前世の記憶
不思議な夢を見た。お母さんがいて、お父さんがいて、口うるさい妹がいる。上品さの欠片もない家族達なのに、嫌いになれない。むしろ、懐かしさに涙が溢れてくる。
友達に勧められるまま、始めた魔法世界を舞台にした乙女ゲーム「WHICH・LOVE」なんとなく画面を見ていると私の名前が出てきた。しかも、高笑いと共に登場してくる嫌な演出つきだ。
どんどん場面が変わっていき舞踏会になった。
「アージェント・マイミス、お前との婚約を破棄する!」
「!!」
私、婚約破棄されてんじゃん!!
「よし! ハッピーエンド!!」
「いや、全然ハッピーエンドじゃないでしょ!?」
ハッと目が覚めると見慣れた高級感のある天井。
「どうしたの? 大声なんて出して」
ガチャッとドアが開き入ってきたのは、兄のアージェント・キリス。綺麗なブロンドの髪に整った顔立ち。そして、国内でも稀にしか存在しない上級精霊との契約者。しかも、8歳で契約した最年少記録を持つ。
「いえ、なんでもございませんわ、少し怖い夢を見てしまいまして」
「そう? なら、はい」
ポンポンと頭を撫でてくれたキリスは優しく微笑んだ。
「なんで?」
「変なこと聞くね? 俺はマイミスのこと大事に思っているんだよ?」
さっきの妙な夢は、まだ頭にこびりついている。いつもならすぐに忘れる夢なのに、今日に限って忘却機能は仕事をしてくれない。
「キリスは私のお兄ちゃん?」
キリスは目をまん丸にして、一瞬頭を撫でる手を止めた。
「そうだよ。やっぱり、少し休んだほうがよさそうだね。」
よいしょとキリスが立ち上がった。
「あぁ、そうそう。父様も母様も心配しているから落ち着いたら顔を見せにいきなよ」
「わかった」
素直に頷くとキリスはニコッと笑って部屋を出ていってしまった。
「アージェント・キリス」
私の兄だが、血の繋がりがない。類稀なる魔法の才能を見込まれ、引き取られた養子。もちろんこれは公言されていることではない。
さっきの頭を撫でているときの目は、とても冷たかった。
攻略対象者の一人で、家では私や父様、母様に嫌われないよう神経を尖らせる日々。
「頭の中に情報が勝手に流れてきた」
いよいよ認めざるを得ない。どうやら私は、この世界の悪役キャラになってしまったようだ。




