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アンチューサ  作者: クロス
第4章:咲かない花の夜に
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第一話「汚れた知識」

夜のラボ。

無機質な壁に囲まれた研究室で、ルピナスは黙々とコンソールを操作していた。


 


――解析進行中:記憶転写装置No.77 “ノヴァ=タイプβ”


 


彼の前には、壊れた記憶スキャン装置の断片が並んでいる。

先日、ガーベラとバコバが“アナザーシェル”の廃墟から持ち帰ったものだった。


 


 「……やはり、これは“本物”か」


 


低く呟いたルピナスの目は、冷たい光を宿していた。

旧プロヴィスが使用していた違法な記憶抽出装置。


そして、その残骸の中から――

彼は、ある“識別コード”を見つけてしまった。


 


 【記録照合ID:LP-IX】


 


 「……これは、僕が作ったものだ」


 


一瞬、彼の肩が揺れた。

冷徹な科学者であるはずの彼が、微かにその目を伏せる。


 


そう。

これはかつて、彼がまだ“プロヴィス”の一員だった頃――

仲間を救うために開発した記憶改竄装置の試作機。

その技術が、今になって、形を変えて流出している。


 


 「誰かが、意図的に……僕の罪を掘り起こしている」


 


そのとき、ドアが開いた。


 


 「……ライラックか」


 


兎の獣人――ライラックが静かに入ってくる。

手には、花束ではなく――一枚のUSBメモリが握られていた。


 


 「ルピナス、これ。中央病院から。

  “転送ログの改竄”があったって」


 


 「……やはりか」


 


ルピナスはUSBをスロットに差し込み、即座に表示されるデータを確認した。


 


≪転送元:旧首都管理局 データバンクNo.92≫

≪転送先:不明(暗号化ノード)≫

≪データ内容:被験体M-α:記憶コード全抽出≫


 


 「“M-α”…?誰だそれは」


 


ライラックが息をのむ。


 


 「まさか……もう“誰か”が記憶を奪われた?」


 


 「もしくは――奪われ続けている」


 


ルピナスはモニターを見つめながら、低くつぶやいた。


 


 「ユリが使用した“再生カプセル”には、追跡タグが埋め込まれていた。

  それを使えば、投与後の神経接続ログは詳細に記録されている。

  つまり……“使用者の記憶”を覗き見ることも可能なんだ」


 


ライラックが顔を曇らせる。


 


 「それって……ユリちゃんの記憶が、今も誰かに……?」


 


ルピナスは、無言でうなずいた。


 


 「これ以上、彼女に背負わせるわけにはいかない」


 


 「じゃあ……どうするの?」


 


 「僕が行く。記憶の出どころを辿って、“咲かない花の根”を絶ちに」


 


その瞳は、どこまでも冷たく、そして鋭かった。


 


 「誰にも見つからないように動く。

  これは――僕の贖罪の物語だ」

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#アンチューサ #獣人 #群像劇 #記憶の物語 #友情と再会 #ヒューマンドラマ #近未来SF #静かな感動 #花言葉 #風と光 #感情の再生
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