Episode2ーレインの色
皇太子の生誕パーティー。昨年はレインにエスコートをしてもらったが、今年はそうはいかない。まだ婚約者がいない弟のアルノルドにエスコートを頼んだ。
エントランスへ降りて行くと、アルノルドが眉をひそめた。
「いいのか?その色で。離婚したのに」
「色?」
ドレスに身を包んだ自身を見てみると、アルノルドが眉をひそめるのも納得した。
「そうか。考えてなかった」
ドレスは青色。レインの色だ。
「なんか言われるんじゃない?大丈夫か?」
心配する弟をよそに、時間もないので馬車に乗り込む。
着替える時間もなければ、着替えるドレスもない。ここ2年間はレインが贈ってくれた青を基調としたドレスばかりだ。
「大丈夫。青色のドレスなんてよくある色だ」
とはいえ、ドレスは1つは新調しないとな。レインにいらぬ迷惑をかけてしまう。
皇城へ着くと、いつも以上に視線を集めた。離婚して初めての公式の場だ。皆、ディアーナの離婚には興味はないが、白銀の騎士の離婚には興味津々なのだろう。
ディアーナは弟に先に謝っておく。
「すまないなアルノルド。今日は少し注目を浴びそうだ」
アルノルドは特に気にした風もない。
(わが弟ながら胆力があるな)
アルノルドは周囲を見渡し、ディアーナに耳打ちした。
「姉さん、今日は元義兄さんは仕事って言ってなかった?」
(元義兄さんて)
アルノルドの物言いに呆れながら視線を移すと、レディに囲まれている人物を見つけた。レインだ。
(あれ?騎士服じゃない)
いつもの騎士服ではなく、正装をしている。
「警備と言っていたけど····」
「帝国の太陽、皇帝陛下、ならびに皇后陛下、皇太子殿下のご入場です」
会場内は静まり返り、皆一様に頭を下げた。
皇帝の許しがあり、頭を上げた時にはレインないなくなっていた。
本日の主役である皇太子と、婚約者の令嬢のファーストダンスが終わると、皆それぞれエスコートの相手と最初のダンスを始めた。
ディアーナは嫌な予感がした。アルノルドも顔色が冴えない。
「雰囲気が良くないな。アルノルド、お前もレディ達から狙われているんだな」
「そうみたいだ。視線が怖い。姉さんもまずくないか?俺とのダンスが終わったら、あの団体が押し寄せて来そうだぞ」
ディアーナとアルノルドはダンスを踊りながら小声で話している。顔には笑顔を貼り付けて。
アルノルドと踊ろうと躍起になっているレディ達と、恐らくディアーナと踊ろうとしている令息たちが、絶妙な距離感で付いてくる。ステップを少し変えながら逃げているが、無理そうだ。そろそろ一曲が終わる。
(アルノルドも優良物件だったんだな。それはそうか。顔も悪くないし)
アルノルドに茶化すように言ってみる。
「5人はいるぞ。誰と踊るんだ?」
ジロリと姉を睨み、アルノルドは正直に答えた。
「5人は無理だ。あの茶髪の令嬢かな。好みだから」
「ふむ」
関心して弟を見る。自分もそのくらい軽く1人選んでみようかと思ったが、どうにも気が乗らない。
「姉さんはどうするんだ」
「私は逃げる。全く。バツが付いた女には見向きもしないと誰が言ったんだ。父上が稼ぎすぎたな」
ため息と共に言うと、アルノルドが少し呆れた声を出す。
「まぁ、それだけじゃないんじゃないか?姉さんはそういう所が疎いからな」
「何だと?」
「あ、もう曲が終わるぞ。じゃあ検討を祈る」
アルノルドはサッとお辞儀をすると、自分から茶髪の令嬢に声をかけに行った。女性から誘われる前に誘うとは。ディアーナは関心して見ていたから、少し行動が遅れた。
しまったと思った時には、退路が断たれそうだった。中庭に逃げようとしていたのに、中庭へ出る入り口の方向から令息達がディアーナ目掛けて足早に近付いて来る。
くるりと向きを変え、会場の出口を見るとこちらからも2人近付いて来た。
(まずいまずい)
慌てたからかふらついてしまい、躓いた所を抱きとめられた。
「ディー、大丈夫か?」
「レイン?」
抱きついてしまった事に気付き、慌てて離れる。
「す、すまない」
目の前に立つ正装したレインは、直視するのに躊躇する程格好良かった。金糸の刺繍が施された深い藍色の上衣に、紫のクラバット。
(な、何故レインまで紫を付けて来たんだ)
紫はディアーナの瞳の色。ディアーナの色だ。
レインは周囲をチラリと見て、ディアーナの手を取った。
「一曲踊っていただけますか?」
ディアーナは一瞬驚いたが、すぐに察した。
(ああ、そうか。周りの状況に気づいて助けてくれてるのか)
「よろこんで」
ダンスが始まると、アルノルドの時には全く気にならなかった距離感がものすごく気になる。レインとは何度も踊っているのに、落ち着かない。
自分の心音がいつもより大きく響く。レインに聞こえてしまうんじゃないか?
無意識に身体を離そうとしてしまう。
レインがディアーナの腰を支えて自分に寄せた。
「ディー?転けてしまうぞ」
ディアーナはもういっぱいいっぱいである。
「え?あ、いや、うん」
「相当困ってたみたいだな」
いつもの様に心配そうに言うレインに、ディアーナは少し落ち着けた。
「あ、ああ。ダンスは逃げようと思ってたのだけど、うまく逃げれなくて····バツが付いててもドーランの資産は魅力的みたいだ」
「うーん、毎回言いたかったんだが、資産だけじゃないぞ」
「ん?」
「ディーが綺麗だからだ。狙われても仕方ない」
「ぅえっ?」
間抜けな声が出てしまった。いや、本気にしては駄目だ。からかってるのか?
睨もうと思い、レインを見上げると、目を逸らしている。気のせいだろうか?いや、気のせいじゃなさそうだ。顔が赤い。
「······」
「······」
謎のムズムズする沈黙に、慌ててディアーナは喋った。
「そういえば今日は仕事と言ってなかったか?警備はいいのか?」
「ああ。遠征が思ったより長引いたから、今日は非番になった」
「そうなのか····」
レインの正装が見れてラッキーだな。なんて思ってはいない。
曲が終わりそうになると、いつの間にか会場の出入口の近くに来ていた。レインが誘導したようだ。
「僕は少し挨拶周りをしてくるから、ディーはいつもの場所で待ってて。食事も僕が持って行く」
「うん···」
頼りになる元夫に言われるがまま、ダンスの終わりのお辞儀をして会場を出た。
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