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アンチューサ  作者: クロス
第2章:静かな星の夢
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第四話「影の足音」

 昼過ぎ、町は穏やかな日差しに包まれていた。

 パン屋の裏庭では、ユリが小さな鉢植えに水をやっていた。


 


 「……ふふ、今日はいい天気」


 


 銀色の髪が陽にきらめき、ラベンダーの香りがふんわり漂う。

 けれど、その背後から――じっと、アスターが彼女を見つめていた。


 


 「ユリ」


 


 「うん?」


 


 「今日は、ひとりで外出する予定、ある?」


 


 「え? ……うん。花屋に少し行こうと思って。

  新しい鉢植えの土を注文してるの。アスターも来る?」


 


 「もちろん」


 


 ユリは少しだけ驚いた表情を見せた。


 


 「……めずらしいね。アスターが“来る”って言うなんて」


 


 「いや……なんか、変なんだよ」


 


 「変?」


 


 アスターは空を見上げた。

 風の音、鳥の声、人々の気配。

 一見、何もおかしくない。

 でも――


 


 「さっきから、音がしすぎる。……いや、逆に、“音がしなさすぎる”んだ」


 


 「……?」


 


 「感覚的な話だけどさ。オレの勘って、けっこう当たるんだぜ?」


 


 ユリは少し笑って、それでも頷いた。


 


 「うん。……じゃあ、アスターの勘に従ってみる」


 


 そのとき、誰も気づかないところで、

 街灯の上に、ひとつのドローン型の監視端末が動きを止めた。


 


 *


 


 花屋へ向かう道は、人通りがやや少なかった。


 アスターはユリの車いすを押しながら、周囲を警戒するように歩く。

 何かが――確実にこちらを見ている。


 


 そして。


 


 「――ユリ、止まれ!」


 


 アスターが咄嗟に車いすを押す手を止め、ユリごと身を庇うようにして横に飛びのく。


 


 直後。

 彼らの歩いていた路面に、何か鋭いものが突き刺さった。


 


 ガコンッ――!


 


 金属音とともに、足元のアスファルトが穿たれる。


 


 「っ……今の、なに?」


 


 「来たか……」


 


 煙の中から、**“影のような人影”**が姿を現す。


 黒い防護服に覆われ、顔は完全な仮面で覆われている。

 無音。無表情。無感情。


 


 その存在は、どこか“人間ではない”印象を与える。


 


 アスターは前に出て、手のひらに隠し持ったナイフを指先で遊ばせる。


 


 「……プロヴィスの連中だな。まさか、ユリを狙ってるってわけか?」


 


 仮面の人物は答えない。

 ただ、腰に下げた短剣を抜き、アスターに向かって構えた。


 


 静かな殺意だけが、そこにあった。


 


 「ユリ、後ろに下がってろ。これは……話し合いじゃ済まねぇ」


 


 「気をつけて……アスター」


 


 その声に応えるように、アスターは一歩踏み出す。

 赤いフードが風に揺れ、目元が鋭く光る。


 


 「オレの大事なやつに、指一本触れさせねぇ。

  それが、オレのルールだ」


 


 次の瞬間――刃と刃が火花を散らした。

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#アンチューサ #獣人 #群像劇 #記憶の物語 #友情と再会 #ヒューマンドラマ #近未来SF #静かな感動 #花言葉 #風と光 #感情の再生
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