表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチューサ  作者: クロス
第2章:静かな星の夢
42/95

第十三話「記憶を神に」

 重く閉ざされた金属扉が、ゆっくりと開く。

 その奥、まるで礼拝堂のような白い部屋。


 


 壁一面を占める、数百のホログラムパネル。

 光の粒子が浮遊し、そこには無数の記憶が再生されていた。


 


 誰かの笑い声。

 子どもの泣き声。

 誰かが銃声とともに倒れる断片的な記録。


 


 それらを眺めながら、ひとりの男が立っていた。


 


 高い襟の白いコート。

 無機質な表情の奥に、どこか陶酔したような瞳。


 


 アルヴェール――プロヴィス第七計画室、主任研究官。

 通称、“記憶神化プロジェクト”の主導者。


 


 「……あぁ、すばらしい。

  人間の記憶は、なんと甘美で、残酷で、そして……崇高だ」


 


 彼はゆっくりと振り返ると、部下のひとりに命じる。


 


 「最新の“ユリ個体”の記録は?」


 


 「はい。No.1137、“羊の少女”。現在も安定状態にあり、

  対象との接触による深層記憶の活性化が確認されました」


 


 「対象……アスター、か」


 


 その名に、アルヴェールは軽く微笑む。


 


 「忌まわしくも、美しい名前だ。

  あの少年の記憶が“痛み”で構成されているのに対し、

  少女の記憶は“許し”で満ちている。対極の記憶体……すなわち、完全な“融合核”」


 


 彼は片手を差し出すと、

 ホログラムに浮かぶユリの顔に触れるように指先を伸ばす。


 


 「この二つが交わるとき――人の心は、神へと至る。

  憎しみも、愛も、悲しみも、全てが再現可能な“模倣因子”となる」


 


 部下のひとりが問う。


 


 「……計画の最終段階、“記憶の神化”はいつ開始しますか?」


 


 「まもなく、だ。

  だが、今必要なのは――彼ら自身に“選ばせる”ことだよ」


 


 「選ばせる、とは?」


 


 「自らの記憶を差し出すか、

  あるいは、それを守るために“命を失う”か――」


 


 その声は、まるで祭司が儀式を宣言するようだった。


 


 「命よりも価値のある“記憶”があるということを、

  彼ら自身が証明してくれれば、それは何よりのデータになる」


 


 アルヴェールは最後に、こう呟いた。


 


 「我々が作るのは、兵士ではない。

  これは、“祈りの器”なのだ」


 


 ホログラムが切り替わり、

 アスターがユリを抱き寄せる記憶映像が、淡く投影された。


 


 その光景に、アルヴェールは目を細めた。


 


 「さぁ――記憶よ、神になれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#アンチューサ #獣人 #群像劇 #記憶の物語 #友情と再会 #ヒューマンドラマ #近未来SF #静かな感動 #花言葉 #風と光 #感情の再生
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