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アンチューサ  作者: クロス
第3章:白い息がほどける午後に
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最終話「おはよう、世界」

 静かな光が、まぶたの奥で揺れていた。


 やわらかく、あたたかく、でも少しだけ遠い。


 


 ユリは、ゆっくりと目を開けた。

 最初に見えたのは、白い天井。

 そこに差し込む、優しい陽の光。


 


 ――ここは……どこ?


 


 指先に力を入れてみる。

 ほんの少し、反応がある。

 そして、脚の感覚が――かすかにあった。


 


 「……!」


 


 小さく目を見開く。

 胸が強く脈打つ。

 何かが“動き始めた”感覚。


 


 そのとき、視界の端に人影が見えた。

 赤い――フード。


 


 「……あ」


 


 その声に、アスターが顔を向けた。


 


 「ユリ……」


 


 彼は言葉を失ったように、じっとユリを見つめていた。


 その目は、何かを探すようで、

 何かを信じようとしていた。


 


 「……おはよう、アスターくん」


 


 ユリは、微笑んだ。


 


 「……!」


 


 アスターの肩がわずかに震えた。

 彼は、すぐには何も言わなかった。

 ただ――近くに来て、ユリの手を強く握った。


 


 「覚えてる……のか?」


 


 「全部……じゃない、かもしれない。

  でも、あなたの“声”はわかる。

  “温度”も、覚えてる」


 


 アスターの目に、ほんのり涙が浮かぶ。


 


 「バカ……全部じゃなくたっていい。

  また一緒に思い出していけばいいんだよ」


 


 ユリは、ゆっくりと手を上げる。

 アスターの頬に触れる。

 その手は、わずかに震えていたけれど――


 あたたかかった。


 


 「……また“好き”になってもいいですか?」


 


 ユリの問いに、アスターは黙ってうなずいた。

 そして、彼女の手の甲にそっと口づけた。


 


 「何度でも。毎日でも。毎秒でも惚れさせてやるよ」


 


 ――ふたりは、静かに笑い合った。


 


 外では風が吹き抜ける。

 春が、もうすぐそこまで来ていた。


 


 歩けなくても、思い出せなくても。

 ふたりが歩む道は、確かにここから続いている。


 


 そして、そのタイトルがそっと現れる。


 


 > 『アンチューサ』

 > ―白い息がほどける午後に、静かな星の夢を紡いで―


 


 ――第3章、完。

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#アンチューサ #獣人 #群像劇 #記憶の物語 #友情と再会 #ヒューマンドラマ #近未来SF #静かな感動 #花言葉 #風と光 #感情の再生
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