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カミシデの陰陽師  作者: neluasob


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第5話

 「現在、特殊事象対策課で運用されている特別封印妖具は八件。そのうち代償無しの利用者はたったのニ名のみ。それなのに、お前は新たな特別封印妖具を運用するつもりなのか?」


 翁面を身に着けた評議員が、鬼面の評議員に対して叱責する。


 整合評議会。それは今後の方針を取り決め、組織の全権を掌握している最高上層部七名を指す。

 

 「ニ課の陰陽師、天城奏太に妖刀『村正』の使用権を認めろだって?…できるわけがないだろうそんなもの」


 円形の巨大なテーブルを取り囲む名家七名はそれぞれ変声機能のある仮面を取り付けていた。


 「ニ課の特別封印妖具を利用している陰陽師は『紙乃』と『碓氷』課長の計二名…。しかも彼らは無代償で武器を使っている。天城の息子にまで与えてしまえば各課のバランスがさらに崩壊しますね」


 狐面を付けた評議員はそう言った。


 「我々は力を持ちすぎた。アメリカに目を付けられたら今度こそ終わるぞ!」

 「ああ…そう言えば来年で終戦からちょうど二百年らしいですね。ここ数百年で日本連邦が戦争を起こさなかったのは奇跡ですよ」


 ひょっとこ面を付けた評議員が面白可笑しく発言するが、つられて笑う者は誰もいない。


 「終戦後のGHQにより我々は一度存続の危機を迎えた。その時から我々の行く末は奴らに監視されているんだぞ。そんな中でこれ以上兵器を増やしてみろ。お前は戦争でも起こしたいのか?」


 一人の評議員の言葉により、会議は沈黙のベールで被われた。


 特別封印妖具 妖刀『村正』の運用は見送りという形で今日の整合評議会は幕を閉じる。


 安堵や不満…。

 数々の感情を仮面の中に隠しながら、続々と議員が退出していった。

 後に残ったのは狐面と鬼面の議員のみ。


 「残念でしたね。妖刀『村正』の運用が見送りになってしまって。死ぬまでに一目見てみたいものですよ。妖刀の底力というものを」

 「貴様…私をおちょくっているのか?」


 鬼面の評議員からは感情の押し殺した声が響き渡る。

 

 「いえいえ!そんなつもりは毛頭ございませんとも!私は貴方を考えを支持します。応援とまではいきませんが…こういうのはどうでしょう」


 狐面の評議員が人差し指を口が存在しているであろう箇所に翳したかと思いきや、物静かに囁いた。


 「妖刀『村正』が運用できないのなら、二課の特別封印妖具の運用者を減らしてしまえば良い。そうすれば『村正』の空きができるかもしれませんよ?」

 「空きを作る?どうやって…」


 考える素振りを見せる鬼面の評議員に向かって、掠れ声で笑いかける狐面。


 「それ以上は答えかねます…ですが方法なんていくらでも思い浮かぶでしょう?私たちは良くも悪くも陰陽師なんですから」


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 一課の聖女 天城との合同任務を終えた後、僕は課長の碓氷に呼び出された。


 勘弁してくれよ…さっき帰ってきたばかりだというのに…。

 

 一息つく暇もなく、重い足取りで僕は執務室一角にある課長のデスクへと向かった。 

 安いオフィスデスクの上には2000年代のノートパソコンと缶コーヒーが置かれている。


 彼女の立場ならそれなりの調度品でデスク周りを彩ることができるはずだが、必要最低限の装備にしか興味がないらしい。

 ミニマリストというヤツだろう。


 「いつの時代のパソコンを使ってるんですか?今は22世紀、それも世紀末ですよ?」

  

 ノートパソコンに視線を落とし、作業に没頭している課長に対して、僕は声をかけた。


 「ああ…。紙乃か…任務、ご苦労だったね」


 こちらには目もくれず、淡々とキーボードを打ち続けている。


 「相変わらずデスクに物がありませんけど、やめるんですかこの仕事?」

 「いやいや、そんなつもりは毛頭ないよ。持ち物が少ないのは私が死んだ時便利だろ?遺品の整理をしなくて済むんだから」


 自分が死んだ後のことは考えたところで意味ないと思う。

 だって死んでるんだし、その時点で僕には関係のない話だ。


 「要件はなんですか?僕、こう見えて結構疲れてるんですよね」


 実際さっきまで呪いを祓っていたわけだし。

 一課のやり方に付き合っていたら精神まで披露する始末だ。


 「そうなんだ。申し訳ないけどまた任務だ」

 「…今からですか…?」

 「そう。たった今から」


 執務室の植木鉢を思いっきり蹴り飛ばしたくなる気分に襲われるが、僕はじっとこらえた。こんなことで課長に叱られたくはない。


 「ア、アハハハ…。急いで準備しますねぇ…」


 引きつった笑みを浮かべているのは自分でもわかる。

 一日で二回も一課の連中と絡まなくちゃいけないのか…?

