05 幼い頃
大学には、田舎から出てきた。戦争が終結してから、数年後。小学生の頃、唾液検査で引っ掛かり、元は警察官志望だったが、桃谷の親に買われて、初めて大きなお屋敷の子になった。
バラ園は花が咲き誇り、庭は広く、お屋敷はどこかの外国を訪れたようだった。
夢のような話だ。
「君は……ほこら?」
「はあ? 気安く話しかけんじゃねーよ」
小学生の頃から少しグレていたため。言葉遣いも丁寧な方ではなかった。すると、後方から耳の尖ったエルフの女の子が現れた。年の頃は同じくらいだろうか。
すると、どんどん桃谷の頬が蒸気し、息遣いが荒くなった。
「な、なに、どうし……っ!!!」
嚙み付かれるように、キスをされた。舌が口内に入り込み、蹂躙されていく。くちゅ、と水音が響く度に、下半身が疼く。
やばいやばいやばい!!!!!
「ちょ、ちょっと。まっ」
「待てない」
キスは勢いを増していく。小学生には、刺激の強すぎる出来事だった。
それから、桃谷には、逆らえなくなった。
エルフ族は、檻に入れられていたが、たまに外で遊んでいるのを見かける。
異世界から買い取ったのだろう。
「君、だあれ?」
「え?」
エルフ族の女の子に話しかけられた。艶やかな銀髪に尖った耳、青い瞳が特徴的だった。篠里はきょとんとした顔をすると、真正面から向き合った。
「……フェロモン、効かない、なんで?」
「ああ、俺、特別だから。だから、庶民がここに居られるんやで」
「私も、庶民」
「君は、エルフってだけで、特別だから」
戦争終結後、エルフ族は謎の石化現象に悩まされていた。そして、粉々に砕け、命も消え失せた。だから、長は人間の呪いだと、人間に逆らったせいだと、共存の道を選んだ。
人間側も沢山の死傷者が出て、大きな傷跡を残す、大戦争だった。
そして、日本は大きな飢饉に見舞われ、貴族と庶民との間に深い溝が残った。
それを埋めるのが、エルフ族だった。
人身売買が横行したのだ。篠里も、例外ではなく、親に売られた。
仲の良い家庭だと思っていた。お金がないなりに、いつも母さんは笑って、何とかなるさ! と言っていた。
だが、いざ貴族に金を出されるとなると、無心で飛び付いた。
そんなことを、思い起こしていた。
大学の教室、講義の最中。今は、季節は夏を迎えていた。