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契約離婚から始まる恋の始め方  作者: 織子


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1/4

Episode1ー離婚の成立

本日、ここに一組の夫婦の離婚が成立した。


元妻、ディアーナ・ドーラン伯爵令嬢。元夫、レイン・ブラッドフォール 皇室騎士団第一隊隊長。


2人は2年前の夜会で出会い意気投合し、契約婚を1年間全うした。なぜ1年かというと、帝国の定めた法が結婚後1年間は離婚が認められないからだ。そして1年が経ち、2人は円満離婚を迎えた。


――はずなのだが。


「レイン、なぜ今日もここにいる?自分の家に帰ったらどうだ?」

「いいじゃないか。ここの方が皇城から近いんだ」

「そうは言っても····」

「ディーの好きなイリーガルの肉が手に入ったんだ。これは質が良いぞ。食べるだろ?」

「食べるけど」



離婚が成立して1週間。毎日ではないが、たびたびレインはここに来る。


ここは私の研究室。邸宅は他にもあるが、皇城から近く便利がいいので、もっぱらここで過ごしている。


手慣れた手つきでイリーガルの肉に塩コショウで味付けをし、焼こうとしているこの男とは、2年前の夜会で初めて出会った。いや、存在は知っていた。引きこもりの私ですら知っているほど、有名だったから。 


幼い頃から戦地で過ごし、数々の戦果を挙げ、齢20の若さで皇室騎士団の隊長に任命された。ソードマスターの境地に達しているだの、ドラゴンを倒しただの、逸話は様々だ。

それに加えこの容姿である。白銀の髪に、神秘的なブルーアイ。整った容姿に、求婚者が後を絶たないのだとか。


そして私も求婚者が後を絶たなかった。私の場合は、容姿はまぁまぁ。結婚適齢期を迎え、父が事業で成功した資産家だったからだ。夜会には顔を出さないと父と母がうるさいし、出たら出たで知らない男たちが順々に話しかけてくる。

――とにかく辟易していた。


私は独身主義者だったから。




❉❉❉❉❉


――2年前――


「ご一緒してもよろしいですか?他には空きがなくて」


(しまった鍵をかけ忘れたか)


夜会会場を抜け出し、人のいないバルコニーに避難した所だった。


(この方は、噂の白銀の騎士様か)


「どうぞ。かまいません」

(この人なら私に求婚することはないだろう)


白銀の騎士殿は、くたびれた様子で椅子に座った。

先ほども何人ものレディに囲まれていたし、相当疲れているようだ。

(分かる。大変だよな。私の比ではなさそうだが)


初対面なのたが、同情してしまう。


「レディはドーラン伯爵家のご令嬢ですか?私はレイン・ブラッドフォールと申します」

「存じております。私はドーラン家の次女ディアーナと申します。私の事をご存知で?」


「ええ。若くして魔法薬学の第一人者と聞いております」

「あははは、それほどでも···これ一緒に食べますか?」


会場から持って来ていたお酒のつまみを、テーブルに並べ、ディアーナとレインは小一時間一緒に過ごした。


「独身主義ですか?」

「はい。私は結婚したくないのです。研究を続けたい」

「ご両親はなんと?」

「父も母も、私の功績は認めてくれているのですが、それと結婚は別物と考えています」


何度も説得したが、独身を通すことだけは納得されなかった。


レインは何か思案している。

「実は私も、女性が苦手なのですが···数ある求婚に困っているのです」

「そうなのですか?」

レインは暗い表情で言った。

「はい、幼少期からあまり良い思い出がなく····」

(美形過ぎると大変なんだな···)


「そこでディアーナ嬢に提案なのですが、私たち、契約結婚をしませんか?」



❉❉❉❉❉❉❉


レインの提案を受け入れて2年。本当に平穏だった。


結婚しているから、夜会に出ても求婚されないし、父も母も煩くない。


レインは結婚してからも、研究室に入り浸ろうが何も言わなかった。何なら自分もここに仕事から帰り、ごはんを作ってくれる。


レインもきっと快適だったのだろう。

女性も言い寄って来なくなり、趣味である料理も好きに作れたのだから。

(野営で作るようになり、自炊にハマったと言っていたな)

レインの料理は本当に美味しい。実家の邸宅でシェフが作ってくれる濃厚な料理も悪くないが、ディアーナは優しい味付けのレインの手料理が好きだった。


(契約が切れる少し前、期間を延ばさないか提案してきた程だからな。さすがにこれ以上レインに頼るのも悪いと思って断ったが)


独身主義の自分と違い、レインは将来温かな家庭を持つべきだ。女性はバツが1つでも付くと、男性が寄り付かなくなると言うが、男性はそうではないらしいから大丈夫だろう。



「ディー、皇太子の生誕パーティーは出席するのか?」

イリーガルの肉にかぶりつきながら、レインが言った。

ディアーナもかぶりつきながら答える。2人きりの食事は、貴族の作法も何もあったもんじゃない。

「ああ、行かないと母上が煩い。でもこれに出たら社交活動しなくて良いと言うから」


「そうか。僕は警備で会場のどこかにいる。勤務時間は途中までだから、いつもの場所で落ち合わないか?」

「いいけど、挨拶周りはしなくていいの?」

「いい。警備しながらすませる」

「職務怠慢だよ···」

呆れながらも、ホッとする。久しぶりの夜会だし、母上の手前すぐ帰る訳にはいかない。気兼ねない相手と過ごせるならありがたい。


「じゃあいつもの場所で、お酒と食べ物見繕って待ってる」

「ああ」

そう言うと、レインは柔らかく微笑んだ。ディアーナが一瞬固まってしまうほど、レインの微笑みは魅力的で貴重なのだ。


(いつも表情筋が死んでるのか?ってくらい無表情なのに)


レインの笑みが見れたのは、結婚して割とすぐだった。


1度目は、見間違いかと思って、2度目は笑うと可愛いなと思って、3度目からはその笑顔を見ると安心するようになった。


今では、微笑うことが貴重なことも、ディアーナの前でしかほとんど微笑わない事も知っている。


(これからは、新しく妻に迎えた人の前で微笑うのだろうか)

そう考えると、胸に重りのような鈍い痛みが広がる。


「ディー?どうした?」

「え?あ、なんでもない」

「そうか?」

心配そうに覗き込んで来るので、恥ずかしくて下を向く。


「明日は遠征で来れない。僕が来ないからって、食事を抜くなよ」

「うるさいな···ばあやみたいなことを言うのはやめてくれ」

「何だと?」

ジロリと睨まれる。淑女らしからぬこの不躾な物言いにも、何も言わないのはレインくらいだ。


レインの前では、自分らしくいられる。

さきほど重りが乗っていた心臓が今度は暖かくなり鼓動が早くなっている。

この慣れない現象は、レインと離婚してから時折発生する。いや、もう少し前からだったかもしれない。


(なんだかお腹がいっぱいだ)

レインを見ると、まだ小言を言っている。「何でばあやなんだ。せめてじいやだろ」とか。思わず微笑ってしまう。見つめていると、視線に気付いたレインがビクリと止まる。


「な、何だ。何でそんな眼で見るんだ」


(どんな目?)


なぜか急に慌てたレインは、イリーガルのお肉をかき込み、立ち上がってお皿を流しに置いた。その途中で足を棚の角にぶつけていた。


「今日は明日の準備があるから宿舎に帰る。おやすみ」

そして慌ただしく出て行った。


「·?····おやすみ」


レインの謎の行動に、ディアーナの心臓は通常に戻り、またイリーガルの肉をかじった。



全4話予定です。


読んでいただきありがとうございます。

朝更新予定です。


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