 ハハ…頭がおかしくなりそうだ。


 来た道を引き返そうとする僕に対して、碓氷課長は優しく僕を呼び止めた。


 「どこへ行くんだ?」

 「どこへって…一課の執務室に行くつもりですが…?」

 「ああ。今回の任務は私とだよ」


  ……は?


 思わず間の抜けた声が出そうになった。

 一課との合同任務? しかも課長直々?

 嫌な予感が、背中を撫でるように這い上がってくる。 


 「え?碓氷課長と…?」

 「そう。私と。新幹線のチケットはとっておいたから今から移動だ。だからさっさとスーツを着るんだ」


 新幹線!?ってことは、江戸周辺じゃないのか?


 課長に言われるがまま、僕は緩んだネクタイを再び締め直し、その上から袴を着用する。

 この世界で主流となっている和服スーツの完成だ。


 「嫌な予感がするし、行きたくないなぁ…」


 と駄々をこねるが、そんなこと言っても休めるわけがない。


 「新幹線で寝ればいいじゃないか。文句言ってないで早くついてこい」


 釈然としないまま、僕は課長につられ、執務室を後にするのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 朝日に照らされる田園風景を片目に僕は駅弁を食べていた。

 陰陽師の生活リズムは滅茶苦茶である。任務の時間帯によっては朝日と共に眠る日も珍しくないため、翌日の定義が曖昧になることが多々ある。


 「いい加減、任務の内容を教えてくださいよ」


 数時間前から碓氷課長に仕事の詳細を尋ねていたのだが、そのたびに帰ってきた答えは「わからない」 の一点張りであった。


 「だから!本当に分からないんだっていってるだろ!資料に書かれていたのは場所と、そこにいる妖怪を全て祓え、っていう命令だけ!これ以上聞くと減給してやるからな!!」


 しつこく聞いていた末、普段は冷静沈着な課長がブチぎれてしまう始末。

 僕は仕方がなしに自分の口にチャックつけて我慢をするのだった。


 『間もなく駿府です。お出口は左側です。東海道線はお乗り換えです。駿府を出ますと次は掛川に留まります…』


 軽快な効果音と共にアナウンスが流れてきた。

 

 「降りる準備をしておいて。そろそろ目的地だ」


 数分後、僕たちは駿府駅に降り立つ。

 人里離れた山村にたどり着いたのはそれから数時間も後のことであった。


 「随分と歩かされたんですけど…これ残業手当出るんすか?」

 「多分…申請したところで出ないと思う…。」

 「整合評議会のクソジジイとクソババア共め…」


 長時間の移動で肩が凝り、深い疲労で僕は苛立っていた。

 過疎化した山村に一体なんのようがあると言うんだ…。


 「この先に祠があるみたいなんだよ…。多分封印が解けたかなんかで呪害が暴れ出したんじゃないか?」

 

 その程度の任務が僕達二人に割り振られるのか?

 自分で言うのもなんだが、僕は陰陽師の中でも結構実力がある方だ。碓氷課長は言うまでもなく僕と同等の実力を誇る。


 なんて言ったって僕達二人は特別封印妖具の使用者なのだから。


 「なんか洞窟が見えてきたんだけど…ひょっとしてあの中に入るんですか?」

 

 人一人分の幅である小さな洞窟が見えてきた。

 そして入り口には朱色の鳥居。いかにも心霊スポットらしい風景だ。


 「そうだね…。おそらくだけど…目的地はあの洞窟の中だ」

 「えぇ…。あんな怪しいところ入りたくないなぁ…。硫化水素とか溜まってそうだし…」

 「でも行くしかないんだよ。紙乃が使っている妖具で身を守ればいいじゃないか」


 言われなくてもそうするつもりだ。


 突如として出現する時空の裂け目。

 その向こうは完全な闇だ。


 虚無空間から紙垂を纏った黒刀を呼び出した僕は、頭上で円を描くように旋回させておく。

 

 「あ、それ私にもお願い」

 「えぇ…」

 「君のように簡易的な結界で身を守ることができないんだよ。だからお願いするね」


 頼れる課長の頼みだ。

 断る理由なんてないよね。


 碓氷課長にも僕と同様、頭上に剣を旋回させる。


 「それじゃあ行こうか」


 準備を整えた僕達は未知なる洞窟内へと足を踏み入れるのであった。

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