04 エルフ族
アイドル抑制活動とは、エルフ族のなりわいとする仕事である。いわゆる、主人のボディーガード。
会長は、昔中学生の頃、好きだと言い張る女子に、ハサミで髪を切られた。
そこで、エルフが現れ、加害者の記憶を消した。会長の記憶も、自分が生まれた記憶も。
それは、廃人に近かった。そして、警察に引き渡した。
それからは、エルフ族の使役が四人に増えた。女子が集まると、フェロモンを嗅がせ、記憶を軽く消す。そして、素直に大学に通ってもらう。
そして、ほこらがいない時は、媚薬打ち消し薬を打っていた。
この薬は高値で取引され、オークションに出されるほどである。
親が全て買い占め、ほこらの唾液をもらわなくても、さほど困っていない。
でも、側に置いておきたいのは、きっと、独占欲。
十年前から片想いなんだ。男が男になんて、おかしいって思うかもしれないけど、ほこらが特別な存在なことに、変わりはない。
生徒会室でノートPC片手に書類を打ち込むと、ふと、ほこらと喧嘩したことを思い出した。急いで電話する。
2コール以内で出てくれた。
『……なに』
『ごめん、僕も言い過ぎた。君のことは、僕が一番わかっているつもりだったよ』
『ええもう。怒っとらん。今、食堂でカレー食っとった』
『そうか。僕は、まだ仕事中だよ』
『……俺がおらんで大丈夫か?』
『薬があるから大丈夫』
『……』
『でも、ほこらも必要なんだよ。薬も有限じゃないからね』
『……おう』
『じゃあ、また、明日』
そう言って、通話を切った。
大学一年目。サークルに入ったのは、アイドル抑制委員会。エルフ族の子もちらほら見かける。フェロモンを出さない、無害なエルフもいるのだ。
そのうちの、青髪の子と友達だった。
「フェロモンなあ……俺は、出ないから、よくわかんないけど、やっぱりほこらの唾液って甘いの?」
「会長は、バニラアイスの味がするって言ってた」
「へえ。でもそれ、エルフ族には毒だからね?」
男のエルフ族は、ふふっと笑いながら言った。
「じゃあ、また食堂で」
「おう」
ああいう、無害なやつもいる。だから、異世界交流なのだ。エルフ族の世界へ行ったことはない。むしろ、普通の人間は、生きて出られないだろう。
エルフ族は人間に対して友好的で、危害を加えられることはない。
むしろ、手から炎を出したり、水を手から出して飲ませてくれたり、魔法を見せてくれる。
人間とエルフのハーフも存在し、一般人として、馴染んでいる。
俺も彼女欲しいけど、会長に一生を誓われてるからなあ。
しかも、顔良し性格良し。誠実で、優しくて。俺にはもったいないくらいだ。
だが、きっと、いずれ見合いの話が来る。その時は、お別れだ。
親の決めた関係だから、親がまた運命も決める。きっと、特別な唾液を持ち、なおかつ子供の産める女性を選ぶだろう。
大人の話だ。19歳の俺には、まだ早すぎる話。
きっと、桃谷の親が、俺の相手も決めてくれることだろう。
なんだかなー、と、思った。
教室に入ると、友人と軽く会話をして、教室内では講義が始まった。
よくある大学の下から上へ高くなるタイプの内部ではなく、普通の高校と変わらない室内になっている。
席に座って、隣の女子と会話して。
放課後は生徒会室に行って、雑用をこなすのが、日課になっていた。
会長は忙しいのか、書類に目を通して印を押している。
側にはエルフ族の族長。シェアさんだ。シェアラルド・ハンベルグ。それが、族長さんのフルネームだ。魔力値が高く、怒ったら魔法で校舎は壊滅させられることだろう。
キリっとしたお姉さんである。
会長と主従関係であることも知っていて、キスされる行為を見て、顔を赤らめるほどだ。
普通の末端は、フェロモンを隠すことが出来ないが、族長は自在に操ることが出来る。