの方が都合が良い。
帝国法では、同じ相手との二度目の離婚は認められない。余程の事がない限り。そして前例もない。
再婚をした後、ゆっくり関係を気付けばいいのだ。
ディアーナには帝国法の事は言うつもりはない。卑怯だと罵られようが、離婚したいと思わせなければ良いのだ。
(ディアーナも今日のパーティーでまた令息達に言い寄られていたし、僕の方にも令嬢たちが来ていたのを見たはずだ。もう一度提案すれば、再婚を考えるだろう)
ディアーナは押しに弱い。それも分かっている。
足早に挨拶を済ませ、食事を取る前にいつものバルコニーを覗いた。
バルコニーの入り口に、令嬢が集まっている。
(いない)
捜さなければ。
本当は再婚ももう少し先で良いと考えていた。ディアーナがもう少し自分に好意を持ってからだと。
しかし今日、我慢ならなかったのだ。ディアーナに集まり視線を送る令息達に、殺意に似たものが湧いてくる。
(あの視線にまた晒されてるかと思うと、耐えられない)




