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アンチューサ  作者: クロス
エピローグ
93/95

風が語るもの

季節が巡り、村には新しい春の気配が漂っていた。


アスターは丘の上で空を見上げ、ふと呟いた。


「なあ、ユリ……オレたち、ちゃんと“未来”にいるんだよな」


「うん」

ユリはそっと頷き、アスターの隣に並ぶ。


「だって、こうして――生きてるもの」


 


花は咲き、風は吹き、鳥はさえずる。

平穏とは、意外と音の多いものだと気づく。


そこには争いもない。叫びもない。

ただ、七匹の物語の続きが静かに“日々”として刻まれていく。


 


バコバは村の入り口で帽子を深くかぶり、

ライラックは春風に髪をなびかせて花を見つめていた。

ルピナスはラボのデータを整理しながら、時折ふと空を見上げる。

ガルビネアはパンを焼き、ガーベラは新聞を静かに読む。


彼らの世界は、もう“終わった”のだ。


……はずだった。


 


 


──その頃。

とある地下施設。


空調の音だけが、ひんやりとした空間を支配していた。


照明は鈍く、壁は無機質で、まるで記憶を拒絶するような冷たさ。


その中心にある――冷却カプセル。


 


中には、一匹の少女が横たわっていた。


銀白色の髪。

獣の耳。

全裸の身体を機械の管が縫うように繋ぎ止めている。


その皮膚には、かすかに狼の痕跡。

だが、アスターとは明らかに違う“何か”。


 


「……起動、開始します」

無感情な音声が室内に響く。


ピピ――ピピ――ピ……


 


そして、次の瞬間。


 


──パチリ、と。


少女の目が開いた。


赤い、獣のような瞳が、光に反射して鋭く揺れる。


そして、無表情のまま、口を開く。


 


「……ここは、どこ……?」


 


部屋のスピーカーから、電子音が返す。


「起床確認。実験体コード:ルーナ」


「プロヴィス・第二計画――《ガイア・リセット》、起動」


 


少女の瞳が、一瞬だけ揺れた。


その中に宿ったのは、純粋すぎる“空白”。

記憶も、感情も、目的すらも持たぬ――白紙の存在。


 


だがその静寂の先には、また新たな物語の始まりが、息を潜めていた。


 


 



---


 


次回予告


 


> 「ねぇ、アスター……あなたに“妹”がいたらって、考えたことある?」


眠りから覚めたもう一人の“狼”

名を持たぬ少女が歩き出すとき、

世界の境界線が、再び揺らぎ始める――


アンチューサ -re:birth-

『誰かの記憶に、私は咲いていた?』

ここまで『アンチューサ』を読んでくださって、本当にありがとうございました。

この物語は、たった七匹の“獣人”たちが織りなす、

とても小さくて、とても大きな「記憶」と「想い出」の物語でした。


 


彼らは戦いました。

失い、迷い、傷つきながら、それでも進んでいきました。

そこには、華やかな英雄譚ではなく、

誰かの名前を呼び、誰かの手を握るという、静かで確かな絆がありました。


 


アスターの孤独、ユリの願い、

ガーベラの覚悟、バコバの優しさ、

ガルビネアの包容力、ルピナスの理知、ライラックの癒し――

それぞれが欠けていたら、この物語は完成しなかったでしょう。


 


そして、最後に咲いた一輪の花、アンチューサ。

その花言葉は「大切な想い出」。


この物語のすべてが、その言葉に込められています。

どんなに過酷な世界でも、誰かを想う気持ちがあれば、

そこには必ず“花”が咲くのだと、信じています。


 


だけど、物語はここで“終わり”ではありません。


あなたがこの物語を覚えていてくれるかぎり、

彼らの世界はどこまでも続いていく。

新しい狼の少女が目覚めたその瞬間から――


“新たな物語”が始まろうとしているのです。


 


また、あの丘で会いましょう。

風が吹き、アンチューサの花が揺れるその場所で。


 


ありがとう、そして――また次の物語で。


 


――作者より

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#アンチューサ #獣人 #群像劇 #記憶の物語 #友情と再会 #ヒューマンドラマ #近未来SF #静かな感動 #花言葉 #風と光 #感情の再生
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